「後継者候補に個人保証を理由に承継を断られてしまった」「会社を売却したのに、前経営者としての保証がいつまでも残っている」「そもそも個人保証はどうすれば外れるのか、条件がよく分からない」――事業承継を検討する経営者の方から、こうした声を多くお聞きします。
日本では中小企業の融資の多くに経営者保証(個人保証)が付されており、その存在が事業承継の大きな障害となっています。中小企業庁の調査によれば、後継者候補がいながら承継を拒否したケースのうち約59.8%が「個人保証を理由とした拒否」でした。後継者問題の解決には、この個人保証問題を避けて通ることができません。
本記事では、事業承継における個人保証の実態から、解除するための要件・制度(経営者保証ガイドライン・特則・事業承継特別保証制度)、2022年に策定された最新の経営者保証改革プログラム、M&Aによる第三者承継での完全解除プロセス、そして実務的な財務整備ロードマップまで、網羅的かつ実践的に解説します。
1. 事業承継における個人保証(経営者保証)とは
個人保証(経営者保証)の仕組み
経営者保証(個人保証)とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人となる仕組みです。会社が債務を返済できなくなった場合、経営者個人がその債務を肩代わりする義務を負います。
連帯保証と通常の保証の最大の違いは、「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」がない点にあります。通常の保証人であれば、まず主債務者(会社)に請求するよう金融機関に求めることができますが、連帯保証人はそれができません。また、「分別の利益」もないため、保証人が複数いても全額を請求される可能性があります。中小企業の多くが締結している経営者保証は、こうした強い法的拘束力を持つ連帯保証であることをまず理解しておく必要があります。
なぜ中小企業の経営者は個人保証を求められるのか
金融機関が中小企業に対して個人保証を求める主な理由は、信用補完と経営規律の確保にあります。大企業とは異なり、中小企業は財務諸表の信頼性が低かったり、担保となる資産が不十分だったりするケースが多く、金融機関はリスクヘッジとして経営者の個人財産を返済の裏づけにします。
加えて、中小企業では会社の財産と経営者個人の財産の境界があいまいなことが多く、経営者が会社資金を私的に流用するリスクを防ぐという目的もあります。日本では中小企業への融資の約8割に経営者保証が付されているともいわれており、長年の商慣行として定着してきました。しかし近年は、この慣行が創業・事業承継・事業再生を阻害するとして、官民一体で見直しが進んでいます。
個人保証のない融資が難しい背景と現状
財務基盤が十分に強固でない中小企業にとって、個人保証なしで融資を受けることは容易ではありません。金融機関側は「法人単体の収益力・担保だけでは融資の回収が保証されない」と判断するため、個人保証の提供を融資条件とするケースが多いのが実態です。
ただし、後述する「経営者保証ガイドライン」や「事業承継特別保証制度」の整備によって、一定の条件を満たす中小企業については保証を不要とする融資が増えてきています。政府系金融機関では経営者保証なしの新規融資件数が2014年度の約4.1万件から2021年度には約8.1万件と倍増しており、民間金融機関でも同期間に42.6万件から73万件へと増加しています(中小企業庁資料より)。
2. 個人保証が事業承継の「最大の壁」になっている実態
後継者候補の約6割が個人保証を理由に承継を拒否
中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」によると、後継者候補がいながらも事業承継を拒否したケースのうち、実に59.8%が「個人保証を理由とした拒否」でした。これは、後継者問題の核心に個人保証問題があることを端的に示しています。
さらに、事業承継後に新経営者が個人保証を設定する割合は59.4%と依然として高く、多額の債務を個人として負う可能性が後継者確保の大きなボトルネックになっています。親族内で承継する場合は比較的受け入れられやすい一方、従業員承継やM&Aでは個人保証の問題がより顕在化します。
