障害福祉事業のM&A留意点|サービス種別ごとの違いと、総量規制・報酬改定が価値を決める理由

障害福祉事業のM&A留意点を種別毎に整理

放課後等デイサービス、就労継続支援B型、グループホーム、生活介護。いずれも「障害福祉」と一括りにされますが、M&Aの観点で見ると、これらはまったく別の事業です。準拠する法律が違い、必置の管理者資格が違い、総量規制の対象かどうかが違い、そして令和8年6月からは新規指定時の報酬単価まで違います。

この違いを踏まえずに「障害福祉事業のM&A」を一般論で理解しようとすると、判断を誤ります。買い手であればスキーム選択で収益を落とし、売り手であれば自社の価値を過小評価します。

本記事では、障害福祉事業のM&Aを検討する買い手・売り手の双方に向けて、サービス種別を横断する形で制度の違いを整理します。自社または対象事業所がどの類型に属し、何が論点になるのかを短時間で把握できる形にまとめました。

目次
目次

1. 障害福祉事業のM&Aは「2つの法律」を分けて考える

まず押さえるべき前提があります。障害福祉と呼ばれる事業群は、実は2本の異なる法律に分かれています。ここを混同したまま議論を進めると、指定の承継もデューデリジェンスの設計も噛み合いません。

児童福祉法系と障害者総合支援法系で、何が変わるのか

児童発達支援と放課後等デイサービスは、障害児通所支援として児童福祉法に基づくサービスです。一方、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、共同生活援助(グループホーム)、生活介護、居宅介護などは、障害福祉サービスとして障害者総合支援法に基づきます。

この区別によって、次の点が変わります。第一に、個別支援計画の作成等を担う必置の管理者が、児童系では児童発達支援管理責任者(児発管)、障害者系ではサービス管理責任者(サビ管)になります。資格要件も研修体系も別です。第二に、総量規制の根拠条文と対象サービスが異なります。第三に、報酬の決まり方が異なります。児童系は1日単位の給付費に加算を積む構造ですが、就労継続支援B型は基本報酬そのものが平均工賃月額に連動し、グループホームは入居者数と支援区分で決まります。

なお、指定権者はいずれも都道府県知事(指定都市・中核市においては当該市長)である点は共通です。支給決定を行うのは市町村ですが、事業所の指定は都道府県レベルで行われます。ここを取り違えている解説記事が少なくないため、行政への照会先を誤らないよう注意してください。

サービス種別ごとのM&A適性マトリクス

主要なサービス種別について、M&Aで問題になる観点を横断的に整理すると次のようになります。自社または対象事業所がどこに位置するかを確認してください。

サービス種別準拠法必置の管理者総量規制の対象令和8年6月の新規指定特例M&A固有の最大論点
児童発達支援児童福祉法児発管対象対象支援時間区分による単価変動、5領域対応
放課後等デイサービス児童福祉法児発管対象対象18歳到達による自然減、送迎体制
就労継続支援A型障害者総合支援法サビ管対象対象外雇用契約と最低賃金、生産活動収支の赤字規制
就労継続支援B型障害者総合支援法サビ管対象(実施が最も進む)対象平均工賃月額が基本報酬に直結
就労移行支援障害者総合支援法サビ管対象外対象外一般就労移行実績が報酬を左右
共同生活援助(GH)障害者総合支援法サビ管現時点で対象外(追加が提案中)対象(包括型・日中支援型)物件の確保と消防・建築基準適合
生活介護障害者総合支援法サビ管対象(重度対応は例外運用が多い)対象外重度者対応の人員・設備、看護職員
居宅介護・重度訪問介護障害者総合支援法サビ管対象外対象外ヘルパーの確保と稼働、移動時間の管理

一覧するとわかるとおり、総量規制の対象であること、そして令和8年6月の新規指定特例の対象であることが、M&Aの難易度と価値を大きく左右します。この2点は後述する第3章・第4章で詳しく扱います。

ポイント
複数種別を運営する法人を対象とする場合、種別ごとに論点を分解してください。放課後等デイサービスとグループホームを併営する法人であれば、前者は総量規制と支援時間区分、後者は物件と消防法が主要論点になり、デューデリジェンスの設計もまったく別になります。「福祉事業として一括で評価する」という進め方が、最も誤差を生みます。

