「不動産を法人名義に移せば相続税が下がります」。賃貸不動産をお持ちの方が、税理士やハウスメーカー、金融機関から資産管理会社の設立を勧められる場面は少なくありません。実際、資産管理会社を使った相続対策には確かな効果があります。
ただし、その効果は相続対策の3つの目的のうち、主に1つにしか及びません。そして令和8年度税制改正によって、不動産を使った相続対策の前提そのものが変わろうとしています。
本記事では、メリットを並べるのではなく、ご自身にとって資産管理会社が必要かどうかを判断できる材料をお示しします。制度上の効果と副作用、令和8年度改正の内容、設立にかかる実費、そして作る前に決めておくべき出口まで、順を追って解説します。
1. 資産管理会社を使った相続対策とは|期待できる効果と3つの目的
資産管理会社(プライベートカンパニー)の基本的な仕組み
資産管理会社とは、不動産や有価証券などの資産を保有・管理することを目的として設立される法人です。個人の資産を管理するための会社であることから、プライベートカンパニーとも呼ばれます。
一般の事業会社と法的な違いはなく、株式会社または合同会社として設立します。オーナー自身が株主兼代表者となり、家族を役員に就任させるのが典型的な形です。外部から出資を受けることは通常なく、実質的にはオーナー個人の資産の受け皿として機能します。
不動産賃貸業を営むオーナーの場合、個人で保有していた賃貸物件を会社に移転し、賃料収入を会社の収益として計上する形が一般的です。会社は賃料収入から必要経費を差し引いた利益に対して法人税を負担し、オーナーや家族には役員報酬を支払います。
相続対策には3つの目的があります
資産管理会社の効果を正しく評価するには、そもそも相続対策とは何かを整理しておく必要があります。相続対策には、次の3つの目的があります。
- 相続税の軽減(節税):相続財産の評価額を引き下げ、あるいは財産の増加そのものを抑えることで、課される相続税額を減らす。
- 遺産分割の円滑化:相続人の間で財産を分けやすくし、争いを防ぐ。
- 納税資金の確保:算出された相続税を、期限内に現金で納められる状態をつくる。
この3つは相互に独立しており、どれか1つを達成しても相続対策が完了したことにはなりません。むしろ、①だけを追求すると③が悪化することがあります。評価額を下げるということは、多くの場合、換金しにくい財産に姿を変えることを意味するからです。
資産管理会社が実際に効いているのはどこか
この枠組みで資産管理会社を評価すると、次のように整理できます。
| 相続対策の目的 | 資産管理会社の効果 | 理由 |
|---|---|---|
| ①相続税の軽減 | ◎ 大きい | 所得分散による財産増加の抑制、純資産価額方式による評価圧縮、退職金・保険の活用が可能 |
| ②遺産分割の円滑化 | △ 限定的 | 株式は分割しやすいが、少数株主となった相続人は実質的な権利行使ができず、売却時に全株を集約できない問題が生じる |
| ③納税資金の確保 | × むしろ悪化しうる | 相続財産が売却市場のない非上場株式に変わり、換金性が低下する。オーナー個人の金融資産も薄くなる |
資産管理会社の設立を解説する記事の多くは、①の効果を中心に説明し、②と③にはほとんど触れていません。設立を支援する立場から書かれているため、当然といえば当然ではあります。利用する側としては、3つすべてを見たうえで結論を出す必要があります。
注意点
資産管理会社は「相続税を減らす道具」としては優れていますが、「相続の準備を完成させる道具」ではありません。設立を検討する段階で、遺産分割と納税資金についても同時に設計しておかないと、評価だけが下がって納税できない状態に陥ります。
2. 【令和8年度税制改正】貸付用不動産の「5年ルール」で前提が変わる
令和7年12月に公表された改正内容
この分野で最も重要な最新動向からお伝えします。令和7年12月19日に公表された令和8年度税制改正大綱において、貸付用不動産の相続税評価を見直す方針が明記されました。
これまで賃貸用の不動産は、土地は路線価(時価のおおむね8割)、建物は固定資産税評価額(建築価額のおおむね5〜6割)で評価され、さらに貸家建付地として約2割、貸家として3割の減額が適用されてきました。結果として、購入価額の3〜4割程度まで評価額が圧縮されるケースが一般的でした。この乖離を利用した相続対策が、いわゆるアパート節税・タワマン節税です。
大綱では、この乖離の実態を踏まえ、次の見直しを行うとされています。
| 対象 | 評価方法 | 適用時期 |
|---|---|---|
| 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産 | 取得価額をもとに地価の変動等を考慮して計算した価額の80%に相当する金額 | 令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産 |
| 不動産小口化商品(不動産特定共同事業契約等に基づく権利の目的となっている貸付用不動産) | 取得の時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額 | 令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産 |
要するに、亡くなる前5年以内に購入した賃貸不動産は、路線価や固定資産税評価額ではなく、取得価額の80%相当額で評価されるということです。従来の3〜4割という圧縮効果は、大幅に縮小することになります。
適用時期と経過措置
