会社売却で役員はどうなる?残留・退任・退職金の注意点をわかりやすく解説

会社売却、特に中小企業やベンチャーにおけるM&Aでは、株式や事業の譲渡だけでなく役員の処遇も大きな焦点となります。
買収後の経営体制は買い手企業の成長戦略に直結するため、現経営陣の進退について「誰が判断してどのように決めるのか」をあらかじめ整理しておく必要があります。

とくに役員とのコミュニケーションや退職金の扱いについては、非常にセンシティブな内容ですので、曖昧な認識のままでいるとトラブルの原因にもなりかねません。
そこで今回の記事では、会社売却をすることで役員の進退はどうなるのか、疑問が残りやすい点を中心に整理しました。
買収後に内部崩壊…なんてことにならないよう、必ず要注意ポイントを押さえておきましょう。

会社売却で役員はどうなる?退任・残留のパターンと決まり方を解説
オーナー社長が役員を兼ねている場合、売却によって代表権を手放すかどうかは、事業の今後だけでなく従業員や顧客にも影響が及びます。
一方、部門長や社外取締役といった他の役員に関しても、買い手との関係性や今後の運営方針に応じて続投・退任の判断が分かれます。

この章では、会社売却後に役員がどうなるのかについて、よくあるパターンと判断の流れを見ていきましょう。
オーナー社長が退任するケース
会社売却を機に、創業者であるオーナー社長が退任するケースは多いです。
とくに事業承継型M&Aや個人Exitを目的とした売却の場合、代表権や取締役のポジションを買い手に引き継ぐのが一般的とされています。

この場合、売却契約においては「クロージング時に代表取締役を辞任すること」が条件として明記されるケースが多く、取締役の辞任届や登記変更がクロージング手続きに含まれます。
また、代表交代後のスムーズな引き継ぎを目的として、一定期間だけ顧問や非常勤取締役として残る契約がセットになることもあります。
オーナー社長が辞任する場合の流れ
・即時退任(株式譲渡と同時)の場合⇒契約で事前合意。登記変更は買い手が実施する。
・引継期間を設ける場合⇒3〜6カ月程度の移行期間を設ける。顧問契約を締結することも。
会社を売却する創業者にとっては、売却益を得て経営から退くタイミングである一方で、従業員や顧客にとっては変化の節目でもあります。
そのため役員退任の伝え方や社内外への説明も含め、計画的に進めることが大切です。

売却後の社長の進退については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
▶ 併せてチェック:M&Aの後、社長はどうなる!?ケース別に解説!
役員がそのまま残るケース
PMI(統合)を円滑に進めるうえで、重要な意思決定が生じるという場合には、売却後も役員が残留するケースもあります。
現場を熟知した経営陣や買い手にとって必要不可欠な人材が役員を兼ねている場合、継続登用が譲渡の前提となることも珍しくありません。
売却後も役員が残るケース例
- 現代表が社長を退き、別の役職で経営に関与し続ける(例:会長・取締役など)
- 部門長クラスが引き続き執行役員として残る
- ベンチャーにおいては、創業者が“子会社社長”として続投するケースも
組織のノウハウが属人的である場合や顧客・業界ネットワークを維持したい場合には、役員に残留してもらったほうが事業が安定するため買い手企業にとってもメリットです。

なお、続投にあたっては契約期間や評価基準を明確に定めておくと、双方にとっての納得感のある取引につながります。
【ポイント】判断は誰がする?買い手・売り手・本人の関係性
基本的に、会社売却後の役員人事に関する最終決定権は買い手側が持っています。
ただし、売却交渉の初期段階から「誰が残るのか」「いつ辞めるのか」といった点が議論されるため、売り手・本人・買い手の三者でしっかりと擦り合わせをしておくことが極めて重要です。
役員処遇に関する主な意思決定フロー
①売却交渉前:売り手(現経営陣)が退任希望・残留希望を明確化
②LOI交渉時:買い手・売り手で調整した基本合意書に役員処遇を明記することもある
③最終契約時:契約条項に基づき、買い手が辞任届・新体制を確定する
とくにベンチャーM&Aでは創業者=代表取締役という構図が多いため、買い手が創業者のビジョンやカルチャーを重視しているか否かによって、進退が大きく変わります。

