事業譲渡と会社分割の税金はどちらが得?税目別の違いを試算で比較

事業譲渡と会社分割の税金はどちらが得

「顧問税理士から会社分割のほうが税金は安いと言われたが、本当にそうなのか」「記事によって書いてあることが違い、どちらが有利なのか分からない」「結局のところ、いくら違うのかを数字で知りたい」。複数事業のうち1事業だけを第三者に売却しようとする中小企業の経営者から、こうしたご相談をいただきます。

事業譲渡と会社分割では、法人税・消費税・登録免許税・不動産取得税で課税関係が異なり、しかも税目ごとに有利不利が逆転します。一般的に流布している「会社分割のほうが税金は安い」という説明は、前提条件を欠いた単純化です。

この記事では、税目ごとの課税関係を整理したうえで、対価1億円のケースで売り手の税引後手取り額と買い手の実質負担額を実際に試算し、どちらが有利になるのかを数字で示します。自社のケースに当てはめて概算できる状態を目指して解説します。

目次
目次

1. 事業譲渡と会社分割で税金が変わる理由

「売買」と「組織再編」で税法の入口が違う

事業譲渡は、資産・負債・契約上の地位を個別に売買する取引行為です。税法上も通常の資産譲渡として扱われ、移転する資産ごとに課税関係を判定します。土地は消費税が非課税、建物は課税、のれんは課税というように、資産の種類ごとに区分して計算するのが原則です。

これに対して会社分割は、会社法上の組織再編行為です。法人税法には組織再編税制という独立した体系が用意されており、一定の要件(税制適格要件)を満たすかどうかで課税関係が根本的に変わります。消費税法上は資産の譲渡等に該当せず、そもそも課税の対象外となります。

つまり両者は、同じ経済実態であっても適用される条文がまったく異なります。この構造の違いが、以下で見る税目ごとの差につながります。

税目ごとに有利不利が逆転するため、総額で判断する必要がある

実務でよく見かける「会社分割のほうが税金は安い」という説明は、消費税と不動産取得税だけを取り出した比較です。実際には、登録免許税は土地を含む場合むしろ事業譲渡のほうが安く、買い手の税務上ののれん償却まで含めると、事業譲渡のほうが有利になるケースが少なくありません。

また、会社分割の税務メリットとして挙げられる不動産取得税の非課税措置は、分割対価が分割承継法人の株式のみであることを要件としています。買い手が現金で支払う吸収分割ではこの要件を満たせません。一方、新設分割で受け皿会社をつくり、その株式を後から譲渡する設計であれば、分割自体は株式対価なので要件を満たせます。同じ「会社分割」でも、どの型を選ぶかで結論が変わります。前提条件を確認せずに一般論を当てはめると、判断を誤ります。

ポイント
スキームを比較するときは、税目を1つずつ足し引きして「売り手の税引後手取り額」と「買い手の税引後実質負担額」という2つの数字に集約してください。個別の税目で有利不利を語っても、最終的にいくら手元に残るかは分かりません。この試算は交渉が始まる前に作っておくべきものです。

2. 税目別に見た課税関係の違い

売り手と買い手のどちらに、どの税金がかかるのか

まず、誰にどの税金が発生するのかを整理します。売り手法人には譲渡益に対する法人税等が課され、買い手には流通税と消費税が発生します。消費税は買い手が負担して売り手が納付する構造なので、売り手にとっては原則として損益に影響しない預り金です。

税目事業譲渡会社分割負担者
法人税等譲渡益に課税(時価取引)適格なら課税繰延、非適格なら時価課税売り手
繰越欠損金の承継承継されない承継されない(適格・非適格を問わず)
消費税課税(土地等を除く)不課税買い手が負担・売り手が納付
登録免許税(土地)1.5%2.0%不動産を取得した法人
登録免許税(建物)2.0%2.0%不動産を取得した法人
不動産取得税課税(土地・住宅3%、非住宅家屋4%)株式対価等の要件充足で非課税不動産を取得した法人
のれんの税務償却5年均等償却が可能現金対価の吸収分割なら可能。新設分割+株式譲渡では不可買い手

表のうち、金額のインパクトが大きいのは法人税等とのれんの償却です。消費税は買い手が仕入税額控除できるかどうかで実質的な意味が変わり、流通税は不動産を含むかどうかで金額が大きく振れます。以下、順に見ていきます。

注意点
新設分割で受け皿会社をつくり、その株式を買い手に譲渡するスキームでは、買い手の取引は「株式の取得」になります。株式の取得自体には消費税も流通税もかかりませんが、その前段の分割で不動産の移転登記が発生するため、登録免許税は新設会社が負担します。そして買い手は税務上ののれん償却ができません。事業譲渡との比較では、この点が最も大きな差になります。

税目ごとの違いの前提となる事業譲渡と会社分割の法的性質の違いについては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
事業譲渡と会社分割の違いは?一部事業を売却する中小企業のスキーム選択

