「事業承継でどんな税金がかかるのか、規模感がまったく分からない」「事業承継税制を活用できるのか知りたいが、要件が複雑で整理できていない」「節税の手を打てているか不安で、専門家に相談する前に概要を把握しておきたい」——このような悩みを持つ経営者や後継者の方は少なくありません。
事業承継における税金問題は、承継の方法や自社株の評価額によって負担額が大きく変わります。適切な対策を講じることで税負担を大幅に軽減できる一方、対策を怠ると数千万円から数億円規模の納税が発生し、経営そのものを圧迫するリスクがあります。
本記事では、事業承継で発生する税金の種類を承継方法別に整理し、活用できる節税対策・制度・最新の改正情報を網羅的に解説します。特に2025年・2026年の税制改正による最新情報も盛り込んでいますので、ぜひ経営の意思決定にお役立てください。
1. 事業承継で発生する税金の全体像
承継方法によって税金の種類が変わる
事業承継にかかる税金は、「どのような方法で会社・事業を引き継ぐか」によって大きく異なります。大きく分けると、①経営者の死亡による相続、②生前の贈与、③第三者へのM&A(売却)の3パターンがあり、それぞれで課税される税金の種類・税率・納税義務者が異なります。また、不動産を含む事業では登録免許税や不動産取得税が別途発生するケースもあります。
「税金の問題は承継直前に考えれば良い」と思っている経営者も多いですが、それは大きな誤りです。事業承継の税金対策は、数年〜十数年単位の長期的なプランニングが必要であり、早期に着手するほど選択肢が広がります。
事業承継で発生する主な税金
事業承継で発生する主な税金は以下の4種類です。
- 相続税:経営者が亡くなって株式・事業を後継者が相続する場合
- 贈与税:経営者が生前に後継者へ株式・事業を贈与する場合
- 所得税・住民税:M&Aで株式を売却する場合(個人株主)
- 法人税等:法人株主がM&Aで株式を売却する場合、または事業譲渡の場合
承継方法別・発生税金の比較表
| 承継方法 | 税金の種類 | 納税者 | 税率の目安 |
|---|---|---|---|
| 相続(親族内承継) | 相続税 | 後継者(受取側) | 10〜55%(累進課税) |
| 贈与(生前・親族内) | 贈与税 | 後継者(受取側) | 10〜55%(累進課税) |
| 株式譲渡(M&A/個人株主) | 所得税+住民税 | 現経営者(売却側) | 一律20.315% |
| 株式譲渡(M&A/法人株主) | 法人税等 | 売却側の法人 | 実効税率約23〜34% |
| 事業譲渡 | 法人税等+消費税 | 売却側の法人 | 法人税等+消費税10% |
ポイント
事業承継にかかる税金は、承継方法の選択によって大きく変わります。特に中小企業の場合、M&A(株式譲渡・個人株主)は税率20.315%と、相続税・贈与税の最高税率55%に比べて低い場合があります。ただし、どの方法が有利かは自社株の評価額や承継先の状況によって異なるため、一概に比較はできません。承継方法の選択は専門家と連携して慎重に検討することが重要です。
2. 親族内承継(相続・贈与)でかかる税金
相続税:経営者死亡時に発生する税金
経営者が自社株式を保有したまま亡くなった場合、その株式は相続財産となり、後継者(相続人)に相続税が課せられます。相続税は「基礎控除額」を超えた部分に対して、累進課税方式で税率が適用されます。
相続税の基礎控除額の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。たとえば法定相続人が3人の場合、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除となり、これを超えた財産に対して相続税が発生します。
相続税の税率(法定相続分に応ずる取得金額に対して)は、1,000万円以下:10%、1,000万円超〜3,000万円以下:15%、3,000万円超〜5,000万円以下:20%、5,000万円超〜1億円以下:30%、1億円超〜2億円以下:40%、2億円超〜3億円以下:45%、3億円超〜6億円以下:50%、6億円超:55%となっており、財産規模が大きいほど重い税負担となります。
相続税の最大のリスク:突然の発生と準備不足
相続税の最大の課題は、「いつ発生するか分からない」という予測困難性にあります。経営者が急病で亡くなった場合、後継者は突然多額の納税義務を負うことになります。相続税の申告期限は被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内であり、この間に税額を計算し、原則として現金で納税しなければなりません。