適用は、令和9年1月1日以後に相続または遺贈により取得する財産からです。ここで注意すべきは、財産の取得時期ではなく相続の発生時期が基準になる点です。たとえば令和4年に購入した賃貸物件であっても、令和9年に相続が発生すれば、購入から5年以内であるかどうかで判定されます。
経過措置として、改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る)に新築した家屋(同日において建築中のものを含む)には適用しないとされています。つまり、長年保有している土地の上に、通達改正前に着工した建物については、従来どおりの評価が維持されます。
なお、この見直しは法律改正ではなく財産評価基本通達の改正によって実施される見込みです。令和6年から適用されている居住用区分所有財産の評価(いわゆるマンション通達)と同様、パブリックコメントを経て通達が発遣される流れが想定されます。本記事執筆時点では通達の詳細は公表されていないため、実際の適用にあたっては最新の情報をご確認ください。
何がまだ決まっていないのか
大綱の記載は「一定の貸付用不動産」という表現にとどまっており、対象範囲には未確定の部分が多く残されています。実務上、次の点が今後の通達で明らかになると考えられます。
- 相続時に空室であった不動産や、月極駐車場が対象に含まれるかどうか
- 親族に低額で貸し付けている不動産の扱い
- 貸宅地(底地)が対象になるかどうか
- 改正後の評価額に対して、貸家建付地評価減や貸家評価減を重ねて適用できるかどうか
- 小規模宅地等の特例との併用可否
これらの論点は、そのまま相続対策の設計に直結します。断定的な情報が出回りやすい時期ですので、確定した通達に基づく判断を心がけてください。
ポイント
この改正の趣旨は、金融資産を不動産に組み替えることによる租税回避の防止にあります。したがって、贈与など対価を伴わない取引によって取得した不動産は対象外になると考えられます。一方、金融機関からの借入で取得した不動産は、対価を伴う取引に該当します。
3. 5年ルールは法人の株価評価にも及ぶのか|3年ルールとの関係
現行の株価評価には「3年ルール」があります
ここからが、資産管理会社を検討する方にとって最も重要な論点です。
非上場会社の株式を純資産価額方式で評価する場合、会社が保有する資産は財産評価基本通達に従って評価されます。このとき、課税時期前3年以内に取得または新築した土地建物については、相続税評価額ではなく「通常の取引価額」で評価しなければならないという定めがあります(財産評価基本通達185)。これがいわゆる3年ルールです。
この規定があるため、相続が近づいてから慌てて個人名義の不動産を会社に移しても、評価の圧縮効果は得られません。資産管理会社を使った相続対策は、少なくとも3年以上前から着手する必要があるとされてきたのは、この規定に由来しています。
法人が保有する不動産にも改正後の評価が及ぶ可能性
では、令和8年度改正の5年ルールは、法人が保有する不動産にも及ぶのでしょうか。
株価算定において法人が所有する資産は財産評価基本通達によって評価されるため、法人が保有する貸付用不動産にも改正後の評価方法が適用されると考えるのが自然です。もし株価評価に関する通達(185)が別途見直されないのであれば、法人保有の不動産は次のように整理されることになります。
| 取得時期・種類 | 評価方法 | 根拠 |
|---|---|---|
| 課税時期前3年以内に取得したすべての不動産 | 通常の取引価額 | 現行の株価評価通達(185) |
| 3年超5年以内に取得した貸付用不動産 | 取得価額をもとに計算した価額の80% | 改正後の通達(見込み) |
| 5年超前に取得した不動産 | 従来どおりの相続税評価額 | 現行どおり |
| 不動産小口化商品(取得時期を問わない) | 通常の取引価額 | 改正後の通達(見込み) |
つまり、実務上は「3年ルールが実質的に5年に延びる」のと近い状態になる可能性があります。ただし、この点について大綱に明示的な記載はなく、株価評価通達がどう調整されるかは今後の通達改正を待つ必要があります。現時点では確定的なことは言えません。
設計上どう備えるべきか
不確実な部分が残るとはいえ、対応の方向性は明確です。
第一に、駆け込みでの法人化や物件購入は、期待した効果を生まない可能性が高いということです。従来から3年ルールがあり、そこに5年ルールが重なる公算があるのですから、相続が視野に入ってからの着手では間に合いません。
第二に、既に長期間保有している不動産については、影響を受けにくいということです。設立から10年、20年が経過した資産管理会社が保有する物件は、今回の改正の直接の対象外となります。むしろ問題は、後述するように借入返済の進行によって株価が上昇していく点にあります。
第三に、今後の相続対策は「長期保有を前提とした事業としての賃貸経営」に軸足が移るということです。短期の評価差を狙う手法は、通達改正と財産評価基本通達6項(総則6項)の双方から挟み撃ちになります。
注意点
改正前に駆け込めばよい、という単純な話ではありません。改正前の取得であっても、租税回避の意図が明らかな極端な事例は、総則6項によって否認されるリスクが残ります。「事業として合理的か」「5年を超えて保有し続けられるか」が判断の軸になります。
4. 相続税評価はどれだけ下がるのか|純資産価額方式と37%控除
相続財産は不動産ではなく「株式」になります
資産管理会社に不動産を移すと、相続財産の性質が変わります。相続の対象になるのは不動産そのものではなく、被相続人が保有していたその会社の株式です。不動産は会社に帰属しているため、オーナー個人が亡くなっても所有者は変わりません。
