会社売却で退職金は受け取れる?売却方法別にどうなるか解説!


長年経営してきた会社を売却したいけど、 退職金はどうなるんだろう?
会社売却を検討する際、 気になるのが従業員や役員、 そして社長自身の退職金の問題です。 売却方法によって退職金の扱いは大きく異なり、 税金や資金繰りにも影響を与える可能性があります。
この記事では、 株式譲渡、事業譲渡、会社合併といった売却方法別の退職金の取り扱いを詳しく解説していきます。さらに、 退職金に関する注意点や節税対策、 よくある質問にもお答えします。 会社売却を成功させるために、 退職金に関する正しい知識を身につけましょう。

下記の動画では、M&Aで会社売却した場合の退職金の扱いについて解説されています。
会社売却の際に退職金はどうなる?
会社売却時の退職金の扱いは、売却方法によって大きく異なります。ここでは、株式譲渡、事業譲渡、会社合併の3つのケースについて、従業員と役員・社長の退職金がどのように扱われるかを解説します。

下記の表に、売却方法ごとの退職金の扱いについてまとめました。
売却方法 | 支払い対象 | 退職金の扱い |
---|---|---|
株式譲渡 | 従業員 | 発生しない |
役員や社長 | 株式譲渡を機に退任する場合は、支払われる | |
事業譲渡 | 従業員 | 譲渡される事業に関わる従業員には、原則支払われる |
役員や社長 | 事業譲渡を機に退任する場合は、支払われる | |
会社合併 | 従業員 | 発生しない |
役員や社長 | 会社合併を機に退任する場合は、支払われる |
株式譲渡の場合
株式譲渡は、会社の株式を譲渡することで経営権を移転する方法です。この場合、会社自体は存続するため、原則として従業員と役員・社長の雇用契約も継続されます。
従業員の退職金
株式譲渡の場合、従業員の雇用契約は継続されるため、基本的に退職金は発生しません。
ただし、買い手企業との交渉によっては、従業員の待遇改善策として一時金を支給するなどの対応が取られることもあります。この一時金は、退職金とは異なり、給与所得として扱われるのが一般的です。
役員や社長の退職金
株式譲渡後も役員や社長が会社に残る場合、退職金は発生しません。
しかし、株式譲渡を機に退任する場合は、退職金が発生する可能性があります。この場合、退職金の金額は、役員退職慰労金規定に基づいて決定されるのが一般的です。ただし、高額すぎる退職金は税務署から「役員賞与」と判断され、損金算入が否認されるリスクがあるため注意が必要です。
役員退職金は、役員の功績に対する報酬として支払われるものですが、税務上は「退職所得」として扱われ、給与所得よりも税率が低く抑えられます。そのため、役員退職慰労金規定を整備し、適切な金額の退職金を支給することで、節税効果も期待できます。

