セカンダリー取引とは?プライマリー・M&Aとの違い|法務・税務・実務フローを徹底解説

セカンダリー取引とは?基礎から実務まで

スタートアップの出口戦略として「IPO」と「M&A」が主流だと思っている方は多いのではないでしょうか。しかし近年、IPO前の段階で既存株主が保有株式を売却・現金化する「セカンダリー取引」が、第三の出口戦略として急速に注目を集めています。「セカンダリー取引って何?」「プライマリー取引やM&Aとはどう違うのか」「法務・税務上のリスクは何か」と疑問をお持ちの方もいるでしょう。

本記事では、セカンダリー取引の定義・種類・メリット・デメリットから、法務・税務上の留意点、実務フロー、M&Aとの戦略的な使い分けまで、体系的に解説します。

目次

1. セカンダリー取引とは?基本的な定義をわかりやすく解説

セカンダリー取引の意味と語源

セカンダリー取引の「セカンダリー(Secondary)」とは英語で「第二の・流通の」を意味します。金融の世界では「プライマリー市場(発行市場)」に対する「セカンダリー市場(流通市場)」という文脈で使われます。

広義のセカンダリー市場とは、すでに発行された有価証券が投資家間で売買される市場全体を指し、東京証券取引所のプライム市場やグロース市場なども広義のセカンダリー市場に含まれます。一方、スタートアップや未上場株式の文脈で「セカンダリー取引」と言う場合は、未上場企業の発行済み株式を、既存株主が第三者(他の投資家)に譲渡する取引を指すことが一般的です。この場合、取引によって生じた資金は売却した株主(売り手)に入るのであり、企業(発行体)には入りません。

スタートアップ・未上場株式の文脈でのセカンダリー取引

スタートアップの資本政策において、「プライマリー取引」と「セカンダリー取引」は明確に区別されます。プライマリー取引では、企業が新たに株式を発行して投資家から直接資金を調達します。シリーズA・B・Cといった資金調達ラウンドがこれに該当し、調達した資金は企業の事業成長に活用されます。

これに対してセカンダリー取引では、すでに発行済みの株式を保有する株主(創業者・VC・エンジェル投資家・役職員など)が、他の投資家に株式を売却します。企業に資金は入りませんが、株主は保有株式を現金化することができます。スタートアップのミドルステージ以降になると、複数回の資金調達を経て株主構成が複雑化し、既存株主の「EXIT(現金化)」ニーズが高まります。そのような段階においてセカンダリー取引は重要な選択肢となります。

ポイント:プライマリーとセカンダリーの本質的な違いは「資金の流れ先」です。
プライマリーでは投資家の資金が「企業」に入り、セカンダリーでは「既存株主(売り手)」に入ります。この違いを押さえることが、セカンダリー取引を理解する第一歩です。どちらの取引も「株式が売買される」点は共通していますが、誰が資金を受け取るのかが根本的に異なります。

2. プライマリー取引との違い【比較表つき】

プライマリー取引の仕組みと目的

プライマリー取引とは、企業が新たに株式を発行することで投資家から直接資金を調達する取引です。スタートアップでは、シリーズA・B・C・Dといった複数のラウンドを経て成長資金を積み重ねていく、最もオーソドックスな資金調達手段です。プライマリー取引の主な目的は「事業成長のための資金確保」にあります。調達資金は研究開発・人材採用・設備投資・マーケティング活動などに充当され、企業価値の向上に直結します。株式を新規発行するため、既存株主の持分比率(希薄化)が生じる点が特徴です。

セカンダリー取引との本質的な違い

セカンダリー取引はプライマリー取引と全く異なる構造を持ちます。新株は発行されず、既存株主が保有する株式が売買されるため、企業への資金流入はありません。その代わり、売却株主は保有株式を現金化でき、流動性の確保が主たる目的となります。下表にプライマリー取引とセカンダリー取引の主な違いをまとめます。

項目プライマリー取引セカンダリー取引
取引の主体企業(新株発行)既存株主(保有株式の売却)
資金の流れ投資家 → 企業投資家(買い手)→ 既存株主(売り手)
株式の発行新たに発行(希薄化あり)既存株式の譲渡(希薄化なし)
企業への資金流入ありなし
主な目的企業の事業成長資金確保既存株主の流動性確保・現金化
株主構成への影響新投資家が加わる売り手株主が入れ替わる
利用される場面シード〜レイタースage資金調達ミドル〜レイタースage以降

