M&Aのアーンアウトとは?売り手が知っておきたい仕組み・リスク・税金

M&Aにおけるアーンアウトとは

買い手から「価格の一部はアーンアウトで」と提案されたものの、それが自分にとって得なのか損なのか判断できない。M&Aの交渉で、売り手の経営者がこうした迷いを抱えることは少なくありません。

アーンアウトは、うまく使えば売却価格の溝を埋める手段になります。条件の決め方を誤ると、目標を達成したつもりでも追加の対価が支払われなかったり、想定より税金が重くなったりします。

本記事では、①アーンアウトの仕組みと指標・期間、②売り手にとってのメリットとデメリット、③追加対価が支払われない典型パターン、④売り手を守る契約条項、⑤個人の売り手の税金を整理します。

目次

アーンアウトとは

譲渡対価の一部を「後払い・条件付き」にする仕組み

アーンアウトとは、M&Aの譲渡対価を、クロージング時に支払う固定部分と、クロージング後の業績などの条件を満たしたときに追加で支払う部分とに分ける取決めです。例えば、「譲渡価格は3億円。加えて、譲渡後2年間の営業利益が各年5,000万円を超えた場合、1年につき5,000万円を追加で支払う」といった形で、株式譲渡契約書(SPA)などの最終契約に定めます。売り手から見ると、追加部分は「約束された代金」ではなく、条件がそろったときに初めて受け取れる代金です。会計上は「条件付取得対価」と呼ばれることもあります。

なぜ買い手はアーンアウトを提案するのか

アーンアウトが提案される最大の理由は、売り手と買い手の価格の考え方に差があることです。売り手は「来期以降も伸びる」と考えて高い価格を望み、買い手は「計画どおりに伸びるとは限らない」と考えて慎重な価格を示します。この差を、実際の業績を見てから精算することで埋めるのがアーンアウトです。成長途上の会社、業績が特定の取引先や社長個人に左右される会社、直近で業績が急に伸びた会社などで使われやすい仕組みです。売り手にとっては、「もっと高く評価してほしい」という主張を、将来の数字で証明する機会ともいえます。

よく使われる指標と期間

アーンアウトの期間は、クロージング後1〜3年程度で設定されることが多く、1年ごとに判定する方式と、期間全体の累計で判定する方式があります。目標となる指標は次のように分かれ、どれを選ぶかで売り手が受け取れる可能性が大きく変わります。

指標売り手から見た長所売り手から見た注意点
売上高費用の配分に左右されにくく、算定が比較的明確値引きや不採算取引でも達成できるため、買い手が受け入れにくいことがある
営業利益・EBITDA(営業利益に減価償却費などを足し戻した利益)事業の実力を反映し、買い手が納得しやすい親会社からの経費の付け替えや会計方針の変更で数字が動きやすい
非財務の目標(主要取引先の契約更新、許認可の取得など)達成・未達成が客観的で争いになりにくい達成すれば満額、未達なら0円となりやすい

ポイント
アーンアウトを提案されたら、まず「アーンアウト部分がゼロでも、固定部分の価格で売却してよいか」を自分に問いかけてください。アーンアウトは受け取れない可能性がある代金です。固定部分だけで納得できない場合は、アーンアウトの条件を詰める前に、固定部分の価格そのものを交渉する必要があります。

売り手にとってのメリットとデメリット

メリット|価格の上振れを取りにいける

売り手にとってのメリットは、業績が計画どおりに伸びれば、一括払いで提示された価格より多くの対価を受け取れる可能性があることです。買い手が将来の業績に慎重で価格交渉が行き詰まっている場面でも、アーンアウトを組み合わせることで合意に至りやすくなり、売却そのものが実現しやすくなります。また、売却後も経営者として残る場合は、自分の働きが追加の対価に直結するため、引継ぎ期間を前向きに過ごす動機にもなります。自社の成長に自信があり、その根拠となる受注見込みや顧客基盤を説明できる売り手ほど、アーンアウトを有利に使えます。

デメリット|受け取れないリスクと、売却後の拘束

一方で、アーンアウト部分はあくまで条件付きの代金であり、景気の悪化や主要取引先の離脱など売り手の努力では防げない事情でも、目標に届かなければ受け取れません。さらに、株式を譲渡した後の会社の経営は買い手が決めるため、予算、人員、価格政策といった業績を左右する判断に、売り手が関与できないこともあります。支払は数年先になるため、その間に買い手の業績が悪化すれば、支払能力そのものが問題になるおそれもあります。加えて、アーンアウトは売り手が経営者として残るロックアップとセットになることが多く、判定期間中は引退や新しい事業の開始が事実上制約されます。