下記の動画では、社長の退職金や役員退職慰労金などについて解説されています。
事業譲渡の場合
事業譲渡は、会社が持つ事業の一部または全部を他の会社に譲渡する方法です。この場合、譲渡される事業に関わる従業員は、原則として転籍(移籍)することになります。
従業員の退職金
事業譲渡に伴い従業員が転籍する場合、原則として退職金が支払われます。これは、雇用契約が一旦終了し、新たな会社との間で雇用契約が結び直されると解釈されるためです。
退職金の支払いは、譲渡元の会社が行うのが一般的ですが、買い手企業との間で合意があれば、買い手企業が支払うことも可能です。従業員への退職金の支払いは、事業譲渡における重要な論点の一つです。
役員や社長の退職金
事業譲渡を機に役員や社長が退任する場合、株式譲渡と同様に、退職金が発生する可能性があります。退職金の金額は、役員退職慰労金規定に基づいて決定されます。事業譲渡の場合も、高額すぎる退職金は税務署から否認されるリスクがあるため、注意が必要です。
会社合併の場合
会社合併は、複数の会社が合わさって一つの会社になる方法です。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。
吸収合併と新設合併の違い
・吸収合併
1つの会社(存続会社)が他の会社(消滅会社)を吸収し、存続会社がすべての資産・負債を引き継ぎ、消滅会社は解散する形態
・新設合併
2つ以上の会社が合併して全て解散し、新たに1つの会社を設立する形態。既存の会社は全て消滅し、新会社がすべての資産・負債を引き継ぎます。
主な違いは、吸収合併では存続会社が残るのに対し、新設合併では関係する全ての会社が消滅して新会社が誕生する点です。
従業員の退職金
会社合併の場合、従業員の雇用契約は原則として承継されるため、退職金は発生しません。ただし、合併後の会社の方針によっては、従業員の待遇が変更される可能性もあります。
例えば、給与体系や福利厚生などが変更される場合、従業員に不利益が生じる可能性もあるため、事前に十分な説明と合意を得る必要があります。
役員や社長の退職金
会社合併を機に役員や社長が退任する場合、株式譲渡や事業譲渡と同様に、退職金が発生する可能性があります。退職金の金額は、役員退職慰労金規定に基づいて決定されます。会社合併の場合も、高額すぎる退職金は税務署から否認されるリスクがあるため、注意が必要です。
会社売却における退職金の扱いは、売却方法や個別の状況によって大きく異なります。そのため、専門家(税理士、弁護士など)に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
会社売却における退職金関連の注意点
会社売却は、経営者にとって大きな転換期であり、退職金の取り扱いには特に注意が必要です。ここでは、会社売却における退職金に関連する重要な注意点を解説します。
高額すぎる退職金は「役員賞与」と判断され、損金算入が否認される恐れがある
役員や社長に対する退職金は、長年の会社への貢献に対する報酬として支払われますが、その金額が社会通念上不相当に高額である場合、税務上「役員賞与」とみなされることがあります。役員賞与として扱われると、損金算入が認められず、法人税の負担が増加する可能性があります。
退職金の額は、役員の在任期間、役職、会社への貢献度などを総合的に考慮して決定する必要があります。税務署から否認されないためには、事前に税理士などの専門家と相談し、適切な金額を設定することが重要です。
退職金をめぐって買い手との交渉が難航するケースがある
会社売却においては、退職金の負担を誰が負うのかが交渉のポイントとなることがあります。特に、多額の退職金が発生する場合、買い手側は買収価格の減額を要求することがあります。売り手側としては、従業員のモチベーション維持や、役員・社長の功労に報いるため、十分な退職金を確保したいと考えるでしょう。
このような対立を避けるためには、事前に買い手側と退職金の取り扱いについて十分な協議を行い、合意を得ておくことが重要です。場合によっては、売却価格に退職金相当額を含める、または別途退職金に関する契約を締結するなどの対策が必要となることもあります。
節税対策が過剰と見なされると税務調査のリスクがある
退職金は、退職所得控除などの税制優遇措置が適用されるため、節税効果が期待できます。しかし、過度な節税対策は税務署から不当と判断され、税務調査のリスクを高める可能性があります。

例えば、売却直前に役員報酬を大幅に引き上げ、退職金を増額するなどの行為は、意図的な節税とみなされる可能性が高いです。
節税対策を行う場合は、税法の範囲内で適切に行うことが重要です。税理士などの専門家と相談し、税務上のリスクを十分に理解した上で、慎重に対策を講じるようにしましょう。
資金繰りに影響が出ないように注意する
退職金の支払いは、会社の資金繰りに大きな影響を与える可能性があります。特に、売却によってまとまった資金が入る場合でも、退職金の支払いが集中すると一時的に資金不足に陥ることも考えられます。また、会社売却の手続きには、様々な費用が発生するため、退職金の支払いに必要な資金を十分に確保しておく必要があります。
資金繰りの悪化を防ぐためには、事前に退職金の支払いスケジュールを明確にし、必要な資金を計画的に準備しておくことが重要です。金融機関からの融資や、売却代金の一部を退職金支払いに充当するなどの対策も検討しましょう。
会社売却時における退職金の節税対策として、よく行われている方法とは?
会社売却を成功させるためには、退職金の取り扱いだけでなく、節税対策も重要なポイントです。ここでは、会社売却時における退職金の節税対策として、よく行われている方法を3つご紹介します。