プライマリーとセカンダリーが同時に行われるケース

実務では、プライマリー取引とセカンダリー取引が同時に行われるケースが増えています。例えば、新規投資家が新株発行(プライマリー)で投資しつつ、創業者や既存VC保有の既存株式も同時に購入(セカンダリー)するパターンです。このような同時取引には、新規投資家側の「1株あたりの取得コストを平均的に下げられる」メリットがあります。既存の優先株式を新規ラウンドよりも低いバリュエーションで取得できるからです。また、創業者や既存VC側は部分的に現金化しながら、企業成長への参加も継続できます。

ポイント:プライマリーとセカンダリーの同時実行時の重要ポイント
両取引の実行条件(クロージング条件)を契約書上で明確に連動させることが重要です。「新株発行が行われることを条件にセカンダリー取引に協力する」「既存株式の譲受けが完了することを条件に新株を引き受ける」などの条件付けを、各当事者の立場から丁寧に設計する必要があります。スタートアップ側・既存株主・新規投資家の三者それぞれの利害調整が複雑になるため、弁護士など専門家との連携が必須です。

3. セカンダリー取引の種類

ダイレクトセカンダリー(テンダーオファー・ブロックトレード)

ダイレクトセカンダリーとは、スタートアップの発行済み株式を直接取引する形態で、セカンダリー取引の中で最も一般的な種類です。さらに「テンダーオファー」と「ブロックトレード」の2種類に分類されます。

テンダーオファーとは、発行体(スタートアップ)が主導して、既存株主に対し株式売却機会を提供するプログラムです。一定期間内にあらかじめ設定された価格で売却できる機会を創出します。発行体が価格・数量・参加条件を決定する点が特徴で、役職員のストックオプション行使後の株式を対象とすることも多いです。米国ではStripe・SpaceX・Databricksなど著名スタートアップも積極的に活用しており、役職員向けの流動性提供策として定着しています。日本ではまだ認知度が低いですが、今後の普及が期待されます。

ブロックトレードとは、主に大口の株主(VCや事業会社等)が自ら買い手を探し、保有株式を一括売却する取引です。テンダーオファーと異なり、売り手が買い手探索や条件交渉を主導します。売り手のニーズに応じた柔軟な条件設定が可能ですが、株主間契約上の先買権(ROFR:Right of First Refusal)や共同売却権(タグアロング権)への対処が必要です。

GP主導セカンダリー

GP主導セカンダリーとは、VCファンドのGP(General Partner:無限責任組合員・ファンド運営者)が主導するセカンダリー取引です。GPが既存ファンドからスタートアップの保有株式を切り出し、新しいファンド(継続ファンド・コンティニュエーションファンド)に移管する形態をとります。

VCファンドには通常10年程度の満期があります。しかし投資先スタートアップの中には、ファンド満期時点ではまだ成長余地が大きく、無理に売却することが合理的でないケースがあります。そのような場合に、GPはファンドのリターン最大化のために継続ファンドへの移管を選択します。ただし、GP主導セカンダリーにはGPが売り手(既存ファンド)と買い手(継続ファンド)の両方の立場をとる利益相反リスクが内在しており、売り手・買い手双方のLP投資家(有限責任組合員)の同意が必要です。

LP主導セカンダリー

LP主導セカンダリーとは、VCファンドのLP投資家(有限責任組合員)が保有するファンド持分の一部または全部を、他の投資家に売却する形態です。投資先スタートアップの株式自体ではなく、VCファンドへの出資持分そのものが取引対象となる点がダイレクトセカンダリーと大きく異なります。LP投資家が早期の資金回収を必要とする場合や、ポートフォリオのリバランスを図りたい場合に活用されます。通常、ファンドの純資産価値(NAV)に対して一定のディスカウントを適用した価格で取引されるため、購入側にとっても魅力的な投資機会となります。グローバルではLP主導セカンダリー取引が急速に拡大しており、未上場株式以外にも、不動産・インフラ・デットなど幅広いアセットクラスのファンド持分が活発に取引されています。

