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ベンチャー企業の会社売却|EXIT戦略としてのM&A活用法と成功のポイント

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昨今の市場状況を鑑みると、ベンチャー企業にとって、会社売却(M&A)はもはや”特別な選択肢”ではありません。

かつてはIPO(株式上場)こそが成功の証とされてきましたが、現在ではM&AによるExit(出口戦略)を前提に事業構築を進める起業家も増えています。

 

とくにスタートアップを取り巻く市場環境や資金調達の在り方が急速に変化する中で、事業の成長や安定を図るための選択肢として、M&Aを前向きに捉える動きが広がっているのです。

そこで本記事では、ベンチャー企業が会社売却を検討する際の目的やタイミングに応じて、M&Aを成功に導くためのポイントを詳しく解説します。

「いつ売るべきか」「どう判断すべきか」といった疑問に対して、実務的かつ戦略的な視点から整理していますので、起業家・経営者の方はぜひ参考にしてください。

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目次

【結論】ベンチャー企業における会社売却とは?IPOとの違いと目的を整理

ベンチャー企業にとっての会社売却は、決して撤退や失敗といったネガティブなものではなく、戦略的なゴールのひとつです。

とくに昨今ではIPO(株式上場)だけを目指すのではなく、M&Aによって事業を第三者に引き継ぎ、次の成長や個人のキャリアへとつなげる選択肢が注目されています。

この章では、M&Aを選ぶ企業が増えている背景を整理するとともに、会社売却という手段が持つ位置づけや役割を解説します。

ベンチャー企業がM&Aをどう捉えるべきかの全体像を掴んでいきましょう。

▼こちらの動画でも詳しく解説されています!

IPOとの違い|なぜM&Aを選ぶベンチャーが増えているのか

従来、ベンチャー企業の”成功のゴール”といえばIPO(株式公開)でした。

上場を果たすことで、資金調達力や社会的信用がアップするだけでなく、創業者や株主のリターンも実現できるようになるからです。

しかし、近年ではIPOに至るまでのプロセスがきわめて長期化・複雑化しており、審査の厳格化やコスト増といった障壁が増えてきました。

IPOを目指すには数年単位の準備や監査体制の整備が必要となり、事業成長を加速させたいスタートアップの方針とは相反する面もあるのです。

 

一方で、M&Aは買い手企業との交渉さえ整えば、比較的短期間で成立する例もあります

売却後に創業者が経営に関与し続けるかどうかも柔軟に設計できるため、現実的なExit手段として選ばれるケースが多くなっているのです。

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とくに近年は、大企業によるスタートアップ買収(CVCや事業シナジーを狙ったM&A)の事例も増加しており、M&Aが「勝ち筋」のひとつとして認識されるようになっています。

EXIT戦略としての会社売却(M&A)の位置づけ

M&Aは単なる企業売却ではなく、創業者・経営者にとっての戦略的な出口(EXIT)であり、将来のビジョン実現のための通過点とも言えます。

EXITという言葉には、「事業からの撤退」といったニュアンスも含まれますが、M&Aにおいてはより前向きな意味合いがあるのです。

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たとえば、「自社単独では成し得ない規模の成長を、大手と提携して加速させたい」という動機でM&Aを選ぶ人もいれば、「ある程度の成長したタイミングで売却益を得て、次の事業に挑戦したい」という起業家もいます。

事業と個人のキャリア、両方のタイミングを見極めて売却するのがEXIT戦略の本質と言えるでしょう。

 

また、株主との利害調整の観点でもM&Aは極めて有効です。

ベンチャーキャピタル(VC)などの外部株主は、一定のリターンを前提に出資しているため、IPOだけでなくM&AによるEXITでも利益を確定できるのはかなり魅力的に映ります。

売却の目的別に見る主な活用パターン(事業承継・資金確保・個人Exit)

ベンチャー企業がM&Aを検討する場合、主に以下のようなパターンに分類されます。

よくある活用目的内容の概要代表的なケース例
事業承継後継者の不在
譲渡して会社の存続を図る
創業者の高齢化
家族・親族の不在 など
資金確保経営資源を他社に統合して
キャッシュを得る
新規事業への投資
負債整理 など
創業者のExitライフステージ変化により
会社を手放す
起業家が別事業に挑戦
結婚・育児・介護等

とくにスタートアップの世界では、「一定の成長を果たしたタイミングで創業者がExitし、次の挑戦に進む」という流れがキャリア形成の一部にもなっています。

もちろん、実際にはケースバイケースで上記以外にもさまざまな目的があるものですが、「単に経営から身を引くのではなく、M&Aを通じて社会に価値を引き継ぐ」という視点は共通しています。

