資産管理会社の株価の計算方法|令和8年4月改正(38%控除)に対応した実践ガイド

資産管理会社の株価算定方法について

「顧問税理士から株価の試算を受け取ったが、中身が理解できない」「自社の株価がいくらなのか、決算書から自分でも概算を出してみたい」。資産管理会社をお持ちの方から、こうしたご相談をいただくことがあります。

非上場株式の評価方法を解説した記事は数多くありますが、その大半は事業会社を前提としたものです。会社規模の判定、類似業種比準方式の計算式、配当還元方式との使い分け。手順が多く、自社にどれが当てはまるのか判断できないまま読み終わってしまう方が少なくありません。

ところが資産管理会社に限れば、話はずっと単純になります。ほとんどの場合、株価は純資産価額方式一本で決まるからです。理由と例外は本文で詳しく説明しますが、まずこの結論を押さえておくだけで、必要な作業は大幅に絞り込めます。加えて、令和8年4月から計算の前提が一つ変わりました。純資産価額方式で用いる控除割合が37%から38%に改正されています。

本記事では、この改正を織り込んだうえで、決算書から株価を試算するまでの手順を、数値例とともに解説します。

目次
目次

1. 資産管理会社の株価は何のために計算するのか

同じ会社でも、目的が違えば株価は違います

最初に確認しておきたいことがあります。株価は一つに決まるものではありません。何のために計算するのかによって、用いる方法も金額も変わります。

場面使う評価方法金額の傾向
相続税・贈与税の計算財産評価基本通達による評価(純資産価額方式など)土地は路線価、建物は固定資産税評価額を使うため低くなりやすい
第三者への売却(M&A)時価純資産法、収益還元法、DCF法など不動産を実勢価格で評価するため相続税評価額より高くなることが多い
同族間の株式売買所得税基本通達・法人税基本通達による時価財産評価基本通達を準用しつつ一部修正した金額
自己株式の取得(金庫株)原則として上記の時価売買と同じ考え方だが、みなし配当の論点が加わる

本記事で中心的に扱うのは、1行目の相続税・贈与税の計算に用いる株価です。オーナーの方が「自社の株価」として最初に把握すべき数字であり、相続対策のすべての起点になるためです。M&Aの場面での株価との違いについては、第10章で改めて整理します。

株価を把握しておくべきタイミング

資産管理会社の株価は、放置していると気づかないうちに変動します。次のタイミングでは、必ず試算しておくことをおすすめします。

  • 前回の試算から3年以上が経過したとき
  • 借入金の返済が進み、残高が大きく減ったとき
  • 不動産を新たに取得したとき、または売却したとき
  • 役員退職金の支給を検討するとき
  • 後継者への株式の生前贈与を検討するとき
  • オーナーが70歳を迎えたとき、または健康上の不安が生じたとき

とりわけ見落とされやすいのが借入返済の影響です。純資産価額方式では負債が純資産を圧縮するため、借入残高が減るほど株価は上がっていきます。設立当初は株価がほぼゼロだった会社が、10年後には数億円になっているという例は決して珍しくありません。

2. 【令和8年4月改正】法人税額等相当額の控除割合が37%から38%へ

改正の内容と適用時期

計算に入る前に、直近の重要な改正を押さえておきます。

純資産価額方式では、会社が保有する資産の含み益に対応する法人税等の額を、純資産から差し引くことができます。この控除に用いる割合が、令和8年3月25日付の法令解釈通達(課評2-28ほか)により、37%から38%に改正されました。

項目内容
改正された規定財産評価基本通達186-2(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)
変更内容法人税率等の合計割合を37%から38%に引き上げ
改正の理由令和7年度税制改正で創設された防衛特別法人税が、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されることに伴う措置
適用時期令和8年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した取引相場のない株式等

控除割合は法人税、地方法人税、事業税、特別法人事業税、道府県民税および市町村民税の税率の合計に相当する割合として定められています。防衛特別法人税の創設によって法人が負担する税率が上がったため、それに合わせて控除割合も引き上げられたという構造です。なお、防衛特別法人税には年500万円の基礎控除がありますが、評価方法の簡便性を考慮して、この基礎控除は割合の算定に加味されていません。

増税なのに株価は下がるという逆の関係

ここは直感に反するところですが、控除割合が上がると株価は下がります。純資産から差し引く金額が増えるからです。

たとえば含み益が1億円ある会社であれば、控除額は37%なら3,700万円、38%なら3,800万円。差額の100万円だけ純資産価額が小さくなり、その分だけ株価が下がります。含み益が大きい会社ほど、この効果は大きくなります。