3. 法人税:譲渡益への課税と適格・非適格の関係

事業譲渡は必ず時価取引となり譲渡益に課税される

事業譲渡では、譲渡対価と移転した資産・負債の帳簿価額との差額が譲渡損益となり、売り手法人の益金または損金に算入されます。時価より低い価額で譲渡した場合は、差額が寄附金と認定されるリスクがあるため、第三者間取引であっても価格の合理性を説明できる資料は残しておくべきです。

譲渡益に課される税金は、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税および特別法人事業税の合計です。法定実効税率は、期末資本金1億円以下の中小法人が標準税率で33.58%、外形標準課税の対象となる資本金1億円超の法人が30.62%です。中小法人のほうが高くなるのは、外形標準課税が適用されず所得割の税率が高いためです。

ただし、東京都のように超過税率を設けている自治体では、一定規模以上の中小法人に34.59%が適用されます。東京都の場合、資本金1億円以下でも所得が年2,500万円を超えるなどの要件に該当すると超過税率の対象になります。所在地と所得規模によって変わるため、自社に適用される税率は顧問税理士に確認してください。本記事の試算では、標準税率の約33.6%を用います。

注意点
令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、法人税額に4%を上乗せする防衛特別法人税が課されます。法定実効税率はこれにより0.8〜0.9ポイント程度上昇し、中小法人の標準税率ベースでおおむね34.4%になります。ただし、年500万円の基礎控除があるため、基準法人税額が500万円以下であれば負担は生じません。譲渡益が大きい年度は基礎控除を超える可能性があるため、試算の際は加味してください。

なお、中小法人には年800万円以下の所得部分に軽減税率が適用されるため、実際の負担率は所得規模によって変動します。対象事業の譲渡益以外にも所得がある会社であれば、譲渡益部分は上記の実効税率で課税されると考えて差し支えない場合が多いです。

会社分割は適格なら課税繰延、非適格なら時価課税

会社分割では、税制適格要件を満たす適格分割であれば、資産・負債は帳簿価額のまま引き継がれ、譲渡損益の計上が繰り延べられます。非適格分割であれば時価で移転したものとされ、事業譲渡と同じく譲渡損益が計上されます。

第三者への売却を前提とする場合、この判定は次のようになります。買い手が現金で対価を支払う吸収分割は、適格要件のうち対価要件(分割承継法人の株式のみが交付されること)を満たさないため、非適格が確定します。新設分割は対価が新設会社株式なので対価要件は満たしますが、分割後に新設会社株式を第三者へ譲渡することが見込まれている場合、完全支配関係の継続要件を満たさず非適格となるのが原則です。

スキーム税制適格性課税のタイミング
事業譲渡(組織再編税制の対象外)譲渡時に譲渡損益を計上
吸収分割(現金対価)非適格が確定分割時に譲渡損益を計上
新設分割+株式譲渡非適格が原則分割時に譲渡損益を計上(株式譲渡時はほぼ無税)
新設分割+株式譲渡(適格の場合)適格分割時は課税なし、株式譲渡時に譲渡益を計上

適格判定の枠組みはスキームによって異なる

適格性の判定基準は、当事者間の資本関係によって変わります。買い手を承継会社とする吸収分割は、資本関係のない当事者間の取引なので、共同事業を営むための分割の要件(共同事業要件)で判定します。主な要件は次のとおりです。

  • 分割対価が分割承継法人の株式のみであること(対価要件)
  • 分割事業と承継法人の事業が相互に関連すること(事業関連性要件)
  • 双方の事業規模がおおむね5倍を超えないこと、または双方の特定役員が分割後も役員として継続すること(事業規模要件または特定役員引継要件)
  • 分割事業の従業者のおおむね80%以上が承継法人の業務に従事する見込みであること(従業者引継要件)
  • 分割事業が承継法人において引き続き営まれる見込みであること(事業継続要件)
  • 交付された株式の全部が継続して保有される見込みであること(株式継続保有要件)

実務上のハードルは「対価要件」「株式継続保有要件」です。買い手が現金で支払う限り対価要件を満たせず、買い手株式を対価としても売り手がそれを継続保有する見込みがなければ株式継続保有要件を満たしません。現金化して事業から手を引きたいという売り手の目的と、適格要件は本質的に相容れないということです。第三者への売却で適格な吸収分割が成立するのは、資本提携を伴い売り手が買い手の株主として残るような案件に限られます。

一方、売り手が単独で行う新設分割は、分割法人が新設会社の株式を100%保有することになるため、完全支配関係内の分割として判定されます。この場合の要件は対価要件と完全支配関係の継続見込みの2つに絞られ、共同事業要件の判定は不要です。ただし、前述のとおり、分割後に新設会社株式を第三者へ譲渡することが見込まれていれば継続見込みを欠くため、非適格になります。

適格になっても有利とは限らない

「適格=税制優遇」と説明されることが多いのですが、第三者への売却を前提とする場合、適格になっても税負担の総額はほとんど変わりません。理由は、課税されるタイミングが動くだけだからです。

