会社分割とは?吸収分割・新設分割の違いと法的要件・手続きの流れを実務目線で解説

会社分割とは?新設・吸収分割を解説

「複数ある事業のうち、一つだけを切り出して売却したいが、どのスキームを使えばよいのか分からない」「会社分割と事業譲渡は何が違うのか、取引先との契約や従業員の雇用はどうなるのか不安だ」「手続きにどれくらいの期間と費用がかかるのか、まったく見当がつかない」——M&Aや組織再編をご検討中の経営者の方から、こうしたご相談を数多くいただきます。

会社分割とは、会社が営む事業に関して有する権利義務の全部または一部を、包括的に他の会社へ承継させる会社法上の組織再編行為です。

本記事では、会社分割の定義と「包括承継」という本質から、吸収分割と新設分割の違い、会社法・労働契約承継法が定める法的要件、実際の手続きの流れとスケジュール、実務で使われる典型的な適用場面、さらに許認可の承継可否や詐害的会社分割といった論点まで、専門家の現場目線で網羅的に解説します。

目次

1. 会社分割とは?会社法における定義と「包括承継」という本質

会社分割の定義と会社法上の位置づけ

会社分割とは、株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に包括的に承継させる会社法上の組織再編行為です。承継先が既存の会社である場合を「吸収分割」、会社分割にあたって新たに設立する会社である場合を「新設分割」といいます。会社法第2条第29号が吸収分割を、同条第30号が新設分割をそれぞれ定義し、具体的な手続きは会社法第5編(組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付)の第3章および第5章、条文でいえば第757条から第766条、ならびに第782条以下の手続規定に置かれています(e-Gov法令検索「会社法」)。

混同されやすい他のスキームとの位置関係を整理すると、会社分割の特徴が見えやすくなります。合併は、消滅会社の権利義務のすべてが存続会社に移り、消滅会社の法人格そのものが失われます。これに対して、会社分割では、分割会社は分割後も法人格を保ったまま存続し、切り出さなかった事業の運営主体として活動を続けます。また、株式譲渡は、会社の「株式」という所有権が移転するだけで、会社そのものは何ら変わりません。会社分割は「事業という単位で、法人格を超えて権利義務を動かす」という点で、これらのいずれとも異なる独自の位置を占めています。

さらに実務上重要なのは、会社分割で移す権利義務の範囲を、分割契約書または分割計画書の中で当事者が設計できるという点です。「この事業に属する資産・負債・契約はすべて移す」「ただし、この不動産とこの借入金は残す」といった線引きが可能であり、この設計自由度の高さこそが、会社分割を組織再編・M&Aの中核的なツールたらしめています。逆にいえば、設計を誤れば移したくないものまで移り、残したくないものが残るという事態を招きます。

ポイント
会社分割は「会社を丸ごと動かす合併・株式譲渡」と「資産を一つずつ動かす事業譲渡」の中間に位置する、極めて設計自由度の高いスキームです。まずは自社が実現したいゴール(一部事業だけを売りたいのか、グループ内で器を作りたいのか、後継者ごとに事業を分けたいのか)を言語化したうえで、会社分割が本当に最適解かをスキーム比較の中で検討することをおすすめします。

「包括承継」が意味すること|事業譲渡との決定的な差

会社分割の最大の特徴は「包括承継」である点にあります。包括承継とは、分割契約書・分割計画書で定めた範囲の権利義務が、個々の資産・負債・契約について個別の移転手続きを踏むことなく、法律上当然に、まとめて承継会社へ移転することをいいます。取引基本契約、業務委託契約、リース契約、事務所の賃貸借契約、雇用契約、金融機関からの借入債務、売掛金・買掛金といったものが、原則としてそのまま承継先に移ります。

これに対して事業譲渡は「特定承継」です。個々の資産は個別に売買され、債務を引き継ぐには債権者の承諾が必要となり(民法第472条)、契約上の地位を移転するには契約の相手方の承諾が必要になります(民法第539条の2)。取引先が数十社程度であれば同意取得も何とかなりますが、契約が数百本ある事業、あるいは顧客が数千人いるサブスクリプション型の事業では、同意取得の実務負荷は桁違いになり、一部の相手方が同意しないだけで事業の一体性が損なわれます。「なぜ手続要件の重い会社分割をあえて使うのか」という問いへの最も本質的な答えが、この包括承継の実務的な威力です。

従業員の扱いも大きく異なります。事業譲渡では労働契約の移転に労働者本人の個別同意が必要ですが(民法第625条第1項)、会社分割では労働契約も包括承継の対象となり、原則として個別同意なしに承継されます。ただし、労働者保護の観点から、後述する労働契約承継法に基づく協議・通知・異議申出の手続きが別途要求されます。「同意不要だから何もしなくてよい」という意味ではない点に注意が必要です。

注意点
包括承継であっても万能ではありません。取引基本契約やリース契約、フランチャイズ契約、ソフトウェアのライセンス契約などには「組織再編があった場合、相手方は事前承諾なく解除できる」というチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が入っていることが少なくありません。この条項があると、包括承継で契約が移転しても、相手方から解除されてしまえば意味がありません。主要取引先・主要仕入先・主要な賃貸借契約については、会社分割の設計に入る前段階で契約書を洗い出し、COC条項の有無と事前承諾の要否を必ず確認してください。

会社分割ができる会社・できない会社

会社分割を行える会社の形態には法律上の制限があります。分割会社(事業を切り出す側)になれるのは、株式会社と合同会社のみです(会社法第757条、第762条)。合名会社および合資会社は、分割会社になることができません。一方、吸収分割承継会社や新設分割設立会社(事業を受け取る側)については、持分会社を含むすべての会社形態が可能です。

実務上問題になるのが「特例有限会社」です。会社法施行前の有限会社が、そのまま存続しているケースがこれにあたります。特例有限会社は、吸収分割承継会社および新設分割設立会社になることができません(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第37条)。地方の中堅企業やオーナー企業のグループには、いまだに特例有限会社が残っていることが珍しくありません。この場合、事業を受け取る側にしたいのであれば、あらかじめ商号変更の手続きを経て株式会社へ移行しておく必要があります。移行手続きには通常2週間から1か月程度を要するため、スケジュールに織り込んでおかなければなりません。

なお、外国会社は日本の会社法上の会社分割の当事者になることができません。クロスボーダーの組織再編を検討する場合は、いったん日本法人を設立したうえで国内の会社分割を行い、その株式を外国法人に譲渡するといった二段階のスキームを組むのが一般的です。

2. 吸収分割と新設分割の違い|比較表で理解する使い分け

吸収分割とは|既存会社に事業を承継させる手法

吸収分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後に既に存在する他の会社に承継させる会社分割です(会社法第2条第29号)。当事者となる分割会社と承継会社の両社が「吸収分割契約」を締結し、それぞれの会社で承認手続きを行います。効力が発生するのは、吸収分割契約で定めた効力発生日です(会社法第759条第1項)。

吸収分割の実務上の最大の強みは、対価設計の自由度にあります。承継会社が分割会社に交付する対価は、承継会社の株式に限られず、金銭、社債、新株予約権、その他の財産を用いることができます(会社法第758条第4号)。つまり、対価を全額現金にすれば、経済的には事業譲渡とほぼ同じ「事業の売買」を、包括承継のメリットを享受しながら実現できるということです。第三者へのカーブアウト型M&Aで吸収分割が選ばれる最大の理由がここにあります。

一方で、承継会社側にも株主総会の特別決議や債権者保護手続きが原則として必要になるため、当事者2社の足並みを揃えなければならないという運営上の負担が生じます。特に、承継会社が上場会社である場合は適時開示や金融商品取引法上の手続きも重なるため、スケジュール管理は分割会社側だけでは完結しません。

新設分割とは|新たに設立する会社に承継させる手法

新設分割とは、1社または2社以上の会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、会社分割によって新たに設立する会社に承継させる会社分割です(会社法第2条第30号)。承継先の会社はまだ存在しないため、契約の相手方がおらず、「吸収分割契約」ではなく分割会社が単独で作成する「新設分割計画」に基づいて手続きを進めます(会社法第762条第1項)。

新設分割で押さえておくべき固有の論点が二つあります。第一に、効力発生日は自分で自由に設定できません。新設分割の効力は、新設分割設立会社の設立登記の日に生じます(会社法第764条第1項、第924条)。登記が完了した日が効力発生日になるため、決算期をまたぐ設計や、他の契約のクロージング日と厳密に合わせたい場合には、法務局の処理期間を織り込んだ余裕あるスケジューリングが不可欠です。第二に、対価は設立会社の株式・社債・新株予約権等に限られ、金銭を対価とすることができません(会社法第763条第1項第6号以下)。「新設分割で事業を売って現金を得る」ということは直接にはできず、実務では「新設分割で器を作り、その株式を譲渡して現金化する」という二段階のスキームが採られます。