注意点
後継者候補がいる場合でも、個人保証の問題が解決されていないと承継が頓挫するリスクがあります。経営者が「いずれ外れるだろう」と楽観視しているうちに後継者候補が離れてしまうケースは珍しくありません。事業承継計画の早い段階から個人保証問題に着手することが不可欠です。後継者との話し合いの中で、個人保証の解除スケジュールや利用できる制度を共有しておきましょう。
経営者が直面する「3大リスク」
個人保証を抱える経営者が直面するリスクは大きく3つあります。第一に「財産喪失リスク」です。会社が倒産した場合、経営者は自宅・不動産・預貯金などの個人財産を現金化して債務を返済しなければならない可能性があります。第二に「経営萎縮リスク」です。「失敗したら個人財産がなくなる」という心理的プレッシャーが大胆な事業投資や新規事業展開を躊躇させ、成長機会を逃す原因となります。
第三に「事業承継障害リスク」です。前述の通り、後継者候補が個人保証を嫌い承継を拒否する問題です。また、経営者が事業承継前に亡くなった場合、連帯保証人としての地位が相続人に引き継がれます(法定相続分に応じて各相続人が保証債務を承継)。遺言で後継者候補が相続人に指定されていた場合、突然多額の連帯保証を背負うことになるため、相続の観点からも注意が必要です。
前経営者側にも残り続けるリスク
事業を後継者に譲渡した後も、前経営者の個人保証が外れない場合があります。後継者が経営を引き継いでいるにもかかわらず、承継後の会社経営に問題が生じれば、引退した前経営者に多大な負担がかかることになります。「名実ともに事業承継が完了した」と言えるのは、前経営者の個人保証が解除され、個人資産の担保も抹消されたときです。
個人保証がいつ解除されるかは最終的に金融機関の判断次第です。承継後しばらく経って後継者が経営者として実績を積み、財務状況が改善されてようやく解除となるケースが一般的であり、後継者と前経営者が二人三脚で経営改善に取り組む期間が生じることも覚悟しておく必要があります。
3. 事業承継の方法別|個人保証の扱いはどう違うか
親族内承継の場合
親族内承継とは、子供や兄弟・親戚など血縁関係のある人物に事業を引き継ぐ形態です。この場合、後継者となる親族は相続・贈与によって会社株式を取得するケースが多く、金融機関から見ても前経営者の資産を引き継ぐ可能性が高いため、個人保証の切り替えが比較的行いやすい傾向があります。
しかし「比較的スムーズ」とはいえ、後継者が個人財産を十分に持っていない場合や、財務内容が悪化している場合には、金融機関が保証の切り替えに難色を示すことがあります。また、子供が後継者になる場合でも、その子供に個人保証を負わせることへの抵抗感は少なくありません。親族内承継においても、後述するガイドラインの活用によって保証なし承継を目指すことが推奨されます。
従業員(役員)承継の場合
長年会社に貢献してきた従業員や役員が後継者になるケースでは、個人保証の問題がより深刻になります。従業員はサラリーマンとしての意識が強く、個人保証による多額の個人的債務負担に強い抵抗感を持つことが一般的です。また、これまで給与収入で生活してきた従業員は、大きな個人資産を持っていないことが多く、金融機関からの信用力という点でも課題があります。
このため、従業員承継においては、事業承継前の早い段階から金融機関と交渉し、後継者の個人保証を不要とする条件整備を進めることが極めて重要です。経営者保証ガイドラインや事業承継特別保証制度を活用して、できる限り後継者の保証負担を軽減することが、優秀な後継者を確保するための前提条件となります。
M&A(第三者承継)の場合
M&Aによる第三者承継は、3つの方法の中で個人保証の扱いが最も明確に決着しやすいと同時に、最も慎重な確認が必要なケースでもあります。経営権が完全に移ることを前提とするため、本来であれば前経営者の個人保証は完全に解除されるべきであり、それが交渉上の重要な条件となります。
しかし実態としては、M&A成立後も前経営者の個人保証が残存するケースがあります。特に株式譲渡の場合、会社の負債はそのまま引き継がれますが、前経営者が締結した個人保証契約は自動的には変更されません。クロージング前に金融機関との保証解除・切り替えを確認し、最終契約に明記することが不可欠です。
