M&Aの後、社長はどうなる!?ケース別に解説!
「M&Aが進行中、社長として自分の立場はどうなるのだろう?」
この問いは、企業の買収や合併(M&A)を検討している経営者の方々が抱く、非常に重要な疑問の一つです。しかし、M&Aの後、社長がどうなるかは、具体的なケースにより大きく異なります。
この記事では、M&A後の社長の運命を、具体的なケース別に解説します。実際にM&Aを経験した有名社長の事例もご紹介し、それぞれのケースでの注意点や交渉のポイントも詳しく説明します。また、M&A後の社長に関するよくある質問にもお答えします。

下記の動画では、会社を売却した後の社員や社長の立場について解説されています。こちらもぜひチェックしてみてください!
M&A後、社長はどうなる?ケース別に解説!

M&A後の社長の処遇は、M&Aの目的や条件、買い手企業の意向、そして社長自身の希望によって大きく変わります。ここでは、M&A後の社長の代表的なケースを3つご紹介します。
ケース1:完全退任する場合
M&A後、社長が完全に退任するケースは、中小企業M&Aでは比較的多い選択肢です。特に、後継者不足がM&Aの理由だった場合や、社長が高齢で引退を希望している場合によく見られます。
この場合、社長はM&Aの完了とともに経営から完全に離れ、新しい生活をスタートさせることになります。退任後の生活については、事前にしっかりと計画を立てておくことが重要です。例えば、趣味に没頭したり、新しい事業を始めたり、家族との時間を大切にしたりするなど、様々な選択肢があります。
ただし、完全退任する場合には、会社の引き継ぎをスムーズに行わなければなりません。後任の社長や役員に対して、会社の状況や経営ノウハウをしっかりと伝え、混乱なく事業が継続できるようにサポートする必要があります。
ケース2:役員・顧問として残る場合
M&A後も、社長が役員や顧問として会社に残るケースもあります。これは、買い手企業が、社長の経験や知識、人脈などを高く評価している場合に多く見られます。
役員や顧問として残る場合、社長は経営に直接関与することは少なくなりますが、重要な意思決定に関わったり、後任の経営陣をサポートしたりする役割を担います。また、顧客や取引先との関係を維持したり、新しい事業の立ち上げを支援したりすることもあります。
このケースでは、社長と買い手企業の間で、役割や責任範囲、報酬などを明確に合意しておくことが重要です。また、社長は、新しい経営体制に柔軟に対応し、積極的に協力する姿勢が求められます。
ケース3:社長として引き続き経営する場合(MBOなど)
M&A後も、社長が引き続き社長として経営を続けるケースもあります。これは、MBO(マネジメント・バイアウト)と呼ばれる手法で、経営陣が自ら会社を買収する場合によく見られます。
MBOの場合、社長はオーナー経営者として、これまで通り経営の責任を担います。ただし、M&Aによって会社の資本構成や経営戦略が変わる可能性があるため、新しい状況に合わせて柔軟に対応する必要があります。
また、M&Aの資金調達のために借入金が増える場合もあるため、財務状況をしっかりと管理し、安定的な経営を維持していくことが重要です。
ケース | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
完全退任 | M&A後、経営から完全に離れる | 新しい生活をスタートできる | 会社の引き継ぎをスムーズに行う必要がある |
役員・顧問として残る | 経営に直接関与しないが、重要な意思決定に関わる | 経験や知識、人脈を活かせる | 役割や責任範囲を明確にする必要がある |
社長として引き続き経営 | オーナー経営者として、これまで通り経営の責任を担う | 経営の自由度が高い | 財務状況をしっかりと管理する必要がある |
M&A後、社長はどうなる?実際にM&Aした有名社長を紹介!

M&A後の社長の処遇は様々ですが、実際にM&Aを経験した有名社長の事例を見ることで、より具体的にイメージできるでしょう。
ここでは、3つのケース、すなわち「完全退任」「役員・顧問として残る」「社長として引き続き経営」について、それぞれ事例をご紹介します。
完全退任したケース:前澤友作氏(株式会社ZOZO)
2019年、ヤフー株式会社(現:Zホールディングス株式会社)は、株式会社ZOZOの株式公開買付けを実施し、ZOZOを連結子会社化しました。この際、創業者であり代表取締役社長であった前澤友作氏は、保有する株式の一部を売却し、社長職を退任しました。 退任後、前澤氏は宇宙旅行やアートコレクションなど、新たな分野での活動を展開しています。
このケースは、M&Aによって創業者利益を得て、新しいステージに進む典型的な例と言えるでしょう。

