会社分割を検討しているものの、「新設分割」と「吸収分割」の違いがよく分からない、事業譲渡や株式譲渡と何が違うのか判断がつかない、あるいは手続きや税務が複雑そうで一歩を踏み出せない——このように感じている経営者や実務担当者は少なくありません。
会社分割は、事業に関する権利義務を包括的に承継させることができる組織再編・M&Aの手法であり、事業承継やグループ内再編、M&Aにおけるカーブアウトなど幅広い場面で活用されています。
本記事では、会社分割の法的な位置づけから、新設分割・吸収分割それぞれの仕組み、事業譲渡・株式譲渡との違い、実務で多い活用場面、メリット・デメリット、手続きの流れ、税務上の取り扱い、費用まで、条文上の根拠を示しながら専門家の視点で網羅的に解説します。
1. 会社分割とは
会社法における組織再編行為としての位置づけ
会社分割とは、株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、既存の会社(吸収分割)または分割により設立する会社(新設分割)に承継させる会社法上の組織再編行為です(会社法2条29号・30号)。合併が会社そのものを統合するのに対し、会社分割は権利義務の単位で切り出しを行う点が特徴で、分割を行った会社(分割会社)は消滅せず、法人格を維持したまま存続します。承継の対象は分割契約・分割計画に定めた範囲に限られますが、その範囲内では取引先等の個別同意を得ることなく一体として移転する点が「包括承継」と呼ばれる理由です。なお、分割会社となれるのは株式会社と合同会社に限られる一方、承継先は株式会社・持分会社のいずれでも差し支えありません(ただし特例有限会社および清算中の会社は吸収分割承継会社になれません)。
実務上は「事業単位で切り出す手法」と説明されることが多いものの、平成17年制定の会社法では、旧商法下の「営業(事業)」単位という制約が外れ、有機的一体性を備えた事業に至らない「権利義務」の単位でも分割できるとされています。この点は、労働者保護の手続きの要否を判断するうえでも影響するため、正確に理解しておく必要があります。会社分割は「新設分割」と「吸収分割」の2種類に大別され、いずれも会社法が定める株主総会の特別決議、債権者保護手続き、登記などの手続きを経て効力が発生します。事業承継やM&A、グループ経営の効率化など、幅広い経営課題の解決策として活用されている点が大きな特徴です。
新設分割と吸収分割という2つの類型
新設分割は、新たに設立する会社に権利義務を承継させる方法であり、吸収分割は、既存の会社に承継させる方法です。どちらも「対象事業に関する権利義務を包括的に承継する」という基本構造は共通していますが、承継先が新設会社か既存会社かによって、必要な手続きや所要期間、対価の柔軟性などに違いが生じます。例えば、吸収分割では承継会社との契約締結交渉が必要になる一方、新設分割では承継会社がまだ存在しないため相手方との交渉が不要で、比較的短期間で実行できる傾向があります。
効力発生日の決まり方にも違いがあります。吸収分割は吸収分割契約で定めた日に効力が生じ(会社法759条1項)、登記は効力発生日から2週間以内に行います。これに対して新設分割は、新設会社の設立登記の日に効力が生じます(同法764条1項、49条)。自社の目的(事業承継の準備段階なのか、既存グループ会社への事業統合なのか)によって、どちらの類型が適しているかが変わってきます。
分社型分割と分割型分割の違い
会社分割は、承継の対価を「誰が受け取るか」によって、分社型分割(物的分割)と分割型分割(人的分割)にも分類されます。分社型分割は、事業を承継させた対価としての株式等を分割会社自身が受け取る方式で、グループ内での子会社化や持株会社体制への移行の際によく用いられます。分割型分割は、対価を分割会社の株主が受け取る方式で、株主構成を維持したまま事業を切り出したい場合に選択されます。
ここで注意したいのが法律構成です。会社法では、旧商法上の「人的分割」という独立した類型は廃止されました。現在の分割型分割は、吸収分割契約または新設分割計画において、効力発生日に分割会社が取得する承継会社株式を「剰余金の配当」として株主に交付する旨を定めることで実現します(会社法758条8号ロ、763条1項12号ロ)。この配当については分配可能額による財源規制が適用されない点も、実務上の重要なポイントです(同法792条、812条)。また、完全支配関係にあるグループ内再編などでは、対価をまったく交付しない「無対価分割」が用いられることもあります。
ポイント
会社分割を検討する際は、まず「新設か吸収か」「分社型か分割型か」という2つの軸で整理すると、自社の目的に合ったスキーム設計がしやすくなります。特に、持株会社化や事業承継の準備段階では、分社型新設分割が選択されるケースが多く見られます。分割型を選ぶ場合は、剰余金の配当という法律構成をとる関係で、債権者保護手続きの対象が分割会社の全債権者に広がる点にも留意が必要です。スキームの設計段階で税理士・弁護士を交えて検討することで、後工程での手戻りを防げます。