売却を検討する段階から、自らの意向と社内外への影響、買い手にとっての価値を客観的に整理しておくことが、適切な役員人事の合意形成に繋がるといえるでしょう。
株式譲渡と事業譲渡で異なる?会社売却後の役員の扱いの違い
会社売却と一口に言っても、売却スキームによって役員の処遇には大きな違いが生じます。
とくに株式譲渡と事業譲渡では法的な構造が異なるため、「売却後に役員がそのまま在任できるかどうか」「契約の見直しが必要か」といった点で注意が必要です。
株式譲渡 | 事業譲渡 |
---|---|
・取締役・監査役の地位も継続する ・辞任・解任の場合は取締役会または株主総会の決議が必要 ・雇用契約や顧問契約の内容は原則そのまま承継される | ・役員の契約は一度終了するのが一般的 ・必要に応じて買い手企業と新たに雇用契約または委任契約を結ぶ ・辞任しない場合は役職のみ残ることも |

両スキームにおける役員の扱いの違いを整理し、自身や幹部の進退を計画的に考えられるようにしておきましょう。
株式譲渡:役員の地位や契約は基本的にそのまま
株式譲渡とは、会社そのものの経営権(株式)を第三者に譲り渡すスキームです。
この場合、法人格自体は存続するため、会社が締結している各種契約・役員体制・登記情報などは基本的に変更されません。
したがって、売却時点で役員に就いていた人物は、そのまま取締役として残るのが原則です。
株式譲渡のポイント
・法人が存続するため、取締役・監査役の地位も継続
・辞任・解任を行う場合は、新たに取締役会または株主総会の決議が必要
・雇用契約や顧問契約が存在する場合も、内容は原則そのまま承継される
ただし、買い手が新たな経営体制を希望する場合はクロージングと同時に現経営陣の辞任届を提出し、新体制に移行することが多いです。
そのため、売却契約書(SPA)には「役員の退任を前提とする」旨の条項が設けられることもあります。

また、M&Aによって子会社化されるケースでは、現経営陣の一部が「引き続き経営に関与してほしい」という希望を受けてポジションを維持することもあります。
事業譲渡:役員の退任・契約終了が前提になるケースも
事業譲渡とは、会社の中の特定事業や資産、負債、契約関係などを個別に譲り渡すスキームです。
売却対象はあくまで「事業単位」であり、会社そのもの(法人格)は買い手に移らないため、役員や契約関係は引き継がれないケースもあります。
なお、事業譲渡では契約の個別承継が必要となるため、役員との契約内容が「雇用」か「委任」かによって対応も変わります。
そのため、事前に「役員契約の内容」「更新・解除の条件」「退職金や未払報酬の取り扱い」などを確認しておくことが重要です。
会社売却前に確認すべき役員の立場・報酬・退職金の注意点
会社売却にあたっては、買収価格や事業シナジーだけでなく、経営陣の処遇が重要な交渉項目となります。
契約内容や権利義務が曖昧なままでは、売却後に法的・人的トラブルが発生するリスクもあるため要注意です。

この章では、売却に臨む前に必ず確認しておくべき3つのポイントについて触れておきましょう。
役員の立場はどう変わる?(雇用・契約の変化)
役員は一般的に、雇用関係ではなく委任契約に基づいて会社と関係を結んでいます。
そのため、雇用契約とは異なり退職金の義務や解雇保護の対象とはならないのが原則です。
売却により経営体制が変わる場合、以下のようなパターンが想定されます。
パターン例 | 役員の扱い |
---|---|
取締役辞任・任期満了 | 契約終了。報酬も支払い停止 |
続投する場合(株式譲渡等) | 委任契約継続、もしくは新契約へ切替え |
新会社での役職就任(事業譲渡等) | 新たに役員選任手続き+新契約の締結が必要 |
売却後に買い手企業での再雇用を希望する場合は、雇用契約への切り替えを含めて事前交渉しておく必要があります。

委任から雇用に変わる場合は、社会保険の取り扱いなども変わるため、細かな契約条件まで詰めておくべきです。
売却後の役員報酬の考え方と交渉ポイント
M&A後に役員として残留する場合、報酬水準やインセンティブの設計は買い手企業の報酬ポリシーに合わせて見直されるのが一般的です。
スタートアップM&Aでは、創業者や幹部に対し、ストックオプションや業績連動型の報酬制度が提示されるケースもあります。
▼報酬設計における主な交渉論点
- 基本報酬の水準(従来水準との乖離)
- インセンティブの設計(売上連動/バリュエーション連動)
- 継続年数による報酬ステップ(任期中の安定性)
また、報酬が高すぎる場合はPMI後の経営合理化の対象になることもあるため、適正水準の見直しや役割変更に伴う報酬再設計があることも見越しておきましょう。