種類取引主体取引対象主な特徴利益相反
ダイレクト(テンダーオファー)企業(発行体)企業の株式発行体が価格・条件を主導。役職員向け流動化に多い
ダイレクト(ブロックトレード)既存株主(大口)企業の株式売り手が買い手探索・交渉を主導。柔軟な条件設定が可能
GP主導セカンダリーファンドのGP企業の株式既存ファンドから継続ファンドへ移管。ファンド満期対応に活用
LP主導セカンダリーファンドのLPファンド持分LPがファンド持分を第三者へ売却。早期回収・リバランスに

4. セカンダリー取引が注目される背景

IPO長期化とスタートアップエコシステムの課題

近年、スタートアップの創業からIPOまでにかかる期間が世界的に長期化しています。グローバルでは、IPOまでの期間が従来の7年程度から2024年には約14年へと大幅に延長しているというデータがあります(Industry Ventures調査)。日本でも東証グロース市場の上場基準見直しが進んでおり、IPO長期化の傾向が続くことが見込まれます。

この問題は「スモールIPO問題」と深く関連しています。VCファンドは通常10年程度の満期を持つため、満期が近づくと投資先のIPOやM&Aの実現にかかわらず、保有株式を売却する必要が生じます。整備されたセカンダリー市場がない状況では、満期を迎えたVCがスタートアップに対して時期尚早なIPOを促すケースが発生し、上場後の成長が阻害されるという構造的な問題が生じていました。

注意点:スモールIPO問題のリスクを理解することが重要です
スタートアップがVCの満期プレッシャーに押される形で「時期尚早なIPO」を選択すると、上場後に成長余地を活かしきれず「スモールIPO」になるリスクがあります。セカンダリーマーケットが整備されることで、VCは適切なタイミングで保有株式を売却でき、スタートアップは未上場のまま長期的な成長戦略を追求できるようになります。資本政策を検討する際には、こうした構造的な問題を理解したうえで出口戦略を設計することが重要です。

VCファンドの満期問題と流動性ニーズの高まり

上述のVCファンドの満期問題に加え、スタートアップの創業者・役職員の「流動性ニーズ」も、セカンダリー取引が注目される重要な背景です。スタートアップの創業者は、度重なる資金調達ラウンドを経て株価が上昇している場合でも、IPOやM&Aが実現するまで保有株式を現金化する手段がほとんどありません。企業が黒字化するまで役員報酬を抑制する創業者も多く、見かけ上の株式評価額は大きくても、実際の生活は経済的に苦しいケースも珍しくありません。

また、スタートアップで働く役職員の多くがストックオプション(SO)を保有していますが、IPO前に行使・現金化できる機会は限られています。SOを保有していても、それが実際の経済的価値につながらなければ、優秀な人材を引き付けるインセンティブとしては不十分です。セカンダリー取引が整備されることで、創業者・役職員が部分的に保有株式を現金化でき、経済的な安定と長期的なリスクテイクが両立可能になります。

グローバルのセカンダリー市場拡大と日本への波及

グローバルでは、未上場株式のセカンダリーマーケットが急速に拡大しています。その市場規模は2025年時点で約1,200億ドル(約18兆6,000億円)規模に達する見込みです(Industry Ventures「2023–2025E: How Big Is The Secondary Market for Venture Capital?」)。米国ではStripe・SpaceX・Bytedanceなど著名なスタートアップが積極的にテンダーオファーを実施しており、セカンダリー取引は出口戦略の主要な選択肢として定着しています。欧州・アジアでも市場拡大の動きが見られます。

日本でも、2025年5月に改正金融商品取引法が施行され、未上場株式のセカンダリー取引活性化に向けた法整備が進んでいます(詳細は「9. 日本におけるセカンダリー市場の最新動向」参照)。これにより、日本においてもセカンダリー市場のインフラ整備が加速しており、今後の普及が見込まれます。

5. セカンダリー取引のメリット・デメリット

売り手(創業者・既存株主・VC)のメリット・デメリット

売り手側の最大のメリットは「保有株式の現金化(流動性の確保)」です。IPO前の未上場株式は、通常、売却手段が極めて限られています。セカンダリー取引によって、IPOやM&Aを待たずに部分的な現金化が可能になります。創業者にとっては、個人の経済的リスクを軽減しながら経営に集中できるという効果があります。また、VCにとっては、ファンド満期前に投資回収の選択肢を得ることができます。