2. 買い手と売り手では、見るべき論点が重ならない

この分野のM&Aは、立場によって検討すべき事項がほとんど重なりません。以降の章を読み進める前に、ご自身の立場で優先すべき論点を押さえておいてください。

売却・グループインを検討している場合

関心の中心は、価格、譲渡後の職員と利用者の扱い、そしてご自身に残る責任の3点になります。価格については、自社が総量規制の対象地域にあるか、既存指定として通常の報酬単価を維持できるかが評価を大きく左右します。

一方、見落とされやすいのが譲渡後に残る責任です。金融機関に対する個人保証は、株主が交代しても自動では外れません。また、譲渡契約に置かれる表明保証に違反があれば、代金を受け取った後に補償を求められます。過去の請求に不備があった場合、株式譲渡であっても最終的な経済的負担は売り手に戻る構造になっている点は、条件交渉に入る前に理解しておくべきです。

買収・新規参入を検討している場合

最初に確定させるべきはスキームです。指定を引き継げるかどうか、総量規制に当たらないか、新規指定時の報酬引き下げ特例を受けないか。この3点を初期段階で行政に照会しないまま条件交渉に入ると、案件そのものが崩れます。

買い手にとって最大の金銭的リスクは、過去の請求に起因する報酬返還です。株式譲渡では債務が法人に残るため、まず買い手が負担することになります。この検証は財務デューデリジェンスの手法では発見できないため、制度適合性を確認する調査を別立てで設計する必要があります。あわせて、必置の管理者が譲渡後も残るかどうかが、事業継続そのものの前提になります。

買い手が指定の承継や報酬返還リスクをどこまで見るべきかについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
児童発達支援事業のM&Aで買い手が押さえるべき留意点|指定の承継・報酬返還リスク・DDの実務

3. 総量規制が事業価値を決める最大の変数

障害福祉事業のM&Aが活発な最大の理由は、後継者不在ではなく総量規制です。新規に出店できない地域では、既存事業所を取得するしか参入手段がありません。この構造が、買い手には障壁として、売り手には希少価値として作用します。

対象サービスは法令で限定列挙されている

総量規制は「なんとなく行政が渋る」という運用ではなく、条文に根拠があります。

障害者総合支援法第36条第5項は、都道府県障害福祉計画に定める必要量に既に達している場合などに、都道府県知事が指定をしないことができると定めています。その対象となる「特定障害福祉サービス」は、同法施行規則第34条の20により、生活介護、就労継続支援A型、就労継続支援B型の3つに限定されています。

児童福祉法にも同様の規定があり、第21条の5の15第5項に基づく「特定障害児通所支援」として児童発達支援と放課後等デイサービスが対象です。

つまり、就労移行支援や居宅介護・重度訪問介護などの訪問系サービスは、法令上そもそも総量規制の対象になりません。逆に、就労継続支援B型は実施が最も進んでいる領域で、政令指定都市を中心に新規指定を停止したり、公募・選考制へ移行する自治体が現れています。生活介護も条文上は対象ですが、強度行動障害や医療的ケアに対応する事業所を例外として認める運用が広く見られます。

共同生活援助は総量規制の対象への追加が提案されている

買い手・売り手の双方にとって、いま最も重要な動きがこれです。

グループホームは事業所数の伸びが他サービスより著しく、厚生労働省の調査では多くの都道府県で供給が計画見込量を上回っている状況が示されています。これを受け、令和7年12月に開催された社会保障審議会障害者部会とこども家庭審議会障害児支援部会の合同会議において、共同生活援助を総量規制の対象サービスに追加することが提案されました。(出典:こども家庭庁「地域差の是正・指定の在り方に係る対応について」

スケジュールとしては、令和8年度に自治体がニーズ調査と計画策定を行い、令和9年度から次期の障害福祉計画期間が始まる流れです。あわせて、グループホームの管理者に対する資格要件の導入や運営ガイドラインの策定も検討されています。

現時点では提案・検討の段階であり、確定した制度ではありません。ただしM&Aの判断としては、この方向性を織り込む必要があります。買い手にとっては、規制が入る前に取得するか、規制後に希少性が高まってから高値で取得するかという時間軸の判断になります。売り手にとっては、規制が実際に導入されれば既存事業所の価値が上がる可能性があるという意味になります。