注意点
「アーンアウトを付ければ高く売れる」という説明は、半分しか正しくありません。アーンアウトは売り手が業績リスクの一部を引き受ける代わりに、上振れの可能性を得る仕組みです。提示された総額だけで比べず、固定部分の金額と、アーンアウト部分を受け取れる確度を分けて評価してください。

売却価格の見方や買い手との評価差が生じる理由については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aバリュエーション(企業価値評価)とは?3つのアプローチと主要手法を徹底解説

アーンアウトが「払われない」典型パターン

アーンアウトをめぐる典型的なトラブルは、売り手が「達成したはず」と考えているのに、買い手の算定では未達になるという形で起こります。事前に知っておきたい典型パターンは次の3つです。

買い手の経営判断で数字が動く

営業利益を指標にした場合、買い手グループの管理部門の費用やシステム利用料、ブランド使用料などを対象会社に付け替えるだけで、利益は簡単に下がります。買い手が将来の成長のために広告費や採用費を先行投資したり、グループ全体の方針で値下げをしたりした場合も同じです。いずれも買い手にとっては合理的な経営判断であり、悪意がなくても売り手の受取額は減ります。アーンアウトの指標が利益である限り、どの費用をどう計上するかを契約で決めておかなければ、判定の段階で争いになります。

統合で対象事業の数字が切り出せなくなる

買収後に対象会社を買い手の既存事業と合併したり、営業部門を統合したりすると、対象事業だけの売上や利益を区別できなくなることがあります。取引先の契約が買い手本体に切り替わった場合、その売上を対象会社の実績に含めるのかという問題も生じます。判定期間中に組織再編を行う可能性があるなら、その場合の算定方法をあらかじめ定めておく必要があります。定めがないまま統合が進むと、売り手は達成の立証そのものが難しくなります。

解任や事業の売却で前提が崩れる

売り手が経営者として残る前提でアーンアウトを組んでいても、買い手は株主として売り手を解任できます。売り手が業績に関与できなくなった後に目標未達となれば、追加の対価は支払われないおそれがあります。判定期間中に買い手が対象会社をさらに第三者へ売却したり、事業の一部を撤退したりした場合も、アーンアウトの前提は崩れます。こうした事態が起きたときに追加の対価をどう扱うかは、契約に書いておかなければ売り手に有利には解決しません。

売却後の残留や解任・途中離脱の扱いについては以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aのロックアップとは?売り手の経営者が知っておきたい期間・立場・途中離脱の扱い

売り手を守るためにアーンアウト条項で定めたいこと

指標と算定方法を会計処理のレベルで固定する

売り手を守る第一の手当ては、指標と算定方法を具体的に決めることです。「営業利益」と書くだけでは足りず、基準とする会計方針(売却前の会社の会計方針を継続適用するか)、親会社からの費用負担をどこまで含めるか、臨時的な損益やM&Aに伴う一時費用を除くかまで、算定の基礎となる損益計算書のひな形とあわせて定めておくのが理想です。判定の際に買い手が作成した計算書を売り手が確認できる期間と、異議がある場合に独立した会計士などの第三者に判断を委ねる手続も決めておくと、争いが長引くのを防げます。

運営に関する約束と、前提が崩れたときの扱い

次に、判定期間中の会社の運営について、買い手に一定の約束を求めます。例えば、事業を通常の範囲で継続すること、目標達成を妨げる目的での経費の付け替えや取引の移し替えをしないこと、月次の業績や資料を売り手に開示することなどです。あわせて、売り手が正当な理由なく解任された場合、対象会社が第三者に売却された場合、事業が統合されて算定ができなくなった場合には、アーンアウトを達成したものとみなして支払う、あるいは一定額を前倒しで支払うといった定め(加速条項)を置くことが考えられます。

上限・下限と支払の確保

最後に、金額と支払の確保です。達成度に応じて段階的に支払う方式にすれば、目標をわずかに下回っただけで0円になる事態を避けられます。複数年の判定であれば、前年の未達分を翌年の超過分で取り戻せる仕組みも売り手に有利です。支払が数年先になる以上、買い手の信用力も確認が必要で、金額が大きい場合はエスクロー口座への預託や親会社の保証を求めることも検討に値します。

