後継者のいない会社を個人で買う際の完全ガイド。デメリットや流れを徹底解説しました!

近年、後継者不足に悩む中小企業が増え、事業承継の選択肢としてM&Aが注目されています。
個人で会社買収をすると、新規起業よりもスムーズに事業を立ち上げられるというメリットがある一方、かなりのリスクを伴うため慎重な判断が求められるのも事実です。

後継者のいない会社を買いたいけれど、どんな流れで進めるのか分からない

買収のデメリットや注意点を知りたい
という方に向けて、今回は後継者不在の会社を買収する際のメリット・デメリットをまとめました。
これから小規模事業のM&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
後継者のいない会社を個人で買う際のデメリット

小規模事業者がM&Aで事業を譲渡する場合、後継者不足によって継続が困難になったことが原因であるケースがほとんどです。
後継者のいない会社はきわめて低価格、場合によってはほぼ無償で買収できることもありますが、代わりに注意すべきポイントも多くなってきます。
中でも、以下の5つの項目についてはしっかりと対策を講じておかないと、買収後すぐに経営が破綻してしまうので注意しましょう。

それぞれ、詳しく解説します。
①簿外リスク(見えない負債や問題)
会社を買収する際、表面上の財務諸表だけを見て判断すると、後々思わぬ負債を抱えることになりかねません。
財務諸表には載っていない未払いの債務や法的トラブルが後から発覚するケースがあるからです。
これらのリスクを回避するためには、デューデリジェンス(財務・法務調査)を徹底し、税理士・弁護士などの専門家の協力を得るのが堅実でしょう。
特に個人でのM&Aでは、企業買収の経験が少ないため、プロのアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。
②既存顧客の離脱リスク
買収直後の最大の懸念とも言えるのが顧客の離脱です。
特に、オーナー経営の会社や中小企業の場合は、経営者の個人的な信頼関係によって契約が成り立っているケースが多々あります。

あの社長さんだから取引していたのに…
と、これまで贔屓にしてくれていた顧客が離れてしまうとかなり痛手です。
対策としては、まず引継ぎ期間を長めに設定して買収後も丁寧に関係構築を進めていくこと。
そして、売り手の社長に顧客を引き継ぐための協力を仰ぐ内容を契約に含めることです。
買収前に主要顧客との関係を把握しておき、できれば前経営者の協力を得ながら、買収後も丁寧なフォローを行うことがポイントと言えるでしょう。
③従業員の離職リスク
個人のM&Aにおいては既存の顧客だけでなく、従業員が離れてしまうリスクについても対策を打っておく必要があります。

人手不足に陥っている事業だからこそ、最後まで残ってくれている従業員を大切にしたいですね。
特に小規模企業では、前経営者に対する忠誠心が高いことが多いため、新オーナーへの不信感から辞めてしまう可能性があります。
また、買収後に経営方針や労働条件が変更されたことで従業員が新たな環境に適応できず、退職を選ぶリスクについても無視できません。
最悪の事態を避けるためには、買収前に従業員の定着率やキーパーソンの意向を確認し、買収後もできるだけ引継ぎ期間を確保して既存の文化を尊重することが大切です。
④資金繰りの負担
会社の買収には、会社を買うための資金(買収費用)だけでなく、その後の運営資金も必要になります。
特に注意しなければならないのは、金融機関からの融資を活用して買収した場合です。
黒字経営でも、毎月の返済が経営の負担となって買収後に資金ショートするリスクがあります。
⑤経営スキルが必要
会社を買うことはできても、それを成功させるためには一定の経営スキルが求められます。
特に後継者がいない企業を買収する場合は、一人当たりの業務量を見直すところから始めなければなりません。
財務管理やマーケティング、マネジメント、意思決定など、幅広い知識が必要になるため、経営未経験者がいきなり社長になると苦労することもあるでしょう。
対策としては、買収を検討する際に売り手の社長からしっかり学ぶ期間を設けることに尽きます。
自身のスキルや経験を見直し、必要であれば専門家やコンサルタントのサポートを受けることを検討しましょう。