注意点
制度の検討状況は流動的です。実際の判断にあたっては、直近の審議会資料と、対象事業所の所在自治体が公表する障害福祉計画・指定方針を必ず確認してください。

売り手には価格の武器、買い手には参入障壁

自社の事業所が総量規制の実施地域にあるなら、それは交渉材料です。買い手はそのエリアに新規出店できないため、既存事業所の取得しか手段がありません。「このエリアは新規指定が下りない」と自治体の公表資料をもって示せるかどうかで、提示される条件は変わります。

買い手側からすれば、規制地域の事業所には希少性プレミアムが乗ります。ただし、規制の存在は同時に「その地域は供給過多と行政が判断している」という意味でもあります。稼働率の維持が今後難しくなる可能性は、別途評価する必要があります。希少性と市場の飽和は、同じ事実の裏表です。

自社または対象地域が規制対象かどうかは、都道府県・指定都市・中核市の障害福祉主管課が公表する障害福祉計画および指定に関する方針で確認できます。

あわせて押さえておくべきなのが、市町村の意見申出制度です。障害者総合支援法および児童福祉法の改正により、令和6年4月1日から、都道府県が行う事業者指定等に対して市町村が意見を申し出ることができる仕組みが開始されました。市町村は申請があったことについて都道府県に通知を求めることができ、都道府県は市町村の意見を勘案して、指定や更新に必要な条件を付すことができます。(出典:東京都福祉局「障害福祉サービス等事業者の指定に関する区市町村協議等について」

これはつまり、都道府県が総量規制を実施していない地域であっても、市町村レベルの需給判断が指定に影響し得るということです。事業譲渡や会社分割で新規指定を取得する買い手にとっては、都道府県だけでなく所在市町村への事前相談も欠かせません。自治体によっては、対象区市町村での新規申請にあたって事前相談を必須としています。

総量規制の対象地域にある事業所が売り手としてどう評価されるかは、以下の記事でも具体的に取り上げています。
放課後等デイサービスの売却における株式価値の決まり方、進め方等の実務上の留意点

4. 【令和8年6月施行】新規指定への報酬引き下げ特例がスキーム選択を変える

ここが最も強調したい論点です。令和8年度の期中改定により、M&Aのスキーム選択が収益に直接跳ね返る構造ができました。

対象4サービスと引き下げの内容

障害福祉サービス等報酬は原則3年ごとの改定ですが、令和8年度は次期改定を待たずに臨時応急的な見直しが行われました。令和8年2月に改定事項が取りまとめられ、告示改正を経て4月および6月から施行されています。(出典:厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」

見直しは4本柱です。就労移行支援体制加算の見直し(4月施行)、就労継続支援B型の基本報酬区分の基準の見直し(6月施行)、新規事業所に対する応急的な報酬単価の特例(6月施行)、そして処遇改善加算の拡充(6月施行)です。

このうちM&Aに決定的な影響を与えるのが3つ目です。収支差率が高く事業所数が急増しているサービス類型について、新規事業所に限り、令和9年度報酬改定までの間、一定程度引き下げた基本報酬単価が適用されます。

項目内容
対象サービス就労継続支援B型、共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)、児童発達支援、放課後等デイサービス
選定の考え方年間総費用額全体に占める割合が1%以上で、令和6年度の収支差率が5%以上あるサービスのうち、事業所の伸び率が過去3年間5%以上の伸びを続けているサービス
対象事業所令和8年6月1日以降に新規指定された事業所(既存事業所は従前どおりの単価)
適用期間令和9年度報酬改定までの間
引き下げ後の単価就労継続支援B型は所定単位数の1000分の984、共同生活援助は1000分の972、児童発達支援は1000分の988、放課後等デイサービスは1000分の982
配慮措置(重度障害)医療的ケアや強度行動障害等に対応する一定の加算を算定する利用者・事業所に係る基本報酬は従前の単価
配慮措置(地域)離島・中山間地域(特別地域加算の対象地域)の事業所、自治体が公募によりサービス不足地域に設置する事業所、自治体の補助等を得て設置する事業所は従前の単価
M&Aに関する扱い合併・分割・事業譲渡に伴う指定で、その前後で事業所が実質的に継続して運営されると認める場合は既存事業所と同様の扱い