適格分割になった場合、分割時は課税されませんが、新設会社株式の取得価額は移転した資産・負債の帳簿価額の純額となります(法人税法施行令119条1項7号)。その株式を第三者に譲渡すれば、譲渡価額との差額がまるごと有価証券の譲渡益となり、その事業年度の益金に算入されます。完全支配関係にある子会社の株式であっても、譲渡先が資本関係のない第三者であればグループ法人税制による譲渡損益の繰延べは適用されません。

非適格分割になった場合は、移転する資産・負債を時価で譲渡したものとされるため(法人税法62条1項)、含み損益があればその分は分割の時点で実現します。ただし、単独の新設分割は自らが100%出資する会社への移転であり、第三者間のような価格形成の契機がありません。そのため、帳簿に計上されていない自己創設の営業権まで移転資産として時価評価しないのが通常の実務です。この整理では、分割時に実現するのは既存資産の含み損益にとどまり、のれん相当は後続の株式譲渡の時点で益として実現します。

いずれの場合も、通算した課税所得は「株式譲渡価額-移転した資産・負債の帳簿価額の純額」で同額になります。違いは、含み益部分の課税が分割時に前倒しされるかどうかだけです。適格判定を外しても税負担の総額が跳ね上がらないというこの構造が、実務で「新設分割+株式譲渡」というスキームが使われる理由の一つでもあります。

ただし、繰越欠損金の期限が迫っている場合や、分割事業年度と株式譲渡の事業年度がまたがる場合には、タイミングの違いが実質的な有利不利を生みます。また、分割から株式譲渡までの期間が極端に短く、譲渡価額が分割時の純資産額を大きく上回るようなケースでは、分割の時点ですでに超過収益力が存在していたと認定される余地も残ります。分割前に第三者との間で譲渡価格の合意が成立している場合は、慎重な検討が必要です。

移転資産の帳簿価額の純額5,000万円、時価純額6,000万円、株式譲渡価額1億円という前提で整理すると、次のようになります。

時点適格分割の場合非適格分割の場合
分割時課税なし1,000万円(含み益の実現)
株式譲渡時5,000万円(1億円-簿価5,000万円)4,000万円(1億円-株式取得価額6,000万円)
通算の課税所得5,000万円5,000万円

ポイント
適格・非適格の判定は、税負担の総額よりも「いつ納税資金が必要になるか」に効いてきます。非適格なら含み益部分の納税義務が分割の時点で生じるため、株式譲渡代金を受け取る前に資金手当てが必要になる場合があります。分割日と株式譲渡日、それぞれの事業年度末を並べて資金繰りを確認してください。

株式譲渡まで含めた3スキームの法人税・所得税の課税関係の違いについては、以下の記事で整理していますので、あわせてご覧ください。
株式譲渡・事業譲渡・会社分割の税金を徹底比較|誰に・何が・いくらかかるかを専門家が解説

4. 繰越欠損金:会社分割では原則として引き継げない

「包括承継だから欠損金も移る」は誤り

会社分割は包括承継であるため、繰越欠損金も承継会社に引き継がれると誤解されることがあります。実際には、会社分割では分割法人の繰越欠損金は分割承継法人に引き継がれません。移転する事業に対応する欠損金額を合理的に算定できないためです。

この点は合併との決定的な違いです。適格合併であれば被合併法人の未処理欠損金額は合併法人に引き継がれます(法人税法57条2項)。しかし、同項が引継ぎを認めているのは適格合併と残余財産の確定の場合のみで、会社分割は対象に含まれていません。かつては合併類似適格分割型分割に該当する場合に引継ぎが認められていましたが、この制度は平成22年度税制改正で廃止されました。現在は、適格・非適格を問わず、また分社型・分割型を問わず、会社分割で繰越欠損金が承継されることはありません。

注意点
インターネット上には「合併類似適格分割型分割なら繰越欠損金を引き継げる」と解説している記事が今も残っていますが、これは平成22年度税制改正前の情報です。繰越期間を「7年以内」と記載しているページは改正前の内容なので、参照しないでください。現行制度では会社分割による欠損金の引継ぎは認められていません。

事業譲渡でも当然に繰越欠損金は移転しません。したがって、買い手にとっては「どちらのスキームでも売り手の繰越欠損金は使えない」というのが結論になります。売り手に多額の繰越欠損金があることを理由に価格を上乗せするような交渉は、根拠を欠きます。

売り手側では、課税タイミングによって欠損金を使えるかが変わる

一方、売り手側では繰越欠損金を使えるタイミングに差が出ます。「事業譲渡」では、その事業年度に譲渡益が計上されるため、売り手法人が保有する繰越欠損金と相殺できます。譲渡益4,000万円に対して繰越欠損金3,000万円があれば、課税所得は1,000万円に圧縮されます。

