「少数株主が反対しているためにM&Aの話が前に進まない」「相続によって株式が分散し、面識のない株主や連絡の取れない株主が増えてしまった」「買い手から100%の株式取得を条件とされているが、どうしても買い取れない株主が残っている」。中小企業の事業承継やM&Aの現場では、こうした株主構成の問題が最後の関門になることが少なくありません。
スクイーズアウトは、会社法に定められた手続きに従って少数株主の同意を得ずに株式を集約できる制度であり、この関門を突破するための正攻法です。もっとも、選択できる手法は保有する議決権比率によって変わり、手続きに不備があれば決議取消訴訟や差止請求に発展します。
本記事では、スクイーズアウトの手続きについて、4つの手法の比較から株式併合の実務手順、相続によって準共有となった株式や所在不明株主への対応、端数代金の供託や裁判所の許可まで、実務で判断に迷いやすい論点を中心に解説します。
1. スクイーズアウトとは|手続きの全体像を押さえる
スクイーズアウトの定義と法的な位置づけ
スクイーズアウトとは、支配株主または対象会社が会社法上の手続きを用いて、少数株主が保有する株式を金銭等の対価に転換し、株主構成を支配株主側に集約する手法です。「少数株主の締め出し」「キャッシュアウト」と呼ばれることもあります。
最大の特徴は、対象となる少数株主の同意を必要としない点にあります。株式の売買は本来、当事者間の合意によって成立するものですが、スクイーズアウトは所定の議決権比率と法定手続きを満たすことを条件として、合意によらない株式の移転を法律が認めた例外的な制度です。少数株主にとっては財産権の強制的な転換を意味するため、会社法は手続きの各段階で通知・公告・書類の備置きを義務づけ、対価に不満のある株主には裁判所への価格決定申立ての道を用意しています。
つまり、スクイーズアウトは「強制的に株式を取得できる制度」であると同時に、「その代わりに厳格な手続きと公正な対価が求められる制度」でもあります。手続きの一つひとつが少数株主保護のために設けられているという理解が、実務上の判断を誤らないための出発点になります。
スクイーズアウトの手続きが必要になる典型的な場面
非上場の中小企業において、スクイーズアウトの検討が必要になる場面は概ね次の5つに整理できます。
- M&Aによる完全子会社化:買い手が100%の株式取得を条件とするが、一部の株主が譲渡に応じない
- 相続による株式の分散:創業家の相続が重なり、経営に関与しない相続人が多数の株主となっている
- 所在不明株主の存在:かつて発起人7名が必要とされた時代の名義株主などが、所在不明のまま残っている
- 従業員株主・取引先株主の整理:退職や取引終了後も株式を保有し続けている株主がいる
- 経営権の安定化:経営方針に反対する少数株主が存在し、重要な意思決定が滞っている
このうち中小企業のM&A実務で圧倒的に多いのは、1番目と2番目です。とりわけ相続によって株式が分散したケースでは、相続人が何十人にも及び、海外に居住している方が含まれることもあります。この場合、全員から個別に同意を取り付けることは事実上不可能であり、スクイーズアウトの手続きが唯一の解決策となります。
ポイント
議決権の3%以上を保有する株主には会計帳簿の閲覧謄写請求権が、10%以上を保有する株主には会社の解散の訴えを提起できる場合があります。少数株主だからといって影響力がないわけではなく、これらの権利が反復して行使されると、経営判断と情報管理の双方に相当な負担が生じます。株式集約は「念のため」の対策ではなく、経営上の実質的な課題として捉えるべきです。
まず任意の買取交渉、それでも残った株式に手続きを使う
実務上、いきなりスクイーズアウトの手続きに入ることは稀です。まずは各株主と個別に交渉し、任意の売買契約によって株式を買い取ることを試みます。任意交渉で解決できれば、法定手続きに伴う時間・費用・訴訟リスクをすべて回避できるためです。
任意交渉が難航する理由は、価格の不一致だけとは限りません。相続人が多数に及ぶ場合には、そもそも全員から実印と印鑑証明書を集めること自体が現実的でないという「物理的な不可能性」に突き当たります。海外在住の相続人がいれば、在外公館でのサイン証明が必要となり、手続きは一層煩雑になります。この場合、交渉のテーブルに着けるかどうか以前の問題として、任意譲渡というスキーム自体が機能しません。
スクイーズアウトの手続きは、こうした「任意では解決できない部分」に限って適用するのが最も効率的です。買い取れる株式は先に相対で買い取り、残った株式だけを法定手続きの対象とすることで、手続きの負担も紛争リスクも最小化できます。この設計思想は本記事の第10章で詳しく解説します。
2. スクイーズアウトの4つの手法と手続き要件の比較
議決権比率によって使える手法が変わる
スクイーズアウトで用いられる会社法上の手法は、特別支配株主の株式等売渡請求、株式併合、全部取得条項付種類株式、株式交換の応用の4つが代表的です。どれを選ぶかは好みの問題ではなく、保有している議決権比率によって選択肢がほぼ機械的に決まります。
| 議決権比率 | 採用できる手法 | 主な確認事項 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 90%以上 | 株式等売渡請求 | 特別支配株主の要件、対象会社の承認、通知・公告、事前開示 | 約1〜2か月 |
| 3分の2以上(特別決議を可決できる) | 株式併合、全部取得条項付種類株式 | 株主総会の招集と特別決議、反対株主対応、端数処理 | 約2〜3か月 |
| 3分の2未満 | 段階取得後に再検討 | 相対取得、第三者割当、株主構成の見直し | 取得内容により変動 |
注意していただきたいのは、3分の2以上を保有していれば特別決議が当然に可決されるわけではないという点です。特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成によって成立します(会社法309条2項)。分母となるのは「出席した株主の議決権」であるため、反対株主が全員出席してくると、賛成割合は保有比率をそのまま反映した数値になります。
例えば、支配株主側が66%、反対株主が34%を保有している場合、全員が出席すれば賛成割合は66%となり、3分の2(約66.67%)にわずかに届きません。「3分の2を持っているつもりだったが、実際には足りていなかった」という事態は珍しくないため、着手前に株数ベースでの精密な計算が不可欠です。
注意点
議決権比率をパーセンテージの概数で把握したまま手続き設計に入ると、自己株式の存在や単元株制度によって前提が崩れることがあります。自己株式には議決権がなく(会社法308条2項)、議決権の分母から除外されます。着手前に必ず、発行済株式総数・自己株式数・議決権のある株式数を実数で確定させてください。