したがって、相続税の計算では、非上場株式としての評価額を算出することになります。
純資産価額方式の基本的な考え方
不動産を保有する資産管理会社の株式は、多くの場合、純資産価額方式で評価されます。これは、会社が保有するすべての資産を相続税評価額に置き換え、そこから負債を差し引いた純資産をもとに株価を算出する方法です。会社をその時点で解散・清算したらいくら残るか、という発想に近いといえます。
ここで、会社が保有する不動産も相続税評価額で評価されます。土地は路線価等、建物は固定資産税評価額です。個人が直接保有している場合と同じ圧縮効果が、会社の資産評価の中でも働きます。
含み益に対する法人税相当額37%の控除
純資産価額方式には、個人が直接不動産を保有する場合にはない、もう一段の圧縮効果があります。評価差額に対する法人税相当額の控除です。
会社が保有する資産の相続税評価額が帳簿価額を上回っている場合、その差額(含み益)に対応する法人税等の額を、純資産から差し引くことができます。控除割合は37%です。仮に会社を清算して資産を売却すれば含み益に法人税等が課されるため、株主が実際に手にできる金額はその分だけ少なくなる。この将来の税負担を、株式の評価にあらかじめ織り込むという考え方です。
たとえば、会社が保有する不動産の相続税評価額が3億円、帳簿価額が1億円であれば、含み益は2億円。この2億円に37%を乗じた7,400万円が純資産から控除されます。この控除こそが、資産管理会社を経由することで得られる固有のメリットです。
なお、この含み益は市況が上昇していなくても発生します。建物は減価償却によって帳簿価額が毎年減っていくため、時価が横ばいでも保有期間が長くなるほど帳簿価額との差は自動的に広がるからです。
借入金があると株価はさらに下がります
純資産価額方式は、資産から負債を差し引いて算出します。会社が金融機関からの借入金を抱えている場合、その残高はそのまま純資産を減らし、株価を押し下げます。
具体例で見てみましょう。不動産の相続税評価額が3億5,000万円、帳簿価額が1億5,000万円、借入残高が3億円の会社があるとします。相続税評価額ベースの純資産は5,000万円。ここから含み益2億円に対する法人税相当額7,400万円を控除すると、計算結果はマイナスになり、株式の評価額はゼロとして扱われます。
ただし、この状態は永続しません。借入返済が進んで残高が1億円まで減ると、相続税評価額ベースの純資産は2億5,000万円、控除後でも1億7,600万円となり、株式評価額は一気に跳ね上がります。
注意点
設立当初の試算で「株価はほぼゼロだから相続対策は万全」と判断していた会社が、10年後には数億円の株価になっているというのは珍しい話ではありません。株価は借入残高と減価償却の進行によって毎年変動します。最低でも3年に一度は再試算してください。
5. 相続対策としてのメリット5つ
①所得分散により相続財産の増加を抑えられます
個人で賃貸経営を続けると、賃料収入から必要経費を差し引いた不動産所得がオーナー個人に集中します。所得税と住民税を差し引いた残りは、そのままオーナーの財産として蓄積され、将来の相続財産を膨らませていきます。
資産管理会社を設立し、家族を役員に就任させて役員報酬を支払えば、収入を複数人に分散できます。オーナー個人への所得集中が緩和され、相続財産の増加が抑えられると同時に、将来の相続人となる家族の手元に資金が蓄積されます。この点は、後述する納税資金の確保にもつながります。
なお、役員報酬には給与所得控除が適用されるため、同じ金額を不動産所得として受け取る場合より課税所得が小さくなります。給与所得控除の最低保障額は、令和7年度税制改正により55万円から65万円に引き上げられました。上限は195万円です。さらに令和8年度税制改正では、この最低保障額を69万円に引き上げる見直しが盛り込まれています。
②所得税率と法人税率の差を活かせます
所得税は累進税率で、課税所得4,000万円超の部分には45%が適用されます。これに住民税10%が加わるため、最高税率は55%を超えます。
一方、法人税は中小法人の場合、年800万円以下の所得部分に軽減税率15%、これを超える部分に23.2%が適用されます。地方税を含めた実効税率でみると、所得800万円以下の部分はおおむね22〜25%、これを超える部分は33〜34%程度です。
加えて、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税が課されます。基準法人税額から年500万円を控除した金額に4%を乗じて計算する付加税です。ただし、基礎控除が年500万円あるため、中小法人であれば課税所得がおおむね2,400万円以下にとどまる限り、実質的な負担は発生しません。多くの資産管理会社では影響はないと考えられますが、税額がゼロであっても申告書の提出義務は生じます。
| 区分 | 個人(不動産所得) | 法人(資産管理会社) |
|---|---|---|
| 税率の性質 | 累進課税(所得税5〜45%+住民税10%) | 年800万円以下15%、超過部分23.2%(中小法人) |
| 実効税率の目安 | 最高で約55% | 800万円以下は22〜25%程度、超過部分は33〜34%程度 |
| 欠損金の繰越 | 青色申告で3年 | 10年 |
| 家族への所得分散 | 専従者給与など制約あり | 役員報酬として比較的柔軟に設計可能 |
| 近年の負担増要因 | — | 防衛特別法人税(令和8年4月1日以後開始事業年度、基礎控除年500万円) |