「新設分割+株式譲渡」でも、最終的には株式譲渡益として同額の益が立つため、相殺できること自体は変わりません。違うのは計上される事業年度です。分割と株式譲渡が別の事業年度にまたがる場合、その間に繰越欠損金の繰越期限(平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じたものは10年、それ以前は9年)が到来してしまうと、使えないまま失効する可能性があります。欠損金の発生年度と残存期限を確認したうえでスキームとスケジュールを設計すべきです。

論点事業譲渡会社分割
売り手の繰越欠損金の買い手への承継承継されない承継されない(適格・非適格を問わず例外なし)
売り手の譲渡益と繰越欠損金の相殺譲渡した事業年度に相殺できる新設分割+株式譲渡なら株式譲渡の事業年度。含み益がある場合は分割時にも一部相殺
承継会社が元々持つ繰越欠損金制限なし一定の場合に使用制限あり

買い手側の繰越欠損金にも使用制限がかかる場合がある

見落とされやすいのが、承継会社が元々持っている繰越欠損金の使用制限です。適格分割において、分割承継法人と分割法人の支配関係が分割事業年度開始の日の5年前の日以後に生じており、かつ、みなし共同事業要件を満たさない場合には、承継会社側の繰越欠損金の使用が制限されます。

これは、繰越欠損金を持つ会社をあらかじめ買収しておき、そこに利益の出る事業を分割で移して欠損金と相殺する、という租税回避を防ぐための規定です。買い手が繰越欠損金を抱えており、そこに対象事業を吸収分割で受け入れる設計を考えている場合は、この制限に該当しないかを事前に確認する必要があります。事業譲渡であればこの制限は適用されません。

注意点
繰越欠損金の使用制限の判定は、支配関係の発生時期、みなし共同事業要件(事業関連性・事業規模・特定役員引継ぎなど)の充足状況によって結論が変わり、判定が複雑です。買い手側に繰越欠損金がある案件で吸収分割を検討する場合は、必ず事前に税理士の判定を受けてください。

適格分割・非適格分割の判定基準や会社分割そのものの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
会社分割を分かりやすく解説|新設分割・吸収分割の違いと手続き・税務について

5. 消費税:課税と不課税、実質的に負担するのは誰か

事業譲渡で消費税がかかる資産・かからない資産

事業譲渡は資産の売買であるため、譲渡する資産のうち課税資産に消費税が課されます。課税・非課税の区分は次のとおりです。

区分対象となる資産
課税される建物、機械装置、車両などの有形固定資産、特許権・商標権などの無形固定資産、棚卸資産、のれん(営業権)
非課税土地、有価証券、売掛金などの金銭債権
不課税負債の引受け(消費税の課税対象は資産の譲渡等であり、負債の引受けは対象にならない)

実務上のポイントは、のれんが課税資産に含まれることです。中小企業のカーブアウトでは、譲渡対価に占めるのれんの割合が高いことが多く、その全額が消費税の課税ベースに乗ります。対価1億円のうちのれんが4,000万円、土地以外の課税資産が4,000万円であれば、8,000万円に対して800万円の消費税が発生します。

会社分割は「非課税」ではなく「不課税」

会社分割は組織再編行為であり、消費税法上の資産の譲渡等に該当しません。したがって、消費税は課されません。ここで注意したいのは、正しくは「不課税」であって「非課税」ではないという点です。

多くの解説記事が会社分割を「非課税」と表記していますが、非課税取引と不課税取引は消費税法上の位置づけが異なります。非課税取引は課税売上割合の計算上、分母に算入されますが、不課税取引は分母にも分子にも入りません。課税売上割合が95%を下回る事業者にとっては、この違いが仕入税額控除の計算に影響します。税理士に相談する際は用語を正確に使ってください。

注意点
土地の譲渡は「非課税」、会社分割は「不課税」です。同じ「消費税がかからない」でも扱いが異なります。土地を多く含む事業譲渡を行った年度は、非課税売上が増えて課税売上割合が下がり、その年度の仕入税額控除が制限される可能性があります。事業譲渡の実行年度における自社の課税売上割合への影響も、あわせて確認してください。

買い手が仕入税額控除できるかで実質負担が決まる

消費税は買い手が負担して売り手が納付する構造なので、売り手の損益には影響しません。問題は買い手側です。買い手が原則課税を適用する「課税事業者」であれば、支払った消費税は仕入税額控除の対象となり、最終的な負担はゼロになります。実質的なコストは、納付から還付・控除までの間の資金負担にとどまります。

これに対し、買い手が「免税事業者」や「簡易課税適用事業者」である場合、あるいは医療・福祉・住宅賃貸・金融保険といった「非課税売上が中心の事業者」である場合、支払った消費税は控除しきれず、そのままコストとして残ります。課税資産部分に対する10%が純粋な追加負担になるため、この場合は消費税が不課税となる会社分割を選ぶ経済合理性が明確に生まれます。