【比較表】承継方法別・個人保証の扱い一覧
| 承継方法 | 前経営者の保証 | 後継者の保証 | 保証解除のしやすさ | 主な課題 |
|---|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 原則引き続き残存 | 新たに付与されることが多い | 比較的容易 | 後継者の個人資産が不十分な場合は困難 |
| 従業員承継 | 原則引き続き残存 | 新たに付与要求される | やや困難 | 後継者が保証を嫌い承継を拒否するリスク |
| M&A(株式譲渡) | 原則引き続き残存(要交渉) | 買い手(新経営者)が新たに付与 | 条件次第では可能 | クロージング前の金融機関交渉が必須 |
| M&A(事業譲渡) | 譲渡完了後に解除される場合あり | 買い手側に引き継がれない | 最も解除されやすい | 負債の切り離しが前提となる |
4. 事業承継後、個人保証はどうなるのか
原則:後継者が新たに保証人になる
事業承継にあたっては、金融機関は既存の借入金に対する保証を継続させたいと考えます。前経営者の個人保証を解除する代わりに、後継者(新経営者)が新たに保証人となることを求めるのが通常のパターンです。金融機関の立場からすれば、前経営者の信用力に基づいて融資を実行しており、経営者が変わることによるリスク上昇を補填する必要があるからです。
後継者にとっては、現経営者としての実績や個人財産がまだ十分でない段階で多額の連帯保証を引き受けることになります。特に若い後継者やサラリーマン出身の後継者にとって、この「経営者になるとほぼ自動的に個人保証を負う」という構造は大きな心理的障壁です。
前経営者の保証は自動的には外れない
重大な誤解の一つが、「事業承継が完了すれば前経営者の保証は自動的に外れる」という認識です。法的には、保証契約は当事者間の合意によって成立しているため、金融機関が同意しない限り解除されません。したがって、承継後も前経営者が保証人のまま残り続けるケースが多発しています。
注意点
前経営者の個人保証は、事業承継の手続きを完了させただけでは解除されません。金融機関との個別交渉が必要であり、解除のタイミングは金融機関の判断に委ねられます。承継後も前経営者が保証人として残る場合、後継者の経営が悪化すれば引退した前経営者に多大な経済的ダメージが生じます。事前に交渉の見通しを専門家とともに検討することを強くお勧めします。
「二重徴求」の問題とは
二重徴求とは、前経営者の個人保証を残したまま、後継者からも新たに個人保証を徴収する慣行のことです。金融庁の調査によれば、かつては事業承継における二重徴求の件数が全体の約4割弱に達していたとされています。これは前経営者・後継者双方に過剰な負担を強いるものとして、2019年の「経営者保証ガイドライン特則」において原則禁止が明確化されました。
二重徴求は金融機関の慣行として長年続いてきましたが、ガイドライン特則の施行後は徐々に改善されています。もし事業承継にあたって二重徴求を求められた場合、特則を根拠に交渉することが有効です。特則では、二重徴求を行わざるを得ない場合には金融機関がその理由を経営者に具体的に説明しなければならないとされており、この説明義務を活用した交渉が実務上重要なポイントとなります。
5. 個人保証を解除するための「経営者保証ガイドライン」
経営者保証ガイドラインの概要と法的位置づけ
「経営者保証に関するガイドライン」は、2013年12月に日本商工会議所と全国銀行協会が共同で策定・公表し、2014年2月から運用が開始されました。その背景には、個人保証が経営者の思い切った事業展開を阻害したり、円滑な事業承継や早期の事業再生を妨げるという社会的課題がありました。
このガイドラインは法律ではなく、金融機関と中小企業経営者双方が自主的に遵守すべきルールです。法的拘束力はありませんが、金融庁の監督指針にも取り込まれており、金融機関はガイドラインに基づいた対応が事実上求められています。ガイドラインに基づく保証解除の申し出に対して、金融機関は真摯に対応しなければならないとされています。
解除要件①:法人と経営者の資産・負債の明確な分離