特別支配株主の株式等売渡請求(議決権90%以上)
会社法179条以下に定められた制度で、対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する特別支配株主が、対象会社の承認を得たうえで、他の株主が保有する株式等の全部を取得する手続きです。定款でこれを上回る割合を定めている場合には、その割合を満たす必要があります。
最大の特徴は、株主総会の決議を経る必要がないことです。対象会社の承認は、取締役会設置会社であれば取締役会決議、取締役会非設置会社であれば取締役の過半数の決定で足ります。株主総会の招集手続きが不要である分、4手法の中で最も短期間で完了し、1株未満の端数が生じないため端数処理も不要です。
一方で、90%という要件は中小企業にとって決して低いハードルではありません。相続によって株式が分散しているケースや、従業員株主が一定数存在するケースでは、この要件を満たさないことがほとんどです。90%に届かない場合は、事前に相対取得で買い集めて90%を超えるか、株式併合などの他の手法を選択することになります。
なお、特別支配株主は1人または1社であることが必要であり、特別支配完全子法人の場合を除き、複数の会社または自然人が合意等に基づいて合計90%以上の議決権を有することになっても、この要件は満たすことができない点に注意する必要があります。
株式併合(特別決議を可決できる場合)
株式併合とは、複数の株式を合わせてより少ない数の株式にする会社法180条の手続きです。例えば、1万株を1株に併合すると、1万株未満しか保有していない株主の持株は1株未満の端数となり、株主としての地位を失います。端数となった株式については、会社法235条の端数処理によって金銭が交付されます。
90%に満たない場合でも、株主総会の特別決議を可決できる見込みがあれば実行できるため、非上場の中小企業におけるスクイーズアウトでは事実上の標準手法となっています。平成26年の会社法改正により、反対株主の買取請求(会社法182条の4)や事前・事後の情報開示(同法182条の2、182条の6)といった少数株主保護の仕組みが整備され、手続きの予測可能性が高まったことも普及の背景にあります。
ただし、併合比率の設計と端数処理には実務上の難所があります。誰を端数にし、誰を1株以上残すかという比率設計を誤ると、意図しない株主まで締め出してしまいます。また、非上場株式の端数処理には裁判所の許可が必要となり、これがスケジュール上のクリティカルパスになります。詳細は第4章で解説します。
全部取得条項付種類株式・株式交換の応用
全部取得条項付種類株式は、会社が株主総会の特別決議によってその種類の株式の全部を取得できる内容を付した種類株式です。スクイーズアウトに用いる場合、まず定款を変更して種類株式発行会社となり、既存の普通株式を全部取得条項付種類株式に変更したうえで、取得の対価として交付する株式に端数が生じるよう比率を調整します。
平成26年の会社法改正以前は主流の手法でしたが、定款変更と取得決議の双方に特別決議が必要となり、種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合には種類株主総会の特別決議も要するなど、手続きが重層的です。株式併合で同じ結果が得られる現在では、選択される場面は限られています。
株式交換の応用は、親会社が子会社の株式を取得する組織再編手続きを用いる方法です。対価を金銭とする現金対価株式交換であれば、子会社の少数株主に金銭を交付して株式を取得できます。ただし、対価の設計によって組織再編税制の適格要件を満たさなくなる可能性があり、法務と税務を並行して検討する必要があります。グループ再編の一環として行う場合には有力な選択肢ですが、単純な少数株主の整理を目的とするのであれば、株式併合の方が手続きは簡明です。
| 手法 | 主な要件 | 株主総会 | 主な手続き | 主なリスク |
|---|---|---|---|---|
| 株式等売渡請求 | 議決権の10分の9以上を保有 | 不要 | 対象会社の承認、通知・公告、事前事後の開示 | 売買価格決定の申立て、手続不備 |
| 株式併合 | 株主総会の特別決議 | 必要 | 総会決議、通知・公告、端数処理、裁判所の許可 | 反対株主の買取請求、価格決定申立て |
| 全部取得条項付種類株式 | 定款変更と取得決議 | 必要 | 定款変更、特別決議、種類株主総会、対価交付 | 手続きの重層化、種類株主対応 |
| 株式交換(応用) | 株式交換契約と機関決定 | 原則必要 | 契約締結、事前開示、総会決議、変更登記 | 税務判断、対価設計 |
3. 【手法別】スクイーズアウトの手続きの流れと所要期間
株式等売渡請求の手続きの流れ
議決権の90%以上を保有している場合の手続きは、次の順序で進みます。
- 特別支配株主が、取得する株式の種類と数、対価の額とその割当てに関する事項、取得日などを定め、対象会社に対して売渡請求をする旨を通知する
- 対象会社が承認の可否を決定する(取締役会設置会社は取締役会決議、非設置会社は取締役の過半数の決定)
- 対象会社が承認した場合、その旨を特別支配株主に通知する
- 対象会社が、取得日の20日前までに売渡株主等に対して通知を行う(会社法179条の4第1項)。
- 対象会社が事前開示書面を備え置く(会社法179条の5)
- 取得日に、特別支配株主が売渡株式等を取得する
- 対象会社が事後開示書面を作成し、6か月間備え置く(会社法179条の10)
この手法では株主総会を開催しないため、招集通知の発送や総会当日の議事運営に関する瑕疵のリスクが構造的に生じません。反面、少数株主は取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(会社法179条の8)。申立期間が取得日の前に設定されている点が、株式併合の場合との大きな違いです。
株式併合の手続きの流れ
株式併合によるスクイーズアウトは、法定の期限が複数設定されているため、逆算によるスケジュール管理が不可欠です。
- 取締役会で、株式併合を議案とする株主総会の招集を決議する
- 事前開示書面を作成し、本店に備え置く(会社法182条の2)
- 株主総会を招集し、特別決議によって併合の割合、効力発生日、併合する株式の種類、効力発生日における発行可能株式総数を定める(会社法180条2項)
- 効力発生日の20日前までに、併合の割合や効力発生日などを株主に通知し、または公告する(会社法181条1項・2項。株式買取請求制度の適用対象となる株式併合の場合には、同法182条の4第3項により通知期限が「2週間前」から「20日前」に読み替えられる)