2. 新設分割とは
新設分割(分社型)の仕組み
新設分割(分社型)は、分割会社が特定事業を切り出し、新たに設立する会社(新設会社)に承継させ、その対価として新設会社の株式を分割会社自身が受け取る方式です。例えば、複数の事業部門を持つA社が、不動産管理部門のみを切り出して新設会社B社を設立し、B社の株式をA社が保有する形が典型例です。この結果、A社はB社の親会社となり、グループ経営や持株会社体制への移行の第一歩として活用されるケースが多く見られます。
なお、新設分割の対価は、新設会社の株式のほか社債・新株予約権などに限られ、金銭を交付することはできません(会社法763条1項)。裏を返せば、買収資金を用意することなく分社化を実行できるということであり、この点が実務上の大きなメリットとなっています。
新設分割(分割型)の仕組み
新設分割(分割型)は、新設会社の株式を分割会社の株主が受け取る方式です。前述のとおり、法律構成としては、分割会社がいったん取得した新設会社株式を、分割計画の定めに従って効力発生日に剰余金の配当として株主へ交付する形をとります。分割会社と新設会社は、いずれも同じ株主構成のまま存続することになり、1つの会社で営んでいた複数の事業を、株主構成を変えずに2つの会社に分けて運営したい場合に適しています。
事業承継の場面では、後継者候補に新設会社の経営を任せることで経営者としての実務経験を積ませ、将来的な本体事業の承継へつなげる「段階的な事業承継」の手法としても活用されています。ただし、株主が複数いる場合は分割後も両社に同じ株主構成が残るため、将来的な株式の集約や買取りの見通しまで含めて設計しておかないと、かえって権利関係が複雑になる点には注意が必要です。
新設分割が向いているケース
新設分割は、①好調な事業や将来性のある事業を切り出して独立採算にしたい、②持株会社体制へ移行しグループガバナンスを整備したい、③後継者に一部門を任せて経営経験を積ませたい、④事業ごとにリスクを遮断したい、といった目的を持つ企業に向いています。契約締結交渉の相手方が存在しないため、吸収分割に比べて手続きの負担が軽い点が特徴です。
さらに、新設会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が分割会社の総資産額の5分の1(20%)を超えない場合には、「簡易新設分割」として株主総会の特別決議を省略できます(会社法805条)。この場合、分割会社の反対株主による株式買取請求権も原則として発生しません(同法806条1項2号)。なお、議決権の90%以上を保有する特別支配会社との関係で決議を省略する「略式手続」は吸収分割にのみ認められた制度であり、相手方が存在しない新設分割には適用がない点は押さえておきましょう。
注意点
新設分割は手続きが比較的簡便ですが、新設会社の設立登記に加え、許認可の取扱いを事前に確認する必要があります。許認可には、法令に承継規定があり届出で当然に承継できるもの(食品衛生法上の営業許可など)、事前の認可を受けることで承継できるもの(建設業許可)、承継規定がなく新規取得が必要なもの(宅地建物取引業免許など)があります。分割の効力発生日と許認可手続きのスケジュールは、必ず所管官庁に事前照会したうえで組み立ててください。
3. 吸収分割とは
吸収分割の仕組みと対価の柔軟性
吸収分割は、既存の会社(承継会社)に権利義務を承継させる方式です。すでに事業基盤を持つ会社へ承継させるため、承継会社側でシナジー効果を即座に発揮しやすい点が特徴です。新設分割と異なり、対価として株式だけでなく、金銭やその他の財産を交付することも可能であり(会社法758条4号)、M&Aの買収スキームとしても広く用いられています。例えば、同業他社の特定事業のみを買収したい場合、吸収分割契約を締結し、対価として現金を支払う形で事業を承継するケースが典型例です。
ただし、金銭を対価とする場合は、後述する法人税法上の「金銭等不交付要件」を満たさなくなるため、原則として非適格分割となります。加えて、不動産取得税の非課税措置も受けられなくなります。対価の柔軟性は吸収分割の強みですが、税務コストとのトレードオフになる点を必ず織り込んでください。
吸収分割(分割型・分社型)の違い
吸収分割にも、対価を分割会社が受け取る「分社型吸収分割」と、分割会社の株主が受け取る「分割型吸収分割」があります。分社型吸収分割は、既存のグループ会社間で事業を統合する際に用いられることが多く、分割型吸収分割は、株主に直接対価を交付したいケースで選択されます。分割型を選択した場合、剰余金の配当を伴う関係で、分割会社の債権者は原則としてすべて債権者保護手続きの対象となります(会社法789条1項2号かっこ書)。実務上は、譲渡側・譲受側双方の資本関係や税務上の要件を踏まえたうえで、どちらの型を採用するかを専門家とともに検討する必要があります。