第一の要件は、会社(法人)の資産・負債と経営者個人の資産・負債が明確に区分・分離されていることです。具体的には、会社の預金口座と経営者個人の預金口座が分けられていること、会社の資産(不動産・車両等)が適切に法人名義となっていること、経営者への不適切な資金の流出(役員貸付金・役員への不合理な高額報酬等)がないことなどが求められます。
中小企業では、自宅を事務所として兼用していたり、会社の経費と家計費が混在していたりすることが珍しくありません。保証解除を目指すためには、まずこうした「法人・個人の混在状態」を解消し、第三者から見ても両者が明確に分離されていると認識できる状態を作る必要があります。具体的には、会社が経営者に家賃・給与・出張費等の支払いを正式な手続きで行い、その記録を整備することが重要です。
解除要件②:財務基盤の強化
第二の要件は、会社の財務基盤が十分に強化されており、法人単体の資産・収益力で金融機関からの借入を返済できると認められることです。具体的には、債務超過でないこと、EBITDAベースの有利子負債倍率が10倍以内であること、継続的な黒字経営を維持していることなどが判断の指標となります。
金融機関が経営者保証を求める根本的な理由は「会社単体では返済能力に不安がある」からです。逆に言えば、会社の収益力・キャッシュフローが安定し、担保・財務内容が十分であれば、理論的には個人保証は不要になります。財務基盤の強化は一朝一夕に達成できるものではありませんが、事業承継前の数年をかけて計画的に取り組むことが重要です。
解除要件③:財務情報の適切な開示・透明性の確保
第三の要件は、金融機関に対して自社の財務状況を適時・適切に開示し、経営の透明性を確保することです。具体的には、毎期の決算報告書(貸借対照表・損益計算書等)を正確に作成・提出すること、月次試算表や資金繰り表を定期的に提出すること、経営者個人の資産・負債状況も必要に応じて開示することなどが求められます。
中小企業では税務対策を意識するあまり、金融機関向けと税務申告向けで異なる内容の決算書を使い回したり、試算表の提出を怠ったりするケースがあります。こうした不透明な財務情報管理は金融機関の不信感を高め、個人保証解除の妨げとなります。公認会計士・税理士と連携して、信頼性の高い財務情報を継続的に金融機関へ提供する体制を構築することが不可欠です。
ガイドラインの適用状況と成果
ガイドラインの運用開始以降、経営者保証なしの融資は着実に増加しています。政府系金融機関における経営者保証に依存しない新規融資の件数は、2014年度の約4.1万件から2021年度には約8.1万件と倍増しました。民間金融機関でも同期間に42.6万件から73万件へと増加しています。また、経営者から金融機関に保証解除の相談・申し出があったケースの46%で、解除または解除予定との結果が出ています。
ポイント
経営者保証ガイドラインに基づく保証解除の交渉は、経営者側から積極的に働きかけることが重要です。金融機関は申し出があれば誠実に対応する義務があります。「どの要件をどのように改善すれば解除できるか」を金融機関に具体的に確認しながら、計画的な準備を進めましょう。商工会・商工会議所や中小企業基盤整備機構の窓口に相談することも有効です。また、解除交渉の経過は必ず書面・記録として残しておくことを強くお勧めします。
6. 事業承継時の特別ルール|「経営者保証ガイドライン特則」とは
特則が策定された背景と目的
2014年のガイドライン運用開始後、経営者保証なしの融資は増加した一方で、事業承継局面における課題は依然として残っていました。特に「前経営者と後継者の双方から保証を取る二重徴求」の問題と、「後継者が個人保証を嫌って承継を拒否する」問題が解消されていませんでした。
こうした背景を受け、2019年12月24日に「事業承継に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」が策定・公表されました(参照:全国銀行協会「経営者保証ガイドライン特則」PDF)。2020年4月から運用が開始されており、金融機関に対して事業承継時の経営者保証に関するより具体的な対応を求めるものです。
金融機関に課される5つの対応義務
ガイドライン特則では、事業承継時に金融機関が取るべき対応として、以下の5点を定めています。これを理解していることで、経営者・後継者側が交渉において具体的な要求を行えるようになります。
