児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|財務・会計上の留意点

児童発達支援・放デイM&Aの財務・会計

児童発達支援・放課後等デイサービスの決算書は、一見すると読みやすいものです。売上のほとんどが公費で、貸倒れもほぼ発生しません。

しかし、この業界の財務には他の業種にない特徴がいくつもあります。売上が入金されるのは2か月後、処遇改善加算は自由に使えるお金ではない、法人単位の決算書からは事業所ごとの実力が見えない。こうした点を踏まえずに数字を見ると、価格も、承継後の資金計画も見誤ります。

本記事では、児童発達支援・放課後等デイサービスのM&Aにおける財務・会計上の留意点を、①収益構造、②入金サイトと資金繰り、③財務デューデリジェンス、④処遇改善加算、⑤事業所別損益、⑥会計処理と精算、の順に整理します。

目次

1. 収益構造を分解する|売上は4つの変数で決まる

売上のほとんどは公費から入る

児童発達支援・放課後等デイサービスの売上は、大きく2つに分かれます。ひとつは、障害児通所給付費で、市町村が負担する部分です。もうひとつは、利用者負担で、原則1割とされていますが、世帯の所得に応じた月額上限が設けられています。生活保護・市町村民税非課税世帯は0円、一定の所得未満の世帯は月4,600円が上限となるため、実際の利用者負担は売上全体の数%程度にとどまるのが一般的です。

つまり、売上の9割以上が公費であり、支払元は自治体です。取りはぐれがほとんどないという意味では、極めて安定した収益構造だといえます。買い手がこの業界に関心を持つ理由のひとつがここにあります。

裏を返せば、売上は自分でコントロールできる部分が限られます。単価は報酬告示で決まり、値上げはできません。伸ばせるのは利用者数と稼働日数、そして加算の取得だけです。

売上を分解する4つの変数

売上の構造は、次の掛け算で捉えると理解しやすくなります。

売上 = 定員 × 稼働率 × 1人1日あたり単価 × 年間営業日数

たとえば定員10名、稼働率90%、1人1日あたり単価9,000円(加算を含む)、年間営業日数250日であれば、年間売上は約2,025万円です。稼働率が80%に下がれば1,800万円となり、差は225万円。人員体制はほとんど変わらないため、この差はほぼそのまま利益に響きます。

買い手はこの4変数を分解して見ます。売上がいくらかではなく、どの変数が高くてどの変数に伸びしろがあるかを知りたいからです。売り手側も、直近3期分をこの形で整理しておくと、交渉の説得力が大きく変わります。

消費税は非課税:仕入の消費税は取り戻せない

見落とされやすいのが消費税です。児童発達支援・放課後等デイサービスは社会福祉法上の第二種社会福祉事業にあたるため、その対価は消費税の非課税取引となります。売上に消費税は乗りません。

一見すると有利に思えますが、財務上は注意が必要です。売上が非課税ということは、家賃、送迎車両、水道光熱費、給食の委託費、消耗品などにかかった消費税を、仕入税額控除で取り戻せないということでもあります。税込2,000万円の課税仕入があれば、そのうち約180万円は消費税相当額であり、そのまま費用として利益を圧迫します。

また、おやつ代や教材費、日常生活費として実費を徴収している部分は課税取引となり得ます。非課税売上と課税売上が混在している場合、経理処理が正しく行われているかはデューデリジェンスの確認対象です。

2. 入金は2か月後|承継前後の資金繰りが最大の落とし穴

提供月の翌月に請求し、翌々月に入金される

この業界の資金繰りを決定づけているのが、国保連への請求サイクルです。

サービスを提供した月の実績をまとめ、翌月1日から10日までに国民健康保険団体連合会へ請求します。審査を経て、給付費が事業所に入金されるのは、その翌月の15日前後です。サービス提供からおよそ2か月、現金が入ってきません。

しかも、請求内容に不備があれば返戻となり、再請求はさらに翌月以降になります。返戻が1回発生するだけで、入金は1か月遅れます。人件費と家賃は毎月出ていきますから、このずれは経営に直結します。

事業譲渡では「入金の谷」ができる

M&Aで問題になるのは、この2か月のずれが承継のタイミングで表面化することです。事業譲渡や会社分割では法人が変わるため、譲受法人にとっては新しく請求を始めることになります。4月1日に承継した場合の資金の流れを追ってみます。

時期譲渡法人(旧)譲受法人(新)
4月(承継月)3月提供分を4月10日までに請求(4月中旬には2月提供分が入金)4月分の人件費・家賃を負担。入金はゼロ
5月5月中旬に3月分が入金される4月提供分を5月10日までに請求。入金はゼロ
6月原則として入金はなし(返戻の再請求があれば発生)6月中旬に4月提供分が初めて入金される