したがって、所得水準が高くなるほど法人のほうが有利になります。一般に、課税所得が900万円を超えるあたりから法人化の検討価値が生まれ、1,500万円を超えると効果が明確になるとされています。ただし、これは後述する維持コストや社会保険料の負担を織り込まない、あくまで税率だけの比較です。
③純資産価額方式による評価の圧縮
前章で述べたとおり、含み益に対する法人税相当額37%の控除は、個人で直接保有している場合には得られない資産管理会社固有のメリットです。
また、借入を活用して物件を保有している場合、その残高が純資産を圧縮します。個人保有でも債務控除は受けられますが、法人の場合は37%控除と重ねて効くため、圧縮効果が大きくなります。
④死亡退職金と弔慰金の非課税枠を使えます
これは資産管理会社を持つことの実務的な利点として、最も評価されるべきものです。
オーナーが役員在任中に亡くなった場合、会社から遺族に死亡退職金を支給できます。死亡退職金は相続税法上のみなし相続財産として課税対象になりますが、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。相続人が3名であれば1,500万円までは相続税がかかりません。
さらに、死亡退職金とは別に弔慰金を支給することもできます。業務外の死亡であれば被相続人の死亡当時の普通給与の6か月分、業務上の死亡であれば3年分に相当する金額までは、相続税の課税対象になりません。これを超える部分は退職手当金等として扱われます。
加えて、会社側では支給した退職金を損金に算入できます。これにより会社の純資産が減少し、株式の相続税評価額そのものが引き下がります。納税資金を作りながら、同時に納税額を減らせる。この二重の効果が得られるのは、法人を持っている場合だけです。
ただし、不相当に高額な部分は損金算入が否認されます。最終報酬月額、在任年数、功績倍率をもとにした算定根拠を用意し、退職金規程を整備しておいてください。
⑤法人契約の生命保険を活用できます
死亡退職金を支給しようにも、会社に現金がなければ実行できません。そこで、会社を契約者・受取人、オーナーを被保険者とする生命保険契約を結び、退職金原資を計画的に準備する手法が使われます。
オーナーの死亡時に会社が保険金を受け取り、それを原資として遺族に死亡退職金を支給する。会社側では受け取った保険金が益金となる一方、支給した退職金が損金となるため、両者を相殺する形で法人税の負担を抑えられます。
なお、保険料の損金算入に関するルールは近年改正されており、かつてのような節税効果は限定的になっています。あくまで納税資金の準備を主目的として設計してください。
ポイント
5つのメリットのうち、時間の経過とともに効果が積み上がるのは①と③です。逆に、④と⑤は比較的短期間で整備できます。相続まで残された時間が長いか短いかによって、どのメリットを主眼に置くべきかが変わります。
6. 見落とされやすいデメリット7つ
①設立と維持にコストがかかります
株式会社の設立には、登録免許税が最低15万円かかります。これに定款認証手数料が加わりますが、手数料は資本金の額に応じて1万5,000円から5万円の区分になっています。電子定款であれば収入印紙4万円は不要です。謄本代などを含めた実費の合計は、おおむね20万円前後からと考えてください。合同会社であれば登録免許税は最低6万円、定款認証も不要で、実費は10万円程度に収まります。いずれも司法書士に依頼すれば報酬が別途加わります。
維持段階では、法人住民税の均等割が発生します。これは所得がゼロでも、赤字でも課税される固定費で、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の会社であれば年7万円程度です。加えて、法人税申告書の作成を税理士に依頼する費用が年間20万円から50万円程度かかります。
②社会保険への加入が義務になります
法人は、役員1名のみであっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則として義務づけられます。役員報酬を支払う以上、会社と個人が折半で保険料を負担することになります。
保険料率は合計でおおむね30%前後です。役員報酬を高く設定すると、所得税・住民税を圧縮できても社会保険料が増えるため、手取りベースでの効果は目減りします。法人化の損益分岐点を検討する際は、税金だけでなく社会保険料を必ず織り込んでください。
③小規模宅地等の特例が使えなくなります
ここは競合する解説記事でも扱いが薄い、しかし影響の大きい論点です。
小規模宅地等の特例は、被相続人が保有していた宅地について、一定面積まで評価額を大幅に減額できる制度です。貸付事業用宅地等に該当すれば、200平方メートルまで50%の減額が受けられます。
ところが、土地を法人名義に移してしまうと、その土地はもはや被相続人の相続財産ではありません。相続財産は株式ですから、小規模宅地等の特例を適用する余地がなくなります。
なお、土地は個人名義のまま残し、法人に貸し付けるという形をとれば、貸付事業用宅地等として特例の適用余地が残ります。特定同族会社事業用宅地等(400平方メートル・80%減額)のほうが有利ですが、こちらは不動産貸付業が除外されているため、資産管理会社では原則として使えません。この点は設計段階で必ず確認すべきポイントです。
④売却時の税率が不利になります
個人が5年を超えて保有した不動産を売却した場合、長期譲渡所得として20.315%の分離課税で完結します。所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計です。