- 反対株主は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に株式買取請求を行うことができる(会社法182条の4第4項)
- 効力発生日に株式併合の効力が生じ、1株未満の端数を保有していた株主は株主の地位を失う
- 効力発生日から2週間以内に、発行済株式総数等の変更登記を申請する(会社法915条1項)
- 事後開示書面を作成し、6か月間備え置く(会社法182条の6)
- 裁判所の許可を得て端数株式を売却し、代金を端数に応じて交付する(会社法235条)
| 手続き | 期限 | 公告による代替 |
|---|---|---|
| 事前開示書面の備置き | 株主総会の日の2週間前の日、または181条1項の通知の日もしくは同条2項の公告の日のいずれか早い日から、効力発生日後6か月を経過する日まで(会社法182条の2) | — |
| 株主総会の招集通知 | 公開会社は総会日の2週間前まで。非公開会社は原則1週間前まで(書面投票・電子投票を定めた場合は2週間前まで) | 不可 |
| 併合に関する事項の通知 | 効力発生日の20日前まで(端数が生ずる場合。原則は2週間前) | 可(会社法181条2項) |
| 反対株主の株式買取請求 | 効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで | — |
| 変更登記 | 効力発生日から2週間以内 | — |
| 事後開示書面の備置き | 効力発生日後遅滞なく作成し、効力発生日から6か月間 | — |
| 価格決定の申立て | 効力発生日から30日以内に協議が調わない場合、その期間の満了の日後30日以内 | — |
ポイント
株式併合で1株未満の端数が生ずる場合、株主への通知期限は効力発生日の2週間前ではなく20日前に前倒しされます。これは独立した通知義務が追加されるのではなく、会社法182条の4第3項によって181条1項の「二週間」が「二十日」に読み替えられるためです。通知は1本であり、公告によって代替できます(同法181条2項)。一方、特別支配株主の株式等売渡請求では、売渡株主に対する通知を公告で代替することができません(同法179条の4第2項)。所在不明株主を抱える会社にとって、この差は手法選択に直結します。
所要期間とスケジュール設計の考え方
スクイーズアウトの所要期間は、手法と会社の規模、株主数によって変動します。標準的な目安は、株式等売渡請求で約1〜2か月、株式併合で約2〜3か月、全部取得条項付種類株式で約2〜3か月、株式交換で約3〜4か月です。
ただし、この目安には見落とされやすい要素が2つあります。1つは、株式価値の算定にかかる時間です。第三者算定機関に評価を依頼する場合、資料の提供から算定書の受領まで数週間から1か月程度を要します。この作業は総会の招集決議より前に完了させておく必要があるため、実質的な起点は算定の着手時点です。
もう1つは、非上場株式の端数処理に必要な裁判所の許可申立てです。これには1〜2か月程度を見込む必要があり、株式併合の効力発生後に行う工程であるため、全体スケジュールの後半に大きな時間が上乗せされます。M&Aのクロージングと連動させる場合には、この工程を織り込んだ日程設計をしなければ、実行日を守れません。
注意点
少数株主から差止請求や価格決定の申立てがなされた場合、手続きの完了までにさらに数か月から1年程度の延長を想定する必要があります。M&Aの最終契約においてクロージング期限を設定する際は、この遅延リスクを踏まえた余裕を持たせるか、期限延長条項を設けておくことが実務上の備えとなります。
4. 株式併合によるスクイーズアウトの実務|併合比率と端数処理
併合比率の設計|誰を端数にし、誰を残すか
株式併合によるスクイーズアウトの設計で最初に決めるべきは、併合比率です。併合後の総株式数をNとしたとき、ある株主の持株比率をpとすると、その株主に交付される株式数はp×Nとなります。この値が1未満であれば端数となって締め出され、1以上であれば株主として残ります。
例えば、締め出したい少数株主の持株比率が最大で10%である場合、この株主を端数にするには0.10×N<1、すなわちN<10である必要があります。同時に、支配株主側の各株主を1株以上残すには、支配株主側の最小保有者の比率をqとして、q×N≧1を満たさなければなりません。
ここで見落とされやすいのが、支配株主側が複数名で構成されている場合です。Nを小さく設定すればするほど、支配株主側の少額保有者まで端数になってしまいます。たとえばN<10という制約下では、支配株主側の全員がそれぞれ10%を超えて保有していなければ成立しません。5%しか保有していない株主が支配株主側にいれば、その株主も一緒に締め出されることになります。
ポイント
この制約を根本的に解消する方法は、株式併合の前に、残したい株式を1つの主体に集約してしまうことです。M&Aで100%譲渡を行う場合であれば、買い手が先に相対取得できる株式をすべて取得してから併合に入れば、比率設計の制約はほぼ消滅します。手続きの順序を工夫するだけで、難所が丸ごとなくなる典型例です。
なお、併合後の株式数が数株程度になってしまうと、その後の会社運営上は不都合が生じます。実務では、併合の効力発生後に株式分割(会社法183条)を行って適正な株式数に戻すことが一般的です。併合決議の際に定める効力発生日における発行可能株式総数は、この分割を織り込んだ数値としておく必要があります。
端数処理には裁判所の許可が必要になる
株式併合によって1株未満の端数が生じた場合、会社はその端数の合計数に相当する数の株式を売却し、売却代金を端数に応じて交付します(会社法235条1項)。この売却は、原則として競売によることとされていますが、市場価格のない非上場株式については、裁判所の許可を得て競売以外の方法で売却することができます(会社法235条2項による同法234条2項の準用)。
中小企業のスクイーズアウトでは、株式に市場価格がないため、この裁判所の許可申立てが事実上の必須手続きとなります。申立ては本店所在地を管轄する地方裁判所に対して行い、審理では売却価格の相当性が審査されます。第三者算定機関による株式価値算定書を添付し、価格の合理性を裏付ける資料を整えて臨む必要があります。
実務上の注意点として、取締役が2人以上いる場合、この許可の申立ては取締役全員の同意によって行わなければなりません(会社法234条3項)。一部の取締役が反対している場合には申立てができないため、取締役会の構成にも配慮が必要です。
注意点
