「会社を株式譲渡で売ったら、税金はいくらかかるのか」「手元にはいくら残るのか」。売却を考え始めたオーナー経営者にとって重要な要素が税金です。
株式譲渡の税率は一律20.315%と説明されることが多いものの、実際には、売るのが個人か法人か、取得費が分かるか、いつ売るか、誰に売るかによって負担が変わります。2027年分からは、高額な売却益への追加課税が強化されます(いわゆるミニマムタックス)。
本記事では、①個人と法人の課税の違い、②譲渡所得の計算方法、③2027年からのミニマムタックス、④役員退職金との組み合わせ、⑤課税が変わる売却先と相続株式、⑥申告とかからない税金を整理します。読み終える頃には、株式売却の手取りを試算できるようになります。
株式譲渡の税金は「誰が売るか」で決まる
株式譲渡で課税されるのは、株式を売った株主です。対象会社そのものには、株式譲渡を理由とする税金はかかりません。株主が個人か法人かによって、課税の仕組みが大きく異なります。
個人株主:所得税と住民税の申告分離課税です
個人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡益は給与などの他の所得と分けて税額を計算する申告分離課税となり、所得税15%と住民税5%が課されます(国税庁タックスアンサーNo.1463)。所得税には基準所得税額の2.1%の復興特別所得税が加わるため、2026年分の合計税率は20.315%です。
2027年分からは、防衛特別所得税(1%)が創設される一方、復興特別所得税が1.1%に引き下げられます。付加税の合計は2.1%のまま変わらないため、合計税率は引き続き20.315%です。ただし、後述するミニマムタックスの見直しにより、売却益が大きい場合の負担は増えます。
法人株主:他の損益と合算して法人税等が課されます
株主が法人の場合、株式の譲渡益は、その法人の本業の損益と合算され、法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税の対象になります。個人のような一律税率ではなく、法人の所得全体に対して税率が適用されるため、本業が赤字であれば譲渡益と相殺でき、繰越欠損金があれば控除することもできます。
税率は、資本金の規模や所得の水準によって異なります。また、2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、基準法人税額から500万円を控除した額に4%を課す防衛特別法人税が加わります。法人が売却する場合は、個人の20.315%と単純に比較せず、決算全体の中で税額を試算する必要があります。
| 項目 | 個人株主 | 法人株主 |
|---|---|---|
| 課される税金 | 所得税・復興特別所得税(2027年分から防衛特別所得税も)・住民税 | 法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税(2026年4月以後開始事業年度から防衛特別法人税も) |
| 課税の方法 | 他の所得と分けて計算する申告分離課税 | 本業の損益と合算して計算 |
| 税率 | 合計20.315%(高額の場合は追加課税あり) | 法人の規模・所得水準により異なる |
| 損失との相殺 | 一般株式等の中でのみ可能 | 本業の損失や繰越欠損金と相殺可能 |
ポイント
売却を検討する段階で、株式を誰が保有しているかを確認してください。オーナー個人だけでなく、資産管理会社や親族が株式を持っている場合は、株主ごとに課税の仕組みが異なるため、株主別に手取りを試算することが重要です。
個人株主の譲渡所得の計算方法
個人株主の税額は、譲渡価額そのものではなく、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた「譲渡所得」に税率を掛けて計算します。
計算式と取得費の考え方
譲渡所得は、「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算します。取得費は、株式を取得したときに支払った払込金額や購入代金です(国税庁タックスアンサーNo.1464)。会社を設立したオーナーであれば、設立時や増資時に払い込んだ金額が取得費となるのが一般的です。
相続や贈与で取得した株式は、被相続人や贈与者の取得費をそのまま引き継ぎます。相続時の相続税評価額が取得費になるわけではない点に注意してください。先代が設立時に払い込んだ金額が取得費になるため、相続株式の譲渡では取得費が非常に小さくなりやすく、譲渡所得が大きくなる傾向があります。
取得費が分からない場合は概算取得費(5%)を使えます
取得から長い年月が経ち、払込金額を示す資料が残っていない場合には、譲渡価額の5%を取得費とすることが認められています。また、実際の取得費が譲渡価額の5%を下回る場合にも、5%を取得費として計算できます。
例えば、譲渡価額3億円で実際の取得費が1,000万円の場合、概算取得費は1,500万円となり、こちらを使うほうが譲渡所得は500万円小さくなります。設立時の資本金が少ない会社を高く売却する場合は、実際の取得費と概算取得費のどちらが大きいかを必ず比較してください。