一方、デメリットとしては、売却によって株式の持分比率が低下し、将来のIPOやM&Aで得られるアップサイドが減少する点が挙げられます。また、市場環境・相手方の需給・バリュエーションの合意によって売却価格が変動するリスクもあります。未上場株式は上場株式と異なり、市場価格が存在しないため、売却価格の決定に時間と専門知識が必要です。

ポイント:セカンダリー取引で売り手が意識すべき原則
「いつ・いくらで・何株を売るか」の決断は、将来の企業価値向上シナリオ・個人の資産計画・税務上の影響を総合的に考慮して行うことが重要です。部分売却の場合、残りの株式が将来のIPOやM&Aでどの程度の価値になるかを試算したうえで意思決定しましょう。短期的な現金化と中長期的な資産最大化のバランスを慎重に検討することが求められます。

買い手(新規投資家・事業会社)のメリット・デメリット

買い手側のメリットは、既存株主の保有株式を取得できるため、新株発行(プライマリー取引)よりも低いバリュエーションで投資できる可能性がある点です。特に過去のラウンドで発行された優先株式(A種・B種等)をセカンダリーで取得する場合、最新ラウンドの株価よりも低い価格で取得できることがあります。また、事業会社にとっては、VC投資家が保有する持分をセカンダリーで取得することで、スタートアップへの出資比率を高め、資本業務提携や将来のM&Aに向けた布石とすることができます。

デメリットとしては、非公開情報(財務・事業計画)へのアクセス制限、バリュエーションの不確実性、先買権等の株主間契約上の制約がある点が挙げられます。また、取引相手を見つけること自体がプライマリー取引に比べて難しく、専門的なネットワークやアドバイザーの活用が欠かせません。

スタートアップ(発行体)にとってのメリット・デメリット

発行体スタートアップにとってのメリットは、既存株主に現金化の機会を提供することで、株主の不満・プレッシャーを解消し、経営の安定性を保てる点です。また、テンダーオファー等を通じて戦略的に株主構成を入れ替えることで、より長期的・戦略的な投資家を迎え入れることが可能になります。株主間の方針相違が経営の障害になっている場合、一部株主にセカンダリーによる退出機会を提供することで、残る株主との連帯感を強化する効果もあります。

デメリットとしては、直接的な資金調達にならないため、プライマリー取引の代替にはならない点、また、譲渡承認手続き等の会社法上の対応が必要となる点が挙げられます。また、新たな株主が加わることで株主構成が複雑化し、今後の経営・意思決定に影響を与えるリスクも考慮が必要です。

6. セカンダリー取引とM&Aの違い・戦略的な使い分け方

セカンダリー取引とM&Aの本質的な違い【比較表つき】

セカンダリー取引とM&Aは、いずれも「既存の株式が売買される」という点では共通していますが、その目的・構造・影響が大きく異なります。M&Aの株式取引(株式譲渡)の場合、通常は対象会社の支配権(過半数超または全株式)の移転を目的とします。買い手は経営権を取得し、対象会社を傘下に収めて事業シナジーを追求します。一方、セカンダリー取引では、必ずしも支配権の移転を意図しません。創業者やVCが保有株式の一部を売却して流動性を確保しながら、スタートアップの経営継続を前提とするケースが一般的です。

比較項目セカンダリー取引M&A(株式譲渡)
主な目的既存株主の流動性確保・株主構成の最適化事業の支配権取得・経営統合
取引対象一部または全部の株式(支配権移転不要)通常は過半数超〜全株式(支配権取得)
企業の経営継続原則として継続買い手側への統合・再編が多い
スタートアップの独立性維持されるケースが多い喪失するケースが多い
PMIの必要性基本的に不要必要(重要な経営課題)
創業者の役割継続して経営を担うケースが多い買収後に退任・役割変更もある
契約の複雑さ比較的シンプル(先買権等処理が必要)高度(表明保証・MAC条項等)
適した規模感少数〜過半数未満の持分売却大型から小型まで幅広い

セカンダリー取引が有効なケース・M&Aが有効なケース

セカンダリー取引が戦略的に有効なケースとしては、以下が挙げられます。

  • VCがファンド満期前に投資回収を図りたいが、スタートアップはIPOを目指して成長継続を望む場合
  • 創業者が個人的な資産形成・リスク軽減のために部分的な現金化を希望する場合
  • 役職員のSOが行使可能となり、IPO前に換価機会を提供したい場合
  • 特定の株主の方針・関与スタンスがスタートアップの成長と合わない場合に、その株主を入れ替えたい場合