これに対し、法人が不動産を売却した場合、売却益は他の所得と合算されて法人税等の対象になります。実効税率はおおむね30%台で、売却益が大きい年度は防衛特別法人税の負担が生じることもあります。さらに、税引後の資金を株主個人が受け取ろうとすれば、配当または清算に伴う分配としてもう一度課税されます。二重課税により、合計の税負担が50%を超えることも珍しくありません。
つまり、法人化は保有期間中の所得税負担を軽くする一方で、売却時の税負担を重くします。将来売却する可能性が高い物件を法人に移すかどうかは、慎重な判断が必要です。
⑤相続財産が換金できない非上場株式になります
相続人が受け取るのは、評価額としては数千万円から数億円になるにもかかわらず、そのままでは1円の現金にもならない財産です。上場株式のような市場は存在せず、ほとんどの資産管理会社は定款で株式の譲渡制限を設けています。
不動産を売却して納税に充てようにも、売却の権限を持つのは相続人個人ではなく会社です。相続人が株主として会社を支配し、代表者を選任し、会社法上の手続を経て、はじめて売却できます。相続人が複数いて株式が分散した場合、この意思決定そのものが停滞します。
⑥株式の分散が出口を塞ぐことがあります
株式は不動産の共有より分けやすいとされます。しかしこれは、少数株主となった相続人が実質的な権利を行使できないという別の問題を生みます。
さらに深刻なのは、将来会社を第三者に譲渡しようとした場合です。買い手は原則として100%の株式取得を求めるため、1名でも譲渡に反対する株主がいれば取引は成立しません。生前贈与によって株式を分散させる際は、評価額を下げるという発想だけでなく、将来の出口を実行できる株主構成になっているかという観点を必ず入れてください。
⑦会社の経理・法務の手間が増えます
法人になれば、複式簿記による帳簿作成、決算書と法人税申告書の作成、株主総会や取締役会の議事録整備、役員変更の登記といった事務が発生します。役員報酬は原則として期首から3か月以内に決定し、事業年度を通じて同額を支払う必要があるなど、個人事業にはない制約もあります。
これらは形式的な手続に見えますが、将来会社を売却する場面では、書類の整備状況がそのまま価格と成約可能性に影響します。
注意点
なお、令和8年度税制改正により、個人の青色申告特別控除も見直されます。e-Taxによる申告を要件として控除額が65万円に整理され、優良な電子帳簿の保存を行う場合は75万円に引き上げられる一方、簡易簿記で前々年の収入金額が1,000万円を超える場合は控除の対象から除外されます。令和9年分の所得税から適用予定です。個人のまま賃貸経営を続ける場合も、記帳のデジタル対応が避けられなくなります。
7. 評価が下がらない・かえって不利になるケース
土地保有特定会社に該当すると評価が圧縮されません
非上場株式の評価では、会社の規模に応じて類似業種比準方式を併用できる場合があります。類似業種比準方式は、上場している同業種企業の株価をベースに配当・利益・純資産の3要素を比較して算定する方法で、一般に純資産価額方式より評価額が低くなる傾向があります。
ところが、財産評価基本通達は「特定の評価会社」という区分を設けており、これに該当すると類似業種比準方式の適用が制限され、原則として純資産価額方式で評価しなければなりません。その代表格が土地保有特定会社です。
土地保有特定会社とは、課税時期における総資産価額(相続税評価額ベース)に占める土地等の価額の割合が一定以上である会社をいいます。判定基準は会社規模によって異なり、大会社は70%以上、中会社は90%以上とされています。
ここが実務上の落とし穴です。土地を中心に保有する資産管理会社は、その事業内容からして総資産に占める土地の割合が高くなるのが当然であり、土地保有特定会社に該当する可能性が構造的に高いのです。しかもこの判定は決算期ごとに変動します。設立当初は該当していなかった会社が、建物の減価償却が進んだ結果、10年後の相続時点では該当していたという事態が起こり得ます。
株式保有特定会社・開業後3年未満の会社
株式や出資の保有割合が総資産の50%以上を占める会社は株式保有特定会社に該当し、こちらも純資産価額方式(またはS1+S2方式)による評価となります。不動産の売却代金を上場株式や投資信託で運用している場合は、この判定にも注意が必要です。
また、開業後3年未満の会社は純資産価額方式のみによる評価となります。設立して間もない資産管理会社では、そもそも類似業種比準方式を使う余地がないということです。
現預金化によって評価が上がるケース
会社が保有する不動産を売却して現預金にすると、相続税評価上は額面がそのまま評価額になります。不動産のままであれば得られていた圧縮効果が失われ、株式の相続税評価額はむしろ上昇します。
納税資金を作るために物件を売却したところ、その結果として相続税額が増えてしまうという逆転現象は、実務でしばしば起こります。売却で作った現預金を退職金原資に充て、支給によって純資産を圧縮する。こうした一連の流れを組み立てて初めて、納税資金の確保と評価の抑制が両立します。
借入返済の進行と株価の上昇
前章で触れたとおり、借入残高の減少は株価を押し上げます。設立から年数が経つほど、この効果は着実に効いてきます。
つまり、資産管理会社を使った相続対策は、設立した時点が最も効果的で、時間の経過とともに効果が薄れていく側面を持っています。この点を意識せずに放置すると、想定外の相続税額に直面することになります。
ご自身の状況を、次の項目で確認してみてください。
- 前回の株価試算から3年以上が経過している
- 借入金の残高が当初の半分以下になっている