共同分割という応用パターン
会社分割には、複数の会社が同時に譲渡側となり、1社の譲受側へ権利義務を承継させる応用形態もあります。会社法が明文で定めているのは「共同新設分割」で、2社以上が共同して新設分割計画を作成する方式です(会社法762条2項)。既存会社を承継先とする場合は、複数の分割会社がそれぞれ同一の承継会社との間で吸収分割契約を締結する形をとり、実務上「共同吸収分割」と呼ばれます。
例えば、X社とY社がそれぞれ関連する事業をZ社へ承継させ、Z社がそれらを統合して事業運営する、といったケースです。関連事業を1つの会社に集約することでスケールメリットを狙う場合や、複数企業が共同出資でジョイントベンチャーを設立する場合などに活用されています。
ポイント
吸収分割はM&Aの買収スキームとしても頻繁に用いられます。買い手企業にとっては、対象会社の株式ごと取得する株式譲渡と異なり、承継する権利義務を分割契約で特定できるため、不要な資産や想定外の債務を引き受けるリスクを一定程度コントロールしやすいというメリットがあります。ただし、分割契約に記載された債務は債権者の個別同意なく承継されますし、記載されなかった債務についても詐害的分割と評価されれば残存債権者から直接請求を受け得ます。事前のデューデリジェンスは必須です。
4. 会社分割と事業譲渡・株式譲渡との違い
会社分割と事業譲渡の違い(包括承継 vs 個別承継)
会社分割と事業譲渡は、いずれも「特定の事業を切り出す」という点で似ていますが、承継の法的性質が大きく異なります。会社分割は、分割契約または分割計画に定めた権利義務を包括的に(一括して)承継させる組織法上の行為であるのに対し、事業譲渡は、資産・負債・契約などを個別に移転する取引法上の行為(売買契約)です。そのため事業譲渡では、取引先との契約上の地位の移転に相手方の同意が必要となり、従業員についても個別の同意を得て労働契約を移す必要があるため、手続きの負担が大きくなる傾向があります。
もっとも、会社分割にも固有の手続き負担があります。事業譲渡には債権者保護手続きがない一方、会社分割では官報公告等による債権者保護手続き(異議申述期間1ヶ月以上)が必要です。また、事業譲渡では譲渡会社に競業避止義務が課されます(会社法21条)。逆に、包括承継である会社分割では、承継対象に含まれる簿外債務まで引き継いでしまうリスクがある点に注意が必要です。どちらが有利かは一概に言えず、承継したい範囲・スピード・税負担・許認可の要否を総合して判断することになります。
会社分割と株式譲渡の違い(事業単位 vs 会社単位)
株式譲渡は、対象会社の株式そのものを譲渡することで経営権を移転する手法であり、会社の法人格や契約関係はそのまま維持されます。中小企業M&Aで最も多く使われるスキームですが、対象会社の全事業・全資産・全負債をそのまま引き継ぐことになるため、「特定の事業だけを譲渡・譲受したい」というニーズには適しません。
会社分割は、事業(権利義務)単位での切り出しが可能なため、対象会社の一部門だけを譲渡したい、あるいは複数事業のうち特定の事業のみを譲受したい、といったニーズに対応できる点が株式譲渡との大きな違いです。なお、株式譲渡では契約関係が形式的には維持されますが、重要な取引契約にチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が置かれていると、支配株主の変更を理由に解除される可能性があるため、こちらも事前確認が欠かせません。
スキーム選択の判断ポイント(比較表)
会社分割・事業譲渡・株式譲渡は、承継範囲・対価・税務・許認可・契約手続きの面でそれぞれ異なる特徴を持ちます。以下の比較表を、スキーム選定の出発点としてご活用ください。
| 比較項目 | 会社分割 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
|---|---|---|---|
| 承継の性質 | 包括承継(組織法上の行為) | 個別承継(取引法上の行為) | 株主の変更による経営権移転(法人格は継続) |
| 承継範囲 | 権利義務を単位に選択可能 | 資産・負債・契約を個別に選択可能 | 会社全体(全資産・全負債) |
| 契約の移転 | 原則として相手方の個別同意なく承継 | 相手方の同意が必要 | 移転不要(ただしCOC条項に注意) |
| 従業員の移転 | 労働契約承継法に基づき承継(個別同意は不要) | 個別の同意が必要 | 雇用関係に変動なし |
| 許認可 | 承継規定・認可制度があるものは承継可 | 原則として再取得(近年一部で承継可) | 原則として影響なし |
| 債権者保護手続き | 必要(官報公告等、異議申述期間1ヶ月以上) | 不要 | 不要 |
| 対価 | 株式・金銭など柔軟(新設分割は株式等のみ) | 金銭が一般的 | 金銭が一般的 |