一方、M&Aが戦略的に有効なケースとしては、以下が挙げられます。

  • 買収によって強力なシナジー(技術・顧客・販路・ブランド等)が見込まれる場合
  • 創業者・株主が完全なEXITを希望する場合(全株式売却)
  • スタートアップの独力での成長に限界があり、大手企業との統合で成長加速を図る場合
  • 事業承継として後継者問題を解決する場合

セカンダリー取引とM&Aを組み合わせた資本戦略

実務では、セカンダリー取引とM&Aを段階的に組み合わせた資本戦略が有効なケースもあります。例えば、事業会社がスタートアップに対してまずセカンダリー取引で少数株式を取得し、資本業務提携を通じてシナジーを検証したうえで、最終的にM&Aによる完全取得を目指すというアプローチです。

このような段階的アプローチは、買い手側のリスク軽減(「まず試してみる」機会の確保)と、スタートアップ側の独立性の一定期間の維持を両立できるメリットがあります。ただし、出口戦略として将来のM&Aを念頭に置く場合は、セカンダリー取引の段階から最終的なM&Aの形態・条件・タイミングを想定した契約設計が必要です。

ポイント:セカンダリーとM&Aの使い分けは専門家と連携して判断することが重要です
「今の段階でどの程度の持分を誰に売るのか」「最終的な出口戦略は何か」を総合的に検討したうえで、M&Aアドバイザー・弁護士・公認会計士等の専門家と連携しながら戦略を設計することが重要です。特に、セカンダリーを経由して将来M&Aを想定する場合は、セカンダリー取引の段階での契約設計(優先株式の権利内容・共同売却権の設計等)が最終的な取引結果に大きく影響します。

7. セカンダリー取引の法務・税務上の主要論点

法務上の留意点(先買権・共同売却権・事前承諾権・譲渡承認)

セカンダリー取引を実行するにあたり、法務上の確認が不可欠な項目がいくつかあります。

① 株主間契約上の制約の確認
スタートアップのミドル〜レイターステージ以降では、投資家との間で株主間契約が締結されているケースがほとんどです。株主間契約には、既存株主が株式を売却しようとする場合に関わる以下の条項が含まれていることが多く、セカンダリー取引の前に必ず確認する必要があります。

  • 先買権(ROFR:Right of First Refusal):株式を第三者に売却する前に、他の既存株主に同条件で購入する機会を与える権利。先買権が行使された場合、第三者への売却は行えません。
  • 共同売却権(タグアロング権):大株主が株式を売却する際に、他の株主も同条件で売却に参加できる権利。行使されると、予定より多くの株式が売却対象になる可能性があります。
  • 事前承諾権(Consent Right):一定の株式譲渡には、一部または全部の投資家の事前承諾が必要となる条項。承諾が得られない場合、取引を進めることができません。

これらの条項が存在する場合、セカンダリー取引の前にその放棄・免除(Waiver)の手続きが必要となります。手続きには一定の時間(通知期間・回答期間)が必要なため、取引スケジュールに余裕を持たせることが重要です。

② 会社法上の譲渡承認手続き
日本の会社法上、未上場株式(非上場の株式会社の株式)の譲渡には、原則として取締役会(または株主総会)による譲渡承認が必要です(会社法136条)。承認機関の決定・通知には一定の期間が必要なため、取引スケジュールに十分な余裕を持たせることが重要です。なお、投資契約等で会社の手続協力義務が規定されている場合、スタートアップ側は譲渡承認手続きに積極的に協力する義務を負います。

注意点:先買権・共同売却権・事前承諾権の確認は必須です
セカンダリー取引を検討する際は、まず株主間契約・投資契約書・定款を精査し、先買権・共同売却権・事前承諾権の有無と処理方法を弁護士と確認することが必須です。これらの手続きを失念すると、取引が無効または違法となるリスクがあります。特に、プライマリー取引と同時にセカンダリー取引を行う場合は、各当事者の権利処理の連鎖に細心の注意が必要です。取引の全当事者(売り手・買い手・スタートアップ)が一致して進められるよう、事前の調整を怠らないことが重要です。