あわせて処遇改善加算が拡充されました。対象が従来の福祉・介護職員から障害福祉従事者へ拡大され(加算率の引上げ)、幅広く月1.0万円(3.3%)の賃上げを実現する措置に加え、生産性向上や協働化に取り組む事業者の福祉・介護職員には月0.3万円(1.0%)の上乗せ措置が設けられています。これまで対象外だった計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援にも処遇改善加算が新設されました。買収後の人件費構造と、加算の算定・実績報告の設計に影響しますので、収益予測は必ず改定後の体系で計算してください。

M&Aでの新規指定はどう扱われるか

事業譲渡や会社分割では、買い手が自らの事業所として新規に指定を受ける必要があります。では、この場合に引き下げ単価が適用されてしまうのか。ここがM&Aの核心です。

結論として、救済の枠組みが用意されています。合併・分割・事業譲渡に伴う指定の場合であって、その前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合には、既存事業所と同様の扱いとされています。つまり、通常の報酬単価が維持されます。

この「実質的に継続して運営される」という判断枠組みは、令和6年6月21日付の厚生労働省・こども家庭庁事務連絡「障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」と同じ考え方に立っています。同事務連絡では、職員に変更がない等、前後で事業所が実質的に継続して運営されると指定権者が認める場合に、指定申請書類の簡素化や報酬上の実績の通算が認められるとされています。(出典:厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」

注意点
「実質的に継続して運営される」と認められるかどうかは、指定権者の判断に委ねられています。自動的に適用されるものではありません。買収を機に管理者や職員を大幅に入れ替える計画であれば、認められない可能性があります。認められなければ、対象サービスでは令和9年度改定までの間、引き下げられた単価で運営することになります。案件の初期段階で、指定権者への事前照会が不可欠です。

買い手・売り手それぞれへの含意

買い手にとっての意味は明快です。第一に、対象4サービスでは、事業譲渡・会社分割を選ぶ場合に「実質的継続運営」の認定を得られるかどうかが収益に直結します。第二に、認定を得るためには職員体制の維持が要件になるため、買収後の人員入れ替えを前提とした計画は制度上不利になります。第三に、株式譲渡であれば指定が継続するため、この論点自体が発生しません。従来「株式譲渡は簿外債務を承継するから慎重に」と語られてきましたが、対象サービスでは株式譲渡の相対的な優位性が高まったと言えます。

売り手にとっての意味も大きいです。既存の指定を持つ事業所は、新規開設組が引き下げ単価で参入せざるを得ない中で、通常単価を維持できる資産です。この非対称性は、そのまま既存事業所の希少価値になります。同時に、譲渡を機に職員が大量に離職する事態は、価格だけでなく買い手側の報酬単価にも影響するため、人員の維持がこれまで以上に重要になりました。

新規指定に伴う報酬の取扱いや実質的継続の確認手続の進め方については、以下の記事で詳しく整理しています。
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業譲渡|指定・許認可の引き継ぎ実務

5. 指定はどう引き継ぐか──スキーム選択の基本

指定の扱いは、スキームによって根本的に変わります。売り手の手取りと残る責任、買い手の事業停止リスクの双方に関わる論点です。

株式譲渡・事業譲渡・会社分割で何が変わるか

指定は事業所ごとに、その事業所を運営する法人に対して与えられる行政処分です。この一点を押さえれば、3つのスキームの違いは整理できます。

比較項目株式譲渡事業譲渡会社分割
指定の扱い法人が保有する指定がそのまま継続する承継されず、買い手が新規に指定を取得する承継されず、承継会社が新規に指定を取得する
総量規制の影響受けない新規指定を要するため影響を受け得る新規指定を要するため影響を受け得る
令和8年6月の引き下げ特例適用されない実質的継続運営と認められなければ適用され得る実質的継続運営と認められなければ適用され得る
事業停止リスク生じない指定の空白期間が生じ得る指定の空白期間が生じ得る
利用者との契約継続する再締結が必要再締結は不要とされている
職員労働契約がそのまま継続する個別同意による転籍が必要労働契約承継法に基づき承継される
簿外債務法人に残り買い手が承継する原則として承継されない分割契約の定めによる
代金の受取人(売り手)オーナー個人法人オーナー個人(承継会社株式を譲渡する場合)