ポイント
新設分割は「切り出した事業を、独立した器(会社)に入れる」ための手法だと理解すると、用途が明確になります。持株会社化、分社化、後述する「会社分割+株式譲渡」の前工程、事業再生における第二会社方式の受け皿など、いずれも「まず器を作る」という発想で共通しています。逆に、既に相手が決まっていて事業を渡すだけなら、対価設計の自由な吸収分割のほうが素直です。

吸収分割と新設分割の比較表と選び方

吸収分割と新設分割は、名称こそ似ていますが、実務上の制約と使いどころは大きく異なります。以下の比較表で違いを俯瞰してください。

比較項目吸収分割新設分割
承継先既に存在する会社会社分割により新たに設立する会社
主な根拠条文会社法第757条〜第761条会社法第762条〜第766条
基礎となる書面吸収分割契約(当事者2社で締結)新設分割計画(分割会社が単独で作成)
効力発生日契約で定めた日(自由に設定可)設立登記の日(登記完了日に依存)
対価の種類株式・金銭・社債・新株予約権・その他財産設立会社の株式・社債・新株予約権等(金銭は不可
承継会社側の株主総会原則必要(簡易・略式で省略可)不要(会社が存在しないため)
略式分割の適用あり(特別支配関係がある場合)なし(制度が存在しない)
債権者保護手続の対象分割会社・承継会社の双方分割会社のみ
許認可の取扱い承継会社が既に許可を有していれば活用余地あり設立会社は原則としてゼロから取得
おおよその所要期間3〜4か月(簡易分割なら1〜1.5か月)2.5〜3.5か月
主な用途第三者へのカーブアウトM&A、グループ内の事業移管持株会社化、分社化、株式譲渡の前工程、第二会社方式

選び方の基本原則はシンプルです。「事業を渡す相手がすでに決まっており、その相手が会社として存在している」なら吸収分割、「まず事業を独立させた器を作りたい」なら新設分割です。

第三者へのM&Aの場合、相手が決まっていても、あえて新設分割で切り出してからその株式を譲渡する「会社分割+株式譲渡」を選ぶことがあります。この使い分けの理由は後の章で詳述します。

注意点
「新設分割のほうが相手がいないぶん簡単そうだ」という直感は、必ずしも正しくありません。新設分割では、会社分割の手続きに加えて会社設立の手続き(定款作成、役員選任、資本金の計上証明、印鑑届出等)が並行して必要になり、書類の点数はむしろ増えます。また、設立会社は許認可も取引先口座もゼロからのスタートになるため、事業を動かし始めるまでの実務的な準備量は、既存会社に承継させる吸収分割より重くなるケースが少なくありません。

共同新設分割・共同吸収分割という例外類型

会社分割は分割会社1社と承継会社1社の間で行われるのが基本ですが、2社以上が同時に分割会社となり、同一の承継先へ事業を集約する形態も認められています。承継先が新設会社であれば「共同新設分割」、既存会社であれば「共同吸収分割」と呼ばれます。業界再編で複数社の同一事業を一つの会社に統合する場面や、合弁事業(ジョイントベンチャー)を組成する際に、両社がそれぞれの事業を持ち寄って新会社を設立する場面などで用いられます。

共同分割で見落とされやすいのが独占禁止法上の企業結合届出です。共同新設分割・吸収分割については、公正取引委員会への事前届出基準が個別に定められています。例えば、共同新設分割では、事業の全部を承継させようとする会社のうち1社の国内売上高合計額が200億円を超え、かつ他の1社(全部承継会社)の国内売上高合計額が50億円を超える場合などに届出が必要となります(公正取引委員会「分割の届出制度」)。届出が必要な場合、受理の日から30日間は分割を実行できない待機期間が設けられるため、スケジュールに直接影響します。

ポイント
一定規模以上のグループが関わる会社分割では、法務・税務のスケジュールとは別に、独占禁止法上の届出要否の判定を初期段階で行ってください。届出が必要と判明した場合、届出書類の準備に1〜2か月、受理後の待機期間に30日を要するため、想定より2〜3か月長いスケジュールを組む必要があります。判定は「企業結合集団」(最終親会社とその子会社群)単位の国内売上高で行う点にも注意が必要です。

新設分割と吸収分割それぞれの仕組みや所要期間については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
会社分割を分かりやすく解説|新設分割・吸収分割の違いと手続き・税務について

3. 分社型分割と分割型分割|対価の受取人で支配構造が変わる

分社型分割(物的分割)|親子関係をつくる

会社分割は、吸収分割・新設分割という「承継先による分類」とは別に、「対価を誰が受け取るか」という軸でも分類されます。分社型分割(旧来の呼称では「物的分割」)とは、事業を切り出した対価を分割会社自身が受け取る形態です。分割会社は承継会社の株式を保有することになり、対価が承継会社株式のすべてであれば、分割会社が承継会社の完全親会社となります。つまり、縦の関係(親子関係)が生まれます。

法人税法上は「分社型分割」という用語が定義されており(法人税法第2条第12号の10)、後述する適格判定もこの区分ごとに要件が定められています。実務での主な用途は、持株会社化、事業部門の子会社化(分社化)、そして第三者へのM&Aに向けた「切り出しの器づくり」です。オーナー企業が事業の一部を売却する際、新設分社型分割で事業を新会社に移し、その新会社株式を買い手に譲渡するという流れは、中小企業M&Aの定番スキームとなっています。

分割型分割(人的分割)|兄弟関係をつくる

分割型分割(旧来の呼称では「人的分割」)とは、事業を切り出した対価を分割会社の株主が受け取る形態です。分割会社の株主が承継会社の株式を直接保有することになるため、分割会社と承継会社は互いに資本関係のない横の関係(兄弟関係)となります。

注意すべきは、会社法上「人的分割」という独立した類型は存在しないという点です。2006年施行の会社法では、いったん分割会社が対価を受け取ったうえで、それを剰余金の配当(現物配当)として株主に交付するという二段階の構成で整理されました(会社法第758条第8号、第763条第1項第12号)。実務では一つの手続きとして行われますが、法律構成としては「分割+現物配当」であることが、後述する債権者保護手続きの範囲に影響します。税法上は「分割型分割」として定義されています(法人税法第2条第12号の9)。

分割型分割が最も威力を発揮するのは、後継者が複数いる事業承継の場面です。例えば、製造事業と不動産賃貸事業を営む会社で、長男に製造事業を、次男に不動産賃貸事業を承継させたいというケースでは、分割型分割で二つの会社に分け、それぞれの株式を長男・次男に集約することで、将来の兄弟間の経営権紛争を構造的に回避できます。共同経営を解消する「パートナーシップ・スプリット」でも同じ発想が用いられます。

比較項目分社型分割(物的分割)分割型分割(人的分割)
対価の受取人分割会社分割会社の株主
分割後の資本関係親子関係(縦)兄弟関係(横)
法人税法上の呼称分社型分割(法人税法第2条第12号の10)分割型分割(法人税法第2条第12号の9)
会社法上の構成分割のみ分割+剰余金の配当(現物配当)
債権者保護手続の範囲分割会社に請求できなくなる債権者等分割会社の債権者全員が対象
主な用途持株会社化、分社化、株式譲渡の前工程後継者が複数いる事業承継、共同経営の解消
株主段階の課税リスク原則として生じない非適格の場合はみなし配当が生じうる

注意点
分割型分割では、剰余金の配当を伴うため、分割会社の債権者「全員」が債権者保護手続きの対象となります(会社法第789条第1項第2号括弧書、第810条第1項第2号括弧書)。分社型分割であれば「分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者」に限定されるところ、分割型にした瞬間に手続きの対象が一気に広がります。取引先が多い会社では、この違いが官報公告と各別の催告の実務負荷を大きく左右します。分割型にするかどうかは、税務メリットだけでなく手続負荷の観点からも検討してください。

無対価分割の実務と落とし穴

100%の親子会社間や、同一の者に完全に支配されている兄弟会社間では、対価を一切交付しない「無対価分割」を行うことができます。グループ内の資産・事業の移動は経済的実質として持ち主が変わらないため、わざわざ株式を発行する必要がないという発想です。手続きが簡素になり、資本金の増加も生じないため、グループ内再編では広く用いられています。

しかし、無対価分割は、税務上の取扱いが独特です。無対価分割においては、そもそも分割型分割と分社型分割のいずれに該当するかを株主の保有関係から判定する必要があり、適格要件も無対価の場合に固有のルールが設けられています。国税庁の質疑応答事例では、100%子法人同士の無対価分割について、分割前後の完全支配関係の継続が見込まれることを前提に適格分割に該当すると整理されています(国税庁「分割対価資産がない分割型分割に係る適格判定について」)。裏を返せば、株主構成が少しでも異なると、意図せず非適格となり多額の課税が発生する余地があるということです。

注意点
無対価分割は「対価がないから簡単」と誤解されがちですが、実際には最も慎重な検討を要する類型です。法人税法上の適格判定、会計上の資本金等の額および利益積立金額の増減処理、不動産取得税の非課税判定は、それぞれ別の物差しで判断されます。特に、持株比率が100%でない兄弟会社間や、少数株主が混在する場合は、無対価としたことで適格要件を外れる可能性があります。無対価分割を検討する際は、必ず事前に税理士による適格判定と、必要に応じて所轄税務署への事前照会を行ってください。