買い手との交渉では、売却前の役員報酬履歴や貢献度を定量的に説明できるようにしておくと、より良い条件の合意が得られやすくなります。
退任時に支給する退職慰労金と注意点
役員が売却に伴って退任する場合、退職慰労金を支給することもあります。
これまでの経営貢献に対して会社から支払われるもので、株主総会の承認を経て支給されるのが一般的です。
また、買収契約書(SPA)に「クロージング前の債務として精算済であること」が条件に含まれる場合、退職金の支給は売却前に完了しておく必要があるケースもあります。

また、複数の役員が同時に退任する場合、支給額のバランスに差が生じないよう金額の根拠と手続きの透明性については常に意識しておきましょう。
▶ 併せてチェック:会社売却で退職金は受け取れる?売却方法別にどうなるか解説!
会社売却時に役員と揉めないために「M&A仲介」を活用した調整方法
株式や事業の譲渡がスムーズに進んだとしても、役員の処遇に関して利害や感情のズレが生じると、社内の空気が悪化したり、交渉全体に影響が及んだりするリスクもあります。
こうした事態を防ぐには、中立的な立場で全体を俯瞰できる「M&A仲介(FA)」を活用するのが有効です。

仲介会社は買い手・売り手の双方と調整を行いつつ、役員に対しても円滑に説明・合意形成を進める“潤滑油”的な役割を果たしてくれます。
以下では、M&A仲介を積極的に活用するべきシーンを3つ挙げてご紹介します。
似たような状況でお困りの方は、ぜひ一度M&A仲介会社に相談してみましょう。
処遇条件を基本合意契約書にしっかり記載する
役員の処遇をめぐるトラブルの原因の多くは、合意内容が曖昧であることに起因しています。
口頭では「今後も役員として残ってもらうつもり」と言われていても、正式な契約書に明記されていなければ、買収後に一方的な条件変更が行われる可能性も否定できません。
そのため、基本合意契約書(LOI:Letter of Intent)の段階で、役員の処遇方針をできるだけ具体的に記載しておくことが重要です。
基本合意契約書に記載する際のポイント
・売却後の役職:取締役/顧問/社外役員など
・契約形態と期間:委任契約か雇用契約か、任期の有無など
・報酬水準:現在水準の維持か見直し前提か
M&A仲介会社なら、上記のような条項を両者が納得する形で設計したうえで、文書化するためのアドバイスを提供してくれます。

後から「聞いていなかった」と揉めないためにも、専門家に協力してもらい早い段階で明文化しておくことが重要です。
役員へは基本合意後のタイミングで伝える
売却の意思や交渉の進行状況を、役員にいつ・どのように伝えるべきかも非常に繊細な問題です。
早すぎる段階で社内に情報を広めてしまうと、不確定な情報が独り歩きして、不要な混乱を招くおそれがあります。
このため、実務ではLOIの締結(基本合意)が完了した段階で役員への説明を行うのが一般的です。
基本合意後なら売却方針・買い手の概要・処遇の方向性がある程度明確になっているため、具体的な内容を伝えられるようになります。
社内の信頼関係を維持しつつ、スムーズに情報開示を進めるためにも、情報の出し方・順序・タイミングには十分に注意を払いましょう。
役員との信頼関係を壊さずに伝える工夫をする
M&Aは、企業にとって大きな転換点です。
役員にとっても、自身の将来やポジションに直結する話であるため、「売却が決まった」と一方的に伝えるだけでは感情面での不満や不信感を招く可能性があります。

そこで重要なのは、これまで伴走してきたパートナーとしての姿勢を貫き、対話を丁寧に重ねることです。
「売却によって会社にどのような可能性が広がるのか」「役員の知見がどのように生きるのか」を具体的に伝えることで、納得度は大きく変わります。
売却理由や今後のビジョン、買い手企業の戦略などを丁寧に共有し、不安を余すところなく払拭することが何よりも大切です。

弊社MA Frontierでも、弁護士や公認会計士、戦略コンサルタントなどの専門家チームを擁しており、売却をご検討の経営者様を徹底的にサポートしています!