下記の動画では、M&A時の税金や節税対策について解説されています。
退職所得控除の最大限活用(勤続年数に応じた控除額)
退職金には、退職所得控除という税制上の優遇措置があります。これは、退職金の額に応じて一定額が控除される制度で、控除額が大きいほど税負担を軽減できます。

退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下の計算式で算出されます。
勤続年数 | 控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
例:勤続30年の場合
800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 1,500万円
つまり控除額は、1,500万円になります。
退職金が1,500万円以下であれば、所得税はかかりません。退職所得控除を最大限に活用することで、税負担を大幅に軽減することが可能です。
支給タイミングの最適化(期をまたがないよう調整)
退職金の支給タイミングも、節税対策として重要です。退職金は、原則として退職した年の所得として扱われます。そのため、会社の業績が良く、個人の所得も高い年に退職金を受け取ると、税率が高くなる可能性があります。
そこで、退職金の支給タイミングを調整し、所得が低い年に受け取ることで、税負担を軽減できます。具体的には、事業年度末に退職する場合、期をまたがないように支給することで、翌期の所得を抑えることができます。
退職金共済制度や役員退職慰労金規定の整備
中小企業では、退職金共済制度を活用することで、計画的に退職金を積み立てることができます。退職金共済制度は、掛金を損金として計上できるため、法人税の節税効果があります。
また、役員退職慰労金規定を整備することで、役員退職金の支給基準を明確化し、税務署からの指摘を防ぐことができます。役員退職慰労金規定は、役員の在任期間、役職、功績などを考慮して、合理的な金額を算定する必要があります。
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会社売却に伴う退職金に関するよくある質問
Q.退職金と売却益、どちらが得?
A. 一概にどちらが得とは言えません。
なぜなら、退職金と売却益では税率や計算方法が大きく異なるからです。退職金は「退職所得」として扱われ、売却益は「譲渡所得」として扱われます。
退職所得には退職所得控除があり、勤続年数に応じて控除額が大きくなるため、売却益よりも税負担が少なくなるケースがあります。しかし、売却益が少額の場合や退職所得控除を大幅に上回る退職金を受け取る場合は、売却益の方が有利になることもあります。
ご自身の状況を詳しく分析し、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
Q.高額退職金は税務署に否認される?
A. はい、高額すぎる退職金は税務署に否認される可能性があります。
税務署は、不相当に高額な退職金を「役員賞与」とみなし、損金算入を認めないことがあります。これは、退職金を過大に支給することで、法人税の負担を軽減しようとする行為を防ぐためです。適正な退職金の額は、役員の在任期間、役職、会社の業績、類似企業の支給状況などを考慮して判断されます。役員退職慰労金規定を整備し、合理的な算定基準を設けておくことが重要です。
また、税理士に相談し、事前に税務リスクを評価しておくことをおすすめします。
Q.退職金の支給原資は会社に残しておくべき?
A. 退職金の支給原資を会社に残しておくかどうかは、売却方法や買い手との交渉によって異なります。
株式譲渡の場合、会社の資産はそのまま引き継がれるため、退職金の原資も会社に残ります。一方、事業譲渡の場合、買い手が引き継ぐ資産と負債を個別に選択するため、退職金の原資をどうするかは交渉次第となります。買い手が従業員の雇用を継続する場合、退職金の支払いを買い手が引き継ぐこともあります。
いずれにしても、資金繰りに影響が出ないように、事前に十分な検討が必要です。
Q.事業譲渡に伴う退職金は会社都合退職ですか?
A. 事業譲渡に伴い、従業員が譲渡会社を退職し、譲受会社に再雇用される場合、原則として会社都合退職として扱われます。
これは、事業譲渡によって従業員の雇用環境が変化するためです。会社都合退職の場合、従業員は失業保険の受給資格を得やすくなり、退職金の割増などを受けられる場合があります。
ただし、従業員が譲渡会社に残る場合や譲受会社への転籍を拒否した場合は、自己都合退職となることもあります。個別の状況に応じて、従業員との十分な話し合いが必要です。