裁判所の許可申立てには1〜2か月程度を要することがあり、これがM&Aのクロージングスケジュールを直接左右します。株式併合の効力が発生してから申立てを行う工程であるため、総会の日程だけを見て「2か月で完了する」と考えていると、実際には4か月近くかかることになります。逆算した日程管理を徹底してください。
端数株式の買取主体を誰にするかで結論が変わる
端数株式の売却先を誰にするかは、単なる事務上の選択ではありません。買取主体によって、財源規制の適用と株主側の課税関係が大きく変わります。
会社法234条4項(235条2項で準用)により、裁判所の許可を得て会社自身が端数株式を買い取ることも可能です。この場合、自己株式の取得に該当するため、会社法461条1項7号により分配可能額の範囲内でしか実行できません。取得対価が分配可能額を超えれば、そもそも実行不能です。
さらに、会社が自己株式として取得すると、交付される金銭のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額は、株主側でみなし配当として扱われる可能性があります。みなし配当は総合課税の対象となり、譲渡所得の申告分離課税(20.315%)と比較して税負担が大きく異なる場合があります。
これに対し、買い手企業や支配株主側の法人・個人が端数株式を取得する設計であれば、財源規制はかからず、株主側の課税も譲渡所得として整理されます。M&Aと組み合わせる場合には、買い手が端数株式を取得する形にしておくのが実務上のセオリーです。
5. 相続で株式が準共有となっている場合の手続き上の論点
準共有株式には権利行使者の指定が必要(会社法106条)
株主が死亡し、遺産分割が未了の場合、その株式は預貯金のように法定相続分で当然に分割されるのではなく、相続人全員の準共有となります。この状態にある株式については、会社法106条により、共有者が権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません。
重要なのは、権利行使者は準共有株式の全部について議決権を行使するという点です。持分割合に応じた按分行使ではありません。例えば、持分の4分の3を有する相続人が権利行使者に指定されれば、その者は残り4分の1に対応する分も含めて、株式全体の議決権を投じることになります。
権利行使者の指定は、共有持分の過半数によって決するとするのが判例の立場です(最高裁平成9年1月28日判決)。全員の同意は不要であるため、持分の過半数を握るグループがあれば、所在不明の共有者がいても指定は可能です。逆に、持分の過半数を握る相続人が一人いれば、その者が単独で自らを権利行使者に指定することもできます。
注意点
会社が権利行使者からの通知を受け取った場合、その指定が共有持分の過半数による決定に基づくものかを検証する必要があります。最高裁平成27年2月19日判決は、会社が同意した場合であっても、民法の共有に関する規定に従った決定を欠くときは適法な権利行使とならないとしています。戸籍によって相続人と法定相続分を確定させないまま議決権行使を認めると、後日その決議が取り消されるおそれがあります。
招集通知は共有者の一人に送れば足りる(会社法126条4項)
相続人が多数に及ぶ場合、株主総会の招集通知を全員に発送しなければならないとすると、実務上の負担は膨大になります。この点について会社法126条4項は、株式が2以上の者の共有に属する場合において、共有者が通知を受領する者を定めて会社に通知していないときは、共有者の一人に対して通知すれば足りると定めています。
また、株主に対する通知は株主名簿に記載された住所に宛てて発すれば足り、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(会社法126条1項・2項)。つまり招集通知は発信主義で足り、宛先不明で返戻されたとしても、適時に発送している限り招集手続きの瑕疵にはなりません。
もっとも、法律上一人に送れば足りるからといって、判明している相続人への送付を意図的に絞ることは推奨されません。126条4項は会社の事務負担を軽減するための下限を定めた規定であり、それ以上の送付を禁じるものではありません。スクイーズアウトという少数株主の財産権に重大な影響を及ぼす局面では、戸籍と戸籍の附票の調査によって住所が判明した相続人には広く発送し、その調査経緯と発送記録を保全しておく方が、後日の決議取消訴訟に対する備えとして遥かに有効です。
ポイント
送付先の選び方が恣意的だと疑われないようにするには、「賛成が見込める相続人だけに送った」と見える外形を避けることが肝要です。「戸籍と附票の調査によって住所が判明した者すべてに送付した」という客観的な基準を立て、調査記録・発送記録・返戻物を一件記録として残してください。基準を明示できれば、選別の主張は成り立ちません。
権利行使者が指定されない場合、議決権はどう扱うか
総会までに権利行使者の指定・通知がなく、会社法106条ただし書に基づく会社の同意もない場合、当該準共有株式は議決権を行使できません。最高裁平成11年12月14日判決は、権利行使者の指定・通知を欠く場合には特段の事情がない限り権利行使は認められないとしています。
この場合の実務上の取扱いは、「欠席」として出席議決権数に算入しないのが原則です。棄権は議決権を行使できる株主が出席したうえで賛否を投じない場合を指すのに対し、準共有株式はそもそも行使できる状態にないためです。
ただし、当該株式の議決権そのものが法律上消滅しているわけではないため、会社法309条2項の「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権」という定足数の母数には算入するのが保守的な取扱いとなります。結果として、分母には入るが分子には入らないという形になり、定足数を押し上げる方向に働きます。もっとも、この点は解釈が分かれる論点です。定足数がぎりぎりの案件では、議事運営の方針をあらかじめ弁護士と固め、議事録にその取扱いを明記しておく必要があります。
なお、会社が権利行使者の指定を促すことは法律上の義務ではありません。指定義務の名宛人は共有者であり、指定がないまま決議を行っても手続きの瑕疵にはなりません。もっとも、M&Aのデューデリジェンス対応や後日の価格紛争を見据えれば、具体的事案によりますが、招集通知に「権利行使者を指定される場合はご連絡ください」という一文を添えておくことも検討すべきといえます。
権利行使者でも株式を売却することはできない
準共有株式を巡って最も誤解が多いのが、権利行使者の権限の範囲です。会社法106条が与えるのは、対会社関係における権利行使の権限であって、共有物そのものの処分権限ではありません。