税務上の留意点(株式譲渡益課税・みなし配当・種類株式の評価)

セカンダリー取引は税務上も重要な論点を含みます。主な論点を以下に解説します。

① 株式譲渡益課税
個人株主(創業者・役職員等)が株式を売却した場合、譲渡益(売却価格-取得価格)に対して原則として20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)の申告分離課税が適用されます。法人(VC・事業会社等)が株式を売却した場合は、法人税の課税対象(益金算入)となります。

② みなし配当の問題(種類株式の場合)
スタートアップでは、投資家への発行株式が普通株式ではなく「優先株式」であることが多くあります。優先株式には残余財産優先分配権が付されていることが多く、セカンダリー取引の際に売却価格のうち払込金額を超える部分が「みなし配当」として課税されるケースがあります。みなし配当とされた部分は、配当所得として総合課税(最高税率約55%)の対象になる可能性があり、株式譲渡益課税(20.315%)よりも大幅に税負担が重くなります。個人株主のセカンダリー取引では、この点を事前に税理士・公認会計士と確認することが特に重要です。

③ 種類株式の評価額の設定(適正価格の確保)
セカンダリー取引における売却価格が適切かどうかは税務上も重要です。特に法人から個人、または関係者間での取引では、著しく低い価格での売却が「低額譲渡」とみなされ、差額が贈与・寄附金等として課税される可能性があります。第三者間の独立した条件での取引(アームズレングス原則)に基づく適正価格の設定が必要であり、第三者機関による株価算定書の取得が有効な対策となります。

ポイント:税務は必ず事前に専門家と確認してください
セカンダリー取引における税務上の影響は、売り手が個人か法人か、普通株式か優先株式か、取引当事者の関係性によって大きく異なります。取引を実行する前に必ず税理士・公認会計士への相談を行い、税務上のシミュレーションを実施したうえで意思決定することを強くお勧めします。特にみなし配当リスクは見落とされがちであり、想定外の税負担が生じると実質的な手取り額が大幅に減少する可能性があります。「手取りで何円になるのか」を必ず事前に試算することが重要です。

契約書で押さえるべきポイント

セカンダリー取引では、以下の契約書類が整備されることが一般的です。各書類の役割を理解したうえで、弁護士の監修のもとで適切に対処することが重要です。

  • 株式譲渡契約書(SPA:Share Purchase Agreement):取引の主要な条件(価格・数量・クロージング条件等)を定める核心的な契約書
  • 表明保証条項:売り手が保有する株式に関する権利の適法性・瑕疵の不存在などを確認するための条項(取引後の補償責任の範囲を規定)
  • スタートアップの協力義務:譲渡承認手続き・先買権放棄等において会社が協力する義務の明確化(会社が当事者として関与する際の手続き協力の根拠)
  • 新株主の株主間契約への加入:買い手が取引後に既存の株主間契約に加入し、同一の権利・義務を負うことを確認する合意

8. セカンダリー取引の実務フロー【チェックリストつき】

STEP1:売却・取得ニーズの整理とバリュエーション

セカンダリー取引の第一段階は、売り手・買い手双方のニーズ整理と、取引価格の算定(バリュエーション)です。売り手は「いくらで」「何株を」「いつまでに」売却したいのかを明確にします。VC投資家の場合はファンドの満期・LP投資家への説明責任なども考慮が必要です。

バリュエーションについては、スタートアップの未上場株式には上場株式のような市場価格がないため、以下の方法が用いられます。

  • 直近ラウンドの発行価格を基準とする方法(最も一般的・シンプル。ただし市場環境の変化を反映しない場合あり)
  • DCF法(将来キャッシュフローの割引現在価値):事業計画の蓋然性が高い場合に有効
  • 類似会社比較法(同業種・同ステージの類似上場企業のマルチプルを参照):市場相場感を取り込める手法
  • 第三者機関による株価算定書の取得:税務上の適正価格証明にも有効。客観性・信頼性が高い

実務上は、直近ラウンドのプライマリー価格に対してディスカウント(流動性の低さを反映した10〜30%程度のILDM:Illiquidity Discount)が適用されるケースも多く見られます。ただし、このディスカウント率は取引時の市場環境・企業のステージ・業績トレンドによって大きく異なります。