中小企業の場合、経営者の財産の大半が自社株式であるケースが多く、株式の評価額が思いのほか高額になり、現金が十分に準備できないという事態が起こりがちです。万一の際の納税資金確保のため、生命保険の活用や計画的な生前贈与など、早期の対策が欠かせません。また、複数の相続人がいる場合は、自社株式の相続を巡る遺産分割争いが経営の根幹を揺るがす事態になりかねず、遺言書の作成・遺留分への配慮も重要な課題です。
ポイント
相続税対策は経営者が元気なうちから始めることが最も重要です。生前贈与・相続時精算課税制度・事業承継税制などの選択肢は、経営者が判断能力を有している段階でなければ実行できません。「いつか考えよう」では手遅れになるリスクがあります。少なくとも5〜10年前から専門家と連携したプランニングを始めることを強くお勧めします。具体的には、まず自社株の評価額を専門家に試算してもらい、税負担の規模感を把握することから始めましょう。
贈与税:生前贈与で発生する税金
経営者が存命中に後継者へ株式を贈与する場合、後継者(受贈者)に贈与税が課せられます。贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税制度」の2種類の課税方式があり、事業承継においてはいずれも状況に応じて活用されます。
暦年課税の場合、1年間(1月1日〜12月31日)に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いた金額に対して贈与税が課せられます。贈与税の税率は、贈与者と受贈者の関係により「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されます。
特例贈与財産(18歳以上の子・孫が直系尊属から贈与を受ける場合)の税率は、200万円以下:10%、400万円以下:15%(控除10万円)、600万円以下:20%(控除30万円)、1,000万円以下:30%(控除90万円)、1,500万円以下:40%(控除190万円)、3,000万円以下:45%(控除265万円)、4,500万円以下:50%(控除415万円)、4,500万円超:55%(控除640万円)です。
暦年課税と相続時精算課税制度の比較
| 比較項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 基礎控除(年間) | 110万円 | 110万円(新設)+累計2,500万円 |
| 税率 | 累進課税(10〜55%) | 2,500万円超部分は一律20% |
| 相続財産への加算 | 最終的に7年以内の贈与が対象 | 全額加算(新設基礎控除分除く) |
| 選択の変更 | 毎年選択可能 | 一度選択後は変更不可 |
| 適用者 | すべての贈与者・受贈者 | 60歳以上の親・祖父母→18歳以上の子・孫 |
| 主な活用場面 | 少額継続・株価が低い時期 | 高額株式を一度に移転したい場合 |
生前贈与加算の期間延長(2024年改正)に要注意
暦年課税による生前贈与は、相続対策として広く活用されてきましたが、2023年度の税制改正により「生前贈与加算」の期間が段階的に延長されました。これは、贈与者(経営者)が亡くなった場合、死亡日前の一定期間内の贈与財産を相続財産に加算するルールです。
2023年12月31日以前の贈与については加算期間が3年でしたが、2024年1月1日以後の贈与からは段階的に延長が始まり、最終的に7年(2031年以後の相続から完全適用)となります。ただし、延長された4〜7年前の贈与については合計100万円を控除できる緩和措置も設けられています。
注意点
生前贈与加算の延長により、従来の「死亡前3年以内の贈与は意味がない」という認識が更新されています。2024年1月1日以後の贈与から徐々に7年ルールが適用されるため、株式の生前贈与を進める際はこのルール変更を踏まえた長期計画が不可欠です。また、暦年課税での贈与は一旦始めても、いつでも継続・停止・変更が可能ですが、相続時精算課税制度を選択した場合は変更できないため、慎重な判断が必要です。
3. M&A・第三者承継でかかる税金
株式譲渡にかかる所得税・住民税(個人株主の場合)
M&Aによる第三者承継(株式の売却)を行う場合、売却益(譲渡所得)に対して税金が発生します。経営者個人が株主の場合、非上場株式の譲渡所得は「申告分離課税」として、他の所得とは区分して計算します。
税率は所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%(令和19年まで)=合計20.315%が一律で適用されます。計算式は「譲渡所得=売却価格−(取得費+売却に要した費用)」であり、この譲渡所得に20.315%を乗じた金額が納税額となります。