仲介手数料などの譲渡費用と税額の試算
譲渡費用には、M&A仲介会社やFAに支払う成功報酬など、株式の譲渡のために直接要した費用が含まれます。一方、売却とは関係なく発生する費用は差し引けません。
譲渡価額3億円、取得費1,000万円、仲介手数料1,650万円(税込)の場合、譲渡所得は2億7,350万円です。2026年分の税率20.315%で計算すると、所得税等は約4,189万円、住民税は約1,368万円で、合計は約5,556万円になります。手取り額は、3億円から仲介手数料と税額を差し引いた約2億2,794万円です(他の所得はないものとして計算しています)。
2027年分から重くなるミニマムタックスと売却時期
株式譲渡益が大きい場合に見落とせないのが、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」、いわゆるミニマムタックスです。2027年分から計算方法が見直され、M&Aによる売却益が対象になりやすくなります。
ミニマムタックスの仕組み
ミニマムタックスは、株式譲渡所得を含む基準所得金額から一定の特別控除額を差し引き、一定の税率を掛けた金額が、通常の所得税額(基準所得税額)を上回る場合に、その差額を追加で納める制度です。2025年分から適用されており、現行は特別控除額3億3,000万円、税率22.5%です。
令和8年度税制改正の大綱では、特別控除額を1億6,500万円に引き下げ、税率を30%に引き上げることとされ、2027年分以後の所得税から適用されます。株式譲渡所得だけで計算すると、追加課税が生じる境目は、現行の約9.9億円から約3.3億円に下がります。なお、ミニマムタックスは所得税の制度で、住民税には影響しません。
2026年と2027年の追加税額の比較
他の所得や所得控除がなく、株式譲渡所得だけがある場合の所得税の追加額を試算すると、次のとおりです(復興特別所得税などの付加税を除く概算)。
| 株式譲渡所得 | 2026年分の追加額 | 2027年分以後の追加額 |
|---|---|---|
| 3億円 | なし | なし |
| 5億円 | なし | 約2,550万円 |
| 10億円 | 約75万円 | 約1億50万円 |
譲渡所得が5億円の場合、2026年中に売却すれば追加課税は生じませんが、2027年以後の売却では約2,550万円の追加負担が生じます。売却額が数億円以上となる案件では、クロージングの時期が手取りに直接影響します。
どの年の所得になるか:引渡し日と契約効力発生日
株式の譲渡所得がどの年の所得になるかは、原則として株式の引渡しがあった日で判定し、納税者の選択により譲渡契約の効力発生日とすることも認められています(措置法通達37の10−1)。
年末に最終契約を締結し、年明けにクロージングする案件では、この判定がどちらの年の税制を適用するかを左右します。ただし、前提条件付きの株式譲渡契約で「契約の効力発生日」がいつになるかは、契約内容によって判断が分かれる可能性があります。日程を組む段階で、契約書の効力発生条項と申告年を税理士と確認しておきましょう。
注意点
ミニマムタックスの判定には、株式譲渡所得だけでなく、同じ年の給与所得や不動産所得、役員退職金に係る退職所得、他の株式の譲渡益なども含まれます。売却年に他の大きな所得がある場合は、追加課税の境目がさらに下がります。また、2027年以後の制度内容は、最新の法令・通達で必ず確認してください。
役員退職金との組み合わせで手取りが変わります
オーナー経営者がM&Aを機に退任する場合、売却代金の一部を役員退職金として受け取る方法がよく検討されます。退職所得は税負担が軽く設計されているためです。
退職所得の計算と税負担の比較
退職所得は、「(退職金-退職所得控除額)×2分の1」で計算し、他の所得と分けて課税されます。退職所得控除額は、勤続20年以下の部分が1年40万円、20年を超える部分が1年70万円です。ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は、2分の1の計算が適用されません。
役員勤続30年のオーナーが退職金1億円を受け取る場合、退職所得控除額は1,500万円、退職所得は4,250万円です。2026年分で計算すると、所得税等は約1,463万円、住民税は425万円で、合計約1,888万円となります。同じ1億円を株式の譲渡対価として受け取る場合の税額2,031.5万円(取得費を考慮しない場合)より、約143万円少なくなります。
退職金を組み合わせるときの注意点
役員退職金は対象会社から支払われるため、その分だけ会社の純資産が減り、株式の譲渡価額は下がるのが通常です。売り手にとっては受け取る金額の一部が株式対価から退職金に置き換わる形になるため、効果は基本的に「税率の差」の範囲にとどまります。退職金の損金算入によって対象会社の法人税が減る効果を譲渡価額にどう反映するかは、買い手との交渉次第です。