権利行使者の指定は共有持分の過半数で足りる「管理行為」であるのに対し、共有物全体の譲渡は「処分行為」にあたり、共有者全員の同意を要すると解されています(民法251条1項参照)。過半数で選ばれた者に、全員一致でなければできない行為の権限が生じるという帰結は成り立ちません。したがって、権利行使者は、議決権行使、剰余金配当の受領、帳簿閲覧請求などの権利行使はできても、株式全体を第三者に譲渡することはできません。
この帰結は、M&Aの実務において決定的な意味を持ちます。相続によって準共有となっている株式は、権利行使者を立てたとしても任意譲渡によって買い手に移転させることができません。海外在住者を含む相続人全員から実印と印鑑証明書を集めなければならず、事実上不可能です。
それ故、準共有株式が残っている案件では株式併合によるスクイーズアウトが王道となります。株式併合は株主総会の特別決議のみで実行でき、少数株主の同意も、処分行為への関与も一切必要ありません。「準共有株式は任意では買えないが、併合ならば端数として金銭化できる」という構造を理解しておくことが、スキーム選択の出発点です。
6. 所在不明株主・連絡の取れない株主への手続き
所在不明株主の株式売却制度(会社法197条)との使い分け
所在不明株主への対応手段として、会社法197条の所在不明株主の株式売却制度があります。株主に対する通知または催告が5年以上継続して到達せず、かつ、その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合に、会社が当該株式を競売または売却できる制度です。
この制度は恒久的な解決策として有効ですが、通知が5年以上継続して到達していないことが要件となるため、M&Aのスケジュールには乗りません。さらに実務上の難点として、毎年の通知の発送と返戻の記録を継続的に保全していなければ、5年間不到達であった事実を立証できないという問題があります。要件を実質的には満たしていても、記録が残っていないために手続きに進めない会社は少なくありません。
これに対し、株式併合によるスクイーズアウトであれば、所在不明株主も含めてすべての少数株主を一度に処理できます。所要期間も数か月にとどまるため、M&Aと連動させる場合には株式併合を選択するのが合理的です。所在不明株主の存在それ自体は、スクイーズアウトの障害にはなりません。
通知が届かなくても手続きは進む|発信主義と公告による代替
所在不明株主がいる場合に最も心配されるのは、「通知が届かないことによって手続きに瑕疵が生じるのではないか」という点です。結論から申し上げると、その心配は概ね不要です。
第一に、株主に対する通知は株主名簿上の住所に宛てて発すれば足り、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(会社法126条1項・2項)。住所変更の届出をしない株主の不利益は株主側が負担するという制度設計であり、宛先不明で返戻されても招集手続き違反にはなりません。
第二に、株式併合に関する株主への通知は、公告によって代替することができます(会社法181条2項)。1株未満の端数が生ずる場合、その期限は効力発生日の20日前までに前倒しされますが(同法182条の4第3項による181条1項の読み替え)、公告で代替できる点は変わりません。所在不明株主に対しては公告を行っておけば、通知義務は履践されたことになります。ただし、特別支配株主の株式等売渡請求では売渡株主への通知を公告で代替できないため(同法179条の4第2項)、この点でも所在不明株主を抱える会社には株式併合の方が適しています。
ポイント
発送記録は必ず保全してください。「発した」ことの立証責任は会社側にあります。国内であれば特定記録郵便や書留、海外であればEMSや国際書留など追跡記録が残る手段を用い、引受記録・追跡結果・返戻封筒をすべて保管しておきます。株主名簿と発送先の一覧、調査に用いた戸籍や附票の写しも併せて一件記録としてまとめておくと、デューデリジェンスにもそのまま対応できます。
端数代金は供託によって処理する
株式併合の効力が発生し、裁判所の許可を得て端数株式を売却した後、その代金を端数に応じて交付することになります。ここで所在不明株主や、遺産分割が未了の相続人が対象となる場合、そもそも代金を渡す相手に届けられないという問題が生じます。
この場合の実務上の解決策が、民法494条に基づく弁済供託です。供託によって会社は債務を免れることができ、遺産分割の帰趨や株主の所在判明を待つ必要がなくなります。海外在住者への送金実務も回避できるため、相続人が多数に及ぶ案件では第一選択となります。
ただし、供託は要件を満たす場合にしか効力を生じません。要件を欠く供託は無効であり、会社は免責を得られず支払義務が残ります。供託の原因は、大きく次の3つに整理されます。
| 根拠 | 事由 | 実務上の使い分け |
|---|---|---|
| 民法494条1項1号 | 受領拒絶(弁済を提供したが受領しない) | 所在は判明しているが受領を拒む株主 |
| 民法494条1項2号 | 受領不能(所在不明・受領能力の欠如) | 債権者は特定できているが受け取れない場合。被供託者を個別に特定して供託するため、後日その者が単独で還付請求できる |
| 民法494条2項 | 受領権者不確知(過失なく債権者を確知できない) | 遺産分割未了で帰属が未確定の場合など。被供託者を択一的に表示するため、還付には他の被供託者の承諾書や確定判決が必要になる |
注意点
所在も帰属も明らかな株主については、そもそも供託の要件を欠きます。この場合は供託ではなく直接支払わなければなりません。また、一部の相続人に直接支払いながら残りを「受領権者不確知」で供託すると、会社自身が帰属を確知していることを行為で示すことになり、供託が無効となるおそれがあります。どの原因で供託するかという方針を先に固定し、対象者全員について一貫した処理を行ってください。供託書案の段階で管轄供託所に照会しておくことを強くお勧めします。
7. 少数株主の対抗手段と、手続きの瑕疵を防ぐ実務
差止請求と株主総会決議取消しの訴え
少数株主が最初に採りうる対抗手段が差止請求です。株式併合については会社法182条の3が、株式等売渡請求については同法179条の7が根拠条文となります。株式併合の場合、併合が法令または定款に違反し、株主が不利益を受けるおそれがあるときに差止めを請求できます。
要件が「法令または定款に違反する場合」である以上、手続きを適法に履践していれば、差止請求は入口で失当となります。逆に言えば、通知・公告の期限を1日でも徒過していれば、そこが攻撃の突破口になります。法定期限の管理が防御の中核です。