STEP2:買い手探索とマッチング

次に、セカンダリー取引の買い手探索を行います。主な方法としては以下が挙げられます。

  • スタートアップの既存株主(他の投資家)への打診:既存株主であれば株主間契約上の問題が少ない場合が多く、取引がスムーズに進みやすい
  • M&Aアドバイザーや証券会社を通じた仲介:専門的なネットワークを活用して適切な買い手候補を探索できる
  • 新規の機関投資家(PE・クロスオーバーファンド等)へのアプローチ:大口での投資を望む投資家にとって魅力的な選択肢になることがある
  • 事業会社(資本業務提携を検討中の会社)への打診:将来のM&Aや事業連携を見据えた戦略的投資家として最適なケースがある

日本では2025年の改正金商法施行後、「非上場有価証券特例仲介等業務」の登録業者が仲介を担えるようになり、買い手探索の選択肢が広がっています。専門的なアドバイザーの活用が、適切な買い手との出会いを実現するうえで重要です。

STEP3:条件交渉・デューデリジェンス・契約締結

買い手候補が見つかったら、条件交渉に入ります。主な交渉事項は価格・株数・クロージング日程・表明保証の範囲・免責条件などです。売り手と買い手の価格感が合致しない場合は、分割払い・ラチェット条項(将来業績に応じた価格調整)などの工夫が用いられることもあります。

買い手は、投資判断のためにデューデリジェンス(DD)を実施します。セカンダリー取引のDDでは、対象スタートアップの財務・事業・法務情報へのアクセス方法が課題となります。発行体(スタートアップ)の協力が得られる場合と、情報開示が限定される場合があり、事前に調整が必要です。特に、非上場企業の財務情報は公開されていないため、発行体の協力なしには実効的なDDが困難です。条件が合意に至ったら、株式譲渡契約書(SPA)を締結します。この段階で弁護士の関与が不可欠です。

STEP4:譲渡承認手続きとクロージング

契約締結後、実際の株式譲渡に向けて発行体の譲渡承認手続きが必要です(会社法136条)。売り手が発行体に対して譲渡承認を請求し、取締役会(または株主総会)での承認決議を経て、株主名簿の書き換えが行われます。また、株主間契約上の先買権等の処理も、このタイミングまでに完了させておく必要があります。クロージングでは、株式の名義書換えと売却代金の決済(支払い)が行われます。全ての手続きが完了した時点でクロージングとなり、株式の所有権が売り手から買い手に正式に移転します。

注意点:譲渡承認手続きの失念に要注意
日本の会社法上、株式譲渡には原則として発行体の取締役会による譲渡承認が必要です(会社法136条)。この手続きを失念すると、株式の名義書換えが行えず、取引が法的に有効に完了しません。特にクロージング日程が決まった後で発覚すると、スケジュールに重大な支障が生じます。セカンダリー取引の早い段階から発行体との連携を取り、承認手続きに必要なスケジュールを確保しましょう。取締役会の開催頻度・決議要件(書面決議の可否等)も事前に確認しておくことが重要です。

以下に、セカンダリー取引の実務チェックリストをまとめます。

フェーズ確認・実施事項
【事前確認】□ 株主間契約・投資契約書に先買権・共同売却権・事前承諾権が存在するか確認
□ バリュエーションの算定方法・根拠を固める(必要に応じて株価算定書を取得)
□ 売却する株式の種類(普通/優先)・数量・払込金額を確認
□ 税務上の影響(みなし配当リスク等)を税理士・公認会計士と確認
【取引実行中】□ 先買権等の放棄手続き(対象株主への通知・放棄書面の取得)
□ 発行体への譲渡承認請求・取締役会決議
□ 株式譲渡契約書(SPA)の締結(弁護士監修)
□ 買い手のデューデリジェンス対応(情報開示範囲の調整)
【クロージング】□ 株主名簿の名義書換え申請・書換え完了確認
□ 売却代金の決済・受領確認
□ 新株主に対する株主情報の共有(株主間契約への加入等)
□ 税務申告の準備(売り手の確定申告・法人税申告等)

9. 日本におけるセカンダリー市場の最新動向(2025年改正金商法以降)

2025年改正金融商品取引法の施行と「非上場有価証券特例仲介等業務」の新設

2025年5月、未上場有価証券のセカンダリー取引活性化に向けた規制緩和等を含む改正金融商品取引法(改正金商法)が施行されました。この法改正は、日本のスタートアップエコシステムにとって重要な転換点となる可能性を持ちます。