会社分割は、簿外債務を切り離せるという事業譲渡の長所と、利用者との契約および労働契約が承継されるという安定性を両立できるため、この分野との相性がよいスキームです。一方で債権者保護手続に1か月以上を要し、スケジュールが長くなります。

令和6年6月21日事務連絡による簡素化と実績の通算

事業譲渡・会社分割で新規指定が必要という原則は変わりませんが、手続の負担は大きく軽減されています。前述の事務連絡により、実質的継続運営と認められる場合には、指定申請時の提出書類が旧法人の指定時から変更があった部分のみで足りるとされ、法人格以外に変更がなければ登記事項証明書等の提出で差し支えないとされています。サービス等利用計画の変更も不要です。

買い手にとって特に重要なのが、過去の実績に基づく基本報酬・加算・減算について実績が通算される点です。勤続年数や過去実績を要件とする加算が譲渡によってリセットされないため、買収直後に加算が取れなくなるという事態を避けられます。処遇改善加算の計画書・実績報告書も一括して作成できます。

総量規制エリアでもM&Aなら例外扱いとなる自治体がある

さらに実務的に重要な運用があります。総量規制を実施している自治体の中に、この「実質的継続運営」の枠組みを総量規制の例外としても採用しているところがあるのです。

例えば東大阪市は、総量規制の実施期間中は対象サービスの新規申請や定員増を含む変更申請を行えないとしつつ、吸収合併・吸収分割・新設合併・新設分割および事業譲渡に伴う新規申請であって、事業所の職員に変更がない等、前後で実質的に継続して運営される場合については総量規制の対象外とする旨を明記しています。(出典:東大阪市「障害福祉サービス事業所の指定に関する総量規制の実施について」

つまり、新規開設では入れない地域に、M&Aであれば入れる可能性があるということです。これは買い手の参入戦略を大きく変える情報です。ただし、これは自治体ごとの運用であり全国共通のルールではありません。同じ総量規制でも自治体によって例外の設け方は異なります。対象事業所の所在自治体の実施要領を個別に確認してください。

ポイント
スキーム選択のために、案件初期に指定権者へ照会すべき事項は4つに整理できます。①対象サービスが総量規制の対象か、②事業主体変更に伴う新規指定は総量規制の例外扱いになるか、③実質的継続運営として手続簡素化と実績通算の適用を受けられるか、④令和8年6月の引き下げ特例の対象外となるか。この4点を基本合意の前に確認しておけば、後戻りの大半は防げます。

株式譲渡・事業譲渡・会社分割それぞれで指定の扱いがどう変わるかは、以下の記事でも実務の進行順に解説しています。
放課後等デイサービス事業のM&Aで買い手が押さえるべき留意点|指定の承継・報酬返還リスク・DDの実務を解説

6. 種別を問わず共通するデューデリジェンスの3つの急所

サービス種別が違っても、この分野のM&Aで問題になる箇所は共通しています。ここでは、種別を問わず必ず検証すべき3点を挙げます。

必置の管理者(サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者)

サビ管・児発管は指定基準上の必置要件であり、欠員が生じれば減算の対象となります。減算は欠員が長期化するほど率が高まる構造で、状態が改善しなければ指定の継続にも影響します。

買い手として確認すべきは、現任者が誰でいつから在籍しているか、譲渡後も継続勤務する意思があるか、そして要件を満たし得る後任候補が他にいるかという「後継の厚み」です。1事業所1名に完全依存している場合、それ自体が減額要因になります。売り手側から見れば、複数体制を作っておくことが価格対策として最も効率的です。

事業譲渡の場合は特に深刻です。管理者が転籍に同意しなければ、そもそも新規指定の要件を満たせません。加えて、前述のとおり職員の入れ替えが大きいと実質的継続運営の認定にも影響します。