4. 会社分割の法的要件|会社法・労働契約承継法が求める必須プロセス

分割契約・分割計画の法定記載事項

会社分割の出発点は、吸収分割契約または新設分割計画の作成です。これらには会社法が定める法定記載事項があり、これを欠くと会社分割自体が無効となるリスクがあります。吸収分割契約の記載事項は会社法第758条(承継会社が株式会社である場合)に、新設分割計画の記載事項は会社法第763条に定められています。

  • 分割会社および承継会社(設立会社)の商号・住所
  • 承継会社が分割会社から承継する資産・債務・雇用契約その他の権利義務に関する事項
  • 分割に際して交付する対価の内容および算定方法、割当てに関する事項
  • 分割会社が新株予約権を発行している場合の取扱い
  • 効力発生日(新設分割の場合は設立会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数等の定款記載事項)
  • 分割型分割とする場合における剰余金の配当または全部取得条項付種類株式の取得に関する事項

実務上最も神経を使うのが「承継する権利義務」の特定方法です。承継対象を一つずつ列挙する個別列挙方式は、承継されるものが明確になる一方、記載漏れがあればその権利義務は分割会社に残ってしまいます。逆に「承継対象事業に属する一切の権利義務」とする包括記載方式は漏れを防げますが、想定していなかった簿外債務や係争債務まで移転するリスクを抱えます。中小企業のM&Aでは、承継権利義務明細を別紙として詳細に作成したうえで、明細に記載のないものの帰属を定めるバスケット条項を組み合わせる設計が一般的です

ポイント
承継権利義務明細の作成は、事実上、社内の契約と資産負債の棚卸し作業そのものです。契約書のファイリングが整理されていない企業では、この作業だけで1〜2か月かかることも珍しくありません。会社分割を検討し始めた段階で、①契約書一覧の作成、②固定資産台帳と現物の突合、③リース・保証・担保の一覧化、④知的財産権の登録名義確認、の4点に着手しておくと、後工程が大幅に短縮できます。

事前開示・事後開示の備置義務

会社分割では、株主および債権者が判断材料を得られるよう、法定の開示書類を本店に備え置くことが義務付けられています。事前開示については、分割会社側は会社法第782条(吸収分割)・第803条(新設分割)、承継会社側は会社法第794条に規定があります。備置きを開始すべき日は、①株主総会の日の2週間前の日、②反対株主への通知または公告の日、③債権者保護手続きに係る公告または催告の日、のうち最も早い日とされており、効力発生日後6か月を経過する日まで備え置く必要があります。

事後開示についても、効力発生後遅滞なく、承継した権利義務その他の会社分割に関する事項を記載した書面等を作成し、効力発生日から6か月間、本店に備え置かなければなりません(会社法第791条、第801条、第811条、第815条)。備置きを怠った場合や虚偽の記載をした場合には、過料の制裁が定められています(会社法第976条)。

注意点
中小企業のグループ内再編では、事前開示書面・事後開示書面の備置きが最も忘れられやすい手続きです。「株主は社長一人だから開示は不要だろう」と考えてしまいがちですが、開示は債権者のためでもあり、株主が1名でも法律上の義務は免除されません。後日、金融機関のデューデリジェンスや税務調査、あるいは第三者への売却時の買い手デューデリジェンスで手続きの不備を指摘され、会社分割の有効性そのものが論点化するケースがあります。書面の作成と備置きの記録(備置開始日の記載、備置場所の特定)は必ず残してください。

株主総会の特別決議と簡易分割・略式分割

会社分割を行うには、原則として効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議による承認が必要です(吸収分割につき会社法第783条第1項・第795条第1項、新設分割につき第804条第1項)。特別決議とは、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要する決議です(会社法第309条第2項第12号)。

もっとも、株主に与える影響が小さい場合や、実質的に決議結果が明らかな場合には、株主総会を省略できる制度が設けられています。それが簡易分割と略式分割です。

制度適用対象要件根拠条文
簡易分割(分割会社側)吸収分割・新設分割の分割会社承継させる資産の帳簿価額の合計額が分割会社の総資産額の5分の1(20%)以下会社法第784条第2項、第805条
簡易分割(承継会社側)吸収分割の承継会社交付する対価の額が承継会社の純資産額の5分の1(20%)以下会社法第796条第2項
略式分割吸収分割のみ(被支配会社側)他方当事会社が議決権の10分の9(90%)以上を保有する特別支配関係にあること会社法第784条第1項、第796条第1項

簡易分割・略式分割を活用できれば、株主総会の招集通知期間や開催準備が不要になるため、全体スケジュールを1か月前後短縮できます。グループ内再編では、この制度を前提にスケジュールを組むのが通常です。

注意点
簡易分割には二つの重要な例外があります。第一に、承継会社側の簡易分割については、会社法施行規則第197条に定める一定割合(通常は議決権の6分の1超)の株主が、通知または公告の日から2週間以内に会社分割に反対する旨を通知した場合、株主総会の決議が必要になります(会社法第796条第3項)。第二に、承継会社に差損が生じる場合(承継する債務額が資産額を上回る場合等)は、そもそも簡易分割を使えません(会社法第796条第2項但書)。「20%以下だから総会は不要」と即断せず、反対通知の受付期間と差損の有無を必ず確認してください。

債権者保護手続|官報公告と個別の催告

会社分割では、債権者から個別に承諾を得る必要がない代わりに、債権者保護手続き(債権者異議手続き)が義務付けられています。手続きの対象となる債権者は、吸収分割につき会社法第789条第1項第2号・第799条第1項第2号、新設分割につき第810条第1項第2号に定められています。

  • 分割会社側:会社分割後、分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者(承継会社に移る債務の債権者)。ただし、分割型分割の場合は、分割会社の債権者全員が対象
  • 承継会社側(吸収分割のみ):承継会社のすべての債権者

手続きの方法は、官報への公告と、知れている債権者に対する各別の催告です。異議を述べることができる期間は1か月を下ることができません。定款で日刊新聞紙への掲載または電子公告を公告方法として定めている会社は、官報公告に加えてその方法による公告を行えば、各別の催告を省略することができます(会社法第789条第3項)。ただし、不法行為によって生じた債務の債権者に対する各別の催告は省略できません(同項括弧書)。

注意点
債権者保護手続きは、会社分割の実務で最も事故が起きやすい工程です。典型的な失敗は次の三つです。第一に、官報公告は申込みから掲載までに通常2週間程度を要するため、逆算を誤ると効力発生日に間に合いません。第二に、官報公告は行ったが各別の催告を失念する、あるいは債権者名簿の作成漏れで一部の債権者に催告が届かないというケースです。第三に、異議申述期間1か月を効力発生日の前日までに完了させる必要があるにもかかわらず、期間計算を誤るケースです。手続きに不備があると、当該債権者に対して会社分割の効力を対抗できず、さらに会社分割無効の訴えの原因にもなります。効力発生日からは最低でも1か月半、余裕をみて2か月前には官報公告の申込みを行ってください。

労働契約承継法の3点セット(7条措置・5条協議・2条通知)

会社分割では労働契約が包括承継されるため、労働者に与える影響が大きく、労働者保護のための特別法として「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(労働契約承継法)が定められています。同法と施行規則、および厚生労働大臣の定める指針に基づき、分割会社は次の3種類の手続きを行う必要があります(厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について」)。

  • 7条措置(労働契約承継法第7条):会社分割にあたり、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める措置。対象は全労働者で、説明会の開催などにより行うのが一般的です。努力義務ですが、その履行状況は紛争時に重視されます。
  • 5条協議(商法等の一部を改正する法律附則第5条):承継される事業に従事する労働者と、個別に協議を行う手続きです。協議内容は、労働者が勤務することになる会社の概要、従事する業務内容、労働者本人の希望の聴取などです。
  • 2条通知(労働契約承継法第2条):通知期限日までに、対象となる労働者および労働組合に対して、書面により所定の事項を通知する手続きです。労働契約が承継される旨の定めの有無、異議申出期限日などを記載します。

労働契約の承継ルールは、対象労働者が「承継される事業に主として従事しているか否か」と、「分割契約等に承継の定めがあるか否か」の組み合わせによって決まります。

労働者の区分分割契約等に承継の定めがある場合分割契約等に承継の定めがない場合
承継事業に主として従事している労働者当然に承継される(異議申出はできない)異議を申し出れば承継される
承継事業に主として従事していない労働者異議を申し出れば分割会社に残留できる承継されない(異議申出はできない)

注意点
5条協議は、単なる形式的な手続きではありません。最高裁判所平成22年7月12日判決(日本アイ・ビー・エム事件)は、5条協議が全く行われなかった場合や、説明・協議の内容が著しく不十分であったために法の趣旨に反することが明らかな場合には、労働者は労働契約承継の効力を争うことができると判示しました。つまり、協議の不備が後日、労働契約の承継そのものを覆すリスクにつながります。協議は対象労働者ごとに実施し、日時・出席者・説明内容・本人の意向を記録した協議記録を必ず残してください。