譲受法人は、承継してから約2か月間、収入がないまま支出だけを負担します。年商6,000万円(複数拠点で月商500万円)の規模で、人件費率60%、その他の経費が売上の20%だとすれば、月400万円、2か月で800万円の資金が必要になる計算です。譲渡対価とは別に、この運転資金を用意しておかなければ、承継初月から資金ショートします。

一方、株式譲渡であれば法人も事業所番号も変わらないため、この谷は生じません。請求も入金もそれまでどおり続きます。資金繰りの観点だけを見れば、株式譲渡のほうが圧倒的に楽です。

注意点
譲渡実行日より前に提供したサービスの給付費は、原則として譲渡法人に帰属します。どの時点までの売上をどちらが受け取るのか、返戻や過誤調整が承継後に発生した場合に誰が負担するのかを、契約書で明確にしてください。ここを決めていないと、承継から数か月後、入金額が合わないという形で問題になります。

運転資金をどう手当てするか

譲受側の手当ては3つです。第一に、自己資金で2か月分を確保すること。第二に、金融機関から運転資金として調達すること。譲渡対価の借入と合わせて、当初から運転資金枠を含めて相談するのが定石です。第三に、対価の支払いを分割にして、初期の資金負担を平準化することです。

売り手の立場でも、この構造は知っておく価値があります。買い手が資金調達に手間取れば、クロージングが遅れます。相手方の資金計画が立っているかを、交渉の早い段階で確認してください。

事業譲渡で報酬請求が分断されないようクロージング日を設計する実務については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業譲渡|指定・許認可の引き継ぎ実務

3. 財務デューデリジェンス|正常収益力と簿外債務

決算書の利益はそのまま使わない

財務デューデリジェンスの中心は、決算書の利益を、承継後も続く収益力に引き直す作業です。この業界で調整対象になる典型は次のとおりです。

  • オーナーの役員報酬のうち、後任の管理職の相場を超える部分
  • 実態のない親族給与、オーナー個人の車両費・保険料・交際費
  • 代表個人が所有する物件の賃料が相場から乖離している場合の差額
  • 一過性の補助金収入、開設時の初期費用、特別損益に含まれる項目
  • 逆にマイナス調整すべきもの。オーナーが無給で担っていた業務を、承継後に人を雇って賄う場合の人件費

簿外債務をつぶす

中小規模の法人では、会計上に計上されていない負債が見つかることがあります。買い手はこれを価格から差し引くか、表明保証の対象にします。

確認すべきは、未払残業代(送迎の時間、記録作成の時間、会議・研修の時間が労働時間として管理されているか)、社会保険の未加入期間、賞与引当金・退職給付引当金の未計上、未消化の有給休暇、オフバランスになっているリース債務、代表者からの借入金や代表者への貸付金です。

特に、未払残業代は、賃金請求権の消滅時効が当分の間3年とされているため、過去3年分がさかのぼって請求され得ます。1事業所でも金額が数百万円に達することがあり、価格交渉の重要な論点になります。

あわせて、金融機関からの借入金の扱いも早めに整理してください。事業譲渡では借入金は原則として譲渡法人に残り、受け取った譲渡代金で返済することになります。設備資金の残債が譲渡代金を上回るようであれば、金融機関との事前調整なしに話を進めることはできません。代表者が連帯保証をしている場合は、保証の解除時期についても同時に協議が必要です。

売掛金は「実在するか」を見る

国保連に対する未収金は、貸倒れの心配がほとんどない優良な債権です。ただし、額面どおり回収できるとは限りません。

確認すべきは3点です。第一に、返戻となったまま再請求されていない分がないか。第二に、過誤調整により、今後の入金から差し引かれる予定の金額がないか。第三に、月遅れ請求が常態化していないか。月遅れ請求の時効は原則5年ですが、請求漏れが積み上がっている事業所は、そもそも請求事務の体制に問題があるサインです。

ポイント
直近12か月分の「支払決定額通知書」と「返戻等一覧表」を並べて、請求額と入金額の差を追ってください。この2つを突き合わせるだけで、請求事務の精度と、未収金の実在性がほぼ分かります。売り手側も、事前に自分で確認しておくと、デューデリジェンスでの指摘を先回りできます。

正常収益力の算定や簿外債務の洗い出しといった財務デューデリジェンスの実務は、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aで買い手が押さえるべき財務・税務の留意点|DDから価格交渉までの実務