- 総資産に占める土地の割合が高い(土地保有特定会社に該当する可能性がある)
- 不動産の売却代金や賃料の蓄積により、会社に多額の現預金がある
- 直近5年以内に会社で不動産を取得または新築した
- 不動産小口化商品を保有している
- 相続人が複数おり、株式が分散する見込みである
8. 不動産所有方式・管理委託方式・一括転貸方式の違いと選び方
3つの方式の基本的な違い
資産管理会社の活用形態は、大きく3つに分かれます。相続への効果も、移転にかかるコストも、方式によって大きく異なります。
| 方式 | 不動産の所有者 | 会社の収入 | 相続税対策の効果 | 移転コスト |
|---|---|---|---|---|
| 不動産所有方式 | 会社 | 賃料収入の全額 | 大きい | 大きい(流通税・消費税) |
| 管理委託方式 | 個人 | 管理料(賃料の5〜10%程度) | 小さい | ほぼなし |
| 一括転貸方式(サブリース) | 個人 | 賃料と借上げ賃料の差額(10〜20%程度) | 中程度 | ほぼなし |
相続対策としての効果が最も大きいのは不動産所有方式です。賃料収入の全額が会社に帰属するため、オーナー個人の財産増加を抑える効果が最大になり、株式評価による圧縮も働きます。
一方、管理委託方式は不動産の所有者が個人のままなので、移転コストがかからず手軽に始められます。しかし会社に入るのは管理料のみで、所得分散の効果は限定的です。相続財産も不動産と株式の両方になります。
実務で多いのは「建物だけを移す」形態です
不動産所有方式を採用する場合でも、土地建物の両方を会社に移すケースは多くありません。土地の移転には登録免許税と不動産取得税の負担が重くのしかかるうえ、土地の評価額は建物より大きいのが通常だからです。
そこで実務上は、建物のみを会社に移転し、土地は個人名義のまま会社に貸し付けるという形が広く採用されています。建物は減価償却が進んで簿価が低くなっているため、移転コストを抑えられます。土地を個人に残しておけば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を適用できる余地も残ります。
「土地の無償返還に関する届出書」の役割
この形態には一つ論点があります。会社が個人の土地を借りて建物を建てると、通常は借地権が発生し、権利金の認定課税が問題になります。
これを避けるために提出するのが「土地の無償返還に関する届出書」です。将来、借地契約が終了したときに土地を無償で返還することを、土地の所有者と会社の連名で税務署に届け出るものです。この届出を行い、相当の地代に満たない地代であっても一定の要件を満たせば、権利金の認定課税は行われません。
相続税評価においては、この届出書を提出している土地は、自用地としての価額の80%で評価されます。そして残りの20%相当額は、借地権の価値として会社の株式評価に取り込まれます。土地の評価が2割下がる一方で、その分が株価に乗るという構造です。
ただし、この80%評価が適用されるのは、地代の授受がある賃貸借契約の場合に限られます。地代を取らない使用貸借であれば、土地は自用地として100%で評価されます。無償返還届出書を出しているから当然に2割下がる、というわけではありません。会社との間で適正な地代を設定し、契約書を整えておく必要があります。
ポイント
どの方式を選ぶかは、保有物件の構成、オーナーの所得水準、相続までの想定期間によって変わります。「とりあえず不動産所有方式で全部移す」という判断は、移転コストの面でも小規模宅地等の特例の面でも不利になることがあります。物件ごとに個別に検討してください。
9. 設立の手続き・費用と、不動産を移すときにかかる税金
株式会社と合同会社のどちらを選ぶか
資産管理会社は、株式会社でも合同会社でも設立できます。相続対策としての効果に本質的な差はありませんが、コストと将来の出口に違いがあります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 資本金の額×0.7%(最低15万円) | 資本金の額×0.7%(最低6万円) |
| 定款認証 | 必要(資本金の額に応じ1万5,000円〜5万円) | 不要 |
| 収入印紙 | 電子定款なら不要(紙定款は4万円) | 電子定款なら不要(紙定款は4万円) |
| 設立実費の目安 | 20万円前後から | 10万円程度から |
| 役員の任期 | 原則2年(非公開会社は最長10年) | 任期なし |
| 決算公告 | 必要 | 不要 |
| 持分・株式の承継 | 株式として相続の対象 | 持分は原則として相続されず、定款の定めが必要 |
| 第三者への譲渡 | 株式譲渡により比較的容易 | 持分譲渡には社員全員の同意が原則必要 |
コストだけを見れば合同会社が有利です。ただし、合同会社の持分は原則として相続の対象にならず、社員の死亡は退社事由となります。相続人が持分を承継するには、あらかじめ定款にその旨を定めておく必要があります。この手当てを怠ると、相続時に会社が解散に向かうという事態が起こり得ます。
また、将来第三者への譲渡を視野に入れるのであれば、株式会社のほうが手続が明快です。相続対策と出口の両方を考えるなら、株式会社を選んでおくのが無難といえます。
不動産を法人に移すときにかかる税金
設立費用よりもはるかに大きな負担になるのが、不動産を個人から法人へ移すときの流通コストです。ここを軽視すると、節税額を上回る支出が先に発生します。