こちらの動画では、ヤフーによるZOZOの買収について解説されています。このM&A事例の詳細を知りたい方は、ぜひご覧ください。
役員・顧問として残っているケース:金靖征氏(株式会社Candle)
東京大学在学中の2014年に株式会社Candleを創業した金靖征氏は、2016年10月に同社をクルーズ株式会社の子会社としました。売却後もCandleの代表取締役として経営を続け、2017年5月にはクルーズグループ内で新規事業創出企業としての役割を担いました。2019年には代表を交代し、クルーズグループ内で海外市場の開拓に挑戦しています。
このケースは、M&A後も経営手腕や知識・経験を活かし、事業の成長に貢献するパターンです。経営統合の観点から、買収側の顧問や役員として、買収後も経営に参画するケースは少なくありません。

下記ニュース記事では、このM&A事例について触れられていますので、こちらも参考にしてみてください。
社長として引き続き経営しているケース:伊藤新之介氏(株式会社LAUGHTECH)
2013年に株式会社LAUGHTECHを創業し、エンターテインメントメディア「笑うメディア クレイジー」を運営していた伊藤新之介氏は、2016年9月に同社をベクトルグループに売却しました。売却後も代表取締役CEOとして新規事業の立ち上げなど、経営に積極的に関与し続けています。
このケースは、M&A後も独立性を保ちながら、より大きなグループの傘下で事業を成長させることを目指すパターンです。M&A後も引き続き元社長に経営してほしいという買い手の希望も、もちろん存在します。
これらの事例から、M&A後の社長の関わり方は多様であり、完全に退任する場合や、役員・顧問として残る場合、引き続き社長として経営を続ける場合など、さまざまな形態が存在することがわかります。

下記の動画では、このM&A事例について解説されています。詳細を知りたい方は、こちらもぜひ参考にしてみてください!
M&A後に社長が完全退任する場合の注意点

M&A後、社長が完全退任を選択する場合、いくつかの重要な注意点があります。スムーズな引継ぎと、その後の生活設計のためにも、以下のポイントをしっかり確認しておきましょう。
退任するタイミングと影響を考慮する
まず、退任のタイミングは非常に重要です。M&Aの契約条件、会社の状況、後任者の準備状況などを総合的に考慮し、最適なタイミングを見極める必要があります。

退任のタイミングを見誤ると以下のようなトラブルが発生してしまいます。
・早すぎる退任の場合→会社経営に混乱を招く可能性がある
・遅すぎる退任→新しい経営体制への移行を妨げる可能性がある
退任時期を検討する際には、従業員への影響も考慮しましょう。社長の交代は、従業員にとって大きな変化であり、不安や動揺を招く可能性があります。従業員への丁寧な説明や後任者との連携を密にすることで、スムーズな移行を目指しましょう。
一般的に、M&A後には社長が退任するケースが多いとされています。しかし、経営統合の観点から、買収側の顧問や役員として経営に参画するケースもあります。
アーンアウト契約の有無を確認する
M&Aの契約内容によっては、アーンアウト条項が含まれている場合があります。

アーンアウトとは?
M&A後の一定期間の業績目標達成に応じて、追加の買収金額が支払われるというものです。
もしアーンアウト契約がある場合、社長の退任時期がその達成に影響を与える可能性があります。
例えば、アーンアウトの達成条件が、M&A後1年間の売上目標である場合、社長がすぐに退任してしまうと、目標達成が難しくなるかもしれません。そのため、アーンアウト契約がある場合には、退任時期や後任者への引継ぎ方法について、買収企業と十分に協議する必要があります。
アーンアウト契約の内容によっては、退任後も一定期間、会社の経営に関与する必要があるかもしれません。契約内容をしっかりと確認し、自身の責任範囲を明確にしておくことが重要です。
M&Aと同時に社長を退任するケースも多く、それぞれのメリットを考慮して決定されます。

下記の動画では、アーンアウト条項について解説されています。アーンアウトについてよく知らないという方は、ぜひ参考にしてください!
M&A後の社長として残るための方法(交渉のポイント)

「M&A後も社長として会社に残りたい。」そう願う経営者の方も多いはずです。そのためには、買収企業との交渉が非常に重要になります。ここでは、M&A後も社長として残るための交渉のポイントを解説します。
買収企業と役割分担を明確にする
M&A後も社長として残るためには、買収企業との間で、M&A後の役割分担を明確にしておくことが重要です。具体的には、以下の点を明確にしておきましょう。