ベンチャー企業が会社売却を検討するタイミングと判断基準

「会社売却を検討すべきかどうか——。」これは起業家にとって非常に難しい判断です。

この章では、ベンチャー企業がM&Aを視野に入れるべき典型的なタイミングを4つの視点から解説します。

「どのタイミングで何を重視すべきか」をしっかりと決めておき、売り時を見極めて納得感のあるEXITを実現できるよう備えておきましょう。

資金調達の限界を感じたとき

スタートアップにとって資金調達は成長の命綱ですが、すべての企業が無限に投資を受け続けられるわけではありません。

市場の状況が悪化したり、既存の株主との方向性が合わなかったりして「これ以上の増資は難しい」と感じた瞬間が、M&Aを本格的に検討し始めるターニングポイントになります。

 

この段階でのM&Aは、経営の安定化と創業者利益の実現の両方を可能にする選択肢です。

これまでの株式価値をキャッシュ化することで、経営者個人のリスクヘッジにもつながる点はかなり魅力的と言えるでしょう。

資金調達の壁にぶつかったときこそ、M&Aという“次の道”を戦略的に考えるべきタイミングです。

事業成長に限界を感じ、パートナーが必要になったとき

プロダクトやサービスが市場に受け入れられ、いわゆるPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成したフェーズでは、「この先どう成長させるか」が新たな課題となります。

ここで問題となるのがリソースの壁です。販路拡大、人材確保、オペレーションの整備など、自社単独で対応しきれない領域が急増します。

このフェーズでのM&Aは、大手企業との提携によって成長を加速させる「スケールアップ型の売却」として位置づけられます。

買い手企業の資産や知見を活用し、より大きな市場に展開していくことが可能です。

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たとえば、既存の営業網に自社の製品を載せることで販路を拡大したり、人材面での採用競争力を上げたりと、ベンチャー単独では届かなかったステージに踏み出せます。

スタートアップ単独では届かなかったステージに進むための合理的な手段として、戦略的なM&Aは非常に有効です。

創業者のライフステージが変わったとき(Exit・家族・健康など)

ベンチャー企業の経営は、多大なエネルギーと集中力を要します。

とくに創業初期から数年のフェーズでは、365日事業のことで頭が埋め尽くされるという経営者様も珍しくありません。

しかし時間が経過するにつれて、健康問題、家族との時間、ライフプランの見直しといった私的な要因が経営判断に影響するようになります。

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会社売却で得た利益を引っ越しの費用に充てたり、老後の生活資金にしたりといった選択もよくあるケースです。

このようなタイミングで会社売却に踏み切るのは、いわば創業者にとっての“人生の再設計”の一環と言えるでしょう。

IPOよりもM&Aが現実的だと感じたとき

IPOを目指すには、事業規模・ガバナンス体制・監査対応・法令順守などをイチから見直す必要があり、何よりも時間と費用がかかります。

近年では審査基準の厳格化も進み、ベンチャーにとってのIPOは「登れる山」ではあっても、「誰もが目指すべき道」とは言い切れなくなっているのが実情です。

その点、M&Aは事業やフェーズに応じた”ちょうどいい出口”を比較的柔軟に設定できるのが利点です。

買収企業との合意さえあれば、IPOに比べて圧倒的に短期間でのEXITが可能となります。

とくに2020年代以降は、M&A前提で資金調達・事業設計をするスタートアップも増えており、IPO神話は少しずつ解体されつつあるとも言われています。

現実的かつ合理的なEXITとして、M&Aは今後さらに重要な戦略となっていくことでしょう。

ベンチャー企業の会社売却の流れと各ステップの注意点

会社売却のプロセスは、単に買い手を探して契約するだけではありません。

ベンチャー企業の場合は、成長余地や技術的な独自性など、定量化しづらい価値をどう伝えるかが重要であり、各ステップでの判断や準備が成否を左右します。

この章では、会社売却(M&A)の全体的な流れを以下7つのフェーズに分けて解説します。

スタートアップならではの注意点も交えながら、実務的な観点から一連の流れを把握していきましょう。

1.売却方針の検討|IPOとの比較とEXIT戦略の選定

2.M&Aアドバイザーの選定|スタートアップに強い支援者を見極める

3.資料準備と企業価値の算出|無形資産の魅力をどう伝えるか

4.買い手候補の選定とマッチング|シナジーやPMFへの理解がカギ

5.条件交渉と基本合意(LOI)|優先株・投資契約をどう扱うか

6.デューデリジェンス(DD)|契約書不備や労務の問題に注意

7.最終契約(SPA)とクロージング|表明保証・ストックオプション・創業者の処遇を明確に

1.売却方針の検討|IPOとの比較とEXIT戦略の選定

最初に行うべきは、「自社が本当にM&Aを選ぶべきか」を見極めるための戦略整理です。

IPOとM&Aを天秤にかけながら、将来的な資本政策や創業者の意向、投資家の期待値などを整理し、どのEXITルートがもっとも合理的かを判断します

この段階では、以下のような視点で社内の整理を行うことが重要です:

売却方針を検討する際のポイント

・EXITの目的は何か…資金確保・成長加速・創業者の離脱など
・ステークホルダーとの調整は可能か…VCや共同創業者の意向
・いつ、誰に、どう売るかの仮説を描けるか

早い段階でM&Aを視野に入れておくことで、その後の交渉や資料準備がスムーズになります。

また、事前に「将来こういう買い手が望ましい」と仮説を立てておくと、より理想的なマッチングにつなげられます。

2.M&Aアドバイザーの選定|スタートアップに強い支援者を見極める

会社売却の成否を大きく左右するのが、M&Aアドバイザー(仲介会社・FAなど)の選定です。

ベンチャー企業の場合は、事業の将来性や無形資産に強みがあるファームを選ぶ必要があります。

M&Aアドバイザーを選ぶ際のポイント

・スタートアップM&Aの実績があるか
・資本政策・VC交渉に精通しているか
・買い手ネットワークの幅があるか
・代表や担当者が創業者の立場を理解しているか

報酬体系(レーマン方式・着手金有無)も重要な比較軸ですが、「いかに価値を伝え、適切な買い手と繋げられるか」という点が何よりも大切です。

3.資料準備と企業価値の算出|無形資産の魅力をどう伝えるか

中小企業のM&Aと比較して、スタートアップのM&Aでは、財務諸表よりも「将来性」や「ストーリー」が重視される傾向があります。

資料の作り方ひとつで、企業価値の印象が大きく変わることも珍しくありません。

▼ 売却の前に準備すべき主な資料

  • 事業概要書(ピッチ資料)
  • 財務情報(過去のPL・BS、将来予測)
  • プロダクト紹介・技術概要
  • 顧客データ・契約リスト
  • チーム構成・組織体制

 

中でもポイントは、無形資産(顧客基盤、ブランド、プロダクト、知見)の魅力を定量・定性の両面から整理することです。

「他社では再現できない強みは何か?」という視点で、買い手に“事業の伸びしろ”を感じさせる構成づくりを意識しましょう。

4.買い手候補の選定とマッチング|シナジーやPMFへの理解がカギ

買い手企業を探すポイントは、単に高い条件を提示してくれる相手を探すことではありません。

スタートアップの場合は、プロダクトやカルチャーを理解し、事業に共感してくれる企業とのマッチングが成功のカギを握ります。

最適な買い手候補とマッチングするためのポイント

・既存事業とのシナジー(販路、技術、人材など)
・組織文化との相性
・PMFへの理解(スタートアップ特有の成長段階を理解しているか)
・買収後の経営方針(創業者が残るか、独立運営か)

初期接触から自社の魅力を丁寧に伝えることで、条件交渉に入る前の“興味喚起”を狙います。

5.条件交渉と基本合意(LOI)|優先株・投資契約をどう扱うか

買い手候補との接点を経て、双方の関心が高まった段階で条件交渉に入ります。

ここではまず基本合意書(LOI:Letter of Intent)を交わし、買収価格やスキームの大枠、独占交渉期間などを定めます。

LOIは法的拘束力が弱いとはいえ、以後の交渉方針を大きく左右する重要な文書です。

またベンチャー企業特有の論点としては、以下の点に注意が必要です。

  • 優先株の扱い(清算優先権・参加型か否か)
  • 投資契約の権利義務整理(ドラッグアロング・ロックアップなど)
  • ストックオプションの処遇(未行使分をどう扱うか)

買い手企業はこれらの要素を含めて実質的な企業価値を判断します。

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創業者や既存株主の利害が複雑に絡む局面でもあるため、経験豊富なFAや弁護士のサポートを受けながら、冷静かつ柔軟に交渉を進めましょう。