| 消費税 | 不課税(資産の譲渡等に該当しない) | 課税対象資産に課税 | 非課税(有価証券の譲渡) |
| 簿外債務リスク | 承継対象に含まれれば引き継ぐ | 個別選択のため遮断しやすい | 会社ごと引き継ぐため影響大 |
スキーム選定に迷う場合は、以下のチェックリストで論点を整理すると判断がしやすくなります。
- 承継したいのは「会社全体」か「特定の事業のみ」か
- 取引先・従業員との契約を個別に再締結する手間をかけられるか
- 簿外債務・偶発債務のリスクをどこまで許容できるか
- 対価は金銭で用意できるか、株式交付でも構わないか
- 許認可について、承継規定・認可制度の有無を所管官庁に確認したか
- 債権者保護手続き(1ヶ月以上)を織り込んだスケジュールを組めるか
- 税務上、適格要件を満たせるグループ内再編か、第三者間のM&Aか
5. 会社分割が実務で活用される主な場面
事業承継・後継者育成の場面
中小企業の事業承継において、会社分割は後継者候補に一部門の経営を任せ、実務経験を積ませる手段として活用されています。複数事業を営むオーナー経営者が、将来の後継者に承継させたい事業のみを新設分割で切り出し、後継者を新設会社の代表者に据えることで、段階的に経営権を移譲していくケースが典型例です。
また、後継者に引き継がせたくない不動産・遊休資産などを別会社に切り離しておくことで、本体事業の承継をスムーズにする活用方法も見られます。第三者への承継を選ぶ場合には、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」が、譲り渡し側・譲り受け側双方の進め方や支援機関の活用方法を示しており、実務の指針として参照されています。
グループ内組織再編・持株会社化の場面
複数の事業を営む企業が持株会社(ホールディングス)体制へ移行する際、各事業を分社型新設分割によって別会社に切り出し、既存の会社を持株会社として再編するケースが多く見られます。事業ごとに損益責任を明確化し、意思決定のスピードを高めるとともに、将来的なM&AやIPO、事業ごとの資金調達をしやすくする狙いがあります。
また、グループ会社間で類似事業を統合する際にも、吸収分割によって重複部門を1社に集約する手法がよく用いられます。完全支配関係にあるグループ内再編であれば、後述する適格分割の要件を満たしやすく、法人税の課税を繰り延べたまま組織再編を進められる点も、この場面で会社分割が選ばれる理由です。
M&Aにおけるカーブアウト(一部事業の譲渡・譲受)の場面
M&Aの実務では、売り手企業が「特定の事業だけを譲渡したい」、買い手企業が「対象会社の全体ではなく一部の事業だけを譲受したい」というニーズが少なくありません。このような場合、対象事業を吸収分割によって買い手側の会社(またはそのグループ会社)に承継させる形でM&Aを実行することがあります。株式譲渡と異なり、不要な資産や引き継ぎたくない債務を売り手側に残したまま、必要な事業のみを承継できる点が、カーブアウト型M&Aで会社分割が選ばれる理由です。
実務でよく用いられるのが、売り手側でまず分社型新設分割によって対象事業を100%子会社として切り出し、その子会社株式を買い手に譲渡する二段階のスキームです。分割自体は完全支配関係の下で行われるため適格分割となりやすく、課税は最終的な株式譲渡の局面に集約されます。買い手側も、承継範囲が確定した会社の株式を取得する形になるため、リスクの切り分けがしやすくなります。
不採算事業の切り離し・経営再建の場面
経営再建の局面では、不採算事業を会社分割によって切り離し、収益性の高い事業に経営資源を集中させる手法が用いられます。切り離した不採算事業を清算・譲渡することで、本体企業の財務体質を改善しつつ、主力事業の雇用や取引関係を維持できる点がメリットです。事業再生の実務においても、私的整理や法的整理の一環として会社分割が活用されています。
ただし、この場面では債権者を害する目的での分割(いわゆる詐害的会社分割)と評価されるリスクが最も高まります。優良事業だけを新会社に移し、債務を残存会社に置き去りにするような設計は、後述するとおり残存債権者から直接の履行請求を受ける原因となります。再建目的であっても、債権者への説明と手続きの透明性を確保することが不可欠です。
注意点
会社分割を事業承継やM&Aの手段として検討する際は、税務上「適格分割」に該当するかどうかで課税関係が大きく変わります。特に、M&Aでのカーブアウトのように資本関係のない第三者へ事業を承継させる場合や、対価として金銭を交付する場合は非適格分割に該当しやすく、想定外の税負担が生じることがあります。また、法人税が繰り延べられる適格分割であっても、不動産の所有権移転登記に係る登録免許税は課税されます。スキームを確定する前に、税理士を交えた税務シミュレーションを行うことを強く推奨します。