- 二重徴求の原則禁止:前経営者の保証を残したまま後継者からも保証を取ることは原則として行ってはならない。例外的に行う場合は、前経営者・後継者双方にその理由を具体的に説明し、書面等で記録することが求められる。
- 後継者への経営者保証は柔軟に対応:後継者に対する経営者保証を一律に求めるのではなく、必要性を個別に慎重に判断する。保証が事業承継に与える影響や地域経済への影響も考慮した柔軟な対応が求められる。
- 前経営者との保証契約の適切な見直し:前経営者が事業承継後に会社の経営に関与する度合い(議決権保有・役員継続の有無等)を踏まえ、保証継続の必要性を定期的に見直す。
- 保証を求める際の具体的な説明義務:保証を求める場合、なぜ保証が必要か・何を改善すれば保証を外せるかを具体的な数値・条件で説明しなければならない。
- 内部規約・手続きの整備:特則に対応した内部マニュアルの整備と従業員への周知が求められる。
特則を活用した交渉の実務ポイント
特則は法律ではないものの、金融機関は「誠実に対応する義務」を負います。事業承継において金融機関が二重徴求を求めてきた場合や、後継者への保証付与の理由を明確に説明しない場合は、特則を根拠に説明を求めることができます。
ポイント
金融機関との交渉においては、ガイドライン特則に基づく説明義務を活用しましょう。「保証が必要な理由を具体的な数値で示してほしい」「どの要件を満たせば後継者の保証を外してもらえるか」を明示的に確認し、文書化することが重要です。弁護士や公認会計士・税理士などの専門家が同席することで、金融機関との交渉がより実効的になります。また、交渉過程を記録(議事録・書面)として残しておくことが、後のトラブル防止にもつながります。
7. 経営者保証を不要にする「事業承継特別保証制度」の活用法
制度の概要と対象者
事業承継特別保証制度は、2020年4月に中小企業庁が創設した信用保証制度で、事業承継時に経営者保証を不要とすることを可能にするものです。通常の信用保証制度と異なり、経営者個人の保証なしで新たな融資保証を受けられる点が最大の特徴です。この制度を利用することで、前経営者の個人保証を解除しながら、後継者が無保証で経営をスタートできる環境が整います。
対象となるのは、①事業承継計画を策定したうえで3年以内に事業承継を実行予定の中小企業、または②2020年1月1日から2025年3月31日(延長見込み)の間に事業承継を実施し、その承継日から3年以内の中小企業です。
利用要件(財務・手続き)
| 要件区分 | 具体的な要件 | ポイント |
|---|---|---|
| 財務要件① | 資産超過(純資産がプラス)であること | 債務超過の場合は利用不可 |
| 財務要件② | EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること | 収益力による返済能力の目安 |
| 財務要件③ | 法人・個人の分離がなされていること | ガイドライン第1要件と共通 |
| 財務要件④ | 返済緩和中の借入金がないこと | リスケ中の企業は対象外 |
| 手続き要件① | 事業承継計画書を策定していること | 承継前申請の場合に必要 |
| 手続き要件② | 金融機関を通じた申請 | 各都道府県の信用保証協会へ |
注意点
事業承継特別保証制度は「経営者保証を完全に不要とする」制度ではなく、所定の要件を満たした場合に経営者保証なしの保証(信用保証協会の代位弁済)を付与するものです。制度の利用で得られた資金の使途にも制約があります。また、EBITDA有利子負債倍率の計算方法や各要件の解釈は金融機関・保証協会によって異なる場合があるため、事前に詳細を確認することが重要です。
申請の流れと保証料率の軽減
申請は金融機関(メインバンク等)を通じて各都道府県の信用保証協会へ行います。事業承継計画書の作成が前提となるため、早めに金融機関・信用保証協会へ事前相談することを推奨します。