法務・財務・税務の各側面から、M&Aの複雑な手続きを安全に進められるようお手伝いいたします!
さらに、弁護士や公認会計士などが財務面でのリスクをしっかりと検証するため、M&A取引に必要な各種書式や契約書の準備から、取引後の退職金の支払いまで円滑に進めていただけます。

この他にも、以下のようにさまざまなご依頼を承っておりますので、まずは無料相談にてお気軽にご相談ください。
M&A Frontierで対応しているサービス
・候補先企業の探索・選定
・株式譲渡・事業譲渡などのスキームに関するご提案
・各種書式・契約書の準備
・株式価値の無料算定
・デューデリジェンスのサポート
・伴走型コンサルティング(企業の状況や成長戦略に関する知見の提供)
会社売却と役員の関係に関するよくある質問【退任・報酬・退職金など】
最後に、役員に関するご質問のうち特に多いものを実務的な観点から回答していきます。
会社売却を進める際の役員の処遇に関しては、明確なルールがないがゆえに意思疎通の齟齬や感情的な対立に発展するケースも見られます。

M&Aを円滑に進めるためにも、法的・契約的なポイントをしっかりと押さえたうえで、利害関係者への説明も欠かさず行いましょう。
Q.会社を売却する際、役員は必ず退任しなければならないのですか?

必ずしも退任する必要はありません。
売却スキームや買い手企業の意向、役員本人の希望などを踏まえて、継続か退任かを柔軟に決められます。
たとえば株式譲渡で会社自体が存続する場合は、取締役の地位もそのまま維持されます。
一方、買い手側が新体制を築きたいと考えている場合や、オーナー社長がExit目的で売却する場合は、退任が条件になることが一般的です。
事業譲渡では法人自体が買収対象でないため、原則として役員ポジションも終了となります。
Q.売却で退任する役員には退職金を支払うべきですか?

退任時に退職金(慰労金)を支払うかどうかは、会社の方針と役員との合意によりますが、一定の基準を満たしていれば支給されるのが一般的です。
創業者や長年の貢献がある役員の場合は、その労に報いる意味でも退職金を支給する企業が多く見られます。
▼ ただし、以下の点には注意が必要です。
- 社内規程があるか、株主総会での決議が行われているか
- 支給額が過大でないか(税務上、損金算入が否認される可能性あり)
- M&Aの譲渡契約に「クロージング前に精算済」との条項があるか
買い手から見ると、退職金も売却価格に含まれる費用として見られるため、いつ・いくら・どのように支払うかは売却交渉に先立って整理しておきましょう。
Q.会社売却後も役員として残ることは可能ですか?

はい、可能です。株式譲渡型のM&Aでは、売却後も役員が残留して経営に関与するケースが数多く存在します。
たとえば、創業者が買い手の子会社の代表や取締役として続投したり、技術部門の責任者がそのまま執行役員に就任したりするパターンです。
事業運営において、現経営陣の知見が今後も必要であると買い手側が判断すれば、報酬や役職の再設定を含めて継続登用されるのはごく自然な流れでしょう。
買い手・売り手双方の同意を得たうえで、役員としての期待役割や業績評価の基準を文書で合意することで、トラブルを未然に防ぎましょう。
Q.売却時に役員のうち一部だけ退任、一部は残留といった対応は可能ですか?

M&Aにおける役員の処遇は一律ではなく、個々の役員ごとに継続・退任・再雇用など異なる対応を設定できます。
たとえば、「オーナー社長は退任するが、営業責任者は今後もPMIを担う形で取締役として残る」といったケースは実務でも頻繁に見られます。
創業チームの中でも、事業拡張に貢献した役員だけが継続登用されることもあります。
いずれの対応を取る場合でも、契約面・登記手続き・報酬設計をきちんと整理して、誤解やトラブルが生じないようにすることがポイントです。
Q.M&Aアドバイザーは役員との調整もサポートしてくれますか?
M&Aアドバイザー(仲介会社・FAなど)は、役員を含む関係者との調整にも積極的に関与してくれます。
第三者的な立場で介入するため、経営陣同士では伝えにくい事実や調整事項も中立的に代弁し、合意形成を後押ししてくれる貴重な存在です。
アドバイザーが担う役割の一例
・売却方針の策定段階から役員構成や意向をヒアリング
・LOIや最終契約への処遇条件の反映
・役員本人との面談や説明支援(必要に応じて同席)
・感情面のフォローや意思決定のファシリテート
とくに中小企業やベンチャーにおいては、経営陣や株主間での意見調整がスムーズに進むかどうかがM&A成功のカギとなります。
役員調整に不安がある場合は早めにその旨を共有し、具体的な支援体制を整えてもらうのが良いでしょう。

最後に…仲介を挟むことなくM&Aを実施することで、発生する可能性があるリスクを紹介します。


このようなリスクや不安を少しでも解消したいとお考えの方は、お気軽に弊社の無料相談をご利用ください。