含み益を抱えた不動産を長年保有している資産管理会社にとっては、わずかながら有利な改正といえます。もっとも、影響は含み益の1%分にとどまりますので、これを理由に相続や贈与の時期を動かすほどのものではありません。

注意点
控除割合は過去にも複数回改定されています。平成27年改正前は40%、その後38%、平成28年4月から37%、そして令和8年4月から再び38%です。インターネット上の解説記事や書籍には37%のまま更新されていないものが多く残っています。試算に使う数字は、必ず最新のものかどうかを確認してください。

3. 資産管理会社の株価は原則「純資産価額方式」

非上場株式の評価方法は3つあります

取引相場のない株式の評価方法は、財産評価基本通達により次の3つが定められています。

  • 類似業種比準方式:事業内容が類似する上場企業の株価をもとに、1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額の3要素を比較して算定する方法。一般に純資産価額方式より評価額が低くなる傾向があります。
  • 純資産価額方式:会社の資産を相続税評価額に置き換え、負債と法人税額等相当額を差し引いた純資産をもとに算定する方法。会社を清算したらいくら残るか、という発想に近いものです。
  • 配当還元方式:受け取る配当金額から逆算する方法。同族株主以外の少数株主が取得する場合に用いられ、評価額は大幅に低くなります。

どの方式を使うかは、株式を取得する人の立場(同族株主かどうか)と、会社の規模・資産構成によって決まります。

まず「同族株主かどうか」を判定します

手順としては、会社規模や資産構成を見る前に、株式を取得する人の立場を確認します。同族株主等に該当すれば原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用)、該当しなければ特例的評価方式である配当還元方式です。

同族株主とは、株主の1人とその同族関係者の議決権割合の合計が30%以上(50%超のグループがある場合はそのグループ)となる場合の、その株主グループに属する株主をいいます。配当還元方式による評価額は原則的評価方式より大幅に低くなるのが通常です。

ただし、資産管理会社ではオーナーとその家族で議決権のすべてを保有していることがほとんどです。相続や贈与で株式を取得するのも家族ですから、配当還元方式が使える場面は実際にはほとんどありません。本記事でも、以下は原則的評価方式を前提に進めます。

資産管理会社は4つの経路で純資産価額方式に収束します

一般的な解説では、まず会社規模を判定し、大会社なら類似業種比準方式、中会社なら併用方式、小会社なら純資産価額方式、という手順が説明されます。しかし、資産管理会社の場合、次のいずれかに該当することがほとんどで、結果として純資産価額方式に行き着きます。

経路該当する理由評価方法
①小会社に区分される従業員がほとんどおらず、取引金額(賃料収入)も小さいため、会社規模判定で小会社になりやすい純資産価額方式(納税者の選択でL=0.50の併用方式も可)
②土地保有特定会社に該当する総資産に占める土地等の割合が高い。不動産保有型の資産管理会社では構造的に該当しやすい純資産価額方式
③株式等保有特定会社に該当する総資産に占める株式等の割合が50%以上。有価証券運用型や持株会社型で該当する純資産価額方式(またはS1+S2方式)
④開業後3年未満の会社に該当する設立して間もない会社。会社規模にかかわらず適用される純資産価額方式

つまり、会社規模の判定や類似業種比準方式の計算式を細かく理解しなくても、多くの資産管理会社では純資産価額方式の計算さえできれば株価の概算がつかめるということです。例外的に類似業種比準方式が使えるケースについては、第8章で扱います。

ポイント
類似業種比準方式が使えるかどうかは、株価に大きな差を生みます。同じ会社でも、純資産価額方式と類似業種比準方式で数倍の開きが出ることも珍しくありません。自社が特定の評価会社に該当するかどうかは、決算期ごとに確認する価値があります。

純資産価額方式で算出した株価が相続時にどのような負担となるかについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
資産管理会社の相続で納税資金が足りない|株式評価・物納・延納と不動産M&Aという出口