また、会社側では、支給額が不相当に高額な部分は損金に算入されません(法人税法34条2項)。在任期間、最終報酬月額、功績倍率などから説明できる金額にとどめる必要があります。退任後も会社に残って実質的に経営に関与し続ける場合は、退職の事実そのものが否定されるおそれもあります。
注意点
役員退職金の支給は、株主総会決議や役員退職慰労金規程などの手続きを踏み、買い手と最終契約の中で支給額と時期を合意しておく必要があります。支給額の妥当性や退任後の関与の仕方は、税務調査で争点になりやすいため、税理士と事前に確認してください。
売却先や取得の経緯で課税が変わるケース
同じ株式の売却でも、買い手が第三者ではなく発行会社自身である場合や、相続で取得した株式を売る場合には、課税の仕組みが変わります。
発行会社への売却はみなし配当になります
個人株主が株式を発行会社に売却する(会社が自己株式として取得する)場合、受け取った金額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、配当を受けたものとみなされます(みなし配当)。資本金等の額に対応する部分だけが、株式の譲渡所得として扱われます。
みなし配当は配当所得として総合課税の対象となり、他の所得と合算して累進税率で課税されるため、所得が大きい場合は20.315%を大きく上回る負担になることがあります。M&Aの過程で、少数株主から株式を集める方法として会社による買取りを使う場合は、第三者への譲渡とは税負担が大きく異なる点に注意してください。
相続で取得した株式には特例があります
相続税を納めた相続人が、相続で取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始から3年10か月以内)に発行会社へ譲渡した場合は、届出書の提出を要件に、みなし配当課税を行わず、全額を譲渡所得として課税する特例があります(措置法9条の7)。
さらに、同じ期間内に相続財産を譲渡した場合は、その株式に対応する相続税額を取得費に加算できる特例(措置法39条)もあります。こちらは発行会社への譲渡に限らず、M&Aで第三者に譲渡する場合にも使えます。先代から株式を相続した直後にM&Aを検討する場合は、この期間を意識してスケジュールを組むと、税負担を抑えられることがあります。
ポイント
相続株式に関する特例は、期限と届出が要件です。相続開始からの経過期間を最初に確認し、期限内にクロージングできるかどうかを売却スケジュールに反映させてください。
申告の手続きと、株式譲渡でかからない税金
最後に、売却後の申告手続きと、事業譲渡と比べて株式譲渡ではかからない税金を確認します。
確定申告と納付の時期
個人株主は、譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告を行い、所得税等を納付します。申告書には「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付します。住民税は、申告内容に基づいて翌年度に課税されます。
非上場株式など一般株式等の譲渡損失は、上場株式等の譲渡益と相殺できません。同じ年に複数の非上場株式を売却し、損益が分かれる場合は、一般株式等の中で通算して計算します。売却代金を受け取った後、翌年の納税資金を確保しておくことも忘れないようにしましょう。
消費税・印紙税・流通税は原則としてかかりません
株式の譲渡は消費税の非課税取引です。そのため、売り手が法人であっても、株式の譲渡対価に消費税はかかりません。ただし、法人が株式を譲渡した年度は、課税売上割合の計算に影響するため、仕入税額控除の額が変わることがあります。
また、株式譲渡契約書は印紙税の課税文書に当たりません。株式譲渡では不動産そのものは移転しないため、対象会社が不動産を保有していても、不動産取得税や不動産の登記に係る登録免許税は生じません(役員変更の登記には別途、登録免許税がかかります)。事業譲渡では、これらの税金や消費税が発生する場合があるため、スキームの比較では手取りだけでなく、こうした取引コストの差も考慮します。
まとめ
- 個人株主の株式譲渡益は申告分離課税で、2026年分・2027年分とも合計税率は20.315%です。
- 法人株主は、譲渡益が本業の損益と合算され、法人税等が課されます。
- 譲渡所得は譲渡価額から取得費と仲介手数料などの譲渡費用を差し引いて計算し、取得費が小さい場合は概算取得費(5%)と比較します。
- 2027年分からミニマムタックスが強化され、株式譲渡所得が約3.3億円を超えると追加課税が生じ得るため、売却時期の確認が重要です。
- 役員退職金を組み合わせると税負担が軽くなる場合がありますが、株価の減少や過大退職金の損金不算入に注意が必要です。
- 発行会社への売却はみなし配当となり、相続株式には期限付きの特例があります。
株式譲渡の税金は、税率だけを見ても手取りは分かりません。株主の構成、取得費、売却時期、退職金の有無、売却先によって負担が変わるため、M&Aの条件交渉と並行して税額を試算しておくことが大切です。
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