株式併合や全部取得条項付種類株式を用いる場合には、株主総会の特別決議に瑕疵があれば決議取消しの訴えを提起される可能性があります(会社法831条1項)。招集通知の不備、説明義務違反、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議などが典型的な争点です。提訴期間は決議の日から3か月であり、効力発生日ではなく決議の日が起算点である点に注意が必要です。
株式買取請求権と価格決定の申立て
株式併合により1株未満の端数が生ずる場合、反対株主は会社に対して公正な価格での買取りを請求できます(会社法182条の4第1項)。請求の対象となるのは保有株式の全部ではなく、1株に満たない端数となる部分に限られる点に注意が必要です。
ここでいう反対株主とは、①株主総会に先立って併合に反対する旨を会社に通知し、かつ当該総会で実際に反対の議決権を行使した株主(当該総会で議決権を行使できる者に限る)、または②当該株主総会において議決権を行使することができない株主のいずれかをいいます(同条2項)。議決権のない株主も反対株主に含まれる点は見落とされやすいところです。総会で賛成した株主や、事前の反対通知を怠った株主には請求権が生じません。
買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、対象となる株式の数を明らかにして行う必要があります(同条4項)。この期間を徒過すると権利を行使できません。会社側としても、この期間中に請求が到達したかどうかを正確に記録しておく必要があります。
買取請求がなされた場合、まず会社と株主の間で価格の協議が行われます。効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間の満了の日後30日以内に、株主または会社が裁判所に価格決定の申立てを行うことができます(会社法182条の5第2項)。
| 手法 | 価格決定申立ての期間 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 株式等売渡請求 | 取得日の20日前の日から取得日の前日まで | 会社法179条の8 |
| 株式併合 | 効力発生日から30日以内に協議が調わない場合、その期間の満了の日後30日以内 | 会社法182条の5第2項 |
実務上、手続きを適法に進めている案件で実際の争点となるのは、ほぼ例外なく価格です。差止請求も決議取消訴訟も要件が厳格であるのに対し、価格決定の申立ては対価に不満があれば誰でも申し立てられます。会社側の準備の重心は、招集手続きよりも価格算定の合理性に置くべきです。
手続きの瑕疵を防ぐために整備すべき書類
後日の訴訟や申立てに備えるためには、判断過程を裏付ける資料を手続きの各段階で作成し、保全しておく必要があります。少なくとも次の書類は整えてください。
- 独立した第三者算定機関による株式価値算定書(算定の目的・手法・前提条件を明記したもの)
- 併合割合の相当性の理由を記載した事前開示書面(会社法182条の2)
- 取締役会議事録(手法選択の理由、価格算定の検討過程、算定機関の選定理由を記載)
- 株主総会議事録(総議決権数、出席議決権数、賛否の内訳、準共有株式の取扱いを明記)
- 招集通知の発送先一覧、発送方法、追跡記録、返戻物
- 株主の特定に用いた戸籍・戸籍の附票等の調査記録
- 公告を行った場合の官報等の写し
- 事後開示書面(会社法182条の6)
ポイント
株主総会議事録には、準共有株式の議決権をどう扱ったかを明示しておくことをお勧めします。権利行使者の氏名、指定通知の受領日、持分の過半数を戸籍で確認した旨、当該議決権を定足数の母数に算入し出席議決権に算入しなかった旨まで記載しておけば、後日の争点化を未然に防げます。
8. 買取価格・併合比率の設計と公正性の担保
非上場株式の価格算定における3つのアプローチ
非上場株式には市場価格が存在しないため、価格の相当性は算定手法の合理性によって説明するほかありません。株式価値の算定手法は、大きく3つのアプローチに整理されます。
- インカム・アプローチは、将来生み出されるキャッシュフローの現在価値から企業価値を求める考え方で、DCF法が代表例です。事業計画の確度が高く、収益力に価値の源泉がある会社に適しています。
- マーケット・アプローチは、類似する上場会社の株価倍率や類似取引の価格を参照する考え方で、類似会社比較法が用いられます。
- コスト・アプローチは、資産と負債の実態から純資産価値を把握する考え方で、時価純資産法が代表例です。不動産や有価証券を多く保有する資産保有型の会社では、こちらが重視されます。
実務では、対象会社の事業特性と資産構成に応じて複数の手法を併用し、それぞれの結果を突き合わせて価格レンジを設定します。単一の手法だけで結論を出すと、算定の前提が一つ崩れただけで価格全体の信頼性が失われるためです。
手続きの公正性を担保する仕組み
価格が客観的に妥当であっても、その決定過程が不透明であれば、少数株主の不信を招き紛争の火種になります。経済産業省は2023年8月に「企業買収における行動指針」を策定し、企業価値・株主共同の利益、株主意思、透明性という3つの原則を示しました(経済産業省「企業買収における行動指針」)。
この指針は上場会社の買収を主な対象としていますが、価格の合理性と意思決定過程の透明性を重視するという考え方は、非上場会社のスクイーズアウトにおいて説明責任を果たすうえでも参考になります。具体的には、独立した第三者算定機関の関与、社外取締役や監査役による検証、意思決定過程の文書化といった措置が、後日の説明を容易にします。
また、中小企業のM&Aについては、中小企業庁が「中小M&Aガイドライン」を策定し、支援機関に対する行動規範を示しています(中小企業庁「中小M&Aガイドライン」)。仲介者やフィナンシャル・アドバイザー(FA)を起用する場合には、当該支援機関がガイドラインの遵守を宣言しているかを確認しておくとよいでしょう。
M&A譲渡価額と端数代金の単価を一致させる
100%株式譲渡とスクイーズアウトを組み合わせる場合に、最も強力な防御となるのが「単価の一致」です。すなわち、相対取得した株式の1株当たり譲渡価額と、端数処理によって交付する1株当たり代金を同一の水準に揃えることです。
単価が一致していれば、「一部の株主だけが有利な条件で売り抜けた」「締め出された株主だけが不当に安い対価しか受け取っていない」という主張は成り立ちません。逆に単価に差を設けると、その差額こそが価格決定手続きにおける争点となり、案件全体が攻撃の対象になります。
実務上は、事前開示書面に端数代金の単価が譲渡価額と同一である旨を明記し、取締役会議事録と株主総会議事録にも単価の同一性を確認した記録を残します。裁判所の許可申立てにおいて売却価格の相当性の審査を経ておくことも、後日の防御材料として機能します。