4. 純資産価額方式の計算式と5つのステップ

基本となる算式

純資産価額方式の算式は、次のとおりです。

1株当たりの純資産価額 =(相続税評価額による総資産価額 − 負債の合計額 − 評価差額に対する法人税額等に相当する金額)÷ 課税時期における発行済株式数

そして、控除する法人税額等相当額は次のように計算します。

評価差額に対する法人税額等に相当する金額 =(相続税評価額による純資産価額 − 帳簿価額による純資産価額)× 38%

ここで注意していただきたいのは、評価差額は「資産の相続税評価額 − 資産の帳簿価額」ではなく、「純資産どうしの差額」で計算するという点です。負債は両方から差し引かれるため結果は同じになりますが、申告書の様式はこの形で作られています。

計算の5ステップ

  • ステップ1:課税時期(相続開始日または贈与日)の直前期末の決算書をもとに、貸借対照表を用意する。課税時期と直前期末の間に資産の大きな変動があれば、その分を反映させる。
  • ステップ2:資産の部の各項目を、相続税評価額に置き換える。土地は路線価等、建物は固定資産税評価額、上場株式は課税時期の価額、生命保険積立金は解約返戻金相当額に直す。
  • ステップ3:負債の部を確定させる。引当金は計上できないが、未払法人税等や死亡退職金など、帳簿にない負債で計上できるものもある。
  • ステップ4:相続税評価額による純資産価額と、帳簿価額による純資産価額をそれぞれ算出し、その差額(評価差額)に38%を乗じて法人税額等相当額を計算する。
  • ステップ5:相続税評価額による純資産価額から法人税額等相当額を差し引き、発行済株式数で割る。議決権割合が50%以下のグループに属する場合は、さらに80%を乗じる。

実際の申告では、国税庁が用意している「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の第5表を使って計算します。自力で試算する場合も、この様式に沿って作業すると漏れが生じにくくなります。

「課税時期」と「直前期末」のどちらで計算するか

計算の出発点をどこに置くかは、実務上の重要な選択です。

純資産価額方式は、本来、課税時期における資産と負債で計算するものです。原則としては課税時期に仮決算を組み、その時点の貸借対照表をもとに評価します。

ただし、課税時期における資産および負債の金額が直前期末とおおむね変わらないと認められる場合には、直前期末の資産・負債をもとに計算することも認められています。仮決算を組むには相応の手間がかかるため、実務ではこちらを選択することが多くなります。

注意すべきは、直前期末から課税時期までの間に大きな動きがあった場合です。不動産を取得または売却した、多額の借入を実行した、大口の配当を行ったといった事情があれば、直前期末の数字をそのまま使うことはできません。とくに資産管理会社では、1件の不動産取引が総資産に占める比重が大きいため、この判断は慎重に行う必要があります。

なお、直前期末方式を採用する場合でも、課税時期までに支給が確定した死亡退職金や、課税時期の属する事業年度の未払法人税等は、負債として加える扱いになります。

「帳簿価額」は税務上の金額を使います

見落とされやすい点として、帳簿価額による純資産価額の計算に用いるのは、会計上の帳簿価額ではなく法人税申告書上の金額です。

たとえば減価償却が会計上と税務上で異なる場合、税務上の未償却残高を使います。また、会計上は資産計上されていても税務上は認められていないもの、あるいはその逆のものがあれば、税務上の扱いに合わせます。法人税申告書別表五(一)を確認しながら作業する必要があります。

5. 【数値例】賃貸マンション1棟を保有する会社の株価を計算する

モデルケースの前提

実際に数字を入れて計算してみます。次のような資産管理会社を想定します。

  • 設立から20年、賃貸マンション1棟を保有
  • 土地は設立時にオーナー個人から売買により取得(現物出資ではない)
  • 建物は築15年、減価償却が進んでいる
  • 発行済株式数は200株。オーナーが100%保有
  • オーナーの死亡により、会社から遺族に死亡退職金3,000万円を支給することが決定

資産の部を相続税評価額に置き換える

資産項目帳簿価額相続税評価額評価の根拠
現預金3,000万円3,000万円額面どおり
土地5,000万円1億6,000万円路線価評価後、貸家建付地として減額
建物8,000万円7,000万円固定資産税評価額に貸家としての減額を適用
生命保険積立金1,000万円1,200万円解約返戻金相当額に置き換え
合計1億7,000万円2億7,200万円

土地は取得から長い年月が経過しており、帳簿価額5,000万円に対して相続税評価額は1億6,000万円。大きな含み益が生じています。一方、建物は減価償却が進んで帳簿価額8,000万円ですが、固定資産税評価額ベースの相続税評価額は7,000万円で、こちらはやや含み損の状態です。