保証料率については、中小企業活性化協議会または事業承継・引継ぎ支援センターによる確認を受けた場合に大幅な軽減が適用されます(2023年4月以降)。これらの機関の支援を受けながら申請することで、保証料のコストを抑えることができます。申請前にどの機関に相談すべきかを含め、専門家(弁護士・公認会計士・税理士等)とともに手続きを進めることが円滑な活用のポイントです。
8. 経営者保証改革プログラムで何が変わったか
改革プログラム策定の背景
2022年12月23日、金融庁・財務省・経済産業省(中小企業庁)の3省庁が連携して「経営者保証改革プログラム」を策定・公表しました(参照:金融庁「経営者保証改革プログラム」)。このプログラムは、既存の経営者保証ガイドラインの取り組みをさらに推し進め、「経営者保証に依存しない融資慣行の確立」を加速させることを目的としています。
プログラム策定の背景には、日本のスタートアップ創業率が低く、廃業率も低い(創業・廃業の流動性が低い)という構造的問題があります。経営者保証が起業を躊躇させたり、早期の廃業・事業再生を困難にしていることが課題として指摘されており、経営者保証をなるべく不要とする環境整備が急務とされました。
金融機関への説明義務強化と保証徴求手続きの厳格化
改革プログラムの最大の変化は、金融機関が経営者保証を徴求する際の手続きが大幅に厳格化されたことです。金融庁の監督指針改正により、金融機関が経営者保証を求める場合には、①どの部分が不十分で保証が必要なのか、②どのような改善をすれば保証を外せるのか、の2点を経営者に対して具体的に説明し、その記録を保存することが義務付けられました。
この説明義務化は、これまで慣行的に行われてきた「一律の保証徴求」を実質的に困難にするものです。金融機関は保証を求める合理的な理由を説明できない場合、保証なし融資を行わなければならない状況に置かれます。経営者側にとっては、「なぜ保証が必要なのか説明してほしい」と正当に要求できる法的根拠が一層強固になったと言えます。
ポイント
経営者保証改革プログラムにより、金融機関は経営者保証を徴求する際の「説明義務」が強化されました。金融機関から保証を求められた際には、「改革プログラムに基づき、保証が必要な具体的な理由と、解除のために必要な条件を明示してほしい」と要求することが有効です。この一言が、交渉のスタートラインを格段に有利にします。また、説明を受けた内容は必ず書面で残してもらうよう依頼しましょう。
事業承継・創業に与える影響
改革プログラムは、特にスタートアップ創業と事業承継の2領域に重点的に取り組む方針を打ち出しています。スタートアップ領域では、創業融資における経営者保証を原則不要とする方向が示されました。事業承継領域においても、後継者が保証なしで経営をスタートできる環境整備が一層推進されています。
また、金融機関は保証なし融資の件数・比率等のKPI(重要業績評価指標)を公表することが求められており、社会的な透明性と金融機関間の競争が促進されます。これにより、保証なし融資に積極的な金融機関を比較・選択することが経営者にとって現実的な選択肢となりつつあります。経営者保証を不要とする融資の広がりは今後も継続すると見込まれており、事業承継を検討する際にはこの最新動向を踏まえた交渉戦略を立てることが重要です。
9. M&A(第三者承継)における個人保証の解除プロセス
株式譲渡と事業譲渡で個人保証の扱いが異なる理由
M&Aのスキームによって、個人保証の扱いは大きく異なります。株式譲渡の場合、会社の法人格はそのまま存続し、会社が締結している借入契約・保証契約はすべて維持されます。したがって、会社の借入金に対する前経営者の個人保証は、株式譲渡の手続き自体では変更されません。売主・前経営者の個人保証を解除するためには、金融機関と別途交渉し、保証契約の変更合意を得る必要があります。
一方、事業譲渡の場合、譲渡する事業の資産・負債を個別に選択することができます。買い手側の法人が負債を引き受けない形で事業を買い取る場合(いわゆる「負債を切り離した事業譲渡」)、前経営者の個人保証は解除されやすくなります。ただし、その場合は会社に残った負債の処理方法(返済・清算等)を別途検討する必要があります。
M&A交渉で個人保証を確実に解除するための実務ステップ
M&Aにおける個人保証の完全解除を実現するためには、以下のステップを計画的に進めることが重要です。