・担当業務範囲
M&A後も、これまでと同じ業務を担当するのか、それとも新しい業務を担当するのか。
・責任範囲
M&A後、どのような責任を負うのか。
・権限
M&A後、どのような権限を持つのか。
・目標設定
M&A後の具体的な目標をどのように設定し、評価するのか。
これらの点を明確にすることで、M&A後もスムーズに業務を遂行し、会社に貢献することができます。また、買収企業との間で認識のずれを防ぎ、トラブルを回避することにも繋がります。
役割分担を明確にする際には、ご自身の強みや経験をアピールし、会社にとって不可欠な存在であることを買収企業に理解してもらうことが大切です。例えば、「長年培ってきた業界の知識や顧客との信頼関係は、M&A後も会社の成長に貢献できる」といった具体的な提案をすると良いでしょう。
事前に合意書を作成する(LOI・SPAなど)
M&A後も社長として残ることを希望する場合、買収企業との間で事前に合意書を作成することが非常に重要です。合意書には、M&Aの条件だけでなく、M&A後の社長の地位、役割、報酬、任期などを明確に記載します。主な合意書の種類は以下の通りです。
合意書の種類 | 概要 | 主な記載事項 |
---|---|---|
LOI(意向表明書) | M&Aの初期段階で、買収企業が買収の意向を示す書類 | 買収価格、買収条件、今後のスケジュール、秘密保持義務など |
SPA(株式譲渡契約書) | M&Aの最終段階で、株式の譲渡に関する契約を定める書類 | 譲渡株式数、譲渡価格、支払い方法、表明保証、契約解除条件など |
特に、SPA(株式譲渡契約書)は、M&Aの条件を詳細に定める重要な書類です。SPAには、M&A後の社長の地位や役割、報酬、任期などを明確に記載し、双方合意の上で締結することが重要です。曖昧な条項は後々のトラブルの原因となるため、専門家(弁護士やM&Aアドバイザー)の助けを借りながら、慎重に条文を作成しましょう。
合意書を作成する際には、以下の点に注意しましょう。

・地位の保証
M&A後も社長としての地位が保証されることを明記する。
・役割の明確化
M&A後の具体的な役割と責任範囲を明確に記載する。
・報酬の決定
M&A後の報酬額や支払い方法を具体的に定める。
・任期の明示
M&A後の任期を明確にし、契約更新の条件などを定める。
・契約解除条件
どのような場合に契約が解除されるのか、具体的な条件を定める。
これらの点を明確にすることで、M&A後も安心して経営に専念することができます。また、万が一トラブルが発生した場合でも、合意書が紛争解決の拠り所となります。
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M&A後、社長はどうなる?よくある質問をまとめました!

M&A後の社長の処遇について、読者の皆さんが抱える疑問は尽きないはず。ここでは、特によくある質問をQ&A形式でまとめました!
Q.従業員への影響や責任の所在はどうなるのか?リストラされる?
A. M&A後の従業員の処遇は、買収企業の方針によって大きく異なります。リストラが行われる可能性もゼロではありませんが、必ずしも全員が解雇されるわけではありません。多くの場合、事業の継続に必要な人材は引き続き雇用されます。
重要なのは、M&A契約時に従業員の雇用条件について明確に合意しておくことです。責任の所在についても、M&A契約の内容に基づいて決定されます。

下記の動画では、会社売却後の従業員がどうなるのかについて解説されています。ぜひこちらも参考にしてみてください!
Q.買い手企業の経営方針に従わなければならないのか?
A. 基本的には、買い手企業の経営方針に従うことになります。M&Aは、企業の支配権が移転することを意味するため、当然ながら経営の主導権も買い手企業に移ります。
ただし、M&A後も社長として残る場合は、事前に役割分担や権限について交渉することで、ある程度の自主性を維持できる可能性もあります。
Q. M&A後に社長として残る場合、給料はどうなる?
A. 給料については、M&A契約時に改めて交渉する必要があります。会社の規模や業績、社長としての役割などによって、給料は増減する可能性があります。
アーンアウト契約を結んでいる場合は、M&A後の業績に応じて給料が変動することもあります。
Q. 買収企業の役員として残る場合、どんな責任が発生する?
A. 買収企業の役員として残る場合は、会社法上の責任を負うことになります。具体的には、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)や忠実義務などが挙げられます。これらの義務に違反した場合、損害賠償責任を負う可能性があります。
Q. M&A後に完全退任する場合のリスクは?
A. M&A後に完全退任する場合、会社との関係が完全に断たれるため、M&A後の会社の状況を知ることが難しくなります。
また、アーンアウト契約を結んでいる場合は、M&A後の業績が悪化した場合、報酬が減額されるリスクがあります。退任後の生活設計をしっかりと立てておくことが重要です。