たとえば、5億円で株式を売却し、取得費が500万円であれば、譲渡所得は4億9,500万円となり、税額は約1億620万円(20.315%)となります。相続税・贈与税の最高税率55%に比べると、M&A売却は税率面で有利な場合が多く、事業承継の選択肢として魅力的なケースも少なくありません。なお、M&Aの実行と同時に役員退職金を受け取ることで、さらに手取りを最大化できるケースもあります(後述)。
法人株主の場合の税金
株主が法人(会社)の場合、株式譲渡益は法人の通常の利益と合算して法人税等が課せられます。中小企業の実効税率は約23〜34%程度で、法人税・法人住民税・法人事業税の合計額となります。
法人株主がM&Aで株式を売却する際は、個人株主と比べて税率が高くなることが多いため、事前に税務上の最適なスキームを検討することが重要です。たとえば、株式売却前に経営者個人に株式を移転しておくことで個人の税率(20.315%)を適用できるケースがあります(ただし、移転自体に税コストが発生するため要シミュレーション)。
事業譲渡にかかる税金(法人税・消費税)
M&Aの手法として「事業譲渡」(特定の事業・資産・負債を選択的に売却する方法)を選択する場合、税務上の取り扱いが株式譲渡と大きく異なります。
事業譲渡の場合、売り手企業には譲渡益(売却価格から帳簿価額を差し引いた額)に対して法人税等が課せられます。さらに、課税資産(建物・機械・のれん〈営業権〉など、土地を除く)に対して消費税(現行10%)が発生します。消費税は買い手企業が支払いますが、売り手企業は預かった消費税を申告・納付する義務があります。
このように事業譲渡は株式譲渡に比べて税務上の負担が大きくなる傾向があるため、M&Aにおいては売り手側が株式譲渡を希望するケースが多いです。買い手側は事業譲渡の方が「リスクを選別できる」「のれんの税務償却が可能(5年間)」というメリットがあるため、利害が対立することもあります。
株式譲渡vs事業譲渡の税負担比較
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 売り手の主な税金 | 所得税等20.315%(個人)/法人税等23〜34%(法人) | 法人税等23〜34%+消費税10%(課税資産) |
| 消費税の発生 | なし | 課税資産に発生(買い手負担) |
| 買い手の税務メリット | 取得価格がそのまま取得簿価 | のれん等を5年で税務償却可能 |
| 引継ぎ対象 | 会社ごとすべて引継ぎ | 選択的に資産・負債を選べる |
| 許認可・契約 | 原則そのまま引継ぎ可能 | 再取得・再締結が必要 |
| 簿外債務リスク | あり(デューデリジェンス要) | 選択して引継ぐため回避可能 |
注意点
M&Aにおいて自社株式を低額(著しく低い価額)で第三者や親族に譲渡した場合、税務上の「みなし贈与」や「みなし譲渡」として課税されるリスクがあります。税務上の時価(財産評価基本通達に基づく評価額)よりも著しく低い価格での売買は、贈与があったものとみなされ、予期せぬ課税が生じる場合があります。詳しくは本記事の第8章をご参照ください。
4. 非上場株式の評価方法と株価の重要性
なぜ株式評価が税金対策の起点になるのか
事業承継にかかる税金(相続税・贈与税)は、承継する自社株式の「評価額」を基に計算されます。上場企業と異なり、非上場企業(中小企業の多く)の株式には市場価格がありません。そのため、税法上のルールに従って株式の評価額を算定します。
多くの中小企業経営者は「自社株の価値は資本金程度だろう」と思いがちですが、実際には会社の利益・純資産・配当実績などに基づいて評価されるため、資本金の数十倍〜数百倍に達するケースも珍しくありません。自社株の評価額を正確に把握し、計画的に引き下げていくことが、税金対策の第一歩となります。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、自社と業種が類似する上場企業の株価を基準とし、①1株あたりの配当金額、②1株あたりの年利益金額、③1株あたりの簿価純資産価額の3要素を比較して評価額を算出する方法です。主に「大会社」および会社規模が大きいほど適用比率が高くなります。
この方式は、自社の利益や配当・純資産を減少させることで評価額を引き下げる効果があります。役員退職金の支給や設備投資の実施による利益圧縮が有効な対策となります。なお、比較対象となる類似業種の株価は国税庁が公表しており、景気動向や市場環境の影響を受けます。業績が好調で利益が高い時期は評価額も高くなりやすいため、承継時期の検討においても重要な指標です。
純資産価額方式
純資産価額方式とは、課税時期(相続・贈与の時点)における会社の資産と負債を相続税評価額(時価)で再評価し、1株あたりの純資産価額を算出する方法です。主に「小会社」や中規模以下の企業に適用されます。