6.デューデリジェンス(DD)|契約書不備や労務の問題に注意

基本合意後は、買い手側によるデューデリジェンス(DD)が行われます。

財務・法務・税務・人事・ITなど複数の観点から、自社のリスクや資産状況を詳細に調査されるプロセスです。

とくにスタートアップでは以下のような点が指摘されやすいため、事前に整理しておき対策を講じておくのが望ましいでしょう。

ベンチャー企業のDDでチェックされやすい項目

・雇用契約書・業務委託契約書の未整備
・株主間契約や投資契約の曖昧さ
・ソフトウェアのライセンス・知財権の不明瞭な帰属
・インボイス制度や消費税区分処理の誤り

買い手はここで見つかったリスクに応じて、買収条件を見直す(いわゆる「チップス」)可能性があります。

こちらに不利な交渉にならないようにするためにも、売却を意識した時点で内部資料や契約関係を整えておき、企業価値の毀損を防ぎましょう。

7.最終契約(SPA)とクロージング|表明保証・ストックオプション・創業者の処遇を明確に

デューデリジェンスが完了すると、最終契約書(SPA:Share Purchase Agreement)の締結へと進みます。

ここでは株式譲渡の条件に加え、表明保証(Reps & Warranties)、補償条項(Indemnity)などの法的要素についても詳細に規定していきます。

最終契約(SPA)で決定させる項目

・表明保証の範囲と責任期間
・創業者が引き続き経営に関与するか
・役員報酬・インセンティブ設計(エンゲージメント報酬等)
・従業員向けストックオプションの移行や新設

買収後の統合(PMI)を円滑に進めるためにも、創業者の処遇やキーパーソンのリテンション戦略を明示的に設計しておくことが重要です。

また、クロージング時点での送金フロー、登記手続き、通知義務といった実務面も含めて、専門家と連携しながら進めることでトラブルを未然に防ぐことができます。

買い手から評価されるベンチャー企業の特徴と準備のポイント

M&Aにおいて「買われる側」に求められるのは、単なる売上や利益だけではありません。

とくにベンチャー企業の場合、未来のポテンシャルや買い手企業との相性が大きく評価されるため、いかに「事業価値」を可視化できるかが鍵となります。

この章では、買い手が重視する評価ポイントや売却に向けて準備を整えておくべき項目を整理します。

買い手からの評価の決め手は「シナジー」と「成長性」

ベンチャー企業のM&Aでは、過去の実績よりも「この企業と組むことで何が生まれるか」が最大の評価軸になります。

つまり、買い手とのシナジー(相乗効果)をどれだけ具体的に描けるかが、評価額にも直結するのです。

たとえば、「当社の営業網を活用すれば、今のプロダクトは3倍の市場に届く」といった定量的なシナジー仮説を提示できれば、買い手にとっての納得材料になります。

また、PMF済みでスケーラブルなビジネスモデルを持つ場合、買収後の成長可能性が評価に大きく影響することもあります。

逆に、いくら事業が面白くても、統合後の運用が難しければ見送りの対象となるケースも少なくありません。

自社の既存事業との補完関係を明確にしたうえで、売却後に実現可能な成長ストーリーを買い手にイメージさせられるかどうかがカギです。

売却成功に必要なKPI・財務資料とは?ベンチャー特有の準備項目に注意

スタートアップM&Aでは、損益計算書や貸借対照表といった基本的な財務資料に加え、成長性や事業継続力を示すKPIの整備が極めて重要です。

ベンチャーにおいては、PLだけでは測れない“未来の可能性”が評価対象となるため、KPIは「定性と定量をつなぐ橋渡し」とも言えます。

以下は、買い手が注目するKPIの代表例です。

  • ユーザー数・アクティブ率(MAU / DAU)
  • 顧客獲得単価(CAC)とLTVの比率
  • チャーンレート(解約率)
  • ARR / MRR(継続収益モデルの場合)
  • 資本政策(株主構成、優先株の設計、SO(ストックオプション)の状況など)

また、SaaS型やアプリ系事業では、プロダクトの利用率や定着率のデータ(コホート分析など)も信頼性の高い評価材料になります。

技術・人材・ブランドなど無形資産を評価されるための工夫

ベンチャー企業が持つ最大の価値は、財務諸表に現れない資産にあることも少なくありません。

たとえば、独自性のあるアルゴリズム、強いブランド、熱量の高いファンコミュニティ…スタートアップなら優秀なチームも揃っています。

こうした無形資産をどれだけ言語化・数値化して伝えられるかが、買い手に響くかどうかの分かれ目となります。

以下は評価されやすい無形資産の具体例です。

項目評価ポイントの例
技術・プロダクト特許取得状況、技術的難易度、再現性の低さ
人材・組織CTOや開発チームの継続性、カルチャーの独自性
ブランド認知度・ユーザー支持率、SNSフォロワー数、UGCの量
データ資産蓄積された行動データ
アルゴリズムに基づくナレッジ