売り手側にも資金繰り上の論点があります。事業譲渡で受け取った消費税は預り金ですが、納付は事業年度終了後の確定申告時(中間申告の対象であればその時点)になります。受領から納付までの間に譲渡代金を借入返済や配当に充ててしまうと、納付時に資金が不足する事態が起こり得ます。対価1億円の案件で800万円規模の納付が発生することを、資金計画に明記しておく必要があります。

ポイント
スキームを検討する初期段階で、買い手候補の課税区分を確認してください。買い手が原則課税の課税事業者なら消費税は判断材料になりませんが、そうでなければ消費税だけで数百万円から数千万円の差が生じます。この情報は交渉初期に取得できることが多く、確認コストに対して得られる示唆が大きい項目です。

新設分割で作った受け皿会社は免税事業者になれない

新設分割で受け皿会社を設立するスキームでは、実務で頻繁に誤解される論点があります。「新しく設立した会社だから、資本金1,000万円未満にしておけば設立当初2期は消費税の免税事業者になれる」という理解です。これは誤りです。

消費税法12条は、分割等があった場合の納税義務の免除について特例を定めています。新設分割子法人の分割等があった日の属する事業年度については、新設分割親法人の基準期間に対応する期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、納税義務が免除されません。翌事業年度も同様の判定が行われ、翌々事業年度以後は、新設分割子法人が特定要件に該当し、かつ子法人と親法人の課税売上高の合計額が1,000万円を超える場合に納税義務が生じます。参照:国税庁「消費税法基本通達 第1章第5節 納税義務の免除の特例」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/01/05.htm

つまり、分割元の会社に一定規模の売上がある限り、新設した受け皿会社は設立初年度から課税事業者になります。買い手に引き渡した後の消費税負担を織り込んでいなかった、という事態を避けるため、事業計画には初年度からの消費税納付を織り込んでおく必要があります。なお、事業譲渡の場合も、譲受法人が課税事業者を選択していない場合の判定には例外規定が複数あるため、単純に免税とはいえません。

消費税を含めた事業譲渡の負担とメリット・デメリットの全体像については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
事業譲渡のメリット・デメリットを徹底解説|売り手・買い手別に整理

6. 登録免許税・不動産取得税:資産構成で有利不利が逆転する

登録免許税は土地なら事業譲渡のほうが安い

「会社分割なら流通税の軽減措置が受けられる」という説明が広く流布していますが、登録免許税については逆です。土地の売買による所有権移転登記には、租税特別措置法72条1項による軽減税率1.5%が適用されます。適用期限は令和8年度税制改正で3年延長され、令和11年3月31日までとなっています。参照:国税庁「登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0020003-124_01.pdf

一方、会社分割による所有権移転登記は本則の2.0%です。建物はどちらも2.0%なので差がつきませんが、土地については事業譲渡のほうが0.5ポイント安くなります。土地の評価額が大きい事業ほど、この差は無視できません。

不動産取得税の非課税要件は法人税の適格要件とは別物

会社分割が明確に有利なのは不動産取得税です。地方税法73条の7第2号および同法施行令37条の14が定める非課税の要件は、分社型分割の場合、次の4つです。

  • 分割対価として分割承継法人の株式以外の資産が交付されないこと(金銭等不交付要件)
  • 分割事業に係る主要な資産・負債が分割承継法人に移転していること
  • 分割事業が分割後も分割承継法人において引き続き営まれる見込みであること
  • 分割事業の直前の従業者のうち、おおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事する見込みであること

分割型分割の場合は、これに加えて株式が持株割合に応じて按分交付されること(按分型要件)が必要です。

ここで押さえておくべきなのは、この要件のなかに「支配関係の継続」が含まれていないという点です。法人税法上の適格要件では、単独新設分割は完全支配関係が継続する見込みであることが求められ、分割後に新設会社株式を第三者へ譲渡する予定があれば非適格になります。しかし、地方税法の非課税要件はそれを問いません。

したがって、新設分社型分割で対価を新設会社株式とし、その後に株式を譲渡する設計であれば、法人税法上は非適格でありながら、不動産取得税は非課税という組み合わせが成立します。本記事が前提とするスキームで、不動産取得税のメリットを取りにいける理由はここにあります。

逆に、買い手が現金で対価を支払う吸収分割では、金銭等不交付要件を満たせないため非課税措置は使えません。不動産取得税は取得の原因を問わず課される流通税であり、非課税はあくまで例外規定です。要件を外れれば原則に戻って課税されます。

事業譲渡の場合、不動産取得税の税率は土地および住宅が3%、住宅以外の家屋が4%です。宅地評価土地については課税標準が2分の1に軽減されます。3%への軽減と2分の1特例は、いずれも令和9年3月31日までに取得したものが対象です。工場・事務所・店舗といった非住宅の家屋が中心の事業では、4%の負担がそのまま残ります。