| 税目 | 土地 | 建物 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額×1.5% | 固定資産税評価額×2% | 土地の軽減税率は令和11年3月31日までの取得に適用 |
| 不動産取得税 | 固定資産税評価額×1/2×3% | 固定資産税評価額×3%(住宅以外は4%) | 土地の課税標準1/2と税率3%は令和9年3月31日までの取得に適用 |
| 消費税 | 非課税 | 売主が課税事業者の場合、建物の対価に課税 | 個人が消費税の課税事業者かどうかで扱いが変わる |
| 譲渡所得税 | 売主である個人に課税(長期20.315%) | 同左 | 時価による売買が原則。低額譲渡は否認リスク |
たとえば、固定資産税評価額5,000万円の土地と2,000万円の建物を移転する場合、登録免許税は土地75万円・建物40万円、不動産取得税は土地75万円・建物60万円(住宅として3%の場合)で、合計250万円になります。これに消費税と譲渡所得税、司法書士報酬が加わります。
建物のみを移す形が実務上多く採用されているのは、この負担を抑えるためです。
設立から不動産移転までの流れ
- 目的の整理:所得分散が主目的か、相続税評価の圧縮が主目的か、出口の準備が主目的かを明確にする
- シミュレーション:法人化した場合としない場合の、所得税・住民税・社会保険料・法人税・相続税を通算で比較する
- 会社の設計:商号、本店、事業目的、資本金、株主構成、役員構成、決算期を決める。株主構成は将来の出口を左右するため慎重に
- 定款作成と設立登記:司法書士に依頼するのが一般的。設立まで2週間から1か月程度
- 各種届出:税務署への法人設立届出書・青色申告の承認申請書、都道府県・市区町村への届出、年金事務所への社会保険関係の届出
- 不動産の移転:売買契約の締結、金融機関との調整(既存借入がある場合は事前承諾が必須)、所有権移転登記
- 賃貸借契約の切替え:入居者との契約上の貸主を変更するか、一括転貸とするかを整理する
注意点
既存の借入がある物件を法人に移す場合、金融機関の事前承諾が不可欠です。無断で所有権を移転すると、抵当権設定契約に定められた期限の利益喪失条項に抵触し、一括返済を求められる可能性があります。法人への借換えが必要になるケースも多く、ここが実務上の最初の関門になります。
10. 資産管理会社が向いている人・向いていない人
向いているのはこういう方です
- 不動産所得の課税所得が年間900万円を超えており、今後も継続する見込みがある
- 相続までに10年以上の期間が見込める(改正後の5年ルールにも、3年ルールにも抵触しない)
- 保有物件を長期にわたって持ち続ける方針で、近い将来の売却を予定していない
- 相続人となる家族が複数おり、役員報酬による所得分散の受け皿がある
- 相続税の試算を受けており、課税されることが確実である
- 物件を追加取得していく計画があり、法人で資産を積み上げていきたい
- 後継者が決まっており、事業として賃貸経営を承継させる意思がある
向いていない、または慎重に判断すべき方
- 不動産所得が年間数百万円程度にとどまる。維持コストと社会保険料が節税額を上回る可能性が高い
- 相続が近く、対策に使える時間が3年から5年に満たない
- 保有物件が1棟のみで、近い将来の売却を検討している。法人化すると売却時の税率が不利になる
- 自宅や事業用地について小規模宅地等の特例を最大限使いたい
- 相続人が1名のみで、所得分散の受け皿がない
- 相続税の基礎控除内に収まる見込みで、そもそも相続税が発生しない
- 帳簿作成や決算対応にかける手間・費用を許容できない
とくに注意していただきたいのが、相続税が発生しないケースです。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」であり、相続人が3名なら4,800万円までは相続税がかかりません。この範囲に収まるのであれば、相続税対策としての資産管理会社は不要です。所得税の節税だけを目的にするなら、判断基準はまったく別のものになります。
判断の順序
資産管理会社を検討する際は、次の順序で判断することをおすすめします。
- 第1段階:現状のまま相続が発生した場合の相続税額を試算する。ここでゼロなら、相続対策としての検討は不要
- 第2段階:法人化した場合としない場合で、今後10年間の所得税・住民税・社会保険料の累計を比較する
- 第3段階:不動産の移転にかかる流通コストを算出し、第2段階の差額で何年かけて回収できるかを計算する
- 第4段階:法人化後の株価を試算し、相続税額がどれだけ減るかを確認する。あわせて土地保有特定会社の判定も行う
- 第5段階:納税資金をどう用意するか、そして会社をいずれどうするか(承継・売却・清算)の出口を設計する
多くの方が第4段階までで検討を終えてしまいます。しかし、実際に問題が起こるのは、第5段階を飛ばしたときです。
11. 設立前に必ず設計しておくべき「出口」
評価を下げた結果、何が残るのか
資産管理会社を設立し、10年、20年と運用したあとに何が残るかを考えてみてください。
残るのは、含み益を抱えた不動産を保有する非上場会社と、その株式です。株式の相続税評価額は圧縮されているかもしれませんが、市場で売れる財産ではありません。そして相続税は、原則として現金で、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に納付しなければなりません。
このとき相続人が取り得る手段は、意外なほど限られています。会社に不動産を売却させて配当を受け取れば法人と個人で二重に課税され、金融機関から個人で借り入れれば返済原資が必要になり、株式を売ろうにも買い手が見つからない。