また、上記のような無形価値をアピールする際は、客観的な実績(メディア掲載、受賞歴、エンゲージメント指標など)を交えて資料化するのが効果的です。

買い手との接触段階からストーリーを組み立てて訴求することで、「この企業と組む理由」を明確にしていくのがコツでしょう。

ベンチャー企業の会社売却の成功事例

実際に会社売却を通じて成長を加速させたベンチャー企業は数多く存在します。

ここでは、代表的な3つの成功事例を紹介します。いずれも「適切なタイミング」と「戦略的なマッチング」が功を奏し、事業・創業者・買い手の三方にとって意義あるM&Aとなった事例です。

ソラコムのKDDIによる買収(200億円)

時期2017年
買収額約200億円
シナジー効果KDDI:ソラコムの技術力を取り込みIoT戦略を強化
ソラコム:契約回線数は2年で8万回線⇒100万回線へ
参考記事東洋経済 | ソラコム社長、KDDIへの株譲渡の真相を語る

2017年、KDDIはIoT通信プラットフォームを提供するベンチャー企業ソラコムを約200億円で買収し、連結子会社化しました 。

ソラコムは2014年の創業からわずか3年での大型M&Aを実現し、スタートアップ業界に大きな注目を集めました。

同社の主力サービス「SORACOM」は、クラウドと通信を融合したIoT向けプラットフォームで、120以上の国と地域で7,000社超の顧客を持つなどグローバルな成長性が評価されました 。

KDDIはソラコムの技術力とスピード感を取り込み、5G時代のIoT戦略を強化。買収後もソラコムの独立性は維持され、KDDIの販売網や顧客基盤を活用することで、契約回線数は2年で8万回線から100万回線へと急拡大しました 。

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さらに2024年には東証グロース市場への上場を果たし、買収から成長・独立上場へと至る「スイングバイIPO」の成功例としても注目されています。

ブルックマンテクノロジの凸版印刷への株式譲渡

時期2021年3月
譲渡率発行済株式の89.1%
シナジー効果凸版印刷:新たな事業領域への本格参入
ブルックマンテクノロジ:事業スケールの拡大
参考記事日本経済新聞 | 凸版印刷、静岡大発の半導体スタートアップを子会社化

2021年3月、凸版印刷は静岡大学発のベンチャー企業・ブルックマンテクノロジの発行済株式の89.1%を取得し、子会社化しました。

ブルックマンテクノロジは、3D距離画像センサの開発に強みを持つ企業で、とくにToF(Time of Flight)方式によるCMOSイメージセンサで独自技術を確立していました。両社は2017年から資本業務提携を締結しており、共同研究開発を経て2021年のM&Aに至っています。

買収の背景には、スマートフォンや自動運転技術における3Dセンサ需要の高まりがあり、凸版印刷はブルックマンの技術を活かして新たな事業領域に本格参入する狙いを持っていました。

M&A後も提携関係は深化し、2022年には全株式を取得して完全子会社化&吸収合併を決定しています。

この事例は、大学発ベンチャーが大手企業との資本提携を経て段階的に売却・統合されていくプロセスを示すものであり、技術起点のベンチャーにとってM&Aが商業化とスケール拡大の有力な手段であることを物語っています。

FacePeerのマイナビへの株式譲渡

時期2021年3月
買収額約200億円
シナジー効果KDDI:ソラコムの技術力を取り込みIoT戦略を強化
ソラコム:契約回線数は2年で8万回線⇒100万回線へ
参考記事マイナビ | FacePeer株式会社を買収、子会社化

2021年3月、株式会社マイナビは企業向けビデオ通話プラットフォーム「FACEHUB」を提供するベンチャー企業、FacePeer株式会社の株式を取得し、子会社化しました。

2015年設立のFacePeerは、業務効率化や働き方改革を支援するITソリューションを展開しており、1,000社以上の導入実績がある「FACEHUB」は採用面接・オンライン商談・遠隔サポートなど多様なビジネスシーンで活用されていました。