4. 処遇改善加算は「預り金」に近い

加算額以上の賃金改善が算定の要件

財務デューデリジェンスで最も見落とされやすいのが、福祉・介護職員等処遇改善加算です。

この加算は、受け取った金額以上の賃金改善を職員に対して行うことが算定の要件になっています。年度終了後には実績報告書を提出し、加算額と賃金改善額を突き合わせて報告します。賃金改善額が加算額を下回った場合は算定要件を満たさないことになり、返還の対象となります。実務上は、不足分を賞与や一時金として追加支給することで返還を求めない取扱いが示されていますが、いずれにせよ、その分の支出は必ず発生します。

つまり、処遇改善加算の収入は、自由に使える利益ではありません。会計上は売上に計上されていても、実質的には職員に配分することが決まっている預り金に近い性質を持っています。加算率や要件は報酬改定のたびに見直されるため、直近の改定内容を踏まえて照合する必要があります。

承継のタイミングで何を確認するか

M&Aの場面では、次の3点を確認してください。

第一に、直近年度および当年度について、加算収入の累計額と、実際に支給した賃金改善額の累計額を突き合わせること。未配分の残額があれば、それは承継後に支払わなければならない金額です。買い手の立場では、価格から差し引くべき負債として扱うのが合理的です。

第二に、過去の実績報告書が期限どおり提出されているかを確認すること。実績報告を行わない場合、加算が全額返還になり得るとされています。提出済みの報告書と給与台帳の数字が一致しているかまで見ておくと確実です。

第三に、年度の途中で承継する場合の処理です。実質的に継続して運営されると認められる場合、処遇改善加算の計画書・実績報告書は旧法人分と承継後の分を一括して作成する取扱いが示されています。誰が、どの数字で、いつまでに報告するのかを、契約締結の前に決めておいてください。

注意点
売り手が譲渡直前に加算収入を役員報酬や内部留保に回していた場合、承継後に譲受法人が職員への支給義務だけを引き継ぐことになります。加算の入金額と、給与明細上の処遇改善手当の支給額を、直近24か月分は必ず月次で照合してください。ここは金額が大きく、後から争いになりやすい論点です。

未払残業代をはじめとする人件費まわりの簿外債務の見極め方については、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
M&Aで買い手が押さえるべき人事労務の留意点|未払残業代・制度統合・リテンションの実務

5. 事業所別の損益が出せないと交渉にならない

法人単位の決算書では実力が見えない

複数の事業所を運営している法人で頻繁に起こるのが、法人全体の決算書しかない、という状態です。

これでは、どの事業所が稼いでいて、どの事業所が赤字なのかが分かりません。買い手が一部の事業所だけを取得したい場合、対象事業所の損益を示せなければ価格の議論に入れません。全事業所を譲渡する場合でも、赤字拠点が混ざっていれば、その分は保守的に評価されます。

また、法人が児発・放デイ以外の事業を併営している場合はさらに複雑です。共通経費をどう配分するかで、対象事業の利益は大きく変わります。

事業所別の損益をどう作るか

難しく考える必要はありません。売上は事業所ごとに国保連への請求データがあるため、正確に分けられます。人件費も、職員の配属先が明確であれば配分できます。家賃、水道光熱費、送迎車両費、消耗品費も事業所ごとの実額です。

問題になるのは、本部の管理部門人件費、経理・請求代行の委託費、システム利用料といった共通経費です。売上比、人員数比、利用者数比など、合理的な基準を決めて配分します。重要なのは配分基準の精緻さではなく、基準を決めて全期間に一貫して適用し、その基準を説明できることです。

月次で見るべき4つの指標

売り手が譲渡を検討し始めたら、次の指標を月次で出せる状態にしてください。デューデリジェンスで必ず求められますし、自社の実力を客観視する材料にもなります。

指標算式・見方確認する理由
稼働率延べ利用人数 ÷(定員 × 営業日数)収益力の源泉。買い手が最初に見る数字
1人1日あたり単価給付費収入 ÷ 延べ利用人数加算の取得状況が単価に表れる
人件費率人件費 ÷ 売上同規模他社との比較で体制の重さが分かる
加算収入比率加算による収入 ÷ 給付費収入基本報酬以外でどれだけ積み上げているか

事業所別の損益を踏まえて売却価格がどう決まるのかについては、以下の記事で試算例とあわせて解説していますので、ご参照ください。
児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|企業価値評価と売却価格の決まり方

6. 会計処理とクロージング精算

のれんはスキームによって表れ方が違う

株式譲渡の場合、買い手が単体の決算書に計上するのは子会社株式であり、のれんは出てきません。のれんが表れるのは連結決算上であり、対象会社の時価純資産を超えて支払った部分が計上されます。