6. 会社分割のメリット
資金負担なく実行できる
会社分割の対価は株式で交付することが可能なため、他のM&A手法のように多額の買収資金を用意する必要がありません。グループ内再編や資金力に乏しい企業のカーブアウトなどでは、この「資金を用意せずに実行できる」という特性が大きなメリットとなります。新設分割ではそもそも金銭を対価とすることができず、株式等の交付が前提となるため、この特性がより明確に現れます。
契約・許認可・雇用契約を包括的に承継できる
会社分割は包括承継であるため、分割契約等に定めた契約上の地位は、取引先の個別同意を得ることなく承継されます。また、雇用契約についても、労働契約承継法に基づく手続きを経ることで、個別の合意なく従業員の労働契約を労働条件を維持したまま承継先へ移すことができ、人材流出のリスクを抑えられます。
許認可についても、食品衛生法上の営業許可(飲食店営業許可など)のように法令に承継規定が置かれているものは、地位承継の届出により引き継ぐことができます。建設業許可についても、令和2年10月1日施行の改正建設業法により、あらかじめ許可行政庁の認可を受ければ承継が認められるようになりました(建設業法17条の2)。ただし、これらの制度は事業譲渡にも広がりつつあり(食品衛生法上の営業許可は2023年12月13日から事業譲渡による承継が可能)、「許認可を承継できるのは会社分割だけ」という理解は現在では正確ではありません。
消費税が課税されない
会社分割による資産・負債の移転は、消費税法上「対価を得て行う資産の譲渡等」に該当しないため、消費税の課税対象外(不課税)となります。事業譲渡では譲渡資産に応じて消費税が発生するため、譲渡対象に不動産や設備など高額な課税資産が含まれる場合、会社分割を選択することで税務コストを抑えられる可能性があります。
もっとも、消費税については「分割等があった場合の納税義務の免除の特例」(消費税法12条)が設けられており、新設分割で設立した会社や分割承継法人は、自社の基準期間の課税売上高が少なくても、分割会社の課税売上高を基礎に納税義務が判定される場合があります。分社化によって免税事業者になれると考えていたところ、実際には課税事業者となるケースがあるため、事前の確認が必要です。
7. 会社分割のデメリット・注意点
簿外債務・偶発債務を引き継ぐリスク
包括承継という会社分割の性質上、承継会社は、分割契約等で承継対象とされた範囲に含まれる簿外債務や偶発債務(訴訟リスク、未払残業代など)まで引き継いでしまう可能性があります。特に中小企業では会計が不透明なケースも少なくないため、デューデリジェンス(DD)を通じて対象事業の財務・法務リスクを事前に洗い出すことが極めて重要です。
逆に、分割会社側に債務を残すスキームにもリスクがあります。平成26年改正会社法(平成27年5月施行)により、分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合、残存債権者は、承継会社に対して承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できるようになりました(会社法759条4項、764条4項)。これに加えて、民法上の詐害行為取消権や倒産法上の否認権の対象となる可能性もあります。「債務を切り離すための分割」は法的に否定され得るという前提で設計してください。
許認可の再取得が必要になる業種がある
業種によっては、会社分割を行っても許認可が当然には承継されず、新設会社・承継会社側で取り直しが必要になります。代表例が宅地建物取引業免許で、宅地建物取引業法には承継規定が置かれていないため、新規の免許取得が必要です。介護保険法上の事業所指定なども、法人格が変わる以上は新規申請が原則となります。
建設業許可については、かつては廃業届と新規許可申請が必要で、その間に営業できない空白期間が生じていましたが、令和2年10月1日施行の改正建設業法により事前認可制度が創設され、あらかじめ国土交通大臣または都道府県知事の認可を受ければ、分割の日に建設業者としての地位を承継できるようになりました(建設業法17条の2第3項)。ただし、この制度は「建設業の全部」を承継させる分割であることが前提であり、複数の許可業種のうち一部だけを切り出す分割では利用できません。また、認可には承継会社が経営業務の管理責任者・技術者・財産的基礎などの許可要件を満たしていることが必要で、申請の受付期間も分割予定日から逆算して定められています。監督処分歴や経営事項審査の結果もそのまま承継される点にも留意が必要です。
労働契約承継法に基づく労働者保護手続きへの対応