マイナビは2017年にFacePeerへの出資を行い、既存サービスとの連携や販売協業を進めてきました。

新型コロナウイルスの影響でオンラインコミュニケーションの需要が急増する中、両社はより迅速にサービスを提供するためM&Aに至ったという経緯です。

M&Aが単なるExitではなく事業拡大の手段として有効であり、ベンチャー企業が大手企業との連携を通じて成長を加速させる好例であると言えるでしょう。

【補足】ベンチャーM&Aの市場動向とバイアウトの基礎知識

近年のベンチャーM&A市場は、大手企業による積極的なスタートアップ買収や新たなExit手法の多様化により、選択肢が増えてきています。

資金調達環境の変化や市場の成熟に伴い、「上場だけがゴールではない」という考え方が広がる中で、M&Aやバイアウトという手段を正しく理解することが、経営判断の幅を広げるうえで不可欠となっています。

この章では2024年時点のM&A市場の動きとあわせて、バイアウトの主な手法やそれぞれの特徴を整理し、スタートアップ経営者が知っておくべき基本知識をまとめました。

2024年のM&A市場動向とベンチャーの売却トレンド

2024年における国内M&A市場は、全体件数としてはやや減少傾向にある一方で、スタートアップ領域におけるM&Aは活況を呈しています。とくに、大手企業が新規事業開発やDX推進の一環として、有望なベンチャー企業を戦略的に買収するケースが増加しています。

主な市場動向のポイントは以下の通りです。

  • SaaS・AI・バイオテック分野の買収が活発化
  • 上場企業によるインオーガニック成長戦略としてのM&A需要が継続
  • VCのExit手段としてのM&Aが標準化

また、資金調達環境の不透明さから、「シリーズB以降に進まず、M&Aでの出口を選ぶ」スタートアップが増加傾向にあります。ファイナンス主導から事業主導のExitへの転換が進んでおり、特に中堅企業によるプレシリーズ・アーリーステージ買収が注目されています。

バイアウトの主な手法(MBO・EBO・LBO・MEBO)の違い

バイアウトとは、株式を譲渡することで経営権を移転させる手法の総称で、スタートアップのExit手段としても用いられます。

とくに第三者売却だけでなく、経営陣や従業員が自ら企業を買い取る形もあります。

手法概要主な活用シーン
MBO(Management Buyout)経営陣による企業買収親会社からの独立・事業承継など
EBO(Employee Buyout)従業員による企業買収経営陣引退時の承継・企業文化の継続を重視する場合
LBO(Leveraged Buyout)借入資金を活用して企業を買収外部資本を活用し大規模な買収を行う場合
MEBO(Management and Employee Buyout)経営陣+従業員による共同買収ベンチャー企業における「社内承継型Exit」など

中でもベンチャー領域で注目されているのは、MEBOやMBOによるソフトランディング型のExitです。

外部に売却せず、組織の文化や技術資産を社内に残すことで、経営の独立性と事業の継続性を両立できる点が評価されています。

バイアウトとM&Aの違いとベンチャーにおける活用例

バイアウトとM&Aはしばしば同義で語られますが、厳密にはその構造と目的に違いがあります。

M&Aは「第三者への売却」を広義に含む一方で、バイアウトは「経営権の移転手法」を限定的に指す用語です。

M&Aバイアウト
相手先外部企業・投資家など経営陣・従業員・ファンドなど
主な目的成長加速・資本確保・事業承継等経営権取得・独立・再編
スキーム構造株式譲渡・事業譲渡等LBO・MBO・EBO等の金融スキームが中心

たとえば創業者が第一線を退くにあたり、幹部に経営を引き継がせたいときはMBOを選ぶことで、スムーズな社内承継が可能です。

また、VCやPEファンドが入っている場合には、LBOや二次バイアウトを活用して事業の再成長を図るケースも増えています。

「売却=第三者への譲渡」だけではなく、“社内で引き継ぐ”という選択肢もあることを、Exit戦略を立てるうえで意識しておくべきでしょう。

ベンチャー企業の売却でありがちな失敗と注意点

初めての売却に臨むスタートアップ経営者には見えにくい落とし穴もたくさんあります。

中でもベンチャーM&Aは、特殊な資本構造をしていたり、無形資産を評価する必要があったりと、独特の難しさがあるため経験不足がトラブルの引き金になることも珍しくありません。

この章では、実務の現場でよく見られる売却時の失敗例とその対処法を解説しておきます。

無理な売却スケジュールで安売りしてしまう

「資金が尽きそうだから早く売らなければ」という焦りから、十分な交渉や資料準備をせずに売却を進めてしまうケースは少なくありません。

しかし、M&Aは“相手ありき”の取引であるため、売り手が急ぎすぎると交渉力を失い、買い叩かれてしまうリスクが高まります。

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LOI前の情報整理が不十分だと、買い手に「この会社は急いでいる」と見透かされ、条件面での譲歩を強いられることになります。