注意点
M&Aの進行中に行うスクイーズアウトでは、その譲渡価額が「時価」の有力な参考値になります。支配権プレミアムを含む譲渡価額を基準として端数代金が算定される可能性が高く、「安く追い出す手段」としては機能しないと考えておくべきです。スクイーズアウトは価格を切り下げる制度ではなく、合意に至らない株主との取引を強制的に成立させる制度である、という理解が実務上の正しい前提です。
9. スクイーズアウトの税務上の取扱い
譲渡所得とみなし配当の区分
スクイーズアウトで交付される対価は、株主側で譲渡所得またはみなし配当のいずれかに区分されます。どちらに該当するかは、誰が株式を取得するかによって決まります。
特別支配株主や買い手企業、支配株主側の個人・法人が株式を取得する場合、株主にとっては通常の株式譲渡となり、譲渡所得として申告分離課税の対象となります。個人株主の場合の税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。
これに対し、会社自身が自己株式として取得する形になる場合は、交付金銭のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額がみなし配当として扱われます。みなし配当は配当所得として源泉徴収の対象となり、総合課税の場合には累進税率が適用されるため、譲渡所得と比較して税負担が大きく異なることがあります。
ポイント
端数処理の買取主体を会社にするか買い手にするかという設計上の選択が、株主側の手取り額を大きく左右します。財源規制の観点と併せて、買い手または支配株主側が取得する設計を第一に検討するのが一般的となります。
相続で取得した株式に関する2つの特例
相続によって取得した株式をスクイーズアウトで手放す場合、租税特別措置法に2つの重要な特例があります。
1つ目は、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算の特例)です。相続の開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に相続財産である株式を譲渡した場合、支払った相続税額のうち一定額を取得費に加算できます。相続税の申告期限は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内であるため、実務上は相続開始から約3年10か月以内が目安となります。譲渡益が圧縮されるため、税負担の軽減効果は小さくありません。
2つ目は、相続財産に係る株式を発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例です。適用期間は取得費加算の特例と同じく、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。この期間内であれば、発行会社への譲渡であってもみなし配当課税が適用されず、全額が譲渡所得として扱われます。
いずれも期間制限があり、しかも起算点が相続開始日である一方で終期が申告期限を基準に定まるため、日付の判定を誤りやすい特例です。相続の発生からどれだけ経過しているかを早い段階で確認しておく必要があります。相続に起因する株式分散を解消する案件では、この期間内に手続きを完了させられるかどうかが、株主の手取り額に直接影響します。
会社側の税務と財源規制
会社が自己株式を取得する形となる場合、会社法461条の分配可能額による財源規制がかかります。株式併合の端数処理として会社が買い取る場合(会社法234条4項・235条2項)も、同法461条1項7号により分配可能額の範囲内でしか実行できません。分配可能額を超える取得は違法配当となり、取締役等が責任を負うことになります(会社法462条)。
また、株式併合や株式等売渡請求によって完全子会社化を達成した場合、一定の要件を満たせば組織再編税制の適用を受けられる場合があります。グループ通算制度を採用している企業グループでは、完全支配関係の成立によって繰越欠損金の取扱いなどに影響が生じます。
株式交換を用いる場合は、対価の内容によって適格要件の充足が左右されます。金銭その他の資産を対価とする場合には非適格となる可能性があるため、法務のスキーム設計と並行して税務の検討を進めることが不可欠です。
注意点
スクイーズアウトの税務は、手法名だけで結論が決まるものではありません。同じ株式併合であっても、端数の買取主体、対価の水準、株主の属性(個人か法人か、居住者か非居住者か)によって課税関係が変わります。非居住者である相続人が含まれる場合には、源泉徴収義務の有無も確認が必要です。スキームを固定する前に、必ず税理士による事前検証を受けてください。
10. 100%株式譲渡とスクイーズアウトを組み合わせる場合の実務
買える株式はSPAで先に買い、手続きの対象を絞る
M&Aで100%の株式譲渡を実現する場面では、スクイーズアウトの対象をどこまで広げるかという設計判断が重要になります。結論から申し上げると、相対取得が可能な株式はすべて株式譲渡契約(SPA)で先に取得し、任意譲渡が不可能な株式だけを株式併合の対象とするのが最善です。
この設計には4つの利点があります。
- 第一に、併合比率の制約が大幅に緩みます。残す株式が買い手1名に集約されれば、支配株主側の少額保有者を巻き込む心配がなくなります。
- 第二に、SPAで譲渡した株主は合意価格で確実に対価を受け取れます。
- 第三に、端数処理の対象が絞られるため、裁判所の許可申立ても供託手続きも規模が小さくなります。
- 第四に、株式併合に賛成した株主は会社法182条の4第2項の反対株主要件を満たさず買取請求権を失うところ、SPAで先に譲渡していればそもそもこの不利益を負いません。
とりわけ、相続によって準共有となっている株式のように「任意譲渡が構造的に不可能な株式」が存在する案件では、この切り分けが決定的です。準共有株式は共有者全員の同意がなければ処分できませんが、株式併合であれば特別決議のみで金銭化できます。両者を混ぜずに、それぞれ適切な手段で処理する設計が最も効率的です。
表明保証・クロージング条件との関係
買い手のデューデリジェンスにおいて、スクイーズアウトの適法性は必ず精査されます。SPAでは通常、株主構成の正確性、株式の有効な発行、第三者の権利の不存在といった事項について表明保証が求められ、スクイーズアウト手続きの完了がクロージング条件として設定されます。