また、経験者を経営幹部として採用するのも方法の一つです。
後継者のいない会社を個人で買う際に利用するべきサービス

お部屋探しをする時に色々なサイトを見比べるのと同じように、買収する会社を探すのにもポータルサイトやマッチングサービスを活用するのが得策です。

弊社
事業承継・引継ぎポータルサイト

事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置した公的な相談窓口であり、全国各地の中小企業や小規模事業者の事業承継を支援しています。
親族内承継から第三者への引継ぎまで、幅広い相談に対応しており、特にM&Aを検討している個人の方々にとって心強いパートナーとなってくれます。
中小企業診断士や金融機関出身者など、経験豊富な専門家が在籍しており、事業引継ぎに関するあらゆる相談を無料で受け付け。
また全国47都道府県にネットワークを持っており、多くの案件情報が登録された全国規模のデータベースを活用して、遠隔地間のマッチングにも対応してくれます。
信頼性の高い支援機関として、円滑な事業引継ぎをバックアップしてくれるでしょう。
日本政策金融公庫

日本政策金融公庫が展開している事業承継マッチング支援では、M&Aを希望する売手と買手に向けたマッチングサイトを無料で運営しています。
後継者がいないことなどを理由に事業を譲りたい買い手と、創業等を目的に事業を買いたいと考えている個人を結びつけてくれるサイトです。
以下のように、該当する希望条件にチェックを入れたり、キーワードを入力したりするだけで該当の売却案件を検索できます。
▼実際の検索画面

利用者の9割は小規模事業者なので、運営しやすく価格を抑えた買収をしたい方におすすめです。
登録をすれば日本公庫の専門担当者が、希望条件を踏まえてマッチングの候補を探してくれるので、売り手を探す手間も省きたい方にはぴったりのサービスでしょう。
relay(リレイ)

relay(リレイ)は、事業を譲りたい経営者と引き継ぎを希望する個人を結びつける、オープンネームの事業承継マッチングプラットフォームです。
従来、M&Aのマッチングは社名や企業情報を伏せて行われることが主流でしたが、実名開示で行うことで、経営者の想いや事業の魅力をしっかりと伝えることを目的としています。
経営者の想いや事業の背景を深く理解した上で、共感を基盤としたマッチングができるため、信頼関係のもとで契約を結びたいという方におすすめです。
「国や公的機関ではないから不安…」という意見もあるかもしれませんが、relayでは実際の成約者の声が多数公開されていたり、ネットでもポジティブな評価が多数見受けられますよ!
継業バンク

継業バンクは、自治体が利用料を負担して地域ごとに開設している、仲介手数料無料のマッチングプラットフォームです。
手数料ビジネスの性質上、買収額の高い事業が優先されてしまう従来のM&Aサービスとは異なり、小規模事業に特化して承継機会を創出しています。
また、高齢の経営者が情報から取り残されないよう、地域と連携したオフラインサポート体制を構築しているのも特徴です。
地域に根ざした事業を引き継ぎたいと考えている方にとっては、かなり有益な選択肢と言えるでしょう。
各都道府県が支援しているケースも
各地で少子高齢化が進んでいる昨今では、各都道府県で後継者不足に悩んでいる小規模自称者を支援するプロジェクトが進んでいます。
「信頼できる公的機関でM&Aを進めたい」という方は、ご自身が所属する都道府県や市区町村を一度チェックしてみましょう。
Yahoo!やGoogleなどで「都道府県名 事業承継」と検索すると、以下のように該当のホームページにたどり着けます。

後継者のいない会社を個人で買う流れ

先ほどご紹介したようなマッチングサイトを活用して、M&Aを進めていく流れについて簡単にご紹介します。
- ①買収する業種・条件を決める
- ② 売り案件を探す
- ③ 秘密保持契約(NDA)の締結
- ④ 企業の調査(デューデリジェンス)
- ⑤ 買収の条件交渉 & 基本合意
- ⑥ 最終契約(譲渡契約)
- ⑦引き継ぎ & 運営開始
すべてのM&Aが一様にこの流れであるわけではありませんが、大まかな手順として頭に入れておきましょう。