最悪の場合、デューデリジェンス後に想定以下のバリュエーションを提示されても、時間的余裕がないため受け入れざるを得ないという展開にもなりかねません。

 

売却を検討する際は、少なくとも6〜12カ月の準備期間を想定し、余裕のある進行スケジュールを立てるのが基本です。

優先株・SO(ストックオプション)の整理不足でトラブルに

スタートアップの資本政策は複雑化していることが多く、売却時に優先株の清算条項や未行使のストックオプションの扱いが大きな問題となるケースが頻発しています。

たとえば、優先株主に清算優先権が付いていた場合、売却額が期待に届かなければ創業者や普通株主にほとんど利益が残らない構造になっていることもあります。

加えてSOが大量に残っていると、買い手が条件調整を求める要因となり交渉が難航します。

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このようなトラブルを避けるためには、売却検討前に株主構成・SOの残存状況を整理し、必要があれば契約の見直しや調整を行うことが不可欠です。

また、VCやエンジェル投資家とのコミュニケーションも早めに取り、利害を揃えておく必要があります。

PMI(統合)やカルチャーギャップを軽視してしまう

買収契約が成立したとしても、その後のPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)がうまくいかず、従業員の退職やプロダクト停滞などにより事業価値が毀損される事例は決して少なくありません。

この場合、売却前の段階で買い手との相性や統合後の運営体制を十分に検討しなかったのが原因であることがほとんどです。

少数精鋭で運用しているスタートアップは、チームの結束や価値観に支えられていることが多く、親会社の経営方針や意思決定スピードの違いがストレス要因になることもあります。

売却時には、PMI計画やチームの処遇、経営参加の有無などを契約前にきっちりと取り決めるようにしましょう。

感情面の共感やビジョンの共有も、売却成功には欠かせないファクターです。

買い手との認識ズレで交渉が破談に終わる

M&Aの交渉は、数字だけでなく「意図と期待値」のすり合わせでもあります。

買い手は何を期待し、売り手は何を望んでいるのか。その認識にズレがあると、条件面では合意していても、最終段階で破談になることも珍しくありません。

たとえば、買い手は「フル統合・経営権の移譲」を想定しているのに対し、売り手は「独立運営の継続・一定期間の関与のみ」と考えていた場合、当然ながらPMI設計で対立が生じます。

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こうした齟齬を防ぐためには、LOI以前の早い段階から売却後の関係性や創業者の関与方針などを明確に伝え、条件調整に含めましょう。

アドバイザーを介した認識調整なども有効な手段となります。

ベンチャー企業の会社売却を検討中なら「MA frontier」にご相談ください

弊社MA Frontierでは、スタートアップのExit支援をはじめ、成長加速型・資本政策の見直し・事業承継など、ベンチャー企業のフェーズや目的に応じた最適なM&A戦略をご提案しています。

弁護士、公認会計士、戦略コンサルタントなど各分野のプロフェッショナルが連携し、会社売却を検討中の経営者様を多角的にサポートいたします。

MA Frontier

「次の挑戦に向けてExitの選択肢を検討したい」「資金調達以外の道で成長戦略を描きたい」「創業メンバーの株式をうまく整理したい」など、売却の背景は企業ごとにさまざまです。

弊社では、法務・財務・税務の各側面から、スタートアップならではの資本構造や優先株・SO(ストックオプション)の整理も含めて、M&Aを安全かつスムーズに進められるよう支援いたします。

なお、売主様に対しては着手金・中間報酬・月額報酬が一切発生しない完全成功報酬制を採用しており、最終的な売却が成立した際にのみ報酬を頂戴する安心のフローとなっています。

M&Aの流れ

さらに、弁護士や公認会計士などが財務面でのリスクをしっかりと検証するため、資本政策が複雑なスタートアップM&Aでも、必要な法的書式や取引書類の準備を円滑に進めていただけます

 

この他にも、以下のようにさまざまなご依頼を承っておりますので、まずは無料相談にてお気軽にご相談ください!

M&A Frontierで対応しているサービス

候補先企業の探索・選定
株式譲渡・事業譲渡などのスキームに関するご提案
各種書式・契約書の準備
・株式価値の無料算定
・デューデリジェンスのサポート
・伴走型コンサルティング
(企業の状況や成長戦略に関する知見の提供)

M&Aは「MA Frontier」にお任せください

サポートなしでの会社売却には下記のようなリスクが伴うことも…不安やリスクを回避するためにも、弊社の無料相談をご利用ください。

仲介を挟まないでM&Aをするリスク:MA Frontier

ベンチャーの会社売却に関するよくある質問

最後に、実務の現場でよく寄せられるご質問について、M&Aアドバイザリーの視点から回答いたします。

ベンチャー企業のM&Aに関しては、まだまだ一般化していないからこそ悩みを抱えがちです。

一緒に一つひとつ解消していきましょう!