純資産価額方式では、会社の資産価値(特に不動産・有価証券・内部留保等)をもとに評価するため、長年にわたって利益を積み上げてきた会社ほど評価額が高くなる傾向があります。含み益のある不動産や有価証券を多く保有している場合、思った以上の評価額となることがあるため注意が必要です。また、この方式では含み益に対して37%の法人税相当額を控除できるため、含み益の大きさも評価に影響します。
配当還元方式
配当還元方式とは、会社の過去2年間の平均配当金額を10%の利回りで還元して株価を評価する方法です。主に同族会社の少数株主(同族株主以外の株主)が保有する株式の評価に用いられます。
配当還元方式は計算上の株価が低くなりやすく、他の2方式と比べて評価額が低くなることが多いです。したがって、少数株主への株式の分散移転においては相対的に税負担が軽くなる可能性があります。この特性を活かし、後継者以外の親族や従業員への少数株式の分散によって全体の株式評価額を管理するスキームが活用されることもあります。
会社規模による評価方法の選択
実務上は、会社の規模(従業員数・総資産・売上高等に基づいて大会社・中会社・小会社に区分)によって、上記3方式をどの割合で組み合わせるかが決まります。大会社ほど類似業種比準方式の割合が高くなり、小会社は純資産価額方式が中心となります。中会社はL(大規模寄り)・M(中間)・S(小規模寄り)に細分化され、それぞれ混合割合が定められています。
ポイント
自社の株式評価がどの方式・どの割合で行われるかを事前に把握することが、節税策の出発点です。税理士や公認会計士に株式評価を依頼し、評価方法・現在の評価額・評価額引き下げのシミュレーションを実施してもらうことをお勧めします。特に、直近の業績向上・不動産の含み益増加・内部留保の蓄積などにより、知らないうちに評価額が数倍になっているケースも珍しくありません。「まず評価額を把握すること」が節税対策の出発点です。
5. 事業承継の節税対策【生前贈与・株価引き下げ】
暦年贈与(110万円非課税枠)の計画的活用
贈与税の基礎控除110万円を毎年活用し、少しずつ株式を後継者に移転していく「暦年贈与」は、代表的な節税対策のひとつです。110万円以下の贈与であれば贈与税はかからず、申告も不要です。
たとえば、1株あたりの評価額が5万円の場合、毎年22株(総額110万円)ずつ贈与すれば、10年間で220株・累計1,100万円分の株式を無税で移転できます。計画的に長期間実施することで、まとまった節税効果を得ることが可能です。株価が低いタイミング(役員退職金支給後や業績が一時的に落ちた時期)を狙って贈与すると、より多くの株数を非課税枠内で移転できます。
ただし、贈与金額が毎年同じで連続している場合、税務署から「連年贈与(あらかじめ大きな贈与を分割して行っているとみなされる)」と認定されるリスクがあります。毎年の贈与額・時期を変化させる、贈与契約書を毎年作成するなどの工夫が必要です。また、前述の生前贈与加算(最長7年)の問題もあるため、早期着手が不可欠です。
相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です。累計2,500万円までの贈与に贈与税が課せられません(2,500万円超の部分は一律20%)。2024年1月1日以後の贈与からは、年間110万円の基礎控除が新設され、この110万円分は贈与税がかからないうえ、相続財産への加算対象にもなりません。
相続時精算課税制度は、株価が低いタイミングで一度に大量の株式を移転したい場合に有効です。ただし、一度選択すると暦年課税への切り替えはできません(同一の贈与者・受贈者の組み合わせにおいて)。また、2,500万円を超えた贈与部分の贈与税は将来の相続税と精算されますが、株価が低いうちに贈与しておけば将来の相続税評価額を低く抑えられるメリットがあります。後継者に早期に株式を集中させたい場合に特に有効な手段です。
役員退職金を活用した株価引き下げ
役員退職金の支給は、①会社の利益を圧縮→類似業種比準価額が下がる、②会社の純資産を減少させる→純資産価額が下がる、という2つの効果を通じて自社株の評価額を引き下げる効果があります。さらに、役員退職金は損金算入できるため法人税の節税にもなります。
役員退職金を受け取る側(経営者)も課税上の優遇を受けられます。退職所得の計算は「(退職収入−退職所得控除)×1/2」であり、通常の給与所得と比べて課税対象額が半分になります。さらに、退職所得控除は勤続年数に応じて大きくなります(勤続20年以下:40万円×勤続年数、勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年))。