条項売り手にとっての役割
算定方法・会計方針の特定経費の付け替えや会計方針の変更による数字の操作を防ぐ
算定書の確認と第三者判定算定をめぐる争いを、訴訟にせず短期間で解決する
運営に関する買い手の約束・情報開示判定期間中に目標達成を妨げる運営を防ぎ、進捗を把握できる
加速条項(解任・再売却・統合時)売り手の責任でない事情で前提が崩れたときに支払を確保する
段階支払・未達分の取戻しわずかな未達で0円になることを避ける
エスクロー・親会社保証数年後の支払能力のリスクに備える

注意点
アーンアウト条項は、買い手の側が雛形を用意することが多く、売り手に不利な定めや「定めていないこと」がそのまま残りがちです。条項案を受け取ったら、「どんな数字になったら、いくら受け取れるか」を売り手自身の言葉で説明できるかを確認し、署名前に弁護士と会計士・税理士の確認を受けてください。

アーンアウト条項の評価指標の選び方や設計の実務については以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
アーンアウトとは?M&Aにおけるメリット・デメリットと条項設計の実務ポイントを徹底解説

アーンアウトの税金|個人の売り手は所得区分に注意

固定部分とアーンアウト部分で扱いが分かれる可能性

個人の売り手が株式を譲渡した場合、クロージング時に受け取る固定部分は株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税となり、税率は所得税15%と住民税5%に復興特別所得税(所得税額の2.1%)を加えた20.315%です(国税庁タックスアンサーNo.1463)。一方、アーンアウト部分については、クロージング時点では支払が確定していないことから、支払が確定した年の雑所得として総合課税の対象になるという考え方が、国税庁の内部資料で示されているとされ、実務ではこれを前提に検討するのが一般的です。総合課税の所得税は最高45%(国税庁タックスアンサーNo.2260)で、住民税10%などを加えると最高で約55%になります。なお、令和9年分以後は復興特別所得税1.1%と防衛特別所得税1%に組み替えられますが、上乗せの合計は2.1%のままで、これらの税率の目安は変わりません。また、アーンアウトの扱いについて税法に明文の規定はなく、契約の内容によって結論が変わりうる点には注意が必要です。

試算|1億円のアーンアウトで税負担はどう変わるか

アーンアウトとして1億円を受け取った場合を、単純化して比べます。譲渡所得(20.315%)として扱われれば税額は2,031万5,000円です。これに対し、その年に他の所得がなく、1億円すべてが総合課税の雑所得として課税されると、所得税が1億円×45%−479万6,000円=4,020万4,000円、復興特別所得税を加えて約4,104万8,000円、住民税10%の1,000万円と合わせて約5,104万8,000円となり、差は約3,073万円に及びます。同じ1億円でも、手取りは7,968万5,000円と約4,895万2,000円に分かれる計算です(所得控除や住民税の調整などは考慮していません)。

区分想定される課税税額の目安(1億円の場合)手取りの目安
クロージング時の固定部分と同じ扱い譲渡所得等・申告分離課税(20.315%)2,031万5,000円7,968万5,000円
アーンアウト部分が雑所得とされた場合総合課税(最高で約55%)約5,104万8,000円約4,895万2,000円

「確定額の分割払い」とは税金の扱いが異なる

アーンアウトと似た仕組みに、確定した譲渡代金を数回に分けて受け取る分割払いがあります。分割払いは金額が確定しているため、受取りが後でも、原則として譲渡した年に代金全額が譲渡所得の収入金額になります。注意したいのは、業績連動の形をとっていても、条件が容易に達成できるなど実質的に満額の支払が想定されていると判断されると、譲渡した年に全額を収入に計上すべきとされる場合があることです。株式譲渡代金の一部を将来の業績に応じて分割して支払う条項について、譲渡時に代金全額を計上すべきとした平成29年2月2日の国税不服審判所の裁決もあります。この場合、まだ受け取っていない代金にも譲渡の年に課税されるため、納税資金の手当てが必要です。なお、売り手が法人の場合(子会社株式の売却や事業譲渡など)は、追加の対価も法人税の益金となるため所得区分による税率差は生じませんが、どの事業年度に計上するかは同様に問題になります。