①買収する業種・条件を決める
まずは自分がどんなビジネスを買いたいのか、業種や条件を明確にします。
業種によって必要なスキルや経営スタイルが異なるため、自身の経験や興味に基づいて選ぶのが望ましいでしょう。
最低限決めておくべき条件
・業種(製造業・サービス業・飲食など)
・予算(自己資金+借入)
・エリア(地元 or 全国)
・運営スタイル(自分で経営するか、従業員に任せるか)
上記のように、なるべく細かく条件を掘り下げていくのがポイントです。
事業規模や売上、利益率、立地なども細かく設定しておくことで、後の選定がスムーズになります。
② 売り案件を探す
買収する会社の条件を決めたら、売り案件をM&Aプラットフォームや仲介会社、銀行、商工会議所などで探します。
1つの情報源から判断するのではなく、できるだけ多くの媒体をチェックし、比較検討しながら進めましょう。
代表的なM&Aサイト
・TRANBI(トランビ)
・BATONZ(バトンズ)
・M&Aクラウド
・事業承継引継ぎ支援センター(公的機関)
③ 秘密保持契約(NDA)の締結
上記サイトから興味のある案件を見つけたら、売り手と交渉を進める前に秘密保持契約(NDA)を結びます。
この契約によって、買収時に受け取った会社の財務情報や経営戦略などの重要情報が外部に漏れるリスクを防ぐのが目的です。
④ 企業の調査(デューデリジェンス)
買収を進める前に、企業の財務状況や法務リスクなどについて徹底的に調べ上げます。
デューデリジェンスとも呼ばれるこの過程は、M&Aにおいて最重要項目とも言えるほど重要な工程です。
- 財務状況
- 取引先
- 従業員
- 設備
- 負債
- 簿外債務や未払金
などなど、とにかくあらゆるリスクを把握するつもりで調査しましょう。
デューデリジェンスは個人で済ませようとせず、専門家(税理士・公認会計士)と一緒に確認するのが安心です。
⑤ 買収の条件交渉 & 基本合意
調査結果を基に、買収金額や支払い方法、引き継ぎ期間などの条件を交渉し、基本合意を締結します
売り手と買い手、双方の意向をしっかりと擦り合わせて、認識のズレがないよう確認していきましょう。
条件交渉で決める主な内容
・買収価格(株式 or 事業譲渡)
・支払い条件(一括 or 分割)
・代表者の引継ぎ期間(数ヶ月~1年)
この段階で合意した内容をもとに、最終的な契約を進めていきます。
⑥ 最終契約(譲渡契約)
条件がまとまって合意に達したら、正式に譲渡契約を締結して、買収完了となります。
支払い条件や引き継ぎ内容、従業員の処遇などの詳細を記載した契約書を用意して、双方が納得の上で契約を交わしましょう。
引き継ぎ & 運営開始
買収が完了したら、実際の事業運営が始まります。
新たな経営者として取引先・従業員に挨拶し、関係を維持しながら、新たな経営戦略を実行していきましょう。
後継者のいない会社を個人で買うならどの業種にするべき?