負債の部を確定させる

負債項目金額備考
借入金8,000万円金融機関からの残高
未払法人税等300万円課税時期の属する事業年度分を含む
死亡退職金3,000万円被相続人の死亡により支給が確定したもの
合計1億1,300万円

死亡退職金は、課税時期には帳簿に載っていませんが、被相続人の死亡により支給が確定したものは負債として計上できます。この3,000万円が純資産を圧縮するため、株価に与える影響は小さくありません。

株価を算出する

計算項目金額計算内容
①相続税評価額による純資産価額1億5,900万円2億7,200万円 − 1億1,300万円
②帳簿価額による純資産価額5,700万円1億7,000万円 − 1億1,300万円
③評価差額1億200万円① − ②
④法人税額等相当額3,876万円③ × 38%
⑤課税時期の純資産価額1億2,024万円① − ④
⑥1株当たりの純資産価額60万1,200円⑤ ÷ 200株

この会社の株式の相続税評価額は、1株あたり60万1,200円、200株の合計で1億2,024万円となります。

37%だった場合との比較

令和8年3月31日以前の相続・贈与であれば、控除割合は37%でした。同じ数字で計算すると、法人税額等相当額は3,774万円、課税時期の純資産価額は1億2,126万円、1株当たり60万6,300円となります。

改正によって、株式全体の評価額は102万円下がりました。評価差額1億200万円の1%にあたる金額です。相続税率が仮に30%であれば、相続税額としては約30万円の軽減になります。金額としては大きくありませんが、含み益が数億円規模の会社では相応の差が生じます。

ポイント
この数値例では、時価ベースの純資産はもっと大きい点に注意してください。土地の実勢価格が2億円であれば、時価純資産は含み益の分だけ膨らみます。相続税評価額は路線価と固定資産税評価額を使うため、実際に売却できる金額とは別物です。この差については第10章で扱います。

6. 資産の評価で間違えやすい7項目

帳簿の数字をそのまま使えない項目があります

純資産価額方式でつまずくのは、多くの場合この工程です。資産の部を相続税評価額に置き換える際、帳簿の数字をそのまま使えるもの、置き換えが必要なもの、帳簿にないのに計上すべきもの、逆に計上してはいけないものが混在しています。

項目扱い注意点
土地路線価方式または倍率方式で評価賃貸中であれば貸家建付地としての減額を適用する
建物固定資産税評価額賃貸中であれば貸家として借家権割合分を減額する
課税時期前3年以内に取得した土地建物通常の取引価額相続税評価額ではなく実勢価格に近い金額。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は帳簿価額でよい
生命保険積立金解約返戻金相当額帳簿価額とは一致しない。保険会社に照会して金額を確認する
被相続人の死亡による保険金請求権受け取る保険金の額課税時期に保険事故が発生している場合は資産に計上する
上場株式・投資信託課税時期の価額上場株式は課税時期の終値など、通達の定めに従う
繰延資産・前払費用原則として計上しない創立費や開業費など財産性のないものは資産に含めない

帳簿に載っていない資産も計上します

見落とされやすいのが、貸借対照表に現れない資産です。代表的なものを挙げます。

第一に、借地権です。会社が個人所有の土地を借りて建物を建てている場合、そこに借地権が生じていることがあります。「土地の無償返還に関する届出書」を提出しているケースでは、地代の授受がある賃貸借契約であれば、土地の自用地としての価額の20%相当額を借地権として会社の資産に計上します。この場合、土地を貸している個人側では自用地価額の80%で評価されるため、合計して100%になるという関係です。

第二に、営業権です。資産管理会社では計上を要するケースは多くありませんが、超過収益力が認められる場合には評価の対象となります。

第三に、被相続人の死亡によって支払われる生命保険金です。会社が受取人となっている保険契約でオーナーが亡くなった場合、その保険金請求権を資産に計上する必要があります。同時に、その保険金を原資として支給する死亡退職金は負債に計上できます。

令和8年度税制改正の影響にも注意が必要です

令和8年度税制改正大綱では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産について、取得価額をもとに計算した価額の80%相当額で評価する見直しが示されました。令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産から適用される予定です。

法人が保有する資産も財産評価基本通達によって評価されるため、この見直しは株価の計算にも影響する可能性があります。現行の3年ルールとどう調整されるかは、今後発遣される通達を確認する必要があります。