改正金商法では、「非上場有価証券特例仲介等業務」が新設されました。これにより、非上場株式を仲介するための登録要件が従来より緩和され、より多くの事業者が仲介業務を担えるようになりました。これまで、未上場株式の売買仲介を行う場合は、原則として証券会社等の第一種金融商品取引業者としての登録が必要でした。改正後は、一定の要件のもとで特例的な登録が可能になり、M&Aアドバイザーやプラットフォーム事業者等もセカンダリー取引の仲介に参入しやすくなります。

登録PTS制度の創設とセカンダリー市場インフラの整備

改正金商法ではさらに、PTS(私設取引システム)を「認可」ではなく「登録」によって開設できる「登録PTS制度」が創設されました。これにより、未上場株式のセカンダリー取引を仲介するためのプラットフォーム整備が促進される見込みです。従来、PTSの設置には高いハードルがありましたが、登録制の導入によって、スタートアップ向けのセカンダリーマーケットプラットフォームが生まれやすい環境になっています。これは、未上場株式の流動性向上・価格発見機能の整備という観点から、日本のスタートアップエコシステムにとって大きな前進です。

また、smartroundをはじめとするスタートアップ向けプラットフォーム事業者も、このような法整備の進展を受けてセカンダリー取引支援サービスを拡充しており、市場インフラの整備が急速に進んでいます。

今後の展望と事業者・投資家への影響

法整備の進展に伴い、日本のセカンダリーマーケットは今後も拡大が見込まれます。具体的には以下のような変化が期待されます。

  • スタートアップの創業者・役職員が、IPO前の段階で保有株式の一部を現金化できる機会が増加
  • VCがファンド満期を意識した資産流動化を適切な形で行えるようになり、スモールIPO問題の緩和
  • 事業会社がスタートアップへの戦略的出資をセカンダリー経由で行える機会の拡大
  • 新たなプレイヤー(プラットフォーム事業者・専門アドバイザー等)の市場参入による取引の活性化

一方で、市場インフラの整備途上である現段階においては、依然として取引相手の探索・バリュエーションの算定・法務手続きの複雑さなど、実務上の課題が残っています。セカンダリー取引の実施にあたっては、専門的な知見を有するアドバイザーのサポートを活用することが引き続き重要です。

ポイント:日本のセカンダリー市場は急速に整備が進んでいます
2025年の改正金商法施行以降、法規制・プラットフォームインフラ・専門アドバイザーのエコシステムが急速に整備されています。スタートアップ・VC・事業会社のいずれの立場からも、最新の法制度・市場動向を継続的にキャッチアップしながら、資本政策・出口戦略を柔軟に見直すことが重要です。今後さらに市場が成熟するにつれて、セカンダリー取引の活用機会は着実に広がっていくことが期待されます。

10. まとめ

セカンダリー取引は、IPO・M&Aに次ぐ「第三の出口戦略」として、日本のスタートアップエコシステムにおいても急速に注目を集めています。本記事のポイントを整理します。

  • セカンダリー取引とは既存株主が保有株式を第三者に譲渡する取引であり、企業に資金は入らない
  • プライマリー取引(新株発行)と本質的に異なり、主な目的は既存株主の流動性確保
  • セカンダリー取引にはダイレクト(テンダーオファー・ブロックトレード)・GP主導・LP主導の4種類がある
  • IPO長期化・VCファンドの満期問題・役職員のインセンティブ課題を背景に注目が高まっている
  • M&Aとは目的・構造・適用シーンが異なり、状況に応じた戦略的な使い分けが重要
  • 法務上は先買権・共同売却権・事前承諾権・譲渡承認の確認が必須
  • 税務上はみなし配当リスク・適正価格設定に特段の注意が必要
  • 2025年改正金商法の施行で日本のセカンダリー市場の法的基盤が整いつつある

セカンダリー取引は適切に活用することで、スタートアップの成長促進・株主の利益実現・エコシステムの健全な発展に貢献します。しかし、法務・税務・バリュエーションなど複雑な論点が絡むため、専門的なアドバイザーとの連携が欠かせません。セカンダリー取引のご相談はもちろん、出口戦略全体の設計についてもお気軽にご相談ください。

執筆者

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。
長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。