ポイント
労働契約承継法の手続きは、株主総会の招集通知や債権者保護手続きと時間軸が絡み合います。2条通知の通知期限は、株主総会で承認を受ける場合には「株主総会の日の2週間前の日の前日」とされており、簡易分割等で株主総会を開催しない場合は別の基準日となります。さらに、労働者からの異議申出期間は通知日から13日以上を確保する必要があります。労務手続きだけを後回しにすると全体スケジュールが破綻するため、分割契約のドラフト着手と同時に社会保険労務士・弁護士を交えたスケジュール表を作成することを強くおすすめします。

5. 会社分割の手続きの流れとスケジュール【吸収分割・新設分割別】

吸収分割の手続きの流れ【16ステップ】

第三者へのM&Aとして吸収分割を行う場合の標準的な流れを、実務上の作業も含めて時系列で整理します。グループ内再編の場合は、1〜2のステップが不要になります。

段階実施事項実務上のポイント
1意向表明書の提出・基本合意書の締結分割対象事業の範囲、対価の考え方、独占交渉期間を明記
2デューデリジェンス(法務・財務・税務・労務)承継対象契約のCOC条項、許認可、未払残業代の確認が重要
3承継権利義務明細の確定契約書一覧・固定資産台帳・担保保証一覧との突合
4取締役会決議(吸収分割契約の承認)取締役会非設置会社は取締役の過半数の決定
5吸収分割契約の締結会社法第758条の法定記載事項を網羅
6労働契約承継法7条措置の実施全従業員向け説明会の開催、質疑応答記録の保管
7事前開示書面の備置き開始備置開始日は法定の3つの日のうち最も早い日
85条協議の実施対象労働者ごとに個別協議、協議記録を作成
92条通知(労働者・労働組合への書面通知)通知期限日を厳守。異議申出期限日を明記
10株主総会招集通知の発送非公開会社は1週間前、公開会社は2週間前まで
11債権者保護手続(官報公告+個別の催告)異議申述期間1か月以上。効力発生日前日までに完了
12株主総会の特別決議簡易分割・略式分割に該当する場合は省略可
13反対株主の株式買取請求への対応効力発生日の20日前から前日までが請求期間
14効力発生(契約で定めた効力発生日)許認可の事前認可が必要な業種は認可取得を先行させる
15変更登記の申請(効力発生日から2週間以内)分割会社と承継会社の登記を同時に申請
16事後開示書面の備置き・許認可手続・PMI取引先への通知、システム統合、就業規則の整備

ポイント
上記のうち、実務上のクリティカルパス(全体の期間を規定する工程)は、ほぼ確実に「11. 債権者保護手続」です。異議申述期間1か月に加え、官報公告の申込みから掲載までのリードタイム約2週間を足すと、この工程だけで1か月半を要します。逆にいえば、契約書ドラフトや承継明細の作成を債権者保護手続と並行して進められれば、全体を大きく圧縮できます。キックオフの段階で「官報公告の申込日」を先に確定させ、そこから逆算する進め方が効率的です。

新設分割の手続きの流れと吸収分割との違い

新設分割の流れは吸収分割と概ね共通しますが、承継先の会社が存在しないことに起因する差異があります。主な違いは次の4点です。

  • 契約締結が不要:相手方がいないため、分割会社が単独で新設分割計画を作成します(会社法第762条第1項)。当事者間の交渉・調整工程が丸ごと不要になります。
  • 承継会社側の手続きが不要:承継会社側の株主総会、事前・事後開示、債権者保護手続きが発生しません。債権者保護手続きは分割会社側のみです。
  • 効力発生日は設立登記の日:契約で日を定めるのではなく、設立登記の完了により効力が生じます(会社法第764条第1項)。
  • 会社設立手続きが並行して必要:定款の作成、設立時役員の選任・就任承諾、資本金計上証明書の作成、印鑑届出などが加わります。

所要期間は、承継会社側の調整が不要なぶん吸収分割より短くなり、2.5〜3.5か月程度が目安です。ただし、上記のとおり会社設立の実務が加わるため、司法書士との連携は吸収分割以上に密である必要があります。

注意点
新設分割は効力発生日を自分で選べないため、決算期の設計に注意が必要です。例えば、「3月末で事業年度を区切りたい」と考えていても、登記申請の混雑や補正の発生により登記完了が4月にずれ込めば、分割会社の税務申告の前提が変わってしまいます。年度末・月末は法務局が混み合うため、余裕をもった登記申請と、補正が生じた場合の代替案(効力発生日が数日ずれても成立するスキーム設計)を事前に用意しておくことをおすすめします。

標準スケジュールの目安と短縮のポイント

フェーズ吸収分割新設分割簡易・略式を使う場合
検討・スキーム設計・DD1〜2か月1〜2か月2週間〜1か月
契約・計画の作成〜機関決定2〜4週間2〜3週間1〜2週間
債権者保護手続・株主総会1.5〜2か月1.5〜2か月1.5か月(債権者保護は省略不可)
効力発生〜登記完了2〜3週間2〜3週間2〜3週間
合計目安約3〜4か月約2.5〜3.5か月約1.5〜2か月

スケジュールを短縮したい場合の現実的な打ち手は三つです。第一に、簡易分割・略式分割の要件を満たすようスキームを設計すること。第二に、事前準備(承継明細、契約書棚卸し、債権者名簿の整備)を交渉と並行して先行着手すること。第三に、官報公告の申込みを最速で行い、異議申述期間を他の工程と完全に並走させることです。なお、債権者保護手続きの1か月という異議申述期間は法定であり、いかなる方法でも短縮できません。

会社分割の登記と登録免許税

会社分割の登記は、吸収分割では効力発生日から、新設分割では設立の日から、それぞれ2週間以内に申請しなければなりません(会社法第923条、第924条)。分割会社の変更登記と、承継会社の変更登記または設立会社の設立登記は、同時に申請する必要があります。

登記の種類登録免許税の額
吸収分割承継会社の変更登記(資本金の増加)増加した資本金の額 × 1,000分の7(最低3万円)
新設分割設立会社の設立登記資本金の額 × 1,000分の7(最低3万円)
分割会社の変更登記3万円
不動産の所有権移転登記(会社分割による)固定資産税評価額 × 1,000分の20

注意点
不動産を含む事業を会社分割で移転する場合の税コストは、想定以上に大きくなりがちです。会社分割による所有権移転登記の登録免許税は原則として1,000分の20(2%)であり、合併による移転(1,000分の4)と比べて5倍の負担になります。土地の売買に適用される租税特別措置法の軽減税率は「売買」を対象とするものであり、会社分割には適用されません。これに加えて、後述する不動産取得税の非課税要件を満たさなければ、不動産取得税(原則4%、2027年3月31日までの土地・住宅は3%の特例あり)も課されます。不動産の含み益が大きい事業を動かす際は、スキーム決定前に必ず税額試算を行ってください。

6. 実務で会社分割が使われる典型7シーン|中小企業M&Aの現場から

①一部事業だけを売却するカーブアウトM&A

最も典型的な用途が、複数事業を営む会社が、そのうち一つの事業だけを第三者に売却するカーブアウトです。会社全体を売る株式譲渡では、売りたくない事業まで一緒に手放すことになり、事業譲渡では契約・従業員の同意取得に膨大な手間がかかります。会社分割であれば、対象事業に属する権利義務を包括的に切り出し、買い手に承継させることができます。

近年は、上場企業が資本効率(ROE)向上を求める株主の要請を受けて非注力事業を切り出す動きが加速しており、その受け皿としてプライベート・エクイティファンド(PEファンド)や同業他社が名乗りを上げる構図が定着しています。中小企業においても、「本業に集中するために副次的な事業を手放したい」「その事業だけは意欲ある同業に引き継いでもらいたい」というニーズは着実に増えています。

②「会社分割+株式譲渡」で不要資産を切り離す

オーナー企業のM&Aで極めて多用されるのが、会社分割と株式譲渡を組み合わせるスキームです。オーナー企業の貸借対照表(BS)には、本社不動産、社長個人に貸し付けている資産、生命保険の積立金、ゴルフ会員権、遊休不動産など、事業と直接関係のない資産が混在していることが少なくありません。買い手はこれらを買いたくなく、売り手も手放したくないという利害が一致します。

この場合の設計は二通りあります。一つは「事業抜き出し型」で、新設分社型分割によって対象事業を新会社に切り出し、その新会社の株式を買い手に譲渡する方法です。もう一つは「不要資産抜き出し型」で、不要資産を新設分割で別会社に移し、身軽になった元の会社の株式を譲渡する方法です。後者は許認可や取引先口座、公共工事の実績などが元の会社に紐づいている場合に有利であり、実務では非常によく使われます。

ポイント
「事業抜き出し型」と「不要資産抜き出し型」のどちらを選ぶかは、税務よりもむしろ「許認可・実績・信用がどちらの箱に残るか」で決まることが多いです。建設業の経営事項審査(経審)の点数、公共工事の入札参加資格、金融機関の格付け、主要取引先との取引口座は、いずれも法人格に紐づいています。これらの資産価値が高い企業では、元の法人格を買い手に渡す「不要資産抜き出し型」が合理的です。スキーム決定の前に、法人格に紐づく無形の資産を洗い出してください。