注意点
分割対象事業と無関係な不動産を分割に含めた場合、他の要件を満たしていてもその不動産は「分割事業に係る資産」に当たらないとして課税されることがあります。賃貸中の物件や本社の土地を切り出して移すケースが典型です。また、非課税の適用は分割から一定期間後に都道府県が照会をかけて事後確認する運用が一般的で、判断は自治体ごとに分かれます。実行前に不動産の所在地を管轄する県税事務所へ必ず事前相談してください。

不動産評価額1億円のケースで比較する

土地の固定資産税評価額6,000万円、建物(非住宅)の固定資産税評価額4,000万円の不動産を移転する前提で、流通税を試算します。

項目事業譲渡新設分割(株式対価・要件充足)吸収分割(現金対価)
登録免許税(土地)6,000万×1.5%=90万円6,000万×2.0%=120万円6,000万×2.0%=120万円
登録免許税(建物)4,000万×2.0%=80万円4,000万×2.0%=80万円4,000万×2.0%=80万円
不動産取得税(土地)6,000万×1/2×3%=90万円非課税6,000万×1/2×3%=90万円
不動産取得税(建物)4,000万×4%=160万円非課税4,000万×4%=160万円
合計420万円200万円450万円

要件を満たす新設分割であれば200万円で済み、事業譲渡より220万円有利です。しかし、現金対価の吸収分割では450万円となり、事業譲渡の420万円を上回ります。「会社分割なら流通税が安い」という一般論が、どの型を選ぶかで逆転することが数字で確認できます。

注意点
現金対価の吸収分割は、不動産取得税の非課税を使えないうえに登録免許税は本則税率という、流通税の面では最も不利な選択になり得ます。それでいて債権者保護手続などの法定手続は必要です。第三者への現金売却で吸収分割を検討している場合は、事業譲渡と比較して本当にメリットがあるかを税額ベースで確認してください。

不動産を含む案件で流通税の負担を抑えながら資産を切り離す方法については、以下の記事で実務に即して解説しています。
M&Aで不動産をオフバランス化する4つの方法|株価が重い案件の切り離し実務

7. のれんの税務:買い手が払える金額が変わる

資産調整勘定は5年間で均等償却できる

買い手にとって最も金額インパクトの大きい税務メリットが、税務上ののれんの償却です。事業譲渡によって事業の移転を受けた場合、支払対価が受け入れた資産・負債の時価純額を上回る部分は資産調整勘定として計上され、5年間の均等償却によって損金に算入されます(法人税法62条の8)。買い手が現金対価で受け入れる吸収分割も、非適格分割として同じ扱いになります。

なお、この規定が適用されるのは「事業」の移転を受けた場合であり、かつその事業に係る主要な資産・負債のおおむね全部が移転していることが要件です。事業としての一体性を欠く資産の寄せ集めを買い取っただけでは、資産調整勘定は生じません。

対価1億円のうち時価純資産が6,000万円であれば、のれんは4,000万円です。買い手はこれを5年間で毎期800万円ずつ損金算入でき、実効税率33.6%とすれば5年間で1,343万円の税負担が軽減されます。買収資金の約13%に相当する金額であり、キャッシュフローに直結します。

株式を取得する形では税務上ののれんが生じない

「新設分割+株式譲渡」のスキームでは、買い手は新設会社の株式を取得します。この場合、のれん相当額は株式の取得価額に含まれるだけで、資産調整勘定は生じません。会計上ののれん償却は行われますが、税務上は損金になりません。将来その株式を売却するまで、支払ったのれん相当額は税務上回収できないことになります。

これは、前章で述べた分割の設計と表裏の関係にあります。移転する資産・負債の時価純額で新設分割を行えば、交付される株式の価値も同額となり、新設会社の側に資産調整勘定は生じません。のれん相当は株式の譲渡価額に乗る形になるため、買い手が株式を取得しても償却できる資産は増えないのです。本記事が前提とする設計では、新設分割+株式譲渡で買い手にのれんは残らないと考えてください。

理論上は、分割の対価である株式を営業権込みのゴーイングコンサーン価値で評価すれば新設会社に資産調整勘定が計上されますが、その場合は分割の時点で分割法人に同額の譲渡益が実現し、課税が前倒しになります。売り手の負担で買い手にのれんを持たせる形になるため、第三者間の取引で採用される場面は限られます。

注意点
資産調整勘定は、支払対価から「受け入れた資産・負債の時価純額」を差し引いて計算します。したがって、譲渡契約書で個々の資産に配分した金額が税務上の時価と乖離していると、のれんの金額そのものが否認される可能性があります。事業譲渡契約書には資産ごとの譲渡価額の内訳を記載し、その根拠となる評価資料を残しておいてください。とくに不動産や機械設備の配分額は、税務調査で指摘されやすい項目です。

この差が譲渡価格の交渉に跳ね返る

のれん償却の可否は、買い手が支払える上限額を変えます。実際の交渉でも、買い手から「事業譲渡ならこの金額、株式取得なら税務メリットがない分これだけ下げてほしい」と提示されることがあります。