過去の請求の適正性と報酬返還

収益の大部分が公費であるこの業界では、請求の不備が最大の金銭リスクです。運営指導や監査で不備が発覚すれば、行政は過誤調整や返還請求により過去にさかのぼって支払済みの報酬を回収します。人員配置基準を満たしていない期間があれば、その期間の全算定分が是正対象になり得ます。

株式譲渡ではこの債務が法人に残るため、まず買い手が負担します。ただし譲渡契約で「請求は適法に行われている」と表明保証していれば、買い手は売り手に補償を求めます。結果として、経済的負担は売り手に戻ります。

したがって、この論点は買い手・売り手の双方にとって重要です。買い手は財務デューデリジェンスとは別に、個別支援計画・勤務形態一覧表・加算の届出内容を請求データと突き合わせる検証を設計する必要があります。売り手は指摘される前に自ら点検し、問題があれば開示して価格に織り込んでもらうのが、結果的に最も損失の少ない進め方です。

物件・設備の法令適合

障害福祉事業の事業所は、建築基準法上の用途や消防法令上の規制の適用を受けます。必要な消防用設備が設置され点検報告が行われているか、消防法令適合通知書を取得しているかを確認します。既存物件を転用して開設した事業所や、開設後に間取りを変更した事業所で問題が見つかりやすい領域です。

グループホームでは、この論点が他種別より一段重くなります。居住系サービスであり、物件そのものが事業の根幹であるためです。加えて、賃貸物件の場合は貸主の承諾やチェンジオブコントロール条項の有無を確認する必要があります。

あわせて、補助金の交付を受けて取得した設備や車両があれば、財産処分の制限がかかっている可能性があります。承継が有償の場合は国庫納付を要することがあるため、交付決定通知書のレベルで確認してください。

注意点
この3点は、いずれも一般的な財務・法務デューデリジェンスの枠組みでは捕捉できません。総勘定元帳を精査しても、算定要件を満たしていない加算が計上されている事実は分かりません。制度適合性を検証する調査を、財務デューデリジェンスとは別立てで設計する必要があります。個別支援計画や勤務形態一覧表を請求データと突き合わせるサンプリング検証を、案件の早い段階から組み込んでください。

正常収益力の把握や簿外債務の洗い出しといった財務面の確認事項については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|財務・会計上の留意点

7. サービス種別ごとの個別論点

最後に、主要なサービス種別ごとの固有論点を整理します。

児童発達支援・放課後等デイサービス

令和6年度報酬改定で、基本報酬に支援時間に応じた区分が導入されました。短時間の預かりを多数回転させるモデルは単価が下がる方向に働いており、改定前の損益をそのまま将来収益として引き伸ばすと過大評価になります。5領域を含む総合的な支援、支援プログラムの作成・公表も要件化されています。

放課後等デイサービスでは、対象が学校に就学している障害児であるため、卒業による自然減が構造的に発生します。児童名簿を学年別に集計し、離脱数と新規獲得ペースを比較する作業が必須です。両サービスとも総量規制の対象であり、令和8年6月の引き下げ特例の対象でもあります。

デューデリジェンスでは、契約児童数ではなく月別の実利用延べ日数を確認してください。契約はしていても月に数回しか利用しない児童が名簿に含まれていれば、契約児童数は収益の実態を反映しません。

就労継続支援B型・A型

就労系は、他種別と収益構造が根本的に異なります。生産活動を行い、そこから利用者に工賃を支払うためです。

就労継続支援B型では、平均工賃月額に応じた報酬体系を選択している場合、基本報酬そのものが工賃実績に連動します。したがって、デューデリジェンスでは、生産活動の受託先の安定性、工賃の算定根拠、そして工賃が生産活動収入から適正に支払われているかを検証する必要があります。令和8年6月からは基本報酬区分の基準額がそれぞれ3千円引き上げられており、改定前の区分が維持できるかを確認しなければなりません。ただし、配慮措置として、令和6年度改定の前後で区分が上がっていない事業所は見直しの適用対象外とされ、区分が下がる場合も基本報酬の減少額が3%程度に収まるよう中間的な区分が新設されています。対象事業所がどちらに該当するかで評価は変わります。B型は総量規制の実施が最も進んでいる種別であり、引き下げ特例の対象でもあります。