これに対し事業譲渡では、買い手が受け入れた資産・負債を時価で計上し、支払額との差額がのれんとして買い手の貸借対照表に直接乗ります。会計上ののれんは、その効果の及ぶ期間にわたって償却され、毎期の利益を押し下げます。

買い手が上場企業や、銀行借入で自己資本比率を気にする法人である場合、のれんの償却負担がどの程度になるかは価格交渉に影響します。売り手側も、買い手がどちらのスキームを望むのかを理解する手がかりになります。

クロージング時の精算をどう設計するか

譲渡実行日をまたぐ収入と支出をどう分けるかは、契約書で定めておく必要があります。

  • 実行日前に提供したサービスの給付費(原則は譲渡法人に帰属)
  • 前払いしている家賃、保険料、リース料の日割り精算
  • 職員の給与・賞与のうち、実行日前の期間に対応する部分
  • 未払いの社会保険料、源泉所得税
  • 実行日後に発生した、実行日前の期間に関する返戻・過誤調整・報酬返還

株式譲渡であれば、法人ごと移るため個別の精算は基本的に不要です。ただし、契約時点の純資産や運転資本を基準として、クロージング時点の実績との差額を価格に反映させる価格調整条項を設ける場合があります。

補助金で取得した資産に注意する

開設時の補助金や、ICT導入・生産性向上に関する補助金を使って取得した設備がある場合、注意が必要です。補助金で取得した財産には処分の制限が付されていることがあり、承継にあたって交付元の承認や、場合によっては国庫等への納付が必要になることがあります。

固定資産台帳を確認し、補助金を受けて取得した資産があれば、交付決定通知書と交付要綱を取り寄せて、処分制限期間と手続きを確認してください。金額そのものより、手続きに要する時間がスケジュールを圧迫します。

注意点
会計帳簿が現金主義に近い形で作られている、事業所ごとの区分がない、経営者個人の支出と法人の支出が混在している。この3つがそろっていると、デューデリジェンスに通常の倍の時間がかかり、買い手の心証も悪化します。譲渡を考え始めたら、まず直近3期分の帳簿を税理士と点検し、説明できない支出を整理することから始めてください。

精算条項や表明保証など契約書でどう手当てするかについては、以下の記事で法務の観点から整理していますので、ご参照ください。
児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|法務上の留意点

実行日をまたぐ精算やスキームごとの課税関係については、以下の記事で税務の観点から詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
児童発達支援・放課後等デイサービスのM&A|税務上の留意点

7. まとめ

児童発達支援・放課後等デイサービスのM&Aにおける財務・会計上の留意点を整理します。

  • 売上は「定員 × 稼働率 × 1人1日単価 × 営業日数」に分解できる。単価は動かせないため、稼働率と加算が実力を決める。
  • 売上は消費税の非課税取引。仕入にかかった消費税は控除できず、そのまま費用になる。
  • 入金はサービス提供から約2か月後。事業譲渡では譲受法人に約2か月分の運転資金が必要になる。
  • 簿外債務の定番は未払残業代・引当金の未計上・オフバランスのリース。未払残業代は過去3年分がさかのぼる。
  • 処遇改善加算の未配分額は実質的な負債。加算収入と支給実績を月次で照合する。
  • 事業所別の損益を出せなければ価格交渉が成立しない。配分基準を決めて一貫して適用する。
  • 実行日をまたぐ収入・支出の精算と、補助金取得資産の処分制限は契約前に確認する。

財務・会計の論点は、その大半が「資料を整えているかどうか」で決まります。同じ実力の事業所でも、数字を月次で説明できる事業所は高く、説明できない事業所は割り引かれます。障害福祉分野のM&Aについて、国税出身の税理士と弁護士がチームに加わり、資料の整備段階から価格交渉、契約書の精算条項までを一体でご支援しています。譲渡・譲受のいずれの立場でも、初期の段階からご相談ください。

執筆者

横山圭介

東京都立大学(旧首都大学東京)数理科学専攻卒業後、国家公務員として札幌国税局に入庁。札幌国税局資産課税課、札幌東税務署資産課税部門等を経て、国税庁企画課へ出向。 国税庁・国税局・税務署において、主に資産税事務に従事し、相続・譲渡・贈与など資産課税の実務を第一線で担う。官公庁・金融機関等との折衝・情報連携の実務経験も有する。

弁護士 佐藤聖喜

京都大学経済学部在学中、旧司法試験合格。最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。その後、京都大学経営管理大学院修了(MBA)。 長島大野常松法律事務所を経て独立し、千代田中央法律事務所を設立。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では国際化支援アドバイザーとしても活動。上場企業の組織再編、IPO法務DD、スタートアップの資本政策支援、再生型M&Aなど、法務・戦略両面からの総合支援に実績を持つ。