会社分割を行う際、分割会社は「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(労働契約承継法)に基づき、承継される事業に主として従事する労働者などに対し、労働契約の承継に関する事項を書面で通知しなければなりません。株主総会の承認を要する株式会社の場合、通知期限日は分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日とされ、株主総会を要しない場合や合同会社の場合は、分割契約が締結された日または分割計画が作成された日から起算して2週間を経過する日とされています。
異議申出期限は、通知期限の翌日から株主総会の日の前日までの範囲で分割会社が定めますが、通知がされた日と異議申出期限日との間には少なくとも13日間を置く必要があります。労働者が異議を申し出た場合は、労働条件が維持されたまま労働契約が承継され、または分割会社に残留する扱いとなります。
さらに実務上重要なのが、承継法上の通知とは別に、平成12年商法等改正法附則5条に基づく「労働者との協議」(5条協議)と、承継法7条に基づく「労働者の理解と協力を得る努力」(7条措置)が求められる点です。最高裁は、5条協議が全く行われなかった場合や、説明・協議の内容が著しく不十分で法の趣旨に反することが明らかな場合には、労働者が労働契約承継の効力を争えると判示しています(日本アイ・ビー・エム事件・最判平成22年7月12日)。また、会社分割のみを理由とする解雇や、分割を理由とする一方的な労働条件の不利益変更は認められません。手続きを怠ると後日労働紛争に発展するリスクがあるため、弁護士など専門家の関与のもとで通知・協議のスケジュールを管理することが不可欠です(参考:厚生労働省「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要」)。
8. 会社分割の手続きの流れ
新設分割の手続きステップ
新設分割は概ね次の流れで進みます。
- 新設分割計画の作成(取締役会設置会社では取締役会の決議を経る)
- 労働者・労働組合への通知および5条協議・7条措置(通知期限日は株主総会の日の2週間前の日の前日)
- 事前開示書類の備置(株主総会の日の2週間前の日、株式買取請求に係る通知・公告の日、債権者保護手続きの公告・催告の日のうち最も早い日から備置を開始)
- 株主総会における特別決議(簡易新設分割の要件を満たす場合は省略可)
- 反対株主による株式買取請求手続き(効力発生日の20日前までに通知または公告)
- 債権者保護手続き(官報公告・個別催告、異議申述期間は1ヶ月以上)
- 新設会社の設立登記および分割会社の変更登記(設立登記の日が効力発生日)
- 分割会社・新設会社双方における事後開示書類の備置(効力発生日から6ヶ月間)
承継会社が新設される都合上、契約締結交渉が不要な分、吸収分割よりも手続き負担は軽くなる傾向があります。なお、③以降の各手続きは並行して進めることができるため、実務ではスケジュール表を作成し、法定期間の重なりを見ながら最短ルートを設計するのが一般的です。
吸収分割の手続きステップ
吸収分割は、新設分割とほぼ同様の流れですが、承継会社(既存会社)との間で吸収分割契約を締結する点が大きく異なります。
- 吸収分割契約書の作成
- 承継会社との契約締結(取締役会設置会社では取締役会の決議)
- 労働者・労働組合への通知および5条協議(分割会社側)
- 分割会社・承継会社双方における事前開示書類の備置
- 株主総会における特別決議(効力発生日の前日まで。簡易分割・略式分割の要件を満たす場合は省略可)
- 反対株主による株式買取請求手続き(効力発生日の20日前までに通知または公告)
- 債権者保護手続き(分割会社・承継会社双方で公告・催告、1ヶ月以上)
- 効力発生日(吸収分割契約で定めた日)
- 効力発生日から2週間以内に両社で登記申請
- 事後開示書類の備置
承継会社側でも株主総会や債権者保護手続きが必要になるため、両社のスケジュール調整に時間を要する点が実務上のポイントです。また、承継会社の債権者は、分割型・分社型を問わず全員が債権者保護手続きの対象となります(会社法799条1項2号)。
簡易分割・略式分割による手続きの簡略化
一定の要件を満たす場合、株主総会の特別決議を省略できる「簡易分割」「略式分割」という制度があります。分割会社側の簡易分割は、承継させる資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1(20%)以下である場合に認められます(会社法784条2項、805条)。承継会社側の簡易吸収分割は、交付する対価の額が承継会社の純資産額の5分の1以下である場合に認められますが、分割によって差損が生じる場合や、一定数の株主が反対の通知をした場合には省略できません(同法795条2項、796条2項・3項)。