出口は3つしかありません
資産管理会社の最終的な行き先は、突き詰めると3つです。
- ①承継する:後継者が株式を相続し、賃貸経営を続ける。最も自然だが、後継者に事業を継ぐ意思と能力があることが前提
- ②清算する:会社が不動産を売却し、法人税を納めたうえで残余財産を株主に分配して解散する。法人段階と個人段階の二重課税が発生する
- ③会社ごと譲渡する:株主が第三者に株式を譲渡する。いわゆる不動産M&A。課税は株主個人の譲渡所得のみで、非上場株式の譲渡所得は申告分離課税20.315%
税負担という観点では③が有利になるケースが多く、含み益が大きいほどその差は拡大します。買い手側も不動産取得税・登録免許税・建物部分の消費税を負担せずに済むため、実物売買より高い金額を提示できる余地があります。
ただし、③には、買い手が見つかることと、株式を100%集約できることという2つの前提があります。この2つは、設立時の設計と、その後の株主構成の管理によって決まります。
設立時に決めておくべきこと
- 株主構成:将来の譲渡を視野に入れるなら、株式を過度に分散させない。分散させる場合は株主間契約や種類株式で譲渡の意思決定を確保する。
- 定款の譲渡制限:譲渡制限を設けるのが通常だが、承認機関をどこに置くかを整理しておく
- 名義株の排除:設立時に他人名義で株式を引き受けさせない。将来の譲渡時に必ず問題になる
- 退職金規程の整備:設立時に作っておけば、支給の適正性を主張しやすい
- 会社と個人の資産の切り分け:自宅、車両、保険などを会社名義に混在させると、譲渡時に切り出す手間が生じる
- 決算書と契約書の整備:レントロール、賃貸借契約書、修繕履歴を継続的に保管する
- 相続税額と納税原資の定期確認:3年に一度は株価と相続税額を再試算し、手元資金とのギャップを確認する
「作る」だけを支援する専門家と、「畳む」まで見る専門家
資産管理会社について解説する情報の大半は、設立を支援する立場から発信されています。そのため「どう作るか」は詳しく書かれていても、「どう畳むか、どう売るか」という出口の話にはほとんど触れられていません。
しかし、後継者不在が全国的な課題となっている現在、資産管理会社の出口をどう設計するかは、設立するかどうかと同じくらい重要な論点です。相続税評価を圧縮する守りの手段だけでなく、換金という攻めの手段まで含めて検討できる体制で臨むことをおすすめします。
注意点
令和8年度税制改正では、いわゆる1億円の壁を是正するミニマム課税も強化されます。基準所得金額から控除する特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円に引き下げられ、税率は22.5%から30%に引き上げられます。適用は令和9年分以後の所得税からです。基準所得金額には、通常は分離課税となる株式等の譲渡所得や土地建物の譲渡所得も合算されるため、大型の株式譲渡や不動産売却を検討している場合は、実行時期によって手取りが変わる可能性があります。
12. まとめ
資産管理会社を使った相続対策について、本記事の要点を整理します。
- 資産管理会社が効くのは相続対策の3つの目的のうち主に「相続税の軽減」であり、遺産分割の円滑化には限定的、納税資金の確保にはむしろ逆効果になり得ます。
- 令和8年度税制改正により、課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産は取得価額の80%相当額で評価される方向です。令和9年1月1日以後の相続等から適用予定で、通達の詳細は今後公表されます。
- この改正は法人保有の不動産にも及ぶ可能性があり、従来の3年ルールが実質的に5年に延びる状態になることも想定されます。駆け込みでの法人化は効果が期待できません。
- 株式の評価は純資産価額方式が中心で、含み益に対する法人税相当額37%の控除が最大のメリットです。ただし借入返済が進むと株価は年々上昇します。
- 死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)と法人契約の生命保険の組み合わせが、納税資金の確保と株価の圧縮を同時に実現する最も効率的な手段です。
- 法人化により、小規模宅地等の特例と売却時の分離課税20.315%を失います。近い将来の売却を予定している物件は、法人化がかえって不利になります。
- 土地保有特定会社に該当すると期待した評価圧縮が得られません。判定は決算期ごとに変動するため、定期的な確認が必要です。
- 設立時に、承継・清算・会社ごとの譲渡という3つの出口のどれを想定するかを決めておくべきです。とくに株主構成の設計は、将来の選択肢を大きく左右します。
資産管理会社は、正しく設計すれば強力な相続対策になります。一方で、目的を整理しないまま設立すると、維持コストと事務負担だけが残り、換金できない財産と納税義務を次世代に引き渡すことになりかねません。
取り組んでいただきたいのは、現状のまま相続が発生した場合の相続税額の試算です。そのうえで、法人化による節税額と、移転コスト・維持コストを並べて比較してください。判断に必要な材料は、この2つの数字から見えてきます。
資産管理会社の設立判断から、承継・売却を含む出口戦略までご相談を承っています。「法人化を勧められているが判断がつかない」「既に会社はあるが、この先どうすべきか整理したい」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。
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