注意点
資産の評価は、株価の計算工程のなかで最も手間がかかり、最も間違いが起きやすい部分です。とくに土地の評価は、地形、接道状況、用途地域、賃貸割合などによって大きく変わります。本記事の手順で概算をつかんだうえで、正式な数字は相続税に詳しい税理士に依頼することをおすすめします。

取得から一定期間内の不動産の評価や令和8年度税制改正の影響については、こちらの記事で整理していますので、あわせてご覧ください。
不動産の資産管理会社は相続対策になるのか|令和8年度改正「5年ルール」を踏まえた判断基準

7. 負債に計上できるもの・できないもの

引当金は計上できません

負債の部についても、帳簿の数字をそのまま使えるわけではありません。判断を誤りやすい項目を整理します。

項目計上の可否備考
借入金課税時期の残高
預り敷金・保証金返還義務のあるもの
未払金・買掛金課税時期に確定しているもの
未納の公租公課固定資産税は課税時期以前に賦課期日が到来しているものが対象
未払法人税等課税時期の属する事業年度の法人税・住民税・事業税・消費税等のうち未払のもの
死亡退職金・弔慰金被相続人の死亡により支給が確定したもの
剰余金の配当課税時期以前に配当金交付の効力が発生しているもの
貸倒引当金・退職給与引当金・納税引当金不可引当金は負債に計上できない
各種準備金不可特別償却準備金などは計上できない

死亡退職金の計上は株価を大きく動かします

このなかで最も金額のインパクトが大きいのが、死亡退職金です。

第5章の数値例では3,000万円を計上しましたが、この計上がなければ、相続税評価額による純資産価額は1億8,900万円、帳簿価額による純資産価額は8,700万円となり、評価差額は変わらず1億200万円。法人税額等相当額3,876万円を差し引いた純資産価額は1億5,024万円、1株当たり75万1,200円になります。

つまり、死亡退職金3,000万円を支給することで、株式の評価額が3,000万円そのまま下がる計算です。しかも死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、遺族が受け取る金額には所得税も課されません。納税資金を作りながら株価も下げられる、という点で、資産管理会社にとって最も効率のよい手段といえます。

ただし、不相当に高額な部分は法人税の計算上、損金算入が否認されます。最終報酬月額、在任年数、功績倍率をもとにした算定根拠を用意し、株主総会の決議と退職金規程を整えておいてください。

8. 会社規模判定と特定会社の判定|例外的に類似業種比準方式が使えるケース

会社規模はどう判定されるか

第3章で述べたとおり、資産管理会社の多くは純資産価額方式になります。ただし、例外的に類似業種比準方式を併用できる場合もあるため、判定の手順を押さえておきましょう。

会社規模は、従業員数、総資産価額(帳簿価額)、直前期末以前1年間の取引金額の3つの要素で判定されます。従業員数が70人以上であれば無条件に大会社、それ未満であれば残る2つの要素を業種区分ごとの基準に当てはめて区分します。

資産管理会社は従業員をほとんど雇用しておらず、取引金額も賃料収入にとどまるのが通常です。そのため、保有資産の規模が大きくても小会社に区分されるケースが多くなります。

会社規模原則的な評価方法類似業種比準方式の割合(L)
大会社類似業種比準方式(純資産価額方式が低ければそちらも選択可)1.00
中会社の大併用方式0.90
中会社の中併用方式0.75
中会社の小併用方式0.60
小会社純資産価額方式(納税者の選択で併用方式も可)0.50

土地保有特定会社の判定基準

会社規模が判定できたら、次は特定の評価会社に該当するかどうかを見ます。不動産保有型の資産管理会社にとって最も関係が深いのが、土地保有特定会社です。

土地保有特定会社とは、課税時期における総資産価額(相続税評価額ベース)に占める土地等の価額の割合が、一定以上である会社をいいます。判定の対象となる土地等には、所有目的や所有期間を問わず会社が保有するすべての土地が含まれ、借地権や販売用の土地も対象です。

会社規模土地保有割合の基準備考
大会社70%以上
中会社90%以上
小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が大会社の基準に該当するもの70%以上卸売業20億円以上、卸売業以外15億円以上
小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が中会社の基準に該当するもの90%以上卸売業7,000万円以上、小売・サービス業4,000万円以上、それ以外5,000万円以上
上記以外の小会社判定の対象外土地保有特定会社に該当しない