売り手としては、この構造を理解したうえで交渉に臨む必要があります。会社分割を選ぶことで買い手の税務メリットを消してしまい、その分だけ譲渡価格を下げられているとすれば、消費税や不動産取得税で得たメリットが相殺されている可能性があります。次章の試算で、この関係を具体的に確認します。

のれんの取扱いも含めた各スキームのメリット・デメリットの比較については、以下の記事もご参照ください。
株式譲渡・事業譲渡・会社分割の違いとメリット・デメリットを徹底比較|最適なスキームの選び方

8. 【試算】対価1億円のケースで税負担を比較する

ケースA:のれんが中心で、買い手が課税事業者の場合

次の前提で、事業譲渡と新設分割+株式譲渡を比較します。計算を単純にするため、移転する資産に含み損益はないものとしています。

  • 譲渡対価:1億円
  • 移転する資産の時価純額:6,000万円(うち土地2,000万円、その他の課税資産4,000万円)
  • 移転する資産の帳簿価額の純額:6,000万円(時価と一致し、含み損益なし)
  • のれん相当額:4,000万円
  • 土地の固定資産税評価額:2,000万円
  • 売り手法人の繰越欠損金:3,000万円
  • 売り手・買い手の法定実効税率:33.6%(中小法人・標準税率)
  • 買い手は原則課税を適用する課税事業者

注意点
移転する資産に含み益がある場合、「新設分割+株式譲渡」では、その含み益の部分が分割の時点で実現して課税されます。例えば、帳簿価額が5,000万円であれば、分割時に1,000万円、株式譲渡時に4,000万円が計上され、通算では同じ5,000万円になります。この試算は含み損益がない前提なので分割時の課税が生じませんが、実際の案件では土地や有価証券の含み益の有無を必ず確認してください。

まず売り手側です。事業譲渡では譲渡益4,000万円が生じ、繰越欠損金3,000万円と相殺して課税所得は1,000万円、法人税等は336万円です。新設分割+株式譲渡では、含み損益がないため分割時に損益は生じず、株式譲渡の時点で4,000万円の譲渡益が生じます。やはり繰越欠損金と相殺して税額は336万円です。

項目事業譲渡新設分割+株式譲渡
譲渡対価1億円1億円
譲渡益4,000万円4,000万円(株式譲渡時)
繰越欠損金との相殺△3,000万円△3,000万円
課税所得1,000万円1,000万円
法人税等(33.6%)336万円336万円
税引後手取り額9,664万円9,664万円

売り手の手取り額は同額です。これは重要な発見で、「会社分割のほうが税金が安い」という説明が、少なくとも売り手側については当てはまらないことを示しています。消費税は買い手負担なので売り手の手取りに影響せず、流通税も買い手負担だからです。

次に買い手側です。事業譲渡では対価1億円に加えて消費税800万円(課税資産4,000万円+のれん4,000万円の10%)を支払いますが、課税事業者なので仕入税額控除により実質負担はゼロです。土地の移転に伴う登録免許税30万円と不動産取得税30万円が発生します。一方でのれん4,000万円を5年間で償却でき、1,343万円の税負担軽減を得られます。

項目事業譲渡新設分割+株式譲渡
取得対価1億円1億円
消費税800万円(仕入税額控除により実質0円)0円(不課税・株式譲渡は非課税)
登録免許税30万円40万円(分割時に新設会社が納付)
不動産取得税30万円0円(要件充足で非課税)
のれんの税務償却効果△1,343万円0円
税引後実質負担額8,717万円1億40万円

新設分割+株式譲渡の登録免許税40万円は、形式的には分割の時点で新設会社が納付するものです。ただしその支出の分だけ新設会社の純資産が減り、株式の評価に反映されるため、経済的には取引全体のコストとして買い手側に帰属すると考えて差し支えありません。

買い手の実質負担は、事業譲渡のほうが1,323万円少なくなります。この差は、のれんの税務償却が使えるかどうかでほぼ説明できます。買い手にとって1,323万円有利ということは、事業譲渡であれば同じ経済条件でその分だけ高い価格を提示できるということでもあります。売り手にとっても、事業譲渡を選ぶほうが交渉上有利になり得ます。

なお、同じケースAで買い手が仕入税額控除を受けられない事業者だった場合、消費税800万円がそのままコストとなり、事業譲渡の実質負担は9,517万円になります。それでも新設分割+株式譲渡の1億40万円を523万円下回ります。のれんが対価の4割を占めるような案件では、消費税の負担を織り込んでもなお事業譲渡が有利になるということです。

ポイント
この試算で最も重要なのは、売り手の手取りが同額になるという点です。「会社分割のほうが税金が安い」という説明を受けたときは、それが誰にとっての税金なのかを必ず確認してください。買い手の税負担が下がるスキームを選んでも、その分が価格に反映されなければ売り手にメリットはありません。逆に、買い手の負担が下がる分を価格交渉で取りに行けるかどうかが、実質的な論点になります。