略式分割は、議決権の90%以上を保有するなどの特別支配関係がある場合に、支配される側の会社で決議を省略できる制度で、吸収分割にのみ認められています(同法784条1項、796条1項)。相手方が存在しない新設分割には略式手続の制度はありません。なお、簡易手続によった場合、反対株主の株式買取請求権も原則として発生しないため(同法785条1項2号、797条1項ただし書、806条1項2号)、手続きの負担・所要期間を大きく短縮できます。グループ内再編では積極的に活用を検討する価値があります。
手続きに要する期間の目安
手続きに要する期間の目安は以下の通りです。債権者保護手続きの異議申述期間が1ヶ月以上と法定されているため、これが事実上の下限を決めます。実際の期間は、株主総会の開催時期や許認可手続きの有無によって前後します。
| 区分 | 所要期間の目安 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 新設分割 | 1ヶ月半〜3ヶ月程度 | 債権者保護手続きに1ヶ月以上を要する。契約締結交渉が不要で、簡易新設分割に該当すれば株主総会を省略でき、短縮しやすい |
| 吸収分割 | 2ヶ月〜4ヶ月程度 | 承継会社との契約交渉に加え、両社で事前開示・債権者保護手続き・登記が必要となり、スケジュール調整に時間を要する |
なお、承継される債務について分割会社が引き続き履行の責任を負う分社型分割で、剰余金の配当を伴わない場合には、そもそも債権者保護手続きが不要となることがあります。このケースでは、上記よりさらに短期間で実行できる可能性があります。
注意点
債権者保護手続きにおける公告・催告の期間(1ヶ月以上)、事前開示書類の備置開始日、株式買取請求に係る通知・公告の期限(効力発生日の20日前まで)は会社法で厳格に定められており、後ろ倒しにできません。官報公告に加えて定款所定の日刊新聞紙または電子公告を行えば個別催告を省略できますが、不法行為によって生じた債務の債権者に対しては省略できない点にも注意が必要です。効力発生日から逆算して準備を始めることが、手続き遅延を防ぐ最大のポイントです。
9. 会社分割の税務(適格分割・非適格分割)
適格分割・非適格分割とは何か
会社分割は、法人税法上「適格分割」と「非適格分割」に区分され、どちらに該当するかによって税務上の取り扱いが大きく異なります。適格分割に該当する場合、移転する資産・負債は帳簿価額で引き継がれるため、分割会社側で譲渡損益は発生せず、課税が繰り延べられます。一方、非適格分割に該当する場合、移転資産・負債は時価で評価され、含み損益が実現するため、分割会社に譲渡益課税が生じる可能性があります。どちらに該当するかは、資本関係(完全支配関係・支配関係・共同事業要件のいずれか)に応じて定められた複数の要件を満たすかどうかで判定されます。
適格分割の主な判定要件
適格分割に該当するための主な要件は、資本関係の類型ごとに以下のように整理できます。
| 要件 | 内容 | 求められる資本関係 |
|---|---|---|
| 金銭等不交付要件 | 承継会社(新設会社)の株式以外の資産が対価として交付されないこと | すべての類型で共通 |
| 按分型要件 | 分割型分割の場合、株主の持株比率に応じて株式が交付されること | すべての類型で共通 |
| 関係継続要件 | 分割後も完全支配関係(または支配関係)が継続する見込みであること | 完全支配関係・支配関係 |
| 主要資産・負債引継要件 | 移転する事業に係る主要な資産・負債が引き継がれること | 支配関係・共同事業要件 |
| 従業者引継要件 | 分割事業の従業者のおおむね80%以上が承継先で業務に従事する見込みであること | 支配関係・共同事業要件 |
| 事業継続要件 | 分割後も承継した事業が引き続き営まれる見込みであること | 支配関係・共同事業要件 |
| 事業関連性要件 | 分割事業と承継会社の事業が相互に関連するものであること | 共同事業要件 |
| 事業規模要件または特定役員引継要件 | 双方の事業規模の差がおおむね5倍以内であること、または双方の特定役員が引き続き経営に参画すること | 共同事業要件 |
| 株式継続保有要件 | 交付された株式が継続して保有される見込みであること | 共同事業要件 |
完全支配関係(100%)にあるグループ内での会社分割は、金銭等不交付要件・按分型要件に加えて完全支配関係の継続見込みがあれば足りるなど、資本関係が強いほど要件は緩やかになります。逆に、資本関係のない第三者間でのM&Aによる会社分割は、共同事業要件をすべて満たす必要があり、ハードルが高くなる点に留意が必要です。なお、完全支配関係下での無対価分割については、株式の保有関係に応じた別途の要件が定められているため、個別の確認が必要です。
非適格分割の場合の課税関係
非適格分割に該当する場合、分割会社は移転資産・負債を時価で評価し直すため、含み益がある場合は譲渡益に対して法人税等が課税されます。承継会社側でも、移転を受けた資産・負債を時価で受け入れることになり、対価との差額について資産調整勘定(税務上ののれん)や差額負債調整勘定が計上される場合があります。