最後の行が実務上のポイントです。小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が上記の基準に満たない会社は、土地保有割合がどれだけ高くても土地保有特定会社になりません。

ここでいう業種区分は、日本標準産業分類と、国税庁が公表する「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」に従って判定します。不動産賃貸業は、卸売業にも小売・サービス業にも該当せず、通常は「卸売業、小売・サービス業以外の業種」に区分されます。この場合の基準額は5,000万円です。

したがって、帳簿価額ベースの総資産が5,000万円未満であれば、土地保有割合がどれだけ高くても判定の対象から外れることになります。ただし、賃貸物件を1棟でも保有していれば5,000万円を超えることが多く、実際に外れるケースは限られます。複数の事業を営んでいる場合は、取引金額が最も大きい業種で判定する点にもご注意ください。

その他の特定の評価会社

  • 株式等保有特定会社:総資産価額(相続税評価額ベース)に占める株式等の割合が50%以上の会社。純資産価額方式、または納税者の選択によりS1+S2方式で評価します。
  • 比準要素数1の会社:配当・利益・純資産の3要素のうち2つ以上がゼロで、直前々期末を基準にしても同様である会社。純資産価額方式が原則ですが、類似業種比準価額を25%の割合で加味する併用方式も選択できます。
  • 比準要素数0の会社:3要素すべてがゼロの会社。純資産価額方式のみです。
  • 開業後3年未満の会社:会社規模にかかわらず純資産価額方式です。
  • 開業前または休業中の会社、清算中の会社:それぞれ別の定めがあります。

資産管理会社では、意図的に配当も利益も出していないことがあります。この場合、比準要素数1の会社に該当する可能性がありますので、決算内容とあわせて確認してください。

ポイント
土地保有特定会社に該当するかどうかは、決算期ごとに変動します。建物の減価償却が進むと総資産に占める土地の割合が上がるため、設立当初は該当していなかった会社が、年月の経過とともに該当するようになることがあります。株価の試算は、この判定とセットで行ってください。

9. 株価が80%に減額される場合|議決権割合50%以下のグループ

純資産価額方式には80%評価の定めがあります

見落とされやすいものの、株価が2割変わる重要な規定があります。

純資産価額方式で評価する場合において、株式を取得した人とその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%以下であるときは、計算した1株当たりの純資産価額に80%を乗じた金額が評価額となります。財産評価基本通達185のただし書に定められているもので、納税者が選択できる特例ではなく、要件を満たせば当然に適用される規定です。

第5章の数値例で考えてみましょう。1株当たりの純資産価額は60万1,200円でしたが、この規定が適用されれば48万960円になります。200株では1億2,024万円が9,619万2,000円となり、2,400万円以上の差が生じます。

適用されるのはどういう場合か

ここでいう議決権割合は、株式を取得した人とその同族関係者を一つのグループとして数えます。オーナーが100%を保有し、それを1人の相続人が相続するのであれば、その相続人の議決権割合は100%となり、この規定は使えません。

一方、複数の同族グループに株式が分かれており、いずれのグループも50%以下にとどまる場合には、適用の余地が出てきます。

ただし、これを狙って株式を分散させることには慎重であるべきです。前提として、議決権割合が50%以下ということは、そのグループが単独では会社の意思決定を支配できないということを意味します。株価は下がりますが、実質的な支配力を失います。将来会社を第三者に譲渡しようとする場合、買い手は原則として100%の株式取得を求めるため、株主が分散していると取引そのものが成立しません。

注意点
80%評価は、あくまで支配力を持たない株主の株式は換金性が低いという実態を反映したものです。評価額を下げる目的だけで株式を分散させると、意思決定の停滞と出口の喪失という代償を払うことになります。株主構成の設計は、評価額と支配力の両面から検討してください。

10. 相続税評価額とM&Aの取引価格はなぜ違うのか

同じ会社でも、株価は目的によって別物になります

ここまで計算してきたのは、あくまで相続税・贈与税を計算するための株価です。では、その会社を第三者に売却したら、同じ金額で売れるのでしょうか。

結論から言えば、多くの場合そうはなりません。相続税評価額は、M&Aの取引価格より低くなるのが通常です。

項目相続税評価額M&Aの取引価格
根拠財産評価基本通達当事者間の交渉。時価純資産法が基本
不動産の評価土地は路線価(時価の8割程度)、建物は固定資産税評価額鑑定評価または市場価格
賃貸物件の減額貸家建付地・貸家として減額あり原則なし(収益物件としての価値で評価)
含み益への税負担控除評価差額×38%(固定)おおむね30〜37%程度。交渉で調整される
収益力の反映原則として反映されない収益還元法やDCF法で加味されることがある
金額の傾向低くなりやすい相続税評価額を上回ることが多い