注意点
アーンアウトの課税関係は、所得区分・計上時期ともに契約の書き方で結論が変わりうる、判断の難しい論点です。アーンアウト部分を役員報酬や別の契約の対価として受け取る設計にすると、給与所得など別の区分になることもあります。売却代金が非常に大きい場合は、令和7年分から適用されている特定の基準所得金額の課税の特例ミニマムタックス(基準所得金額3億3,000万円超)の影響も確認が必要です。個別の取扱いは事実関係によって異なるため、契約締結前に税理士に確認してください。

株式譲渡益にかかる税金の計算方法や手取りへの影響については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aの株式譲渡にかかる税金|計算方法と2027年からのミニマムタックス、手取りを守る注意点

アーンアウトを提案されたときに売り手が確認したいこと

条件の中身として確認する項目

買い手からアーンアウトを提案されたら、次の項目を一つずつ確認し、最終契約に落とし込んでください。

  • 固定部分:アーンアウトがゼロでも納得できる金額か
  • 指標:売上高・営業利益・非財務目標のどれか、その理由
  • 算定方法:会計方針、親会社からの費用負担、一時費用の扱い
  • 期間と判定方法:何年か、各年判定か累計判定か、未達分の取戻しは可能か
  • 金額の決まり方:満額か段階的か、上限と下限はあるか
  • 運営の約束:判定期間中の事業運営、情報開示、経費の付け替え禁止
  • 前提が崩れた場合:解任・再売却・統合時の加速条項
  • 支払の確保:支払時期、エスクローや親会社保証の有無
  • 関与の仕方:ロックアップとの関係、役職と権限
  • 税金:固定部分とアーンアウト部分の所得区分と、納税資金の見込み

アーンアウトに頼らない選択肢もあわせて検討する

アーンアウトは、価格の溝を埋める手段の一つにすぎません。売り手が求める価格の根拠を、受注残、継続契約の状況、事業計画の実績との対比などの資料で丁寧に示せれば、固定部分の価格そのものを引き上げられる可能性があります。また、買い手の懸念が特定のリスク(主要取引先の継続、許認可の承継など)にあるなら、業績全体に連動させるより、そのリスクに絞った条件や価格調整の方が売り手にとって分かりやすく安全なこともあります。複数の買い手候補から条件を比べることも、アーンアウトへの依存を減らす有効な方法です。

ポイント
アーンアウトを受け入れるかどうかは、「固定部分の金額」「アーンアウト部分を受け取れる確度」「税引後の手取り」の3つを総合考慮して判断してください。総額が大きく見える提案よりも、固定部分が厚く条件が明確な提案の方が、売り手にとって有利なことは少なくありません。

まとめ

  • アーンアウトは、譲渡対価の一部をクロージング後の業績などに連動させ、条件を満たしたときに追加で支払う仕組みです。
  • 指標は売上高・営業利益・非財務目標などがあり、どれを選ぶかで受け取れる可能性が大きく変わります。
  • 買い手の経営判断、事業の統合、解任や再売却によって、達成したはずの対価が支払われないおそれがあります。
  • 算定方法の特定、第三者判定、運営の約束、加速条項、支払の確保を契約で定めることが売り手を守ります。
  • 個人の売り手の場合、アーンアウト部分は支払確定年の雑所得(総合課税)とされる可能性があり、税負担が大きく変わります。
  • アーンアウトがゼロでも納得できる固定部分かどうかを、判断の出発点にしてください。

アーンアウトは、売却価格を引き上げる可能性と、受け取れないリスクの両方を持つ条件です。提示された総額にとらわれず、条項の中身と税引後の手取りを確認したうえで判断してください。

弁護士と税理士が、アーンアウト条項の設計・交渉から税務上の検討まで一貫してご支援できます。買い手からアーンアウトを提案されて判断に迷っている経営者の方は、お気軽にご相談ください。

執筆者

弁護士 佐藤聖喜

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。 長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。

横山圭介

東京都立大学(旧首都大学東京)数理科学専攻卒業後、国家公務員として札幌国税局に入庁。札幌国税局資産課税課、札幌東税務署資産課税部門等を経て、国税庁企画課へ出向。 国税庁・国税局・税務署において、主に資産税事務に従事し、相続・譲渡・贈与など資産課税の実務を第一線で担う。官公庁・金融機関等との折衝・情報連携の実務経験も有する。