注意点
不要資産抜き出し型では、切り出す資産の対価をどう設定するかが税務上の論点になります。時価より低い価額で切り出せば、買い手に渡る会社に対する寄附金認定や、オーナー個人に対する給与・配当認定のリスクが生じます。また、切り出した先の会社が「株式等保有特定会社」や「土地保有特定会社」に該当すると、将来の相続税評価が大きく変わります。分割の設計は、M&Aの成否だけでなく、オーナー個人の相続対策とも密接に関わるため、必ず税理士を交えて検討してください。

③後継者が複数いる場合の事業承継

後継者候補が複数いる同族企業では、一つの会社の株式を分散して承継させると、将来の議決権争いや配当方針の対立を招きます。分割型分割を用いて事業ごとに会社を分け、それぞれの株式を各後継者に集約すれば、経営権の独立性が確保され、意思決定のスピードも維持できます。「事業を分ける」ことが「争いの芽を摘む」ことに直結する典型例です。

ただし、分けた後の各社が単独で存続できる収益力・財務基盤を持つかを冷静に検証する必要があります。共通の間接部門(経理、総務、システム)をどちらに残すか、共有していた不動産・設備をどう分けるか、金融機関の借入と担保をどう振り分けるかは、いずれも慎重な設計を要します。金融機関の同意なく担保付債務を動かすことはできないため、メインバンクとの事前調整は必須です。

④持株会社化・グループ再編

事業会社が新設分社型分割によって事業を新会社に移し、自らは持株会社(ホールディングス)となる「抜け殻方式」は、グループ再編の定番手法です。持株会社化により、事業ごとの損益責任の明確化、事業別の意思決定の迅速化、経営人材の育成機会の創出、将来的な事業単位でのM&Aの容易化といった効果が期待できます。

事業承継の文脈でも、持株会社スキームは有効に機能します。オーナーが持株会社の株式を保有し、後継者が事業会社の経営を担うことで、所有と経営を段階的に分離できます。もっとも、持株会社が保有する資産の大半が子会社株式となるため、相続税評価上「株式等保有特定会社」に該当し、原則として純資産価額方式で評価されることになる点には注意が必要です。類似業種比準価額を併用できなくなることで、かえって株価が上昇するケースもあります。

⑤不採算事業の切り離しと第二会社方式

過剰債務に陥った企業の再生手法として用いられるのが「第二会社方式」です。収益力のある優良事業を会社分割(または事業譲渡)によって新会社(第二会社)に移し、旧会社には債務を残して特別清算や破産により整理するという構成をとります。従業員の雇用と取引先との取引を維持しながら、過剰債務を切り離すことができるため、中小企業活性化協議会などが関与する再生支援の現場でも活用されています。

注意点
第二会社方式は、設計を誤ると次章で解説する「詐害的会社分割」として、残存債権者から法的責任を追及されるリスクを伴います。特に、金融機関等の主要債権者の同意を得ないまま、優良資産だけを新会社に移して旧会社に債務を残すという設計は、極めて高い確率で紛争化します。第二会社方式を採る場合は、必ず主要債権者との事前協議を経て、事業価値に見合う対価を旧会社に残し、その対価を債権者への弁済原資とする構成にすることが不可欠です。再生局面での会社分割は、弁護士の関与なしに進めるべきではありません。

⑥新規事業の分社化・スピンアウト

既存事業とは異なる収益構造・人材要件・意思決定スピードを必要とする新規事業を、新設分割によって独立した会社に切り出す事例も増えています。分社化により、その事業単位で外部から資金調達を行ったり、ストックオプションを含む独自の報酬制度を導入したり、事業に特化した経営陣を招聘したりすることが可能になります。

スタートアップ領域では、大企業の社内事業をスピンアウトさせ、経営陣とベンチャーキャピタルが出資して独立させるケースもあります。この場合、新設分割で事業を切り出したうえで、新会社が第三者割当増資を実施し、親会社の持分比率を段階的に下げていく設計が一般的です。将来のIPOやM&Aによるエグジットを見据える場合は、切り出しの段階で株主構成と種類株式の設計まで織り込んでおく必要があります。

⑦資本業務提携・合弁事業の受け皿づくり

会社分割は「100%売却」だけの手法ではありません。切り出した新会社にパートナー企業が出資し、共同で事業を運営していくという設計も可能です。具体的には、新設分社型分割で対象事業を新会社に移したうえで、その新会社がパートナー企業に対して第三者割当増資を行い、パートナーが30〜49%程度の株式を取得するという構成です。

この形態には、完全売却にはない利点があります。売り手は事業への関与を継続しながらパートナーの経営資源(販路、技術、人材、資本)を取り込むことができ、買い手は一気に100%のリスクを負わずにシナジーを検証したうえで、追加取得の判断を段階的に行えます。将来の持分変動については、コールオプション(買増権)やプットオプション(売渡請求権)、一定の業績条件と連動した価格算定式を株主間契約に組み込んでおくことで、双方の予見可能性を高められます。

ポイント
「事業を手放すか、手放さないか」の二択で悩んでいる経営者の方には、会社分割と資本業務提携を組み合わせた中間解が有力な選択肢になります。特に、業界の技術転換期にあり単独での投資判断が難しい事業、あるいは販路さえあれば伸びるが自社に営業力がない事業では、この形態が最も高い企業価値を生むことがあります。株主間契約における取締役の指名権、拒否権事項、デッドロック時の解消条項の設計が成否を左右するため、初期段階から弁護士の関与が望ましい領域です。

会社分割を使って不動産などの非事業用資産を切り離す実務については以下の記事で具体的に解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aで不動産をオフバランス化する4つの方法|株価が重い案件の切り離し実務

7. 許認可は会社分割で承継できるのか|業法ごとに結論が違う

会社法の包括承継と業法上の許認可は別問題

「会社分割は包括承継だから、許認可もそのまま移る」——これは実務で最も多い誤解の一つです。会社法上の包括承継の効果が及ぶのは、あくまで私法上の権利義務です。許認可は、行政庁が特定の事業者の適格性を審査したうえで与える公法上の地位であり、その性質上、原則として一身専属的なものと考えられています。したがって、個別の業法に「承継」を認める規定が置かれている場合に限り、会社分割による承継が可能となります。

この点を見落とすと、会社分割の効力は発生したのに、承継会社が事業を行うための許可を持っていないという事態に陥ります。無許可営業は行政処分や刑事罰の対象となり、事業の継続そのものが不可能になります。会社分割のスキーム検討において、許認可の確認は法務・税務と並ぶ最優先事項です。

注意点
インターネット上の解説記事には、令和2年(2020年)10月1日施行の改正建設業法を反映していない古い情報が今なお多数残っています。「建設業許可は会社分割では承継できないため取り直しが必要」という記述は、現在では正確ではありません。許認可のルールは頻繁に改正されるため、必ず所管官庁または所管自治体の最新の案内を確認するか、弁護士・行政書士等の専門家に確認してください。ウェブ記事の記載を根拠にスキームを決めることは避けるべきです。

業種別・許認可の承継可否一覧

許認可の取扱いは、大きく3つのグループに分類して整理すると理解しやすくなります。以下は代表的な業種の分類ですが、同じ業種でも許可の種類や自治体の運用によって取扱いが異なる場合があるため、必ず所管官庁への事前照会を行ってください。

分類業種・許認可の例会社分割での取扱い
A:業法に承継規定があり、事前認可・届出により承継できる建設業許可(建設業法第17条の2)分割前に事前の認可を受けることで、許可業者としての地位を空白期間なく承継可能
A:同上食品衛生法上の営業許可(飲食店営業等)合併・分割・相続・事業譲渡について地位承継の届出制度が整備されている
A:同上旅館業・公衆浴場業等の生活衛生関係営業令和5年法律第52号による改正で承継手続が整備。所管保健所への確認が必要
A:同上一般貨物自動車運送事業(貨物自動車運送事業法第30条)分割による事業の承継には国土交通大臣の認可が必要
B:承継規定がなく、承継会社側での新規取得が必要宅地建物取引業免許会社分割による承継は認められず、承継会社側で新規免許の取得が必要
B:同上労働者派遣事業・有料職業紹介事業許可は法人ごとに付与されるため、承継会社側での新規許可取得が必要
B:同上介護保険法上の事業者指定事業所単位・申請者単位の指定であり、原則として新規指定申請が必要
B:同上薬局・医薬品販売業(医薬品医療機器等法)原則として承継会社側での新規許可取得が必要
C:所管官庁への個別確認が必須産業廃棄物処理業許可、警備業認定、建築士事務所登録、古物商許可、酒類販売業免許 等業法上の規定の有無・自治体の運用により取扱いが分かれるため、必ず事前照会を行う

建設業は2020年10月から「事前認可」で承継可能に

許認可承継の実務で最も大きな変化があったのが建設業です。令和2年10月1日施行の改正建設業法により、第2章に「第4節 承継」が新設され、第17条の2で譲渡・譲受け・合併・分割について、第17条の3で相続について、それぞれ承継の制度が設けられました。