ケースB:不動産が中心で、買い手が仕入税額控除できない場合

結論が逆転するケースを見ます。前提は次のとおりです。

  • 譲渡対価:2億円
  • 移転する資産:土地(固定資産税評価額1億2,000万円)と建物(同8,000万円)。時価純額2億円でのれんは生じない
  • 買い手は非課税売上が中心で、支払った消費税を控除できない
  • 新設分割は株式対価で不動産取得税の非課税要件を満たす
項目事業譲渡新設分割(株式対価)+株式譲渡
消費税建物8,000万×10%=800万円(控除不可)0円
登録免許税(土地)1億2,000万×1.5%=180万円1億2,000万×2.0%=240万円
登録免許税(建物)8,000万×2.0%=160万円8,000万×2.0%=160万円
不動産取得税180万円+320万円=500万円非課税
のれんの税務償却効果0円(のれんなし)0円
対価以外の追加負担1,640万円400万円

この場合、会社分割のほうが1,240万円有利になります。のれんが生じないため事業譲渡の最大のメリットが働かず、逆に控除できない消費税と不動産取得税が重くのしかかるためです。

試算から読み取れる判断軸

2つのケースから、税務上の有利不利を分ける要因は次の3つに整理できます。

要因事業譲渡が有利になる条件会社分割が有利になる条件
のれんの大きさ対価に占めるのれんの割合が高いのれんが小さい、または生じない
買い手の消費税の立場原則課税の課税事業者で仕入税額控除できる免税事業者・簡易課税・非課税売上中心
不動産の有無と種類不動産を含まない、または土地中心建物など非住宅家屋を多く含む

サービス業やIT関連のように不動産を持たず、収益力に対して対価が付く事業では、のれんが対価の大半を占めるため事業譲渡が有利になります。逆に、不動産賃貸業や設備集約型の事業で、しかも買い手が仕入税額控除を受けられない場合には、会社分割が有利になります。

ポイント
自社のケースを試算するには、①譲渡対価の見込額、②移転資産の時価と帳簿価額、③土地・建物の固定資産税評価額、④売り手の繰越欠損金の残高と期限、⑤買い手の消費税の課税区分、という5つの情報が必要です。このうち⑤以外は自社で把握できます。買い手候補との交渉に入る前に、この4つを揃えておくと判断が早くなります。

買い手が税負担をどのように買収価格へ反映させるのかについては、以下の記事で実務の視点から解説しています。
M&Aで買い手が押さえるべき財務・税務の留意点|DDから価格交渉までの実務

9. まとめ:税金だけでスキームを決めてはいけない理由

事業譲渡と会社分割の税務上の違いについて、要点を整理します。

  • 売り手の税引後手取り額は、どちらのスキームでもほとんど変わらない。譲渡益に法人税等が課される点は共通で、消費税と流通税は買い手負担のため。
  • 差が出るのは買い手の実質負担額であり、その主因は税務上ののれんを5年償却できるかどうか。のれんが大きい案件ほど事業譲渡が有利になる。
  • 消費税は買い手が仕入税額控除できるかどうかで意味が変わる。控除できない買い手であれば、課税資産部分に対する消費税が純粋なコストとして残る。
  • 「会社分割なら流通税が安い」は条件付き。登録免許税は土地なら事業譲渡が安く、不動産取得税の非課税は分割対価が株式のみであることが前提。現金対価の吸収分割では事業譲渡より高くなる。
  • 繰越欠損金は会社分割でも承継されない。引継ぎが認められるのは適格合併等に限られ、包括承継だから移るという理解は誤り。

最後に強調したいのは、税負担だけでスキームを決めるべきではないという点です。買い手の実質負担が1,323万円変わるという試算は、あくまで価格交渉の材料であって、そのまま売り手の手取りが増えることを意味しません。買い手が簿外債務の遮断を求めて事業譲渡しか受け入れない場合、そもそも選択の余地はありません。許認可の承継可否、従業員の同意取得、契約の巻き直しといった非税務の要因が、税額の差を上回る制約になることも珍しくありません。

それでも、税負担の試算を早い段階で作っておく価値は大きいものです。買い手から提示された条件が自社にとって有利かどうかを判断する基準ができ、価格交渉で根拠を持って主張できるようになります。

弁護士と税理士がスキーム設計の段階から一体で関与し、税引後の手取り額を試算したうえで最適な進め方をご提案しています。一部事業の売却をご検討の際は、買い手候補への打診を始める前の構想段階からお気軽にご相談ください。

執筆者

税理士登録申請中 横山圭介

東京都立大学(旧首都大学東京)数理科学専攻卒業後、国家公務員として札幌国税局に入庁。札幌国税局資産課税課、札幌東税務署資産課税部門等を経て、国税庁企画課へ出向。 国税庁・国税局・税務署において、主に資産税事務に従事し、相続・譲渡・贈与など資産課税の実務を第一線で担う。官公庁・金融機関等との折衝・情報連携の実務経験も有する。

弁護士 佐藤聖喜

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。 長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。