差が生まれる最大の理由は不動産の評価

第5章の数値例で見てみましょう。土地の相続税評価額は1億6,000万円でしたが、これは路線価をもとに貸家建付地としての減額を適用した金額です。実勢価格が2億5,000万円だとすれば、その差は9,000万円になります。建物についても、固定資産税評価額と実勢価格には開きがあります。

M&Aの場面では、不動産を鑑定評価や市場価格で評価し直したうえで時価純資産を算出します。したがって、相続税評価額をもとにした株価より高い金額になるのが通常です。

含み益に対する税負担の控除についても違いがあります。相続税評価では38%という固定の割合が通達で定められていますが、M&Aでは買い手が将来負担する法人税相当額をいくら価格から差し引くかが交渉事項になります。実務ではおおむね30〜37%程度の範囲で議論されることが多く、この控除割合をどこまで圧縮できるかが交渉の核心になります。

この差が意味すること

相続税評価額とM&A価格の差は、単なる計算方法の違いにとどまりません。

相続税評価額が低いということは、相続税の負担が軽くなるという意味では有利です。しかし同時に、その株式が市場では別の金額で取引される財産であるということでもあります。相続人が納税資金に困っている一方で、会社を売却すれば相続税評価額を大きく上回る現金が手に入るという状況は、実際に起こり得ます。

株価を計算するとき、相続税評価額だけを見て終わりにするのではなく、「この会社を売ったらいくらになるのか」という数字も並べて把握しておくことをおすすめします。相続対策の選択肢は、この2つの数字を並べたときに初めて見えてきます。

相続税評価額とは異なる実際の取引価格で会社ごと売却する不動産M&Aの実務については、以下の記事で詳しく解説しています。
不動産M&Aと不動産売却+清算手続きの違い|3つの出口の税金・手続き・リスクを比較

11. 株価を下げる方法と、その限界

算式を変形すると、効く手段が見えてきます

株価を下げる手段を整理するには、純資産価額方式の算式を変形してみるのが早道です。相続税評価額による純資産価額をA、帳簿価額による純資産価額をBとすると、次のように書き換えられます。

課税時期の純資産価額 = A −(A − B)× 38% = A × 62% + B × 38%

第5章の数値例で確かめると、A=1億5,900万円、B=5,700万円ですから、1億5,900万円×62%+5,700万円×38%=1億2,024万円。先ほどの計算結果と一致します。

この形にすると、株価を下げる方法は2つしかないことがわかります。Aを下げるか、Bを下げるかです。Aを1下げれば株価は0.62下がり、Bを1下げれば株価は0.38下がる。両方を同時に下げれば、その分だけ効果が重なります。

なお、「評価差額を大きくして控除額を増やせば株価が下がる」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。評価差額(A − B)を大きくするためにAを引き上げれば、控除額は0.38増えても純資産そのものが1増えるため、差し引きで株価は0.62上がります。控除額の増加そのものが目的にはなりません。

手段AとBへの影響株価への効果留意点
役員退職金の支給A・Bともに支給額だけ減少支給額がそのまま株価の減少になる不相当に高額な部分は損金算入が否認される
配当の実施A・Bともに配当額だけ減少配当額がそのまま株価の減少になる配当所得として株主に課税される
含み損のある資産の売却Aは変わらず、Bのみ減少含み損の38%分だけ株価が下がる売却先や時期の合理性が問われる
借入による賃貸用不動産の取得Aは評価額と取得価額の差だけ減少、Bは変わらずその差額の62%分だけ株価が下がる課税時期前3年以内は通常の取引価額で評価される
土地保有割合の調整算式そのものが変わる類似業種比準方式を併用できれば大きく下がることがある合理的な理由のない直前の調整は否認される

表のとおり、最も効率がよいのは役員退職金の支給と配当の実施です。AとBを同時に同額だけ減らすため、支出額がそのまま株価の減少につながります。なかでも死亡退職金は非課税枠が使えるため、資産管理会社にとって最も有効な手段といえます。