改正前は、建設業者が会社分割を行っても許可を承継できず、承継会社は新たに建設業許可を取り直す必要がありました。この場合、旧許可の廃業日から新許可の取得日までの間、軽微な工事以外を請け負えない「空白期間」が生じ、事業の継続に重大な支障をきたしていました。改正後は、分割の効力発生日より前に所管行政庁の認可を受けることで、承継会社が建設業者としての地位を空白期間なく承継できるようになりました(国土交通省関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」)。

ただし、この制度には実務上の重要な留意点があります。第一に、認可は「事前」でなければならず、分割の効力発生後に申請することはできません。第二に、承継会社が建設業許可の要件(経営業務の管理責任者、専任技術者、財産的基礎、欠格要件に該当しないこと)をあらかじめ満たしている必要があります。第三に、承継されるのは許可という有利な地位だけではありません。監督処分の履歴や経営事項審査の結果も当然に承継されます。第四に、申請の受付期間が定められており、例えば東京都知事許可の場合、分割予定日の前日から起算して2か月前から25日前までの間に申請する必要があります。

ポイント
許認可業種の会社分割では、法務・税務のスケジュールと許認可のスケジュールを一枚のガントチャートに統合して管理してください。建設業のように「効力発生日の25日前が申請期限」といった逆算条件がある場合、債権者保護手続きのスケジュールと連動させないと、どちらかが間に合いません。実務では、①許認可の事前相談(3〜4か月前)、②認可申請(1〜2か月前)、③認可取得、④分割の効力発生、という順序を先に固定し、そこに会社法上の手続きを当てはめていく進め方が確実です。

許認可リスクを潰すためのデューデリジェンス実務

許認可の論点は、デューデリジェンスの初期段階で洗い出すべき項目です。以下のチェックリストは、承継対象事業に関して最低限確認すべき事項をまとめたものです。

  • 対象事業の遂行に必要な許可・認可・登録・届出・免許をすべて列挙したか(本社分と事業所分を分けて確認)
  • 各許認可について、業法上の承継規定の有無を条文レベルで確認したか
  • 承継規定がある場合、認可制か届出制か、申請期限はいつか、必要書類は何かを所管庁に確認したか
  • 承継会社側が許可要件(人的要件・財産的要件・設備要件)を効力発生日時点で満たすか
  • 常勤役員・専任技術者・管理者等の有資格者が、実際に承継会社へ移籍する設計になっているか
  • 過去5年間の行政処分歴・指導歴・改善命令歴を確認したか(承継される可能性がある)
  • 許認可の有効期限と更新時期は、会社分割のスケジュールと重ならないか
  • 公共工事の入札参加資格、経営事項審査の評点、格付けなど、許認可に付随する地位の帰趨を確認したか

注意点
許認可要件を満たすために「効力発生日の直前に有資格者を承継会社へ移籍させる」という設計は、しばしば実務で行われますが、行政庁によっては常勤性の実質を厳格に審査します。形式的な出向や兼務では常勤性が認められず、認可が下りないケースがあります。有資格者の確保は、可能な限り早い段階で実質的な勤務実態を伴う形で進めてください。有資格者本人が転籍に同意しないというリスクも忘れてはなりません。

8. 会社分割の税務|適格・非適格の分岐と課される税金

適格分割の3類型と要件

会社分割の税務は、法人税法上の「適格分割」に該当するかどうかで大きく分かれます。適格分割に該当すれば、移転資産・負債を帳簿価額で引き継ぐことができ、譲渡損益の計上が繰り延べられます。適格要件は、当事会社間の関係性に応じて3類型に分かれ、法人税法第2条第12号の11および法人税法施行令第4条の3に定められています。

類型当事会社の関係主な要件
①完全支配関係内の分割発行済株式の100%を保有する関係金銭等不交付要件/分割後も完全支配関係が継続する見込みであること
②支配関係内の分割発行済株式の50%超を保有する関係①の要件に加えて、主要な資産・負債の移転/従業者のおおむね80%以上の引継ぎ/移転事業の継続見込み
③共同事業を営むための分割資本関係のない第三者間②の要件に加えて、事業の関連性/事業規模がおおむね5倍以内であること又は特定役員の引継ぎ/株式の継続保有見込み

なお、分社型分割と分割型分割では要件の細部が異なり、例えば、分割型分割では株式継続保有要件の判定対象が分割会社の株主になるなど、判定の視点が変わります。適格判定は税理士による事前の検討が不可欠であり、判定を誤ると数千万円から数億円規模の課税差が生じ得ます。

ポイント
第三者へのM&Aとして会社分割を行う場合、③の共同事業要件を満たすのは容易ではありません。特に「株式の継続保有見込み」要件は、切り出した会社の株式をすぐに売却する前提のスキームとは相性が悪く、実務上は非適格を前提に税額を試算しておくのが安全です。「適格にできないか」と無理に要件を寄せにいくより、非適格を前提とした税額を織り込んで対価交渉を行うほうが、結果的にディールが安定します。

非適格分割で生じる課税と、あえて非適格を選ぶ場面

非適格分割となった場合、分割法人は移転した資産・負債を時価で譲渡したものとして扱われ、簿価との差額が譲渡損益として認識されます。含み益のある資産(特に土地や有価証券)を移転する場合、これが多額の法人税負担につながります。分割型分割で非適格となった場合には、さらに株主段階でみなし配当が生じ得ます。

他方、非適格が常に不利とは限りません。まず、含み損を抱えた資産を移転する場合には、非適格分割によって譲渡損失を実現できます。次に、承継法人側では移転資産を時価で取得することになり、時価純資産と対価の差額が「資産調整勘定」(税務上ののれん)として計上され、60か月にわたって均等に損金算入できます。買い手にとっては、将来の課税所得を圧縮できる有形のメリットです。この視点は、対価交渉における買い手側の支払能力を高める材料にもなります。

注意点
「適格=有利、非適格=不利」という単純な図式で判断すると、選択を誤ります。判断すべきは、①分割時点で発生する課税額の現在価値、②承継後に得られる損金算入額(資産調整勘定の償却)の現在価値、③繰越欠損金の使用可能性、④不動産取得税・登録免許税の負担、を総合した実質的な税コストです。特に、買い手と売り手で有利不利が逆転する項目があるため、交渉の初期段階で双方の税務ポジションを整理しておくことが、後の条件交渉を円滑にします。

繰越欠損金は引き継げない|合併との決定的な差

会社分割の税務で最も誤解が多いのが、繰越欠損金(税務上の未処理欠損金額)の取扱いです。結論から述べると、会社分割では、適格分割であっても分割法人の繰越欠損金が分割承継法人に引き継がれることはありません。繰越欠損金の引継ぎが認められているのは適格合併および完全支配関係にある子法人の残余財産確定の場合であり、分割はその対象外です。

したがって、繰越欠損金は分割後も分割法人に残り、分割法人自身の将来の所得と相殺していくことになります。「赤字子会社の欠損金を親会社で使いたいから会社分割で事業を移す」という発想は、税務上成り立ちません。この目的であれば適格合併を検討すべきであり、スキーム選択の入口を誤らないことが重要です。

また、分割承継法人側にも制限があります。支配関係が生じてから5年以内に一定の適格分割等が行われた場合、承継法人が本来持っている繰越欠損金の使用が制限されたり、移転を受けた資産の譲渡等損失の損金算入が制限されたりする規定が設けられています。組織再編を利用した租税回避を防ぐための措置であり、みなし共同事業要件を満たすかどうかによって適用の有無が分かれます。

ポイント
繰越欠損金を保有する企業が関わる組織再編では、「どの箱に欠損金が残るか」「その箱が将来所得を生むか」を必ずセットで検討してください。会社分割で事業を切り出すと、収益源が抜けた分割法人に欠損金だけが残り、使い切れないまま繰越期間(現行10年)が満了してしまうという事態が現実に起こります。欠損金の額が大きい場合は、分割ではなく合併や適格株式交換を含めた再検討の価値があります。

消費税・不動産取得税・登録免許税の扱い

会社分割に関して生じる主要な税目を整理します。事業譲渡との比較で最も大きな差が出るのが消費税です。

税目会社分割での取扱い事業譲渡との比較
消費税包括承継であり「資産の譲渡等」に該当しないため非課税事業譲渡は課税資産の対価に10%の消費税が課される
法人税(譲渡損益)適格分割は課税繰延べ、非適格分割は時価譲渡として損益認識事業譲渡は常に時価譲渡として譲渡損益を認識
不動産取得税地方税法上の非課税要件を満たせば非課税事業譲渡は原則として課税(標準税率4%)
登録免許税(不動産)固定資産税評価額 × 1,000分の20事業譲渡(売買)は原則2%、土地は特例により軽減の余地あり
登録免許税(登記)資本金増加額 × 1,000分の7(最低3万円)等事業譲渡では会社の登記変更は原則不要
株主段階の課税分割型分割で非適格の場合はみなし配当が生じうる事業譲渡では株主段階の課税は生じない