就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を結び最低賃金以上を支払う仕組みです。基本報酬はスコア方式で決まり、令和6年度報酬改定でこの評価項目が大きく見直されました。平均労働時間が長い事業所の点数を高く設定する一方、生産活動収支が賃金総額を下回る場合には減点する扱いとなり、経営改善計画書の未提出等にも減点評価が新設されています。この結果、利用者の労働時間が短く、生産活動の収益で賃金を賄えていない事業所の報酬が下がり、経営が悪化した事業所が多数生じました。

買い手にとって有利なのは、このスコアが情報公表制度を通じて公表されている点です。対象事業所のスコアを事前に確認すれば、どの項目で減点されているかを把握したうえで交渉に臨めます。あわせて、生産活動収支の推移と、雇用契約・労働時間の管理が適正かを重点的に確認してください。なお、令和7年10月から就労選択支援が施行されており、就労系サービス全体の利用の入口が変わりつつある点も押さえておくべきです。

共同生活援助(グループホーム)

物件が事業の中核であるため、不動産の観点が他種別より重くなります。入居率、世話人・生活支援員の配置、夜間支援体制、物件の消防・建築基準適合、そして賃貸借契約の承継可否が主要な確認項目です。

制度面では、令和8年6月の引き下げ特例の対象であり(介護サービス包括型・日中サービス支援型)、さらに総量規制の対象への追加が提案されている段階です。あわせて管理者の資格要件導入や運営ガイドラインの策定も検討されており、今後数年で運営コストが上がる可能性があります。買収後の収益計画には、この制度変更リスクを織り込んでおくべきです。

生活介護・就労移行支援・訪問系

生活介護は総量規制の対象ですが、強度行動障害や医療的ケアに対応する事業所を例外として認める自治体が多く見られます。重度者への対応体制、看護職員の配置、設備の状態が評価の中心になります。令和8年6月の引き下げ特例の対象外です。

就労移行支援は総量規制の対象外で、一般就労への移行実績が報酬を左右します。応急的な報酬単価の特例の対象でもありません。なお、名称の似た「就労移行支援体制加算」は就労移行支援事業所が算定する加算ではなく、生活介護・自立訓練・就労継続支援A型・B型が一般就労への移行実績に応じて算定する加算です。令和8年4月から、一事業所で算定可能な年間の就職者数に当該事業所の定員数を上限とする制限が設けられ、他事業所で過去3年間に算定実績がある利用者については原則として算定できないことが明確化されました。就労系サービスを対象とするM&Aでは、この加算の算定実績が改定後も維持できるかを確認する必要があります。

居宅介護・重度訪問介護などの訪問系サービスは、総量規制も引き下げ特例も対象外です。設備投資が小さく参入障壁が低い反面、ヘルパーの確保と稼働管理が事業の成否を決めます。デューデリジェンスでは、登録ヘルパーの実稼働状況、移動時間の労働時間管理、国庫負担基準との関係を確認します。

法人形態の違いや契約・従業員の承継といった法務面の論点は、以下の記事であわせて確認いただけます。
児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|法務上の留意点

8. 価格の考え方は種別ごとに違う

価格算定の枠組み自体は他業種と共通ですが、何を評価軸に置くかが種別によって変わります。

評価の中心が「稼働率」か「工賃」か「入居率」か

中小規模の障害福祉事業では、実務上、時価純資産に正常収益力の数年分を加える考え方で価格の目安が示されることが一般的です。複数拠点を持つ法人ではEBITDA倍率が用いられます。

ここで重要なのが、正常収益力の算定方法です。オーナーやその家族への役員報酬のうち労務の実態を超える部分、経費に混入した私的支出、オーナー所有物件への相場を超える賃料などを実態に引き直します。加えて、処遇改善加算による収入を営業利益に足し戻してはいけません。同加算は職員の賃金改善に充てることが前提とされ、実績報告により実施状況を行政に報告する仕組みだからです。令和8年6月からは対象職種が障害福祉従事者全体に拡大されているため、控除すべき範囲も広がっています。

そのうえで、評価の中心となる指標は種別ごとに異なります。児童系であれば実利用延べ日数と学年構成、就労継続支援B型であれば平均工賃月額と生産活動の受託先、グループホームであれば入居率と物件条件、訪問系であればヘルパーの実稼働です。「稼働率」という一語で括ると実態を見誤ります。