Q. 赤字や社員数が少なくても会社を売ることはできますか?

可能です。実際、赤字かつ少人数体制のままM&Aを成立させているスタートアップ企業もたくさんあります。

M&Aにおいて重視されるのは、「現在の利益」ではなく「将来の成長性」や「買い手とのシナジー」です。

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たとえばSaaSやAI系スタートアップでは、ARR(年間経常収益)やユーザー数、技術的な独自性などがしっかりあれば評価されやすく、赤字でも高いバリュエーションがつくことがあります。

 

また、少人数でも開発力のある精鋭チームが揃っているなら、今後のプロダクト展開に期待が持てるため買い手企業にとっては魅力的な投資対象となります。

ただし、赤字の場合は「なぜ赤字なのか(成長投資なのか構造的な問題なのか)」を説明できるような準備が必要です。

PLだけでは測れない価値をどう伝えるかが鍵となります。

Q. ベンチャー売却でどのくらいの期間がかかりますか?

売却検討開始からクロージングまで約6〜12カ月を見込むのが一般的です。

ただし、準備状況やマッチングの進捗によって変動しやすく、半年以内に完了することもあれば、1年以上かかることもあります。

あくまで一例ですが、売却のスケジュール感は以下のとおりです。

  1. 売却方針の検討(1〜2カ月)
  2. アドバイザー選定と資料準備(1〜2カ月)
  3. 買い手候補とのマッチングと初期交渉(1〜3カ月)
  4. LOI締結とデューデリジェンス(1〜2カ月)
  5. 最終契約〜クロージング(1〜2カ月)

初動の「資料整備」と「買い手選定」は特に時間がかかるため、売却を本格的に考える前に、内部の整理だけでも着手しておくことをお勧めします。

Q. ベンチャー企業の売却額の相場はどれくらいですか?

相場は事業内容や成長性によって大きく異なりますが、SaaSやITサービス系であればARRの5〜10倍、EBITDA(営業利益)の5〜15倍といった算出方法になります。

ただし、ベンチャー企業の多くはまだ黒字化していないため、純粋な損益ではなくKPIや技術力、チーム力などを総合的に加味して評価されます。

  • SaaS:ARR × 5〜10倍(成長率やチャーン率により変動)
  • D2C:売上 × 1〜3倍(LTV・ブランド力による)
  • AI/DeepTech:技術の独自性や知財の評価による買い手提示額

また、買収目的が「人材確保(アクハイ)」の場合は1億〜数億円程度のレンジでの交渉になることもあります。

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売却額は算定段階ではなく交渉段階で決まる要素が強いため、複数社と比較検討できる体制があると有利です。

Q. ベンチャー企業の会社売却でよくある失敗パターンはありますか?

ベンチャー・スタートアップ企業が特に陥りがちな失敗パターンは以下の通りです。

  • 無理なスケジュールで交渉を進めてしまい、条件交渉の余地がなくなる
  • 資本政策(優先株やSO)を整理しないまま進行してしまう
  • 買い手との統合後のビジョンやチーム運営について、十分に合意できていない
  • 経営陣や株主間での意見が対立して交渉が中断する

このような事態を避けるためには、売却の方針と意義を社内外と共有し、ステークホルダーの足並みを揃えておくことが重要です。

創業メンバーや主要株主との事前の合意形成が取れていないと、後半で破談になるケースも多いため特に注意が必要です。

Q. 売却の意思決定は創業者だけでできますか?株主や取締役との関係は?

結論としては、会社の株式構成や取締役会の体制によって大きく異なります。

一般的に、M&Aを成立させるには以下の条件を満たす必要があります。

会社売却を決定するために必要な条件(一例)

株主総会の特別決議:3分の2以上(株式譲渡が関わる場合)
取締役会の承認(契約締結、会社方針の変更等)
VCや投資契約上の同意権(Drag-Along、Tag-Along等)

外部投資家が出資している場合は、事前に定めた投資契約や株主間契約に基づく合意形成が必須です。

創業者が過半数以上の議決権を持っていたとしても、優先株主の権利を軽視すると後々法的トラブルにつながる可能性があります。

売却を検討する段階で、資本政策の全体像と契約上の合意条件を可視化しておくことが意思決定におけるポイントです。

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