対策には明確な限界があります

これらの手段には、いずれも制約があります。

まず、課税時期前3年以内に取得した土地建物は通常の取引価額で評価されるため、直前の駆け込み取得では効果が出ません。さらに令和8年度税制改正により、貸付用不動産については5年以内の取得が対象となる見直しが予定されています。実質的に、対策には5年以上の時間が必要になる可能性があります。

また、土地保有割合の調整については、課税時期前に合理的な理由なく割合を引き下げた場合、その資産の変動はなかったものとして判定されます。3年経てば大丈夫といった経過期間の定めもありません。

そして根本的な問題として、財産評価基本通達6項(総則6項)があります。通達に定める方法で評価することが著しく不適当と認められる場合には、国税庁長官の指示を受けて評価するという定めです。形式的に通達どおりに計算していても、租税回避の意図が明白であれば否認される余地が残ります。

株価を下げても納税資金は増えません

最後に、対策全体を考えるうえで重要な視点をお伝えします。

株価を下げれば相続税額は減ります。しかし、その株式が換金できるようになるわけではありません。非上場株式には市場がなく、多くの資産管理会社は定款で譲渡制限を設けています。評価額を圧縮すればするほど、相続人の手元には「税額は減ったが現金にならない財産」が残ることになります。

株価の試算を受け取ったら、算出された相続税額と、ご家族が用意できる現金を必ず並べてみてください。そこにギャップがあるなら、株価を下げる対策と並行して、納税資金をどう確保するかを設計する必要があります。

  • 算出された株価と、それに基づく相続税額を確認したか
  • 相続人が用意できる現金(個人の金融資産)と比較したか
  • 死亡退職金の原資が会社にあるか、または生命保険で準備されているか
  • 株式が分散した場合に、将来の売却が実行できる株主構成になっているか
  • 会社を売却した場合の想定価格を把握しているか

株価の重い要因となる不動産を会社から切り離す具体的な手法については、こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aで不動産をオフバランス化する4つの方法|株価が重い案件の切り離し実務

12. まとめ

資産管理会社の株価の計算について、本記事の要点を整理します。

  • 資産管理会社の株価は、小会社への区分、土地保有特定会社、株式等保有特定会社、開業後3年未満のいずれかに該当することが多く、結果として純資産価額方式で評価されるのが通常です。
  • 令和8年3月25日付の通達改正により、評価差額に対する法人税額等相当額の控除割合が37%から38%になりました。令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した株式に適用されます。
  • 控除割合が上がると株価は下がります。防衛特別法人税の創設に伴う改正ですが、株式の評価にとっては有利に働きます。
  • 計算は、資産を相続税評価額に置き換え、負債を確定させ、評価差額に38%を乗じて控除する、という手順です。帳簿価額は税務上の金額を使います。
  • 資産では生命保険積立金(解約返戻金)、3年以内取得の土地建物(通常の取引価額)、無償返還届出書がある場合の借地権が、負債では死亡退職金の計上と引当金の除外が、間違えやすいポイントです。
  • 議決権割合50%以下のグループが取得する場合は、純資産価額の80%で評価できます。ただし支配力と出口を失う代償があります。
  • 相続税評価額とM&Aの取引価格は別物です。不動産を路線価で評価するか実勢価格で評価するかの違いにより、後者のほうが高くなるのが通常です。
  • 株価を下げる手段には3年ルールと総則6項という制約があり、令和8年度税制改正でこの制約はさらに強まる見込みです。

株価の計算は、相続対策のすべての起点になる作業です。まずは直近の決算書を手元に置き、本記事の手順で概算を出してみてください。そのうえで、算出された相続税額と手元資金のギャップを確認することが、次の一歩になります。

弁護士・税理士を中心としたチーム体制で、資産管理会社の株価評価から、相続対策・承継・売却を含む出口戦略までご相談を承っています。「株価の試算は受けたが、その先をどう考えればよいかわからない」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。

執筆者

税理士登録申請中 横山圭介

東京都立大学(旧首都大学東京)数理科学専攻卒業後、国家公務員として札幌国税局に入庁。札幌国税局資産課税課、札幌東税務署資産課税部門等を経て、国税庁企画課へ出向。 国税庁・国税局・税務署において、主に資産税事務に従事し、相続・譲渡・贈与など資産課税の実務を第一線で担う。官公庁・金融機関等との折衝・情報連携の実務経験も有する。

弁護士 佐藤聖喜

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。 長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。