スキームによって手取りが変わる

売り手にとっては、譲渡価額そのものより税引後の手取りが重要です。個人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡益は申告分離課税の対象となり税率は合計20.315%です。一方、事業譲渡では代金を受け取るのは法人であり、法人税等を負担した後、オーナー個人が資金を得るには役員退職金や配当等を経る必要があるため、二重に課税されます。

実務では、株式譲渡代金と役員退職金を組み合わせて手取りを最適化する設計が用いられます。ただし不相当に高額な役員退職金は損金として認められないため、合理的な水準があります。スキームの選択は、指定の承継・総量規制・報酬単価という制度面と、税務面の両方から同時に検討する必要があります。

ポイント
価格交渉に入る前に、税引後の手取りベースで複数のスキームを比較してください。「価格は下げるが役員退職金で調整する」「事業譲渡ではなく株式譲渡にする」という判断で、手取りは数百万円から数千万円単位で変わり得ます。制度面と税務面を同じチームで検討できる体制が重要になる理由がここにあります。

正常収益力や倍率から売却価格を算定する具体的な考え方については、以下の記事で試算例とともに解説しています。
児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|企業価値評価と売却価格の決まり方

9. まとめ

障害福祉事業のM&Aを検討するにあたって、押さえておくべき要点を整理します。

  • 障害福祉は、児童福祉法系(児童発達支援・放課後等デイサービス)と障害者総合支援法系(就労系・グループホーム・生活介護・訪問系)に分かれ、必置の管理者資格・総量規制の根拠・報酬の決まり方がすべて異なる。一般論で括らず種別ごとに分解する。
  • 総量規制の対象は法令で限定列挙されている。生活介護・就労継続支援A型・B型(障害者総合支援法)と、児童発達支援・放課後等デイサービス(児童福祉法)。就労移行支援と訪問系は対象外。
  • 共同生活援助は総量規制の対象への追加が提案されている段階。令和9年度からの次期計画期間に向けた動きを織り込んで判断する。
  • 令和8年6月から、就労継続支援B型・共同生活援助・児童発達支援・放課後等デイサービスの新規指定事業所に引き下げ単価が適用される。ただし、合併・分割・事業譲渡で実質的継続運営と認められれば既存事業所と同様の扱いとなる。
  • 令和6年6月21日付事務連絡により、事業譲渡・会社分割でも手続の簡素化と報酬上の実績通算が認められ得る。いずれも「職員に変更がない等、実質的に継続して運営される」ことが前提。
  • 総量規制エリアでも、事業主体変更を例外とする自治体がある。新規開設では入れない地域にM&Aで入れる可能性がある。
  • 案件初期に指定権者へ照会すべきは4点。総量規制の対象か、事業主体変更が例外扱いか、手続簡素化と実績通算の適用を受けられるか、引き下げ特例の対象外となるか。
  • 共通するDDの急所は、必置管理者の在籍と後継の厚み、過去の請求の適正性、物件・設備の法令適合の3つ。

障害福祉事業のM&Aは、財務の数字よりも制度適合性の側に論点が偏ります。その制度は、令和6年度の報酬改定、令和6年6月の事務連絡、令和8年度の期中改定と、この2年で立て続けに動いてきました。過去の情報に基づく判断が、そのまま損失につながる領域です。

企業価値の試算からデューデリジェンスの設計、契約交渉、譲渡後の行政手続まで一貫して関与します。障害福祉分野は制度の理解が結果を左右する領域です。売却・買収のいずれについても、「まだ検討段階だが判断材料が欲しい」という段階からのご相談を歓迎しております。

執筆者

弁護士 佐藤聖喜

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。 長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。

税理士登録申請中 横山圭介

東京都立大学(旧首都大学東京)数理科学専攻卒業後、国家公務員として札幌国税局に入庁。札幌国税局資産課税課、札幌東税務署資産課税部門等を経て、国税庁企画課へ出向。 国税庁・国税局・税務署において、主に資産税事務に従事し、相続・譲渡・贈与など資産課税の実務を第一線で担う。官公庁・金融機関等との折衝・情報連携の実務経験も有する。