注意点として、役員退職金の「適正額」には税法上の基準があります(最終報酬月額×在任年数×功績倍率が目安)。この基準を大幅に超えた場合は超過部分が損金不算入となり法人税が課されます。功績倍率の上限は一般的に3.0倍程度とされますが、会社の規模・役職・業績等によって変わりますので、必ず税理士との事前確認が必要です。
生命保険を活用した株価引き下げと承継資金確保
法人が経営者を被保険者、法人を受取人とする生命保険に加入することは、多面的な効果があります。第一に、保険料の損金算入(保険種類によって全額または一定割合)により法人の利益が圧縮され、類似業種比準方式による株価が下がります。第二に、経営者に万一のことがあった場合、保険金収入を役員退職金や自社株買取資金に充当できます。
ただし、保険種類によっては解約返戻金が資産計上されるため、かえって純資産が増加し純資産価額方式の評価額が上がるケースもあります。また、2019年以降の税制改正により保険料の損金算入に一定のルール(最高解約返戻率による区分)が設けられており、保険商品の選択には慎重な検討が必要です。最高解約返戻率が50%超の場合、損金算入割合が制限されています。
ポイント
株価引き下げ対策は「役員退職金→生命保険→贈与」など複数の対策を組み合わせることで最大の効果が得られます。ただし、順序・タイミングが重要であり、1つの対策の実行が別の評価方式に影響を与えることもあります。また、節税を目的とした行為が度を超えると「租税回避行為」として税務調査で否認されるリスクもあります。必ず税理士と連携のうえ、適切なシミュレーションを行いながら段階的に実施してください。
不動産投資による純資産の組み換え
現金・預金は時価がそのまま相続税・贈与税の評価額になりますが、不動産(土地・建物)は評価額の計算方式が時価より低く設定されています。土地は路線価(国税庁が毎年公表)が時価の約70〜80%程度、建物は固定資産税評価額が採用されます。さらに、賃貸アパート・マンション等の収益物件は借地権割合・借家権割合が控除されるため、さらに低い評価額になります。
この特性を活用し、法人の余剰現金を不動産投資に充てることで、純資産価額方式による株式評価額を引き下げることができます。ただし、不動産投資はあくまで事業目的に基づくものであるべきであり、「節税のためだけの不動産購入」とみなされると税務調査で否認されるリスクがあります。また、不動産は流動性が低く、緊急の現金需要に対応できないデメリットもあります。収益性・流動性・節税効果のバランスを考慮した投資判断が求められます。
6. 事業承継税制(法人版)を活用した節税
事業承継税制とは?制度の概要
事業承継税制とは、中小企業の後継者が先代経営者から非上場株式等を贈与または相続で取得した際に、本来であれば発生する贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。2009年に創設され、2018年の税制改正で「特例措置」が加わり、要件が大幅に緩和されました。
通常の贈与・相続であれば、高額な株式を承継するたびに多額の税金が発生し、後継者の経営資金を圧迫します。事業承継税制を活用することで、承継時の税負担をゼロにして事業継続に専念できる環境を整えることが可能です。詳細は国税庁の公式ページでも公開されています。
一般措置と特例措置の違い(比較表)
| 比較項目 | 事業承継税制(一般措置) | 事業承継税制(特例措置) |
|---|---|---|
| 特例承継計画の提出 | 不要 | 必要(令和9年9月30日まで) |
| 適用期限 | なし(恒久制度) | 令和9年12月31日(2027年末)まで |
| 対象株式数 | 総株式数の最大2/3まで | 全株式(上限なし) |
| 納税猶予割合 | 贈与:100%、相続:80% | 贈与・相続とも100% |
| 後継者の人数 | 1人のみ | 最大3人(各10%以上の議決権が必要) |
| 雇用確保要件 | 5年間平均80%以上の雇用維持が必要 | 実質撤廃(緩和要件あり) |
| 廃業・売却時の救済 | なし | 経営環境変化に応じた免除あり |
特例措置の適用要件(会社・先代経営者・後継者)
事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、会社・先代経営者・後継者のそれぞれが一定の要件を満たす必要があります。
【会社の要件】
- ①中小企業であること(資本金・従業員数等の基準)
- ②従業員1名以上であること
- ③上場会社・風俗営業会社でないこと
- ④資産管理会社(一定の例外を除く)でないこと
【先代経営者の要件】
- ①会社の代表権を有していたこと
- ②相続・贈与時に親族で自社株式の過半数以上を保有し、後継者を除いた親族の中で筆頭株主であったこと
- ③贈与時点では代表権を有していないこと(贈与の場合)
【後継者の要件】
- ①相続・贈与時に、後継者と親族で自社株式の過半数以上を保有し、親族の中で筆頭株主(後継者が複数の場合は各自が10%以上の議決権保有かつ上位2〜3位)となること
- ②会社の代表権を有していること
- ③18歳以上であること
- ④(贈与の場合)贈与の直前において会社の役員であること(2025年改正後)
- ⑤(相続の場合)相続直前に役員であり、相続から5ヶ月後に代表であること
ポイント
後継者の役員就任タイミングは、事業承継税制の活用において重要な準備事項です。2025年1月1日以後の贈与からは、従来の「役員として3年以上勤務」という期間要件が廃止され、「贈与の直前において役員であること」に緩和されました。これにより、後継者が役員に就任してすぐに制度を活用できるようになり、事業承継のスケジュールを大幅に柔軟化できます。
2025年・2026年改正:最新の変更ポイント
【2025年1月1日以後の贈与から:役員就任要件の廃止】
2025年度の税制改正(令和7年度税制改正大綱)により、法人版事業承継税制の後継者要件のうち「贈与時まで3年以上役員を務めていること」という期間要件が廃止されました。2025年1月1日以後の贈与については、「贈与の直前において役員であること」を満たせば適用が可能となっています。この改正により、適用期限(2027年末)の3年前(2024年末)までに役員就任を間に合わせる必要がなくなり、後継者が役員就任後すぐに制度を活用できるようになりました。
【2026年:特例承継計画提出期限の延長】
特例措置の適用を受けるために必要な「特例承継計画」の提出期限が延長され、令和9年9月30日(2027年9月30日)まで認められています(中小企業庁公式サイト、2026年6月確認済み)。特例措置の実行期限(贈与・相続の実行期限)は引き続き令和9年12月31日(2027年12月31日)です。
ポイント
特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されたことで、制度活用の準備時間が確保されています。ただし、計画提出後も認定手続き・贈与実行・税務申告などのステップがあるため、余裕を持った準備が必要です。また、インターネット上には旧期限の情報が残っているケースがあります。中小企業庁・国税庁の公式サイトで必ず最新情報をご確認ください。
特例承継計画の提出と手続きフロー(贈与の場合)
事業承継税制を活用する主な手続きフローは次のとおりです。①特例承継計画の作成・提出(都道府県庁へ。認定経営革新等支援機関〈認定支援機関:税理士・弁護士・金融機関等〉の関与が必要)→ ②株式の贈与実行 → ③都道府県知事へ「円滑化法の認定」申請 → ④認定書の写しとともに贈与税の申告書を税務署に提出(猶予税額に相当する担保も提供)→ ⑤申告後5年間は毎年、都道府県庁へ「年次報告書」・税務署へ「継続届出書」を提出 → ⑥5年経過後は税務署へ「継続届出書」を3年に1回提出 → ⑦後継者死亡等の一定要件を満たすと猶予税額が全額免除。
事業承継税制のメリット・デメリット
【主なメリット】
- ①特例措置では全株式に対して贈与税・相続税が100%猶予(実質ゼロ)
- ②後継者が次世代へ事業承継し一定要件を満たすと猶予税額が免除(事業継続の限り課税なし)
- ③後継者の承継資金の確保が不要
- ④複数の後継者(最大3名)への承継が可能(ファミリー企業の分散承継等に対応)
- ⑤廃業・売却時の救済措置あり(株価下落時の税額軽減)
【主なデメリット・注意点】
- ①猶予取消要件に該当すると、猶予税額+猶予期間中の利子税を一括納付しなければならないリスクがある
- ②M&Aによる売却(株式譲渡)が難しくなる(事業承継税制適用後に株式売却すると猶予取消の可能性)
- ③都道府県・税務署への継続的な報告義務があり事務負担が生じる
- ④制度の活用には複雑な要件確認と専門家関与が不可欠
- ⑤将来の事業売却・廃業計画がある場合は事前の慎重な検討が必要
注意点
事業承継税制の猶予が取り消された場合、猶予されていた税額の全額に加え、猶予期間中の利子税が上乗せされて一括納付となります。この「取消リスク」を正確に理解せずに制度を活用すると、将来の経営計画に大きな支障が生じる恐れがあります。特に、将来的なM&Aによる売却を想定している場合は、事業承継税制の適用後5年が経過していること・一定の経営環境変化要件を満たすことなどの条件を確認のうえ、活用可否を慎重に判断してください。
7. 個人事業主の事業承継税金と個人版事業承継税制
個人事業主の事業承継でかかる税金
個人事業主が事業を承継する場合も、法人の場合と同様に税金の問題が発生します。主に、①事業用資産を後継者に贈与する場合は贈与税、②相続によって後継者が引き継ぐ場合は相続税が課せられます。
個人事業の場合、事業用資産(土地・建物・設備・在庫・売掛金等)の評価は相続税評価額に基づいて行われます。特に、長年継続してきた個人事業では、蓄積された顧客基盤・技術力・ブランド等の「のれん(営業権)」が評価対象となる場合もあり、想定以上の評価額となることがあります。
個人版事業承継税制の概要と対象資産
個人版事業承継税制は、青色申告を行っている個人事業者の後継者が、事業用資産(特定事業用資産)を贈与または相続で取得した場合に、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です(2019年本格施行)。
対象となる特定事業用資産は、①宅地等(400㎡まで)、②建物(床面積800㎡まで)、③機械・装置・器具備品・車両等(固定資産税の課税対象や営業用車両等)、④一定の特許権・実用新案権・営業上の権利などの無形固定資産です。2025年4月の法改正により、個人事業主の特許権や実用新案権等も対象に追加されました。詳細については中小企業庁のホームページをご参照ください。
2025年改正での変更点と適用期限
法人版と同様、個人版事業承継税制においても2025年1月1日以後の贈与から、後継者の「3年以上の事業従事」要件が廃止されました。「贈与の直前において特定事業用資産に係る事業に従事していること」が要件となり、後継者が事業に参画してすぐに制度を活用できるようになっています。
個人版事業承継税制の適用期限(事業承継の実行期限)は令和10年12月31日(2028年12月31日)です。個人事業承継計画の提出期限については、最新の情報を中小企業庁の公式サイトでご確認ください。
8. 知らないと危険!みなし贈与・みなし譲渡のリスクと対策
みなし贈与とは?低額承継で発生するリスク
「みなし贈与」とは、実際に贈与の意思はなかった(あるいは売買として行われた)にもかかわらず、税務上、贈与があったものとして課税されることです。具体的には、親族間等での株式の売買において、売買価格が税務上の時価(財産評価基本通達に基づく評価額)に比べて著しく低い場合、その差額が「贈与があった」とみなされます(相続税法7条)。
たとえば、税務上の株式評価額が1株10,000円の自社株を、後継者に1株1,000円で売却した場合、差額の9,000円/株について贈与があったとみなされ、後継者に贈与税が課せられる可能性があります。「低い価格で会社を承継した方が後継者の負担が少ない」と考えて行った取引が、逆に高額な贈与税・相続税の課税につながるケースがあります。
みなし贈与は親族間の取引だけでなく、同族株主グループ内での取引でも問題になります。特に、親族外の役員・従業員への株式承継において価格設定を誤ると、みなし贈与の問題が生じるケースもあります。
注意点
みなし贈与が発生するかどうかの基準は「著しく低い価額か否か」ですが、その具体的な判断基準は明確に定められていません(一般的な目安としては時価の1/2未満程度とされることがありますが、個別判断が必要です)。親族間・同族株主間での株式の売買は税務調査で問題となりやすいため、取引価格の設定前に必ず税理士・弁護士と株式評価を確認してください。
みなし譲渡とは?時価より低い売却で発生するリスク
「みなし譲渡」は、法人が保有する資産を時価より低い価額で個人(経営者・後継者等)に売却した場合や、無償で譲渡した場合に発生する課税の問題です。法人が著しく低い価額で資産を個人に譲渡した場合、法人側に時価相当の譲渡収入があったとみなされ、法人税が課せられます(法人税法22条)。
また、法人が個人に対して無償(または著しく低い対価)で資産を譲渡した場合、受け取った個人側には「一時所得」または「給与所得」として所得税が課せられることもあります(法人からの経済的利益の課税)。このように、みなし譲渡は法人側・個人側の双方に税負担が生じる可能性がある複雑な問題です。
「税務上の適正価格」を確認することの重要性
事業承継において株式の売買・贈与・相続を行う場合は、必ず税務上の適正な評価額を事前に確認・把握することが不可欠です。特に同族会社・親族間取引においては、贈与税(みなし贈与)・所得税・法人税(みなし譲渡)が複合的に絡み合うため、税務上のリスク管理が難しくなります。
また、事業承継の文脈では「のれん代(営業権)」を含む事業価値の評価と、税務上の自社株評価は異なる場合があります。M&Aにおいて実際に支払われる対価と税務評価額の差異を正確に把握し、適切なスキームを設計することで、課税リスクを最小化することができます。
9. 事業承継の税金対策チェックリスト
以下のチェックリストで、自社の事業承継税金対策の現状を確認してください。
【現状把握】
- □ 自社株式の税務上の評価額を専門家に試算してもらったことがある
- □ 承継方法(相続・贈与・M&A)の方向性を概ね決定している
- □ 後継者候補を1名以上特定し、共有できている
- □ 法定相続人の人数と相続税の基礎控除額を計算したことがある
- □ 現状の税負担(相続・贈与が今発生した場合)を試算したことがある
【生前対策】
- □ 暦年贈与(110万円)を継続的に実施している、または計画中
- □ 相続時精算課税制度の活用の是非を専門家と検討したことがある
- □ 役員退職金の適正額・活用タイミングを検討している
- □ 生命保険の活用(株価引き下げ・承継資金確保)を検討・実施している
- □ 不動産投資等による資産の組み換えを検討したことがある
【事業承継税制】
- □ 事業承継税制(特例措置)の適用要件を確認したことがある
- □ 後継者の役員就任状況を確認している(2025年改正後は直前就任でOK)
- □ 特例承継計画の提出を検討・準備している(期限:2027年9月30日)
- □ 認定経営革新等支援機関(認定支援機関)と連携している
- □ 事業承継税制活用後の取消リスクを理解・把握している
【M&A・第三者承継】
- □ 株式譲渡・事業譲渡の税務上の違いを理解している
- □ 役員退職金の活用でM&A時の手取りを最大化する検討をしている
- □ みなし贈与・みなし譲渡のリスクを把握したうえで取引価格を設定している
【専門家連携・長期計画】
- □ 事業承継に精通した税理士・弁護士に相談している
- □ 相続税・贈与税の試算・シミュレーションを受けたことがある
- □ 事業承継の長期プラン(5〜10年の計画)を作成・更新している
10. 事業承継の税金対策は専門家への早期相談が鍵
なぜ早期に動くことが節税につながるのか
事業承継の税金対策において、最も重要なことは「早期着手」です。暦年贈与は毎年少しずつ株式を移転するため、時間があるほど多くの株式を無税で移転できます。株価引き下げ対策(役員退職金・生命保険・不動産投資)も、適切なタイミングで実行するためには数年単位の準備が必要です。また、事業承継税制の特例措置は令和9年12月31日(2027年末)が期限であり、計画提出→認定取得→承継実行までには相応の準備時間が必要です。
「まだ先の話」と思っているうちに経営者が急病・突発事故に見舞われると、事前の税金対策が間に合わず、後継者が高額の相続税を一括納付しなければならない事態になります。中小企業庁の調査によれば、日本の中小企業経営者の平均引退年齢は60代後半ですが、理想的には50代のうちから専門家との検討を始めることが望まれます。早期着手により、選択できる対策の幅が大きく広がります。
弁護士・税理士・M&Aアドバイザーを活用すべき場面
事業承継の税金対策は、法律・税務・財務の複合的な知識が求められます。以下の場面では専門家の活用が不可欠です。
- 自社株の評価額の算定と節税シミュレーション(税理士・公認会計士)
- 相続税・贈与税の試算と節税プランの設計(税理士)
- 事業承継税制の適用要件確認・計画書作成・認定申請支援(税理士・認定支援機関)
- 株式売買・贈与契約書の作成、法的リスクの確認(弁護士)
- M&Aによる第三者承継のスキーム設計・交渉支援(M&Aアドバイザー・弁護士)
- 遺言書の作成・遺留分対策の検討(弁護士)
- みなし贈与・みなし譲渡のリスク確認と適正価格での取引設計(税理士・弁護士)
11. まとめ
本記事では、事業承継で発生する税金の全体像と節税対策を解説しました。要点を以下に整理します。
- 事業承継の税金は承継方法(相続・贈与・M&A)によって種類・税率が異なり、最適な方法は会社の状況・後継者の状況によって変わります。
- 非上場株式の評価額が税負担の大小を決める最重要要因です。評価方法(類似業種比準・純資産価額・配当還元)を理解し、計画的に評価額を管理することが節税の第一歩です。
- 節税対策は「暦年贈与(年110万円)」「相続時精算課税制度」「役員退職金」「生命保険」「不動産投資」の組み合わせが基本です。長期計画での実行が重要です。
- 法人版事業承継税制(特例措置)は全株式の贈与税・相続税を100%猶予できる強力な制度ですが、適用後の取消リスクも伴います。特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日(2027年9月30日)です(中小企業庁公式確認済み)。
- 2025年1月以後の贈与から役員就任要件が廃止(3年→直前)され、事業承継税制が活用しやすくなりました。
- みなし贈与・みなし譲渡のリスクは見落とされがちですが、親族間・同族会社間の取引では必ず事前に専門家に確認する必要があります。
- 事業承継の税金対策は早期着手が最大の節税戦略です。5〜10年単位の長期プランニングを今すぐ開始することを強くお勧めします。
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