不動産取得税については、地方税法第73条の7第2号および地方税法施行令第37条の14に定める要件を満たす場合に非課税とされます。要件は、①分割対価資産として承継法人の株式以外の資産が交付されないこと(分割型分割の場合はさらに、当該株式が持株比率に応じて交付されること)、②分割事業に係る主要な資産および負債が承継法人に移転していること、③分割事業が承継法人において引き続き営まれる見込みであること、④分割直前の分割事業に係る従業者のうちおおむね80%以上が承継法人の業務に従事する見込みであること、です(参照:愛知県「会社分割に係る申立書」)。

注意点
不動産取得税の非課税判定は、法人税法上の適格判定とは別の制度です。法人税法上は適格分割に該当しても、地方税法上の要件を一つでも欠けば不動産取得税は課税されます。また非課税の適用を受けるには、都道府県税事務所への非課税申告書の提出と、要件充足を証する書類(分割契約書・計画書、株主総会議事録、従業者名簿、労働契約承継法に基づく書面等)の添付が必要です。物件が複数の都道府県にまたがる場合は、それぞれの県税事務所への提出が必要になります。申告を失念すると納税通知が届いてから対応することになり、実務上の負担が跳ね上がります。

もう一つ、重要な論点が、新設分割における消費税の納税義務です。消費税法第12条は、新設分割等があった場合の納税義務の免除の特例を定めており、新設分割設立会社の基準期間に対応する期間における分割法人の課税売上高を基準として納税義務が判定される場合があります。「新しく作った会社だから設立から2年間は免税事業者になる」という一般論が通用せず、設立初年度から課税事業者となるケースがあるということです。資金繰り計画に直結するため、必ず事前に確認してください。

会社分割と株式譲渡・事業譲渡で税負担がどう変わるかについては以下の記事で数値例とともに解説していますので、あわせてご覧ください。
株式譲渡・事業譲渡・会社分割の税金を徹底比較|誰に・何が・いくらかかるかを専門家が解説

9. 詐害的会社分割・無効の訴え|会社分割に潜む法的リスク

詐害的会社分割と残存債権者の直接履行請求権

会社分割は、優良な事業と資産だけを新会社に移し、債務を旧会社に残すという設計が技術的には可能です。これが濫用されると、債権者は債務者である旧会社に対する債権を実質的に回収できなくなります。こうした「詐害的会社分割」に対処するため、平成26年(2014年)改正会社法(平成27年5月1日施行)により、残存債権者の保護規定が新設されました。

会社法第759条第4項(吸収分割)および第764条第4項(新設分割)は、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合、残存債権者は、承継会社(設立会社)に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができると定めています。吸収分割の場合は、承継会社が効力発生時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは適用されません。この請求権は、残存債権者が会社分割を知った時から2年を経過したとき、または効力発生日から20年を経過したときに消滅します(会社法第759条第6項等)。

注意点
この規定は、事業再生の第二会社方式にも直接影響します。「優良事業を新会社へ、債務は旧会社へ」という設計は、主要債権者の同意なく進めれば、承継会社が承継財産の価額を限度として旧会社の債務を負わされる結果を招きます。せっかく再生させた新会社が、旧会社の債務の追及を受けて再び行き詰まるという最悪の展開もあり得ます。再生局面の会社分割では、①主要債権者との事前協議と同意取得、②事業価値に見合う適正な対価の設定、③その対価を債権者への弁済に充てる計画の明示、この3点を必ず備えてください。

詐害行為取消権・法人格否認による争われ方

会社法上の直接履行請求権に加えて、民法上の詐害行為取消権(民法第424条)によって会社分割が争われることもあります。最高裁判所平成24年10月12日判決は、新設分割が民法上の詐害行為取消権の対象となり得ることを認めました。会社法に会社分割無効の訴えという制度が用意されていることをもって詐害行為取消権の行使が排除されるものではない、という点がポイントです。

さらに、旧会社と新会社の役員構成、営業所、従業員、屋号、取引先がほぼ同一であり、実質的に同一の事業が名前を変えて継続されているにすぎないと評価される場合には、法人格否認の法理により、新会社に対する直接の請求が認められた裁判例もあります。会社分割という法形式を採っていても、実態が債務免脱を目的とした「看板の掛け替え」であれば、裁判所はその形式を突き破ります。

会社分割無効の訴え|効力発生日から6か月

会社分割の手続きに重大な瑕疵があった場合、その効力を否定する方法として「会社分割無効の訴え」が用意されています(会社法第828条第1項第9号・第10号)。組織再編の効力を法的安定性の観点から早期に確定させるため、提訴期間は効力発生日から6か月以内に限定されています。

提訴できるのは、効力発生日において当事会社の株主・取締役・監査役・執行役・清算人であった者、および分割について承認をしなかった債権者、破産管財人等です(会社法第828条第2項第9号・第10号)。主張され得る無効事由としては、次のようなものが挙げられます。

  • 分割契約・分割計画に法定記載事項の欠缺があること
  • 株主総会の特別決議を欠くこと、または決議に重大な手続的瑕疵があること
  • 債権者保護手続きの不履行(官報公告の欠落、各別の催告の漏れ、異議申述期間の不足)
  • 事前開示書面の未作成・重大な虚偽記載
  • 簡易分割の要件を満たしていないにもかかわらず株主総会を省略したこと

ポイント
会社分割の手続き書類は、効力発生後6か月を経過するまでは「いつ争われてもよい状態」で保管しておくべきです。具体的には、官報の掲載紙面、各別の催告の発送記録(配達証明の控え等)、債権者名簿、株主総会議事録と招集通知の控え、事前開示書面と備置きの記録、5条協議の記録、2条通知の写しと交付記録を一つのファイルにまとめておきます。将来この会社を売却する際、買い手のデューデリジェンスで必ず求められる資料でもあります。

労働者から承継の効力を争われるリスク

会社分割をめぐる紛争は、債権者との間だけで起こるわけではありません。労働者から労働契約承継の効力を争われる類型も存在します。前述の日本アイ・ビー・エム事件最高裁判決(平成22年7月12日)は、5条協議が全く行われなかった場合や、その内容が著しく不十分で法の趣旨に反することが明らかな場合には、労働者が労働契約承継の効力を争い得ると判示しています。

また、承継事業に「主として従事する」労働者に該当するか否かの判定をめぐる争いもあります。複数の事業に従事している労働者について、どちらの会社に残るかは本人の生活に直結する重大な問題であり、判定の根拠(勤務時間の配分、担当業務の内容、直近の職務実態)を客観的な資料で説明できるよう準備しておく必要があります。会社分割は、労務管理の観点からも極めて慎重な運用が求められる手続きです。

10. 会社分割と他スキームの比較|資本業務提携という第三の選択肢

株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併の比較表

スキームの選択は、M&Aの成否を左右する最初の分岐点です。主要4スキームの特徴を横断的に比較します。

比較軸株式譲渡事業譲渡会社分割合併
移転の対象会社そのもの(株式)個別の資産・負債・契約事業に関する権利義務会社の全権利義務
承継の性質会社は不変特定承継包括承継包括承継
契約相手方の同意原則不要(COC条項に注意)個別に必要原則不要(COC条項に注意)原則不要
従業員の個別同意不要必要不要(承継法の手続は必要)不要
一部事業のみの切出し不可可能可能不可
簿外債務の遮断困難容易設計次第(明細の作り込みが鍵)困難
対価の柔軟性現金・株式現金が中心株式・現金・その他(新設分割は金銭不可)株式・現金等
消費税非課税(有価証券の譲渡)課税不課税不課税
許認可の帰趨原則としてそのまま維持原則として取り直し業法の承継規定次第業法の承継規定次第
繰越欠損金の引継ぎ会社に残る(使用制限あり)引継ぎ不可引継ぎ不可適格合併なら引継ぎ可
手続の重さ軽い中程度重い重い
標準的な所要期間1〜3か月1〜3か月3〜4か月3〜4か月

会社分割を選ぶべきケース/避けるべきケース

以下のチェックリストで、自社のケースが会社分割に適しているかを確認してください。左側に多く当てはまるほど会社分割の適性が高く、右側に多く当てはまる場合は他のスキームを検討する価値があります。

会社分割が適しているケース他スキームを検討すべきケース
会社の一部の事業だけを動かしたい会社を丸ごと譲渡したい(→株式譲渡)
承継対象の契約・取引先が多数にのぼる承継対象の契約が少数で個別同意が容易(→事業譲渡)
従業員をまとめて承継させたい承継させる従業員をこちらで選別したい(→事業譲渡)
対価として株式を使いたい/現金を用意できない現金一括での売買を望む(→株式譲渡・事業譲渡)
消費税の負担を回避したい簿外債務を確実に遮断したい(→事業譲渡)
グループ内で器を作りたい・持株会社化したい赤字子会社の繰越欠損金を活用したい(→適格合併)
3〜4か月のスケジュールを確保できるスピード優先で1か月以内に完了させたい(→株式譲渡)
許認可について承継規定がある業種である許認可が法人格に紐づき移転困難(→株式譲渡)