また、非適格の分割型分割では、交付を受けた対価の額のうち、分割会社の資本金等の額のうち分割に対応する部分(分割資本金額等)を超える部分が「みなし配当」として扱われ、株主側にも課税が生じます(法人税法24条1項2号)。個人株主は配当所得として、法人株主は受取配当等の益金不算入の対象として取り扱われます。適格の分割型分割ではみなし配当は生じません。非適格分割は税負担が重くなりやすいため、グループ内再編や事業承継目的の会社分割では、事前に適格要件を満たせるようスキームを設計することが一般的です。ただし、M&Aで第三者に事業を承継させる場合は、金銭を対価とする以上非適格分割となるため、税務上の影響を織り込んだ価格交渉が必要になります。
ポイント
適格・非適格の判定は、資本関係や交付対価の内容によって細かく要件が異なり、専門的な判断を要します。加えて、法人税が繰り延べられる適格分割であっても、登録免許税は課税され、不動産取得税も要件を満たさなければ課税されます。会社分割を検討する際は、法務面だけでなく税務面のシミュレーションを早い段階から並行して進めることで、想定外の税負担や手戻りを防ぐことができます。
10. 会社分割にかかる費用
登録免許税・不動産取得税
会社分割の登記には登録免許税がかかります。分割会社側の登録免許税は原則3万円の定額です。一方、承継会社(または新設会社)側は、株式会社・合同会社の場合、資本金の増加額(新設分割では設立時の資本金の額)に0.7%を乗じた金額(算出額が3万円に満たない場合は3万円)となり、承継する事業の規模によって金額が変動します。
見落とされがちなのが、不動産を承継する場合のコストです。会社分割による不動産の所有権移転登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の2%であり、合併や相続による移転(0.4%)と比べて負担が重くなります。適格分割であっても軽減されません。他方、不動産取得税については、金銭等不交付・主要な資産負債の引継ぎ・事業の継続・従業者のおおむね80%以上の引継ぎ(分割型分割ではさらに按分型であること)という要件をすべて満たせば非課税となります(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。非課税の適用には申告と証明書類の提出が必要で、判断は都道府県が行うため、事前相談をおすすめします。
官報公告費
債権者保護手続きにおいては、官報への公告が必要です。決算公告を行っていない会社の場合は、分割公告に加えて貸借対照表の要旨等も公告する必要があり、費用は数万円程度かかることが一般的です(掲載する行数や公告内容によって変動します)。個別催告を省略するために定款所定の日刊新聞紙や電子公告を併用する場合は、その分の費用も別途発生します。
専門家への依頼費用
会社分割の手続きは、契約書・計画書の作成、デューデリジェンス、税務シミュレーション、労働者への通知・協議、許認可の事前照会、登記申請など専門性の高い業務が多く、弁護士・税理士・司法書士など専門家への依頼費用が発生します。M&Aの一環として会社分割を行う場合は、これに加えてM&Aアドバイザリー費用(着手金・中間金・成功報酬等)が別途必要となるケースが一般的です。費用は事業規模や手続きの複雑さによって大きく異なるため、早い段階で複数の専門家から見積もりを取得し、全体像を把握しておくことをお勧めします。
11. まとめ
会社分割は、事業に関する権利義務を包括的に承継できる柔軟な組織再編・M&A手法であり、新設分割・吸収分割という2つの類型と、分社型・分割型という対価の受け取り方によって、多様な設計が可能です。本記事の要点を整理します。
- 会社分割は「新設分割」と「吸収分割」に大別され、効力発生日の決まり方・手続き・所要期間が異なる
- 分割型分割は「剰余金の配当」という法律構成で実現され、債権者保護手続きの範囲にも影響する
- 事業譲渡・株式譲渡とは、承継の範囲・対価の柔軟性・許認可・消費税の扱いが大きく異なる
- 許認可は「当然承継できるもの」「事前認可で承継できるもの」「新規取得が必要なもの」に分かれ、所管官庁への事前確認が不可欠
- 労働契約承継法の通知期限・異議申出期間に加え、5条協議・7条措置を怠ると承継の効力を争われるおそれがある
- 税務上は適格分割・非適格分割の判定が課税関係を左右し、適格であっても登録免許税・不動産取得税は別途検討が必要
会社分割は法務・税務・労務が複雑に絡み合うスキームであるため、自己判断で進めるとスキーム選択や手続きの誤りによって思わぬ税負担やトラブルを招くおそれがあります。弁護士・税理士など専門家チームによる客観的な検証を受けながら、自社の目的に最適なスキームを設計することが、会社分割を成功させる近道です。
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