ここで問題になりやすいのが、手続きを法律上の最低限で済ませた場合です。たとえば準共有株式について「共有者の一人にだけ招集通知を送りました」という説明は、会社法126条4項に照らせば適法ですが、買い手側の弁護士は「判明する限り全員に通知した記録」を求めてきます。法的義務を超えた対応をしておくことが、結果として交渉を円滑にします。
また、少数株主から価格決定の申立てがなされる可能性が残る場合には、その追加負担を誰が負うかが交渉事項になります。エスクローや留保金の設定、補償条項の対象範囲について、あらかじめ整理しておくことが望まれます。
ポイント
スクイーズアウトを伴うM&Aでは、株主総会の招集通知の文面、事前開示書面の記載、議事録の記載までが、そのままデューデリジェンスの対象資料になります。「後で説明すればよい」と考えず、作成の段階から第三者に読まれる前提で整えておくことが、案件全体のスピードを左右します。
株主名簿が不存在・不備の場合の復元作業
中小企業の実務では、株主名簿が作成されていない、あるいは長年更新されていないというケースが少なくありません。株主名簿の備置義務違反は過料の対象となり得るほか(会社法976条8号)、M&Aのデューデリジェンスでは重大な指摘事項となります。
会社法には不動産登記のような滅失回復の制度がないため、客観資料から株主構成を復元し、会社の責任で作り直すことになります。復元の資料として最も有用なのが、法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)です。毎期提出されているため、株主の氏名・住所・株式数の時系列変動を追うことができます。
これに加えて、登記簿による発行済株式総数の変遷、株式譲渡承認に関する取締役会・株主総会の議事録、過去の株主総会議事録に記載された出席議決権数、配当金の支払記録などを突き合わせて株主構成を確定させます。復元後は、各株主から株主名簿記載内容の確認書を取得しておくと、名簿の信頼性を担保できます。
注意点
復元作業の過程で、過去に譲渡承認手続きを経ていない株式の移転(無承認譲渡)や、設立時の発起人要件を満たすための名義株が発覚することがあります。これらは議決権比率の前提を根本から覆す可能性があるため、スクイーズアウトの設計に入る前に洗い出しておく必要があります。株主名簿の復元は、単なる事務作業ではなく、手続き全体の前提を固める工程です。
11. スクイーズアウト着手前の確認チェックリスト
ここまで解説した内容を、着手前に確認すべき事項として整理します。手続きに入ってからでは後戻りが困難な項目ばかりですので、順に潰していくことをお勧めします。
| 区分 | 確認事項 |
|---|---|
| 株主・議決権 | 発行済株式総数、自己株式数、議決権のある株式数を実数で確定しているか。株主名簿が整備され、各株主の株数が確認できるか。相続が発生している株式について、戸籍により相続人と法定相続分を確定しているか。 |
| 定款 | 譲渡制限の定め、株券発行の有無、単元株制度の有無、株主総会の定足数に関する定め、相続人等に対する売渡請求(会社法174条)の定めを確認しているか。 |
| 手法選択 | 議決権比率に照らして、株式等売渡請求と株式併合のどちらが使えるかを判定しているか。特別決議が全員出席の場合でも可決できるかを株数ベースで検算しているか。 |
| 併合比率 | 締め出す株主が確実に1株未満となり、かつ残す株主全員が1株以上となる比率を設定しているか。効力発生後の株式分割まで織り込んでいるか。 |
| 価格 | 第三者算定機関による株式価値算定書を取得しているか。M&Aの譲渡価額と端数代金の単価が一致しているか。 |
| スケジュール | 事前開示の備置開始日、株主総会の招集通知、181条1項の通知または同条2項の公告(端数が生ずる場合は効力発生日の20日前まで)、効力発生日、変更登記、裁判所の許可申立て、端数売却、代金交付の各期限を逆算して設定しているか。反対株主の買取請求期間と価格決定申立期間を管理する体制があるか。 |
| 端数処理 | 端数株式の買取主体を決定しているか。裁判所の許可申立てについて取締役全員の同意を得られるか。代金の交付方法(直接支払か供託か)と供託原因を決定し、管轄供託所に事前照会しているか。 |
| 税務 | 株主側の課税区分(譲渡所得かみなし配当か)を確認しているか。相続関連の特例の適用期間内か。財源規制に抵触しないか。非居住者株主に係る源泉徴収の要否を確認しているか。 |
| 書類 | 算定書、事前開示書面、取締役会議事録、株主総会議事録、通知の発送記録、公告の写し、事後開示書面を整備・保全する体制ができているか。 |
12. まとめ
スクイーズアウトの手続きについて、手法の選択から端数処理、相続や所在不明株主への対応までを解説しました。要点を整理します。
- 議決権90%以上であれば株式等売渡請求、3分の2以上の特別決議を可決できるなら株式併合が基本の選択肢となる。ただし、「3分の2を保有していれば当然に可決できる」わけではなく、株数ベースでの検算が不可欠。
- 株式併合では併合比率の設計が要。残したい株主を巻き込まないよう、相対取得できる株式は先に集約してから併合に入るのが最も安全。
- 非上場株式の端数処理には裁判所の許可が必要で、1〜2か月を要する。これがスケジュール上のクリティカルパスになる。
- 相続により準共有となった株式は任意譲渡ができないため、株式併合が事実上の唯一の解決策。権利行使者の指定が持分の過半数によることを戸籍で検証する必要がある。
- 所在不明株主がいても手続きは進む。通知は発信主義であり、株式併合の通知は公告で代替できる。端数代金は供託によって処理する。
- 手続きを適法に履践している案件で実際に争われるのは、ほぼ価格。第三者算定書の取得と、M&A譲渡価額との単価の一致が最大の防御になる。
スクイーズアウトは、会社法・相続法・税務の3分野が交差する領域です。とりわけ相続によって株式が分散した非上場企業の案件では、戸籍調査による相続人の確定、準共有株式の議決権処理、端数代金の供託といった論点が同時に発生し、いずれか一つでも判断を誤れば手続き全体がやり直しになりかねません。
まずは、発行済株式総数・自己株式・各株主の持株数を実数で確定させ、株主名簿を整備することから始めてください。この作業を済ませれば、使える手法と必要な期間はほぼ機械的に導けます。
弁護士・税理士を含む専門家チームにより、株主構成の整理からスクイーズアウトの実行、100%株式譲渡のクロージングまでを一貫してご支援しています。株式の分散や少数株主への対応にお悩みの経営者の方は、お早めにご相談ください。手続きの設計段階からご一緒することで、選択肢を狭めずに進めることができます。
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