先ほども解説したように、M&Aが成功するか否かは買収する事業でほぼすべて決まります。
いくら経営手腕がある方でも、個人の力で事業を立て直すのには限界があります。
そこでここからは、後継者がいなくても個人で運営していきやすい業種を3つご紹介していきます。
地域密着型の小規模ビジネス(町の工務店、介護事業、クリーニング店、給食・弁当事業など)
地域密着型のビジネスは、後継者が見つからずに廃業するケースが多い一方で、一定の需要があり安定した収益が見込める点が魅力です。
特に地方では、競合が少なく顧客基盤が確立されていることが多いので、事業を継続しやすいという魅力があります。
買収後も運営しやすい地域密着型の事業
・町の工務店…住宅リフォームや修繕などの需要が途絶えにくく、既存の顧客を引き継げる
・介護事業…高齢化が進む地方では今後も需要が増す
・クリーニング店…生活必需サービスで固定客もいる
・給食・弁当事業…リピート客が多く需要も高い
地元に根付いた業種は大手企業が参入しにくい分野であり、地元の人々との関係性を大切にすることで安定した経営が実現できるでしょう。
BtoBのニッチ製造業(部品加工・金属加工など)
日本の中小製造業では独自の技術を持つ企業が数多く存在する一方、職人経営者の高齢化が進み、後継者不足による事業承継問題が深刻化しています。
こうした背景に加えて、特定の業界に必須の部品や用品を作るBtoB(企業向け)のニッチな製造業なら、大手メーカーから安定した受注があり一定の売上が見込めます。
金属加工や精密部品製造のような分野は、一見すると専門知識が必要に思えますが、既存の従業員が残ればスムーズに経営を続けられます。
市場規模が小さいため競争が少なく、価格競争に巻き込まれにくいのも魅力です。
個人でのM&Aを検討する際には、こうした堅実なビジネスモデルの会社を選ぶことも一つの選択肢となります。
収益物件を保有するビジネス(駐車場・コインランドリー・貸倉庫など)
経営の負担を抑えながら安定収益を得たい場合、収益物件を保有する不動産ビジネスの買収も検討する価値があります。
駐車場やコインランドリー、貸倉庫といった事業が代表例ですね。
身近にあるためイメージがつきやすいと思いますが、いずれも人手をかけずに運営できるため、一定の資金があれば簡単にM&Aを実施・継続できます。
人的コスト・維持管理のコストがかかりにくいビジネスは、他の事業と並行しての運営もできるため、副業や資産運用としてM&Aを検討している個人にもおすすめです。
後継者のいない会社の購入を検討している人からよくある質問

最後に、後継者のいない会社の購入を検討している個人の方からよくある質問をまとめてご紹介します。
M&Aを検討する前に、疑問点を解消して入念に準備を進めていきましょう
Q.後継者がいない理由はなぜですか?
後継者不足の理由は企業それぞれによって異なりますが、最も大きな要因としては経営者の高齢化が挙げられます。
以下は東京商工リサーチが2021年に実施した休廃業・解散企業の動向調査のなかで、代表者年齢の構成比を年ごとにまとめたものです。

こちらを見ると、2024年~2021年までの8年間で、事業代表者の高齢化が年々進んでいることが見て取れます。
上記のデータは2021年で終わっていますが、この傾向を見るとおそらく2022~2024年も状況は改善されていないはずです。
創業者やオーナーが高齢になり、引退を考えるタイミングで子供や親族が事業を継ぐ意思を持っていない、もしくはそもそも子供がいないという状況になり、廃業を迫られてしまうのです。
Q.100万円で買える会社はありますか?
100万円程度で買収できる会社は、多くの場合事業の収益性に課題があるか、設備の老朽化が進んでいるケースが多いです。
また、売り手が早急に事業を手放したいと考えている場合、買収後に大きな負担が生じる可能性もあります。
調べてみたところ個人経営の学習塾やレンタルオフィス、ジム、美容サロンなどは規模が小さいため、売却価格が低くなる傾向にあるようです。
実際の成約事例
業種:24時間営業の無人トレーニングジム
従業員数:0人
営業利益:0円〜500万円
譲渡理由:戦略見直しのため
希望売却価格:70万円
ただし、個人での事業承継を考えている場合、100万円という低価格で事業を引き継げることは大きな魅力です。
Q.10万円で買える会社はありますか?
10万円で買える会社は非常に稀ですが、まったく存在しないわけではありません。
地方の小規模ビジネスやすでに廃業寸前の事業の場合、「事業を立て直して存続させてほしい」とほぼ無償で譲渡されるケースもあります。
実際の成約事例
業種:古着屋
従業員数:0人
営業利益:赤字
譲渡理由:後継者不足のため、財務的理由のため、戦略見直しのため
希望売却価格:10万円
ただし、このような案件は設備や在庫が含まれないことも多く、運転資金の確保が前提となります。
また立て直しに時間と労力がかかる可能性が高いので、当面は赤字経営になることも覚悟の上で、それでも価値を感じる場合のみM&Aを進めるようにしましょう。