注意点
スキーム選択で最も避けるべきなのは、「税務メリットだけで決めてしまう」ことです。適格分割による課税繰延べは魅力的ですが、そのために手続きが1か月延び、その間に主要な従業員が離職したり、買い手の投資委員会の承認期限が切れたりすれば、本末転倒です。税務・法務・労務・許認可・スケジュール・当事者の心理を総合して判断する必要があります。

会社分割+資本業務提携という中間解

会社分割の議論は「事業を売る/売らない」の二項対立で語られがちですが、実務ではその中間に有力な選択肢が存在します。会社分割で事業を新会社に切り出したうえで、その会社にパートナー企業が資本参加し、資本業務提携(アライアンス)として共同運営していくという設計です。

この設計が有効なのは、次のような局面です。第一に、単独では投資余力が難しい成長投資を要する事業で、パートナーの資本と販路を得たいケース。第二に、業界再編の初期段階にあり、いきなり完全統合するにはリスクが高いと双方が考えているケース。第三に、経営者が事業への関与を続けたいが、後継者不在のため将来的な出口も確保しておきたいケースです。段階的な持分移動をあらかじめ株主間契約に組み込むことで、「今すぐ100%」ではない解を設計できます。

ポイント
資本業務提携型の設計では、株主間契約の質がすべてを決めます。最低限、①取締役の指名権と取締役会の構成、②拒否権事項(重要な投資・借入・事業計画の変更・人事)、③配当方針、④持分譲渡の制限と先買権、⑤コールオプション/プットオプションの発動条件と価格算定式、⑥デッドロックが生じた場合の解消手続、の6項目は精緻に定めておく必要があります。ここを曖昧にしたまま提携を開始すると、紛争化するリスクが高まります。

11. 会社分割を成功させる実務チェックリストと相談先

検討からクロージングまでの実務チェックリスト

会社分割を検討する経営者・実務担当者の方が、抜け漏れを防ぐために使える実務チェックリストです。

  • 会社分割によって実現したい目的を、定量・定性の両面で言語化したか
  • 株式譲渡・事業譲渡・合併・資本業務提携との比較検討を行ったか
  • 吸収分割と新設分割、分社型と分割型のいずれを採用するか決定したか
  • 分割会社・承継会社の会社形態が法律上の要件を満たしているか(特例有限会社の確認を含む)
  • 承継する権利義務の明細を作成し、契約書一覧・固定資産台帳と突合したか
  • 主要契約のチェンジ・オブ・コントロール条項の有無を確認し、事前承諾の要否を整理したか
  • 対象事業に必要な許認可を洗い出し、承継の可否と手続きを所管庁に確認したか
  • 金融機関の借入・担保・経営者保証の取扱いについてメインバンクと協議したか
  • 適格・非適格の判定を行い、法人税・消費税・不動産取得税・登録免許税を試算したか
  • 簡易分割・略式分割の要件を満たすか、満たす場合の例外事由に該当しないか確認したか
  • 債権者保護手続きの対象債権者を特定し、債権者名簿を整備したか
  • 官報公告の申込日を確定し、効力発生日から逆算したスケジュールを作成したか
  • 労働契約承継法の7条措置・5条協議・2条通知の実施計画と記録様式を準備したか
  • 承継対象労働者の「主として従事する」判定根拠を客観資料で説明できるか
  • 独占禁止法上の企業結合届出の要否を判定したか
  • 事前開示書面・事後開示書面の作成と備置きの担当者・場所を決めたか
  • 登記申請の必要書類と司法書士への依頼を手配したか
  • 分割後の各社の資本金・純資産・借入余力が事業継続に十分か検証したか
  • 取引先・顧客・従業員への説明シナリオと開示タイミングを設計したか
  • 分割後100日間のPMI計画(システム・就業規則・会計・与信管理)を策定したか

誰に相談すべきか|専門家の役割分担

会社分割は、法務・税務・労務・登記・許認可が複雑に絡み合う手続きです。単独の専門家で完結することはまずなく、それぞれの役割を理解したうえでチームを組む必要があります。

専門家主な役割
弁護士スキームの法的設計、分割契約書・計画書の作成、株主間契約、詐害性・無効リスクの検証、労務紛争の予防
税理士・公認会計士適格判定、税額試算、株価算定、会計処理、税務申告、消費税の納税義務判定
司法書士登記手続き、必要書類の作成、法務局との事前協議、登記スケジュールの管理
社会保険労務士労働契約承継法の手続き、就業規則・労働条件の統合、社会保険の手続き
行政書士許認可の承継認可・届出手続き、所管庁との事前相談
M&Aアドバイザー相手先の探索・交渉、スキーム全体の設計と統合管理、各専門家の連携調整、価格・条件交渉

中小企業のM&Aについては、中小企業庁が「中小M&Aガイドライン」を公表しており、2024年8月30日に第3版へと改訂されています。仲介者・ファイナンシャルアドバイザー(FA)に求められる手数料の説明、利益相反行為の禁止、契約前の重要事項説明などが具体的に定められており、支援機関を選ぶ際の判断基準として活用できます(中小企業庁「中小M&Aガイドライン」)。

ポイント
専門家に相談する際は、「会社分割をしたい」ではなく「こういう状態を実現したい」という形で相談することをおすすめします。手法を先に決めて相談すると、その手法の枠内でしか助言が返ってきません。目的から相談すれば、会社分割よりも簡便で低コストな選択肢が見つかることも少なくありません。初回相談の際には、直近3期分の決算書、株主名簿、主要契約の一覧、許認可の一覧、組織図を用意しておくと、初回から具体的な議論に入れます。

成否を分けるのは分割後のPMI

会社分割は、効力発生日と登記完了をもって「終わり」ではありません。むしろそこからが本番です。株式譲渡と異なり、会社分割では組織そのものが分かれる、あるいは統合されるため、実務レベルの再構築が不可避となります。会計システムの分離または統合、就業規則・賃金制度の整備、社会保険の適用事業所の手続き、取引先への通知と契約名義の変更、銀行口座と与信枠の再設定、印章・請求書・名刺・ウェブサイトの改訂といった作業が一斉に発生します。

とりわけ重要なのが、従業員の心理面へのケアです。会社分割では、法律上は労働条件がそのまま維持されるにもかかわらず、「会社が変わる」という事実だけで不安が広がり、キーパーソンの離職につながることがあります。承継の理由、今後の事業方針、処遇に変更がないこと、キャリアパスがどうなるかを、経営者自身の言葉で丁寧に伝える機会を設けてください。M&Aの投資回収が失敗する原因の多くは、財務や法務の問題ではなく、人と組織の統合に失敗することにあります。

ポイント
PMIは効力発生日から逆算して準備するものです。実務上は、効力発生日の3か月前にPMI計画の骨子を作り、①ヒト(人事・労務・カルチャー)、②カネ(会計・資金・与信)、③モノ(システム・拠点・設備)、④取引先(契約・与信・調達)の4領域に分けて、責任者と期限を明確にしたタスク表を用意します。効力発生後100日間で何を完了させるかを事前に合意しておくことが、シナジー実現の分岐点になります。

12. まとめ

本記事では、会社分割の定義から法的要件、手続きの流れ、実務での適用場面、許認可・税務・法的リスクまでを解説してきました。要点を改めて整理します。

  • 会社分割とは、事業に関する権利義務を包括的に他社へ承継させる会社法上の組織再編行為であり、承継先が既存会社なら吸収分割、新設会社なら新設分割となります。
  • 吸収分割は対価設計が自由で効力発生日も選べる一方、新設分割は金銭対価が使えず効力発生日は設立登記日になります。この違いがスキーム選択を大きく左右します。
  • 法的要件としては、分割契約・計画の法定記載事項、事前・事後開示、株主総会の特別決議(簡易・略式による省略あり)、債権者保護手続、労働契約承継法の7条措置・5条協議・2条通知が求められます。
  • 実務では、カーブアウトM&A、会社分割+株式譲渡による不要資産の切離し、複数後継者への事業承継、持株会社化、第二会社方式、分社化、資本業務提携の受け皿という7つの場面で多用されています。
  • 許認可は包括承継の対象外であり、業法に承継規定がある場合に限り承継できます。建設業は2020年10月から事前認可により承継可能となりました。
  • 税務では、適格・非適格の判定に加え、繰越欠損金が引き継げないこと、消費税が非課税であること、不動産取得税の非課税判定が法人税とは別制度であることが重要な論点です。
  • 詐害的会社分割に対する残存債権者の直接履行請求権、効力発生日から6か月の無効の訴え、5条協議不備による労働契約承継の効力争いなど、法的リスクにも十分な備えが必要です。

会社分割は、設計次第で企業価値を大きく高められる強力な手法である一方、法務・税務・労務・許認可のいずれか一つでも設計を誤れば、想定外の課税や紛争を招くスキームでもあります。まずは「何を実現したいのか」という目的を明確にし、会社分割が本当に最適解かをスキーム比較の中で検証するところから始めてください。

執筆者

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。
長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。