- デューデリジェンス(DD)段階での保証契約の全容把握:どの借入に対して誰が保証人となっているかを完全にリストアップします。前経営者の個人保証だけでなく、連帯保証人として参加している第三者(親族・役員等)がいないかも確認します。
- LOI(基本合意書)への保証解除条件の明記:M&A交渉の早期段階で「前経営者の個人保証の解除」をM&A成立の前提条件として基本合意書に記載します。これにより、後から「保証が残ったまま」というリスクを回避できます。
- 金融機関との保証解除交渉:買い手の信用力・財務内容を提示しながら、前経営者の個人保証解除と新経営者への保証切り替え(または保証なし化)を金融機関と交渉します。買い手側が大企業やファンドの場合、個人保証が不要となるケースも少なくありません。
- 最終契約書(DA)への明記とクロージング条件化:「前経営者の個人保証解除を完了すること」をクロージング条件(前提条件)として最終契約書に明記します。これにより、解除が完了しなければM&Aが成立しないという構造を作ることができます。
- クロージング後の確認:クロージング後に金融機関から保証解除の確認書面(保証解除通知等)を受領し、記録として保管します。
注意点
M&Aクロージング後に個人保証が残存していることが発覚するケースがあります。LOIや最終契約書に個人保証解除の明記がない場合、解除交渉は売り手・買い手の任意の協力に委ねられ、解除が完了しないまま取引が終了するリスクがあります。M&Aにおける個人保証問題は、スキーム検討の最初期から専門家(弁護士・M&Aアドバイザー)を関与させることが不可欠です。特に複数の金融機関に保証がある場合は、弁護士主導での一括交渉が有効です。
弁護士・専門家チームを活用すべき理由
個人保証の解除交渉は、法的な契約変更を伴う専門的なプロセスです。特に複数の金融機関との交渉が必要な場合や、保証契約の内容が複雑な場合には、弁護士の関与が交渉力を大幅に高めます。弁護士はガイドライン・特則・改革プログラムの最新解釈に基づいて金融機関と交渉し、契約書のレビュー・修正によって解除条件を法的に確実なものにします。
加えて、公認会計士や税理士が財務書類を整備し、会社の健全な財務状況を客観的に証明することで、金融機関に保証不要の根拠を数字で示すことができます。弁護士・公認会計士・税理士が連携した専門家チームによる支援を受けることが、M&Aにおける個人保証の完全解除を最短・確実に実現する道です。
10. 個人保証解除に向けた財務整備ロードマップ
ロードマップの全体像(3フェーズ)
個人保証解除は一夜にして実現するものではありません。通常は事業承継の2〜5年前から計画的な準備を始め、3つのフェーズを経て解除を目指します。以下のロードマップを参考に、自社の現状をチェックしながら準備を進めてください。
| フェーズ | 期間の目安 | 主な取り組み | 達成目標 |
|---|---|---|---|
| フェーズ1:基盤整備 | 承継3〜5年前 | 法人・個人の資産分離、経理・財務体制の整備 | 会社・個人の分離を完了させる |
| フェーズ2:財務強化 | 承継1〜3年前 | 収益力向上・財務改善、金融機関への情報開示強化 | ガイドライン3要件を充足する |
| フェーズ3:解除交渉 | 承継1年前〜承継時 | 金融機関との保証解除交渉・申請、専門家との連携 | 個人保証の解除または保証なし承継を実現 |
フェーズ1:法人・個人の資産分離と経理整備
最初に取り組むべきことは、法人と個人の資産・負債を明確に分離することです。具体的には以下の作業が含まれます。
- 経営者個人名義の事業用資産(不動産・車両等)を法人名義に変更する
- 役員貸付金・役員借入金を段階的に解消する
- 会社の預金口座と経営者個人の口座を完全に分けて管理する
- 経費精算を適正な手続きで行い、私費・公費の混在を排除する
- 税理士と連携し、適正な役員報酬・配当の設計を行う
この段階では「今後保証を外したい」という意向を金融機関にも伝え、定期的な面談を始めることが重要です。金融機関は取引先の経営状況の変化を継続的にモニタリングしており、早めにコミュニケーションをとることで信頼関係を構築できます。
フェーズ2:財務基盤の強化と収益力の証明
フェーズ2では、会社の財務内容を客観的に改善し、「法人単体で返済能力がある」ことを数字で証明することに注力します。特に重要な財務指標は以下の通りです。
- EBITDA有利子負債倍率:EBITDA(税引前利益+減価償却費)に対する有利子負債の倍率を10倍以内に抑える
- 純資産(自己資本):債務超過(純資産マイナス)の状態を解消し、プラスを維持する
- 営業キャッシュフロー:継続的な黒字(現金創出力)を確保する
- 担保価値:会社保有の不動産・設備等の担保評価額を適切に把握・管理する
また、毎期の決算書・月次試算表・資金繰り表を金融機関へ定期的に提出し、情報開示の実績を積み重ねることが重要です。金融機関が「この会社は財務情報を適切に開示している」という信頼感を持てれば、保証解除交渉は格段に進めやすくなります。
フェーズ3:金融機関との交渉と解除申請
財務整備が一定程度進んだら、いよいよ金融機関との保証解除交渉・申請フェーズです。このフェーズでは専門家(弁護士・公認会計士・税理士)を積極的に活用することを強く推奨します。
交渉の進め方としては、まずメインバンクに対してガイドラインに基づく保証解除の申し出を行い、現状評価と解除条件の確認をします。次に、金融機関から指摘された改善点を優先的に対応し、改善の証跡を定量的に示します。複数の金融機関に保証がある場合は、信頼関係の強いメインバンクから着手し、そこでの解除実績を他行への交渉の足掛かりにする戦略が有効です。
ポイント
事業承継計画書の作成と、事業承継・引継ぎ支援センターへの相談を早めに行うことをお勧めします。同センターに登録された専門家(認定経営革新等支援機関)の支援を受けることで、事業承継特別保証制度の保証料率軽減が受けられるほか、金融機関との交渉においても専門家の客観的な評価が信頼性を高めます。事業承継・引継ぎ支援センターは全国47都道府県に設置されており(中小企業庁所管)、無料で相談に応じています。
【個人保証解除に向けた事前確認チェックリスト】
- □ 会社の預金口座と経営者個人の口座が完全に分離されているか
- □ 役員貸付金・役員借入金が解消または大幅に削減されているか
- □ 事業用資産(不動産・車両等)が法人名義になっているか
- □ 毎期の決算書を金融機関へ提出しているか(正確な内容で)
- □ 月次試算表・資金繰り表を定期的に金融機関へ提出しているか
- □ 有利子負債倍率(EBITDA対比)が10倍以内か
- □ 純資産がプラス(資産超過)の状態か
- □ 返済緩和中(リスケ)の借入金はないか
- □ 事業承継計画書を策定しているか
- □ 事業承継・引継ぎ支援センターまたは専門家への相談を開始しているか
11. まとめ
事業承継における個人保証は、後継者問題の中核にある課題です。本記事の重要ポイントを整理します。
- 個人保証が事業承継の最大の障害:後継者候補の約59.8%が個人保証を理由に承継を拒否しており、前経営者・後継者双方にリスクを及ぼします。
- 3つの承継方法で扱いが異なる:親族内承継・従業員承継・M&Aそれぞれで個人保証の処理方法と難易度が異なります。承継方法に合わせた戦略設計が必要です。
- ガイドライン3要件の充足が基本:「法人・個人の分離」「財務基盤の強化」「情報開示の透明性」を満たすことが、個人保証解除の大前提です。
- 特則・特別保証制度・改革プログラムを活用:2019年の特則・2020年の特別保証制度・2022年の改革プログラムにより、経営者保証解除の環境は着実に整備されています。これらの最新制度を積極的に活用してください。
- M&Aでは早期から専門家を関与させる:株式譲渡か事業譲渡かによって個人保証の扱いが大きく異なります。LOI・最終契約への明記と金融機関との事前交渉が不可欠です。
- 3フェーズの計画的準備が解除への近道:財務整備・情報開示・金融機関交渉の3フェーズを2〜5年前から計画的に進めることが、スムーズな個人保証解除の鍵です。
個人保証の解除は複雑な手続きと金融機関との交渉を伴うため、早期に専門家(弁護士・公認会計士・税理士・M&Aアドバイザー)のサポートを得ることが重要です。